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婚約者②

「ソフィアナ様は綺麗な方だよなぁ。あのイケメンと並ぶと、本当に絵になるな」


確かに、メインキャラ二人が並ぶとスチルのように見える。

華があると言うか、なんだかキラキラの効果が付いているようだ。


本来ならば攻略対象のルシアンと悪役令嬢のソフィアナがああやって並び、婚約している可能性もあったのに、ルシアンの婚約者が自分なのがなんとなく違和感がある。


「本当、美男美女。絵になるよね」

「あの二人、付き合ってるのかな。やっぱり美人にはあんくらい美男子じゃないと釣り合わないよな……」

「そうよねー」

「なぁ……リディ」


ダンテはリディの顔にそっと近づき、内緒話をするように小声で言った。


「大丈夫か?」

「ん? 何が?」


「そのさ……オレちょっと噂を聞いちゃってさ。お前の婚約者ってなんかすっごいモテるとかいうじゃん。恋人もめちゃくちゃいるとかって言うし……お前騙されてないか?」


「騙されてる? と言うと?」


「お前金で買われた感じだろ? 遊ばれてポイ捨てされるんじゃないかってことだよ。オレはお前が心配なんだよ。もしお前が望むならオレが……」


ダンテが続きを言う前に、厳しい声がそれを遮った。

見ればルシアンが剣呑な雰囲気で近づいてくる。

「何をしてる!」


「ルシアン様!?」

「私の婚約者から離れろ!」


リディはルシアンに肩をぐいと引っ張られ、半分抱きこまれるような状態になった。


その様子を見たダンテは先ほどソフィアナと話していたイケメン男性がルシアンだと分かったようで驚きの声を上げた。


「ルシアン……お前の婚約者?!」

「お前だと? 人の婚約者をお前呼ばわりとは……失礼極まりない」

「いや、オレは……」

「……婚約者でもない男が馴れ馴れしく女性に近づくのはマナー違反だ。それが人の婚約者ならば尚更だ」


最初は驚きの表情を見せていたダンテだったが、一方的に言ってくるルシアンにカチンときたようだ。

すっと背筋を伸し、ルシアンを睨みつけた。


「……失礼ながらその婚約者を放っておいて、あの美人達に囲まれているのはいいのですか?」

「なんだと?」

「ダンテ、ルシアン様はお仕事の都合もあるし、私がここで待ってるって言ったのよ」


ルシアンがダンテの言葉にピクリと眉を動かした。

リディは何か誤解があるようなので慌てて訂正しようとしたが、その言葉は二人の耳には入っていないようだ。


「ソフィアナ様との噂を聞いてます。先程だって二人きりで楽しそうにしていた。それを見たリディがどんな気持ちか分かりますか?」

「えっ、私? そんなことは……」


リディが気にしてないと言う前に今度は更にダンテが息巻いて言う。


「婚約者がいるのに恋人がいるような方にリディとオレの関係をとやかく言われたくありません。……リディ、本当に婚約していいのか?」

「えっ?! それは……」


ダンテの問いにリディが答える前に、またリディの言葉を遮って、今度はルシアンが怒気を含んだ声で言った。


「君は婚約パーティーにいなかったようだから言っておくが、俺が愛しているのはリディだけだ。事情も知らない君にとやかく言われたくはない」

「な……」

「失礼する。リディ、帰ろう」

「え?」


二の句が継げないでいるダンテを一瞥したルシアンはそのままリディの手首をぐいと引っ張って歩き始めた。


強引に引っ張られてしまったのでダンテにまともに挨拶もできないまま、リディはそのまま会場を後にした。

だが、廊下に出てもルシアンはリディの手を離さなかった。


厳しい表情からルシアンが静かに怒っていることが察せられた。


「ルシアン様? ルシアン様! ……痛いです」


あまりにも手首を強く握られてしまっていたので、痛みにリディが小さく叫んだ。

それにはっと気づいたようにして、ルシアンはようやく足を止めた。


「すまない……」

「どうしたんですか? 急に」


眉間に皺を寄せ、しばらくルシアンはじっとリディを見据えた。

明らかに怒っているようだ。

機嫌の悪いという黒いオーラが見える。

だが、リディには何に怒っているのか心当たりがない。


(な、なんでルシアン様怒ってるの? 私、何かしたかしら?)


射抜くようなルシアンの眼差しが怖い。

そして、リディは何を言われるのか身構えた。


だが、ルシアンが言った言葉はリディの予想外の言葉だった。


「彼が好きなのか?」

「は? ……なんでそうなるんですか? 彼は幼馴染ですよ」

「幼馴染だとしても好きではないという理由にはならないだろう。彼とは、会っていたことを隠すような、俺には言えない関係なのか?」


「えーと、隠す?とは?」

「この間会っていたのだろう?」

「あぁ、確かに会いましたよ。偶然街で再会して少し話しただけですけど」


「少し? 移り香がするほど一緒にいたのにか? 何もない関係だと言うのか?」

「そんな言い方って! なんか私が浮気してるような言い方じゃないですか!!」


偽装婚約であるので、浮気という表現は適切ではないかもしれないが、ルシアンの言い方だと浮気した婚約者を責めるような口調だった。


そのダンテと会ったことを非難するようなルシアンの言い方にリディは腹が立ち、思わず喧嘩腰で言い返してしまった


次の瞬間だった。

ぐいと手首を引っ張られたかと思うと、気づけばルシアンの腕の中にいた。


抱きしめられ、ルシアンの香りに包まれる。

突然の出来事にリディの心臓が早鐘のようにバクバクと鳴る。


(何で? なんで抱きしめられてるの? えっ!?)


ルシアンの行動に一瞬テンパったリディだったが、ふと先程のルシアンの言葉が頭をよぎった。

ルシアンはリディがダンテを好きだと勘違いしているようだ。


(もしかして……私に好きな人ができたら婚約解消になっちゃうから?)


なるほどとリディは合点がいった。


今のところリディがいるのでソフィアナとの婚約話は消えたが、リディが居なくなってしまったらソフィアナとの話が再燃するかもしれない。

それを懸念しているのだろう。


だからリディはルシアンを抱きしめるように、その背に腕を回した。


そしてゆっくりと言い聞かせるように話す。


「ルシアン様、私とダンテは本当にそういう関係じゃないです。幼馴染としては好きですけど、異性としては見てませんからルシアン様が心配することはないです。大丈夫です、契約は続行できるので安心してくださいね!」


「契約……か」

「違うのですか?」


リディの問いには答えず、少しだけルシアンは沈黙した。

そしてルシアンは再びぎゅっとその力を込めてリディを抱きしめた。


ルシアンがリディの耳元で掠れた声で囁くように言う。


「……本当は分かってる。これは契約だから君を縛るのはおかしいって。俺があいつとの関係についてとやかく言う権利もないって。でも……できたら俺以外の男に近づいて欲しくない……触れて欲しくない……あんたのそばに俺以外の男がいると思うと気が狂いそうだ」


「それってどういう」

「……俺は君のことが……」

「え?」


最後の方は聞こえなかった。

かすかに言った言葉が聞こえなかったのか、それとも言わなかったのか。


だからその言葉の先にあるのが何なのかが分からず戸惑っていると、不意にルシアンの手がリディの頬を包むようにして、見上げさせた。


ルシアンの瞳がリディを射抜く。

その表情は少し切なそうでもあり、愛おしそうにも見えるのはリディの錯覚であろうか。


だがサファイアのように煌めく瞳に吸い込まれたように目が離せない。

その時廊下をバタバタと人が走ってくる音がした。


「ルシアン様、探しました。少々トラブルがありました、お耳に入れたい方が」


急に声を掛けられて、リディははっと我に返った。


ルシアンはリディから身を離して、声を掛けてきた男性に向き直る。

今までの不思議な雰囲気は消え、いつものルシアンの様子に戻っていた。


「分かった。……リディ、ちょっと待っててくれないか。一緒に帰ろう」

「はい。分かりました。ではここでお待ちしてますね」

背筋をすっと伸ばして踵を返すルシアンの後姿を見送ったのち、リディは深くため息をついた。


(何だったんだろうあの雰囲気……なんか、キスされそうな雰囲気……って!ありえない!! ルシアン様、変な風に勘違いしてごめんなさい!)


頬に手を添えられ上を向かせられたことを思い出すと、なんだか今更ながら恥ずかしくなった。


キスされるなんて勘違いも甚だしい。


先程の事を思い出してしまい、激しい罪悪感に襲われたリディはなんとなくいたたまれなくなり、化粧室に行くことで気持ちを切り替えることにした。


この場から早く立ち去りたいという思いと、ルシアンが戻って来るかもしれないという思いから化粧室へ足早に向かう。


立ち止まると先程のルシアンの表情を思い出してしまい、それを振り払うように無心にどしどしと歩いていると曲がり角で思いきり人にぶつかってしまった。


「うわ!」

「おお!? うっ……」


勢いづいていたため、相手に突撃するようになり、目の前の人物がよろっと三歩ほど後ろによろけた。


見れば相手は男性で、鳩尾を押さえている。


(めっちゃ鳩尾にエルボー決まった!?)


「すみません! 大丈夫ですか!?」


リディが慌てて男に声を掛けると、男はゆっくりとこちらを見た。


濃紺の髪の隙間から金の瞳がぎらりと睨むようにリディを捉える。

そして不愉快そうな顔をした男は真っすぐに背筋を伸ばしてリディに向き直った。


その威圧感と怖さよりもその顔を見てリディは驚きの声を上げた。

何故なら彼はここにいないはずの人物だったからだ。


「え? ナルサス……?」


思わずその人物の名をぽろりと口にすると、男の目がリディを射殺さんとばかりに鋭いものになった。


「!貴様!」


ドンと音がして、気がつけばリディは壁際にいて、男に覆い被さられるようにされていた。


(壁ドン……!?)


「何者だ? なぜ、私を知っている」


射抜くようにしてリディを見る人物。

夜を体現したようなその容姿に異国人の特徴である少し浅黒い肌。


「セレントキス」の三人目の攻略対象であり隣国の王子ことナルサス・ギルシースがそこにいた。


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