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ぷかぷか浮かぶクラゲからみた世界

作者: えあち

最近、授業が難しくてついていけなくなった。今やってる数学が特に難しい。足し算掛け算みたいな具体的な数字の計算をしてた頃は、そのイメージがついた。例えば3×4だったら、3個のお餅が4列並んでたら12個あるって直感的にわかった。xやyなんてものが出てきてからほとほとイメージができなくなった。y=x^2+5とこのよくわからない曲線との関係がいまいちわからない。xが1のときのyの値を求めるには1と1をかけてそれに5を足す。これをxが1の時も2の時も2.55555の時もって頭の中で計算してその時のyが行ったり来たりするとかぜんぜん想像がつかない。そういえば将来のことも全然想像つかない。勉強しとかなきゃちゃんと仕事つけないぞ!っていつも怒られるけど、どんな仕事に就けばいいんだろう。こんな中学の頃の数学でつまづいている私は何ができるんだろう。私は人より頭が良くない。想像力が豊かな方だとは言われる。かといって絵が別に好きではない。とりあえずいわれて勉強をして、部活もしたほうがいいんだろうなと思いつつ色んな部活を見せられて、どれがいいんだろうって悩んでるうちに入部時期を逃してしまった。このまま何も決めれないままみんなに置いてかれちゃうんだろうか。すごく心配だ。でも誰にどう相談すればいいのかわからない。とりあえず明日締め切りの進路の紙は出さなきゃ。高卒で就職なんてするな!って親に言われたから多分文系に行くんだろうけど、これでいいのかな。こんなテキトーでいいのかな。友人のゆいちゃんは生物が好きで、研究者になりたくて農工大を目指しているらしい。こんなふうにやりたいことがある人は、なんかりりしくて、かっこいい。でも私は宙ぶらりんで頭も良くなくて、やりたいこともまだ見つからなくて、それでも置いてかれるのはなんか嫌でなんだか授業にも集中できないでいる。だんだんこういう考えがめぐり出すと先生の話が頭に入らなくなって、だんだん頭がぐるぐる回ってきて視界もぐるぐるしてきた。ねむくなってきたんだろうか。目の前の数学のグラフの曲線がぶれて、その黒い曲線は紙から浮かび上がってふわふわと机の上を舞い始めた。その黒い曲線の形は段々と変形していき、生き物のような動きをし出した。クラゲみたいだと思った。そう思うとその曲線は一気にクラゲのシルエットに近づいていって淡い水色色が書きたされていった。そしてどんどん頭に思い浮かべた通りのクラゲの姿になっていった。頭のところに白い四葉のクローバーみたいな部分があったり、パステルカラーの触手がふわふわ生えてきたり。そしてそのクラゲは膨らんで縮んでを繰り返しながらおよいで、およいで、私の頭の上で止まった。と思ったら急にクラゲは大きくなって、触手で私をつかんで、中に取り込んだ!クラゲの中は水色で泡がぷかぷか浮いてて、クラゲ越しにみる教室は青みがかっていて綺麗だった。誰もクラゲに飲まれてる私のことを気にしてなかった。私の存在が元々なかったかのように授業は進んでいった。薄情だって思うほどの気力もないほどけだるくて、そのくらげのなかはひんやりぷにぷにしてて、それでいて布団の中みたいに気持ちが良くて、眠たくなってそのままうとうと意識が遠のいていった。


変な夢を見たなあと思って、目を覚ますと青みがかった視界のまま、道路が下のほうに見えた。下のほうに道路が見えた?あたりを見渡す。いつも通学している桜並木の坂道の100メートルくらい(わからないけどイメージ)頭上にいる、私は浮いている!?真上を見るとクラゲの頭のとこにある白い四葉のクローバーみたいな構造体がある。夢じゃなかった。クラゲに私は飲み込まれてしまったのだ。そのままぷかぷかクラゲは学校を抜け出して、通学路を飛んでいるのだ。

私はそのまま逃げたくなって、何も考えずクラゲを蹴ることにした。クラゲの内壁は低反発枕みたいに私の蹴りをぷにっと吸収した。ひんやりしてて気持ちよかった。蹴ってそのまま冷静に考えて、このまま蹴ったら落ちてしまうなあと思ってやめた。クラゲのなすがままになった。


そのままずーっとクラゲに揺られて隣町まで来てしまった。今は地上7メートルくらいの低空飛行をしていた。あの後も何回もクラゲを蹴ろうとしたが、蹴るたびにクラゲが痛そうな声を出していて、なんだか食べられているのにかわいそうになって、やめてしまった。こんな巨大クラゲが飛んでいる、女子高生がクラゲの体内に拐われているというのに、街を歩く人たちは私たちに一切興味を示さなかった。存在にすら気づいてなさそうだった。最初は早く学校に戻らなきゃ!なんて思っていたけど、学校の人たちもめっぽう無反応だったし、なんか今は学校の勉強のこととか、進路のこととか考えたくなかったし、このままふらふらクラゲに連れ去られていいやって思っていた。それにクラゲの中はお家のベッドよりぷにぷにでふかふかで気持ちよかったのだ。


そのままクラゲに揺られて夜になってしまった。不思議とお腹も減らないし、水を飲まなくてもしんどくならない。むしろクラゲの中にいるだけで栄養補給もされて、水分でも満たされてるきがした。そもそも不思議な液体の中にいるような感じだった。赤ちゃんにとってお母さんの胎内ってこんな居心地の良さなのかな。にしても流石に暇になった。暇になったから、今飛んでいる街を観察してみることにした。学校のこととか進路のことで必死になってた時は気にもとめてなかったけど、高速道路と地道とそれをつなぐジャンクションが立体交差してる景色って結構綺麗で好きなのかもと思った。意外な発見だった。そういえばクラスにこういうの好きな子もいたっけな。私はその暇から始まった、今まで気にも留めてなかったものの観察をすることにした。街路樹ってどんな木が生えてるんだろうだとか、サラリーマンの大人って酔っ払ったらこんな歩き方するんだ、とか。学校では教わったこと、やれと言われたことを無理やり詰め込まれてやること、受動的に何かすることが多かったけれど、今は能動的に何かできている感じがした。今の私ならなんでも自分から能動的にできる気がした。


そんなことを思っていると、突然クラゲに高速道路に降ろされてしまった。びゅんびゅんと通り過ぎる車が突然怖くなった。ひれるんじゃないか?誰に助けを呼んだら帰れるのかわからなくなってしまった。そもそもこのまま学校から消えてしまいたかったんじゃないのか?どうしたらいいのかわからなくなった。自分が何をしたいかわからなくなってしまった。クラゲは無常にも私の元から立ち去ろうとする。耐えきれなくなって私は触手を掴んだ。クラゲが不思議そうな声を上げる。それを気にせず、私はクラゲの中に戻っていった。クラゲの中が落ち着いたのだ。クラゲの下の穴は固く閉ざされて出ることができなくなってしまった。結局、高速道路からどう戻るか、戻らないかすら選択できなかった。全て能動的に何から何まで自分で決めろと言われるのは私には無理だった。クラゲに連れ去られて、私の行き先勝手に決められて、その中でできることをするのが私の性にあっていた。クラゲの下の穴は固く閉ざされて出ることができなくなってしまった。せっかくクラゲから解放されるチャンスを逃してしまった。逃してしまったこと自体を私はどこか安心していた。


私はその後、世界をクラゲで飛び回った。クラゲの中から観察する自然や、景色、人間模様はとても楽しかった。戦争している国と国の間を行き来することもあった。言葉はよくわからなかったが、お互いがお互いのことを勘違いして憎み合っているのはみているだけでなんとかわかった。クラゲは気まぐれに1人の人や生き物を追いかけまわすことがあったから、その人の悩みや葛藤を間近でみることもあった。自分が当事者だったら辛そうなことでも、クラゲ視点で人が悩んでいるのを見るのは割と興味深くて、楽しかった。クラゲの中で生活してると、私が進路のことで悩んでたことも、私が今の日本で勉強ができなくて悩んでることも、他の国の人たちや、もはや人以外の鳥とか虫とかにとってはちっぽけなことかもしれないと感じるようになった。別の人間私はずっとこれからもクラゲになって宙に浮かんで傍観者になって生きていくのだろう。それが性にあっていた。

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