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二度あることは三度ある①

その日、王宮ではヴァンドール王国王太子ルイスと、ラングレン伯爵令嬢シャルロッテの婚約パーティーが行われていた。


ルイスとシャルロッテは主賓席でほほ笑み合っている。


一応ルイスも攻略対象であるから美形だ。

金髪碧眼で、THE・王子外見だ。通った鼻梁に薄い唇、すらりとした長い手足と引き締まった体躯。

中身残念でもその風貌は王子そのものだ。


シャルロッテは言わずもがなから可憐で、思わず見惚れてしまうような美貌だ。

まぁ、こちらも中身は残念ではあるが。


そのゲームのエンディングスチルのような場面をリディは扇で顔を隠しながら見ていた。

隣に立つルシアンも、二人に背を向けながら、ちらちらとそれを見ている。


ナルサスは横にいたダンテに吐き捨てるように言った。


「全く、あんなのが未来の王妃だと? ヴァンドールの終焉も近いな」

「本当だよ」


ダンテもシャルロッテがリディにしたことを十分知っている。

どれだけリディが虐げられ、辛酸を舐めてきたのか。


二年前、急に前世の記憶を取り戻してからは「自立する!」と逞しく生きるようになったリディだが、それでもその悲惨な生活は変わらなかった。


だからダンテが国を離れることになった時、ダンテはリディのことを一番心配てくれて、留学も止めようかと言ってくれたこともある。


だが、リディは気にしないでと笑って送り出したのだ。


「あの女のせいで、リディが……こんな目に遭うなんて。これもシャルロッテが黒幕なんだよな」


「あぁ。私が影に調べさせた情報でも、リディが宝剣を盗んだ犯人だという確たる証拠はなかった」


「守れなくて悪かったな、リディ」

「私も自分が無力だと感じたことは初めてだ」


二人があまりにも悲壮な顔をするので、リディは恐縮しながらも努めて明るい声で言った。


「いえいえ、ナルサス様もダンテも、それぞれ事情はありますし。こうやって戻ってきたのですから、気になさらないでください」


ダンテもナルサスも今回のことを悔やんだ。

国王の命を覆せるだけの力を持たないダンテ。

隣国の人間が干渉するなと言われたナルサス。


だが、リディとしてはこうして今、計画に力を貸してくれることも心配してくれることも、十分に感謝している。


「むしろ、これから無理を言うんです。二人の立場が悪くなるんじゃないかって心配で」

「は、ギルシースの国力を舐めるな。ヴァンドールと戦争になったとしても屁でもない」

「……戦争にはしないでくださいね」


本気で国際問題になりそうで、むしろそちらが心配である。

しかし、まずはこれからの計画を成功させることが必要だ。


「まぁ、失敗しても二人ともギルシースで引き取るから安心しろ。じゃあ、行くか」


ナルサスはそう言いながらダンテを伴ってルイスの前へと進み始めた。

リディの体に一瞬緊張が走る。

隣のルシアンの腕を思わずぎゅっと握ってしまった。


「リディ、緊張している?」


「ま、まぁね。オベロン様は立ってるだけで良いって言ってましたけど。どうなるか予想がつかないですし」


オベロンの計画により、リディとルシアンはこの夜会に潜入した。


オベロン曰くは「僕が全ての悪事に鉄槌を下すから、リディたちは立ってるだけでいいからね」との事だったが、本当に立っているだけでいいのだろうか?


「まぁ、妖精王のことだ。上手く事態を治めてくれるだろうけど……ただ、俺としては『リディと一緒なら何でもできるよね』と聞かれたことが心配だな。何をさせられるんだ?」


リディもオベロンの真意が分からず、二人で首を捻ってしまう。


そうこうしているうちに、ナルサスがルイスへと近づいていた。

それを追いかけてリディたちもルイスとシャルロッテが座る席へと足を進めた。


「ルイス殿下。本日はめでたい席に出席させていただき、感謝する」


「おおお、ナルサス殿! ははは、余も貴殿に出席してもらって嬉しいぞ。改めて紹介する、我が妻となるシャルロッテだ」


「シャルロッテです。ナルサス様にお会いできて嬉しいですわ」


シャルロッテにとってナルサスに会うのは公園で会って以来二度目なのだが、忘れているのか、それともとぼけているのかは分からない。


ただ、シャルロッテはルイスにべったりとくっついており、ルイスもまたシャルロッテの肩を抱いて密着している。

正直、隣国の王太子の前でする振る舞いではない。


ナルサスの後ろに控えて、その光景を見ていたリディは思わず唖然としてしまう。


(馬鹿だとは聞いていたけど……本当に馬鹿なんだなぁ)


思わずそう実感を込めて思ってしまった。

まぁ、シャルロッテに引っかかる男だ。その程度の脳みそしかないのだろう。


そんなリディの思考はよそに、ナルサスは金の目を細めてシャルロッテに笑顔を見せた。


「私もシャルロッテ殿にお会いできて嬉しい限りです」

「どうだ、ナルサス殿下。貴殿はまだ婚約もしないのか? 可愛い妻がいると人生が明るく見えるぞ」

「私はまだ若輩者ですから」


「そうか。でもたとえナルサス殿でもシャルロッテほど美しく心優しく聡明な女性と出会うことはできないだろうが。まぁ、頑張るといい」


「まぁ、ルイス殿下ったら、恥ずかしいですわ」

「本当の事を言っているだけだ。恥ずかしがるな」


そう言ってまた二人でイチャイチャする様子をナルサスは冷ややかに見た。


リディはナルサスの背中しか見えないが、冷笑しているのが伝わってくる。


「ルイス殿下。実は私の既知がぜひルイス殿下とシャルロッテ様に婚約の挨拶をしたいと言っているんだが、紹介してもいいですかな?」


「ほう、ナルサス殿の知人ですか! ならば然るべき立場の人物だろう。呼んでも良いぞ」

「ということだ、リディ、ルシアン。来るといい!」


ナルサスが後ろにいたリディとルシアンを呼ぶ。

リディはナルサスの一歩前に出ると、扇で隠していた顔を見せた。


それに合わせてルシアンもリディの隣に並び、シャルロッテとルイスを見据えた。


「リディお義姉様!?」

「シャルロッテ、お久しぶり。元気そうで何よりだわ」


驚愕しているシャルロッテだが、ルイスもこぼれんばかりに目を見開いて言った。


「貴様ら……生きていた? どういうことだ? 報告ではその女は監禁。ルシアン、お前も後を追って死んだと聞いたぞ」


「えっ? ルシアン様、そういう設定だったんですか?」


「まぁ、エリスに爵位を渡すには俺が死んだ設定の方が手続きが楽だったんだよ」

「なるほど」


リディが冷静に納得している一方で、ルイスは怒りで顔を赤くしながら衛兵に向かって怒鳴った。


「なるほどではない! まぁいい。また処刑にすればいいんだ! 貴様ら、国家反逆罪で捕らえてやる! 衛兵!」


ルイスの号令に合わせて、武装した衛兵たちがリディの周りを囲んだ。

リディはそれを見て緊張で体を強張らせたが、そんなリディを守るようにルシアンが前に立った。


「さぁ! 捕えよ!」


衛兵がざっと動き、一斉にリディたちへと向かってきた。


だがそれと同時に、リディたちの周りに旋風が起こり、向かってきた衛兵たちが風圧で吹き飛ばされた。

床に叩きつけられた衛兵たちが小さく呻く。


パーティー会場にあったガラスも巻き上げられガシャンガシャンと音を立てて割れ、何が起こったか分からない出席者たちが悲鳴を上げて壁の方へと避難した。


気付けば、そこには漆黒を纏った存在があった。


黒く長い髪と同じく漆黒のマントが風に揺れていたが、すぐに収まった。

背にはクロアゲハの羽がついていて、動かす度に光の粒子が舞う。


「な、なんだ貴様は!」


突然現れた人外の存在にルイスは狼狽えながらもそう言った。


「ふん、クソガキのくせに何様だ。まったく、教育がなってないんじゃないか? なぁ、現国王よ」

「……オベロン様」


オベロンが国王を一瞥すると、国王はその場で伏せるようにして傅いた。


「久しいな。戴冠式以来か?」

「はい……まさかまたお会いできるとは」


「父上、なんでこんな奴に頭を下げてるんですか!」

「馬鹿者! 妖精王オベロン様の御前だ、お前も頭を下げよ」

「はぁ!? あんなのお伽話ですよね?!」

「いいから黙れ!」


妖精王を前に小馬鹿にしたようなルイスの態度であったが、国王が一喝するとビクッと体を震わせた後、しぶしぶと言った体で膝を折った。


「宝剣の件については申し訳ありません。貴方様はさぞかしお怒りでしょう。その者を贄として捧げましたのでどうかお怒りをお鎮めいただけないでしょうか?」


「それだけど、罪もない人間を贄として寄越してどういう了見?」


「恐れながら……そこの者が宝剣を持ち出したのです。国宝を盗むなど言語道断。窃盗罪および国家反逆罪でそのような処罰にしたわけです」


「ふーん、じゃあ証拠は? 彼女がやったという証拠は出せるのかい?」

「この者が証言しております。……シャルロッテ、こちらへ」


国王がシャルロッテに前に出るように促す。

シャルロッテは少しだけ目を潤ませて悲壮な顔をした。


それはオベロンを怖がるというよりも、自分が被害者であることを誇張するためのようにリディには見えた。


「お義姉様に宝剣のありかを教えろと脅されたのです。あの時リディお義姉さまは私にナイフを突きつけてきたので……本当に怖くて」


最後は涙を流しながら嗚咽するシャルロッテの肩を、見ていられないというようにルイスが抱いてそれを慰めた。


その様子を見たオベロンは、愉快そうにくつくつと喉を鳴らして笑う。


「くっ……あーあ、笑いが出るね。国王、本当にお前も耄碌したもんだね。本気でそんな女の言い分を信じるの?」


戸惑う国王をよそに、オベロンはぱちんと指を鳴らした。

それを合図に大きな姿見が現れた。


いよいよクライマックス!

最後のザマァ、開幕です


ブクマ、星評価励みになっております!

本当にありがとうございます


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