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結ばれる縁、別れる縁②

パーティーからの帰りの馬車の中で、リディはルシアンと今後について話をすることにした。


ルシアンは相変わらずリディの隣に座り、指を絡めている。


「ソフィアナ、幸せそうで良かったな。色々あったがまとまって安心した」

「私もです。なんか肩の荷が降りたと言いますか、これでソフィアナの断罪ルートも無くなりましたしね」

「ああ、本当によかった」


ルシアンも安堵の表情だ。

リディは自分の手を握るルシアンの手を一旦やんわりと離し、少しだけ体をルシアンの方に向けた。


「それでですね、思ったんですけど、もう偽装婚約する必要も無くなったんじゃないかなと思いまして」


その言葉にルシアンの顔が少し強張った気がしたが、ルシアンは真剣な表情でリディの言葉の続きを促した。


「それで?」


「このままでは結婚ということになってしまいますよね? ……その、契約はどうしましょうか。そろそろ契約解消のタイミングかなって思うんです」


ルシアンはそのリディの提案には答えることなく、逆にリディに問うてきた。


「もし、俺があんたを好きだと言ったら?」

「えっ? もう、冗談やめてください。今は真剣な話をしてるんですよ?」


この話し合いの結果次第では、色々準備が必要なのだ。


侯爵家を出るための引越しや店を再開するための準備、リディの新居の準備もしなくてはならない。


いきなり明日出て行けとはならないまでも、婚約解消しているのにいつまでもバークレー邸にいるわけにはいかない。


「大体、ルシアン様が親友の私には恋愛感情なんて抱かないって仰ってましたし、契約にも盛り込みましたでしょ? あ! 契約条件を変えて私にお店を譲らないおつもりでは……」


それだけは譲れない条件だ。


店を買い上げてもらえなくてはリディは日々の生活費が稼げず本当に路頭に迷ってしまう。


「リディは契約を変えるつもりはない……よな」

「はい。絶対にお店は買っていただきますからね。契約は契約ですから、ちゃんと守るべきですよ」

「分かった……」


ルシアンはそう言うと、少し沈黙した。


そしてリディから視線を外し、何か深く考えるような素振りを見せた後、再びリディを見て言った。


「契約解消に関しては少し、考えさせてくれ。実はルイス王子にシャルロッテが接近してるようだ。もうソフィアナ断罪ルートは無くなったと思うが、もう少し様子を見たい」


何というしぶとさ。

ラングレン家はバークレー家の援助を打ち切られたり、慰謝料の請求がきたりと再起不能かと思っていたが、まさかルイスに近づいているとは。


確かにこのままルイスとシャルロッテが婚約すれ、色々厄介なことになりそうな予感がする。


一応ソフィアナ断罪ルートは消えたとは思うが、やはり何かが起こる可能性もあるのだ。最後まで気が抜けない。

そこでリディはルシアンの提案を受け、婚約解消を先延ばしにすることにした。


「分かりました」


了承の意を伝えたタイミングで馬車はバークレー邸へ到着したようだ。

リディはいつものようにルシアンのエスコートを受け、屋敷へ入った。


その後、ルシアンと別れ、自室へと向かうリディは少しだけ先ほどのことを思い出していた。


『もし、俺があんたを好きだと言ったら?』


リディの中にはルシアンを好きな気持ちはある。でもルシアンと自分は住む世界が違う。

ルシアンは攻略対象で、自分はモブキャラ。


実際の身分としても、ルシアンは筆頭侯爵家の次期当主で、リディは没落貴族に位置する。


釣り合うわけがないし、そもそもルシアンがモブの自分に恋心を抱くわけがないのだ。


確かにバークレー邸は居心地が良いし、みんな優しい。

でもそれはリディがルシアンの婚約者だからという前提で成り立っている。


婚約解消後はきっとルシアン様にはしかるべき人と結婚するのだろう。


もしかしてそれはルシアンが会いたいと願っている想い人で、その方がルシアン的にもバークレー家のみんなにとってもいいだろう。


だがそう考えた時、リディの胸がちくりとした。


(なんかショック受けてる? あー、でもきっと居場所を取られたと思うからかな)


この気持ちに名前を付けてはいけない。

リディはそう本能的に思い、この考えに蓋をして鍵をかけた。


その後、ソフィアナの婚約パーティー以降、ルシアンの仕事は再び慌ただしくなり、ルシアンと会えない日が続いている。


それなのに、その日はルシアンの帰宅が早かった。

久しぶりに家族全員が揃って夕食を共にし、談話室で食後のお茶を楽しんだ。


だが、ルシアンは笑顔を見せてはいたが、ふとした瞬間に思い詰めたような顔をしていた。


それに気づいたリディはどうしたのかとルシアンに尋ねた。


「ルシアン様、何かお仕事でトラブルでもありましたか? お仕事関係だと詳細は聞けませんが、占いしますよ?」


「あ……あぁ、仕事は大丈夫なんだ。心配かけてすまない」

「いえ、ならいいのですが……」


しかしなんとなく腑に落ちないでいると、意を決したようにルシアンが立ち上がり、リディを呼んだ。


「リディ、話がある。書斎に来てくれ」

「あ、はい」


なんとなくただならぬ様子のルシアンに戸惑いながら、リディはルシアンに促されて書斎まで足を運んだ。


ぱたりとリディがドアを閉めると、ルシアンは机の引き出しから封筒を取り出して、リディに差し出した。


(……もしや、またナルサス様から!?)


そのリディの思考を読んだようでルシアンは首を振った。


「いやナルサスからじゃない。ルイス殿下の誕生パーティーの招待状だ。もちろん婚約者であるリディにも参加してもらうから」

「はい。承知しました」


普通にパーティーの招待状だと分かって、リディは少しだけ胸を撫で下ろした。

だが、ルシアンの表情は硬いままだ。


(ルシアン様、どうしたんだろう。何か問題があるのかしら)


ルシアンは一度床に視線を落とし、次の瞬間には徐に窓の外を見た。

そして、そのまま言った。


「それでもう一つ言いたいことがある」

「なんでしょうか?」

「婚約解消をしてほしい」

「え?」


突然のことでリディはルシアンの言葉が理解できなかった。

ルシアンは今度はリディの目を見て、もう一度言った。


「婚約を解消しよう」


(婚約……解消……?)


突然の申し出に最初は戸惑ったリディではあったが、この間話し合った通り、婚約解消のタイミングとしては妥当だろう。


シャルロッテの動向も気になったが、ルシアンがこう提案するからには一応の決着がついたのかもしれない。

リディはルシアンの言葉に頷いた。


「分かりました」

「ただ、一つだけお願いがある。夜会が終わったら話したいことがある。時間を取ってほしい」

「いいですけど……今でも大丈夫ですよ。時間ありますから」

「いや、ちゃんとけじめをつけてから伝えたい」

「はぁ……わかりました」


なんの話か気にはなるが、ルシアンなりに考えがあるのだろう。


その時になれば話してもらえるのだから、それまで待つことにしよう。


「じゃあ、王子の誕生パーティーが婚約者として最後の夜会になるんですね。最後までしっかり努めます!」


契約の最後まで気が抜けない。

土壇場で偽装婚約だとバレないよう、リディは気を引き締めて夜会に臨もうと思ったのだった。


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