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ルシアンVSナルサス

この日、バークレー邸は少しばかり慌ただしかった。


とある客を迎えるため……というより迎え撃つという表現が正しいのではないかという位殺気立っているようにリディには感じられた。


現在リディとルシアンはその客と共に応接室にいるのだが……


(なにこの殺伐とした雰囲気!)


ピリピリとした空気が応接室を包んでいるが、その元凶が自分でもあるので逃げるわけにはいかない。


問題は誰が口火を切るかなのだが、やはりここは自分の出番だろう。


「えーっと、ようこそいらっしゃいました、ナルサス様」


その客――ナルサスは椅子の背もたれにもたれ掛かり、優雅にその長い足を組んでいる。


レイモン、カテリーヌ、エリスを始めとしてバークレー邸の使用人たちを含めたありとあらゆる人間がナルサスを不穏な雰囲気で迎えているのに、ナルサスはさほど気にした様子もない。


流石はギルシース王国の王太子である。

海千山千の人間相手に政治をしているナルサスにとってはこの程度の険悪な雰囲気など屁でもないのだろう。


「一応ご紹介しますね。ナルサス様。こちらがルシアン・バークレー様です。ルシアン様、ナルサス・ギルシース殿下です」


丁度ナルサスとルシアンの間に位置する席に座ったリディは、対面して座る二人の間を取り持つように、まずはそれぞれを紹介した。


「お初にお目にかかる。ナルサスだ」

「リディの婚約者のルシアンと言う」


二人とも笑顔ではあるが、なんとなく不穏な空気が漂っている。


今日はソフィアナとダンテの件でナルサスがバークレー邸を訪れている。


ルシアンにナルサスの提案を打診をした際、ルシアンは「同席する!」と間髪入れずに即答した。


だが毎日仕事で帰りが遅いルシアンにリディは余計な負担はかけたくないとリディは思い、無理しなくても大丈夫だとも伝えたのだが……


「いいんだ。絶対に同席するから! あんな奴とリディと二人きりにさせてたまるか!」


と、強い出席の意思を表明してくれた。


その結果、本日リディとルシアン、ナルサスの三人でソフィアナの件についての作戦会議と相成ったのだ。


現婚約者であるルシアンと絶賛求婚してきているナルサスが顔を合わせたら八割くらいは険悪になるのでは……とリディは思っていた。


ただ二人ともいい大人でそれなりの立場にある人間であることや、両者ともリディを本気で好きではないはずなのでそこは穏便になるのでは……と二割くらい思っていた。


しかしその推測は外れ、二人の間には早々に火花が散っているように見えた。


「ふぅん、お前がこいつの現在の婚約者か」

「……現在もこれからもリディの婚約者は俺だ」

「ふっ、将来のことなど分からないものだ。な、リディ」

「リディは気まぐれに求婚するような男を選ぶわけがない、な、リディ」


(なんで私に話を振るかなぁ!?)


二人が急にリディを見つめる。

鮮やかな青と月光のような金色がリディに向けられる。


「え……えっと」


どちらを選んでも角が立ってしまう。


答えに窮したリディは話を切り替えようと、目の前のパウンドケーキを勧めた。


「まずはお茶を飲んで落ち着きませんか? ほら、お二人ともお忙しいでしょう? 甘い物でも食べて少しゆっくりしましょう。これ私が焼いたケーキなんですよ。是非食べてください」


リディの執り成しに、ルシアンとナルサスはもう一度お互い睨み合うと、リディのパウンドケーキに口を付けた。


少しだけ沈黙があったので、リディは今日の本題に入ろうとして、導入の言葉を口にした。


「えーっと、今日は忙しい中ありがとうございます。それで、ソフィアナの件ですけど……」


だがこの導入時点で再び二人の闘争心に火をつけてしまったらしい。


「確か、例のボンクラ王子の件で、城は忙しいと聞いているぞ。そんなにこいつと私を二人きりにさせたくないのか」

「ナルサス殿下も身バレして、現在城での生活準備で忙しいと聞いているが? こんなところで油売っている場合じゃないのか?」


「結構なご執心振りだな。余裕のない男は嫌われるぞ」

「人の婚約者にちょっかいをかける軽薄な男よりはマシだ」


再び険悪なムードになった雰囲気を変えるためにリディは努めて明るい声で話を提案した。


「えっと……ほ、本題に入りましょ! 今はソフィアナとダンテのことですよ」

「そうだったな」

「あぁ、分かった」


とりあえず納得してくれたようで、いよいよ本題に入った。


「ナルサス様はお願いしていた件、どうでした?」


「まずはダンテの様子だが、やはり恋人はいない。さすがは残念女の幼馴染だけあって、今まで恋人らしい恋人もいなかったようだな」


「残念女」という点についてモノ申したい思いもあるが、恋愛に関して残念なのは否めないのでリディは突っ込まないでおいた。


(そっか、ダンテは好きな人がいなかったのね。確かに恋人の話とかは聞いたことなかったわ)


「じゃあ好みのタイプとか、あとソフィアナに脈があるかとかはどうですか?」


「それなんだが、やっぱりあの女に恋愛感情はなかったな。好みのタイプは笑顔が可愛いとか一緒にいて楽しいとか当たり障りのない感じだった」


「ということは、ソフィアナを意識してもらえれば恋人になる可能性もあるってことですね」


「ふ……もちろんその対応もしておいた」


ナルサス曰く、ダンテにソフィアナを好きになるよう仕向けたとのことだった。


『ソフィアナが好きだと言ったらどうする?』

『相手を知らないで付き合えないなどと言うのは相手にも失礼だ』

『まずは付き合うのもアリじゃないか?』

『男ならまずは押してみろ』


などなど、ナルサスは色々とソフィアナや恋人についての話題を振りまくったようだ。


その結果、最初はソフィアナと付き合うなど微塵も考えていなかったダンテだが、仲直りを兼ねて話すのもいいと言いつつ、少しだけ意識している様子になったとのことだった。


「まぁ、男なら問答無用で押し倒してから付き合うのもアリだなと言ったら怒られたがな」

「そこは怒ると思いますよ」


「だが、以前ソフィアナに無礼をしたことについては謝りたいと言っていたから、『なら会って直接謝るべきだ。私がセッティングする』と話したら考えるとは言っていた」


なるほど。ダンテもソフィアナと会うことに関しては前向きになったということだ。


「ナルサス様、グッジョブです!」

「礼はキス一つで良いぞ」


その言葉にルシアンがピクリと眉を動かした。

再び険悪な雰囲気になりそうなので、リディはすぐさま次の話題に移った。


「じゃあ、次は二人を引き合わせる必要がありそうですよね。ただどうやって会わせようかしら。いきなりお見合いっていうのもなかなかハードルが高いかしらね」


「それならばWデートはどうだ?」


ルシアンが提案する。

流石は中身二十一世紀の男性である。

Wデートは確かに友達以上恋人未満の男女をくっつける定番だ。


「Wデートとはなんだ?」


「要は、二組の男女がデートするってことです。四人で会えばダンテもソフィアナも緊張が和らぐと思うんですよね」


「あぁ、だから俺とリディと四人で出かけることにしよう」


ルシアンの提案にナルサスが待ったをかけた。


「知り合いの二組の男女がデートをするということだな。ならば私とリディが妥当だろう。ダンテは私の親友だ。ダンテのことを知らないお前が行くより自然だろう」


「いや、ダンテとの知り合いということならリディで十分だ。ソフィアナは俺の幼馴染でもあるし、面識もある。それに婚約者である俺とデートに行くほうが自然だ」


「お前は仕事で忙しいだろう。馬鹿な王子の尻拭いで帰宅できない日もあるというじゃないか」


「立場としては城に呼ばれている貴殿も同じだろう。陛下にせっつかれている分、俺より貴殿の方が忙しいと思うが」


バチバチと火花が散る。

戸惑っていると二人がこちらを同時に見た。


「ならばリディに決めてもらおう。俺と行くよな」

「ふ……私の方が妥当だろう?」


ずずずいと二人が迫って来る。

正直、凄い圧である。


(イケメン二人に迫られるって……めっちゃヒロインみたいだけど……荷が重い!)


「えっともう私じゃなくてお二人で出かけるとか……」


BL展開の方が落ち着くのではとリディは一瞬思ってしまい、ポロリとそんなことを言ってしまった。


「はぁ?」

「いえ、すみません。ちょっと言ってみただけです」

「さぁ、どちらと出かけるんだ!」

「さぁ」「さぁ!」


二人の圧が凄すぎて半分泣きながらではあったが、リディ的には答えは一択だった。


「えっと……それではルシアン様で」


婚約者なのだから当然の選択ではあるが、ナルサスは納得いかないというように憮然とした表情となった。


「ふん、こんなつまらない男よりも私の方がよほど刺激的なデートにするがな」

「いえ、刺激は求めてないので大丈夫です」


ナルサスの言葉にリディがそう言うと、ルシアンは勝ち誇った顔で一言言った。


「ふ、じゃあ、そう言うことで」


こうしてWデートが決行されることになった。



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