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幼馴染との再会②

リディは馬が嘶き馬車が止まる瞬間を見ることになる……はずだったが、馬車は何事も無かったように大通りを過ぎて行った。


対面には驚いた表情で立ち止まるソフィアナの姿があり、リディは慌てて彼女の元に駆け寄った。


「ソフィアナ! 大丈夫!」

「え……えぇ」


ソフィアナの無事を確かめてほっと胸を撫で下ろしていると、彼女の腕を掴んでいる男性に気づいた。


「ふうー危ないところだった」

「あ、ありがとうございます。貴方が後ろに引っ張って止めてくださらなかったら今頃死んでおりました」

「怪我はないですか?」

「はい、大丈夫です」

「それは良かった」


どうやらこの男性がソフィアナを引き留めて馬車から守ってくれたのだろう。


「ソフィアナ、ごめんね! 私が急に走り出したから……」


「いいのよ、リディ。こうして無事だったのだもの。あの、助けてくださって本当にありがとうございました。何かお礼をさせていただけませんか?」


ソフィアナは再度男性に向かってお辞儀をする。

リディも一緒にお辞儀をすると、男性は恐縮したように手を振ってそれを断ろうとした。


「いえいえ、お礼なんて。それより、今日はマルシェで人も出ているんで、気をつけください……って、リディ?」


男性がソフィアナにそう言うと、去り際に何気なくリディの顔を見た。

そして突然、自分の名を呼んだのでリディは驚いてしまった。


「え?」

「オレだよ、オレ!」

「……あ! ダンテ!?」


素っ頓狂な声を上げたリディにその男性は人懐こい笑みを浮かべていた。


「こんな偶然ある?」

「お知り合い?」

「あ、こちらはクレルモン伯爵家の長男のダンテよ。私の幼馴染なの」

「まぁ、そうなの? 私はソフィアナ・ロッテンハイムと申します」


「ダンテです。ロッテンハイムってロッテンハイム侯爵家ですか」

「そうです」

「リディ、お前ロッテンハイムのお嬢様とどうして一緒に居るんだ?」


ダンテは驚いた表情をしてからリディに顔を向ける。


多分ラングレン家で冷遇され夜会や茶会にも行けなかったリディがどうして侯爵家と繋がっているのか疑問に思っているのだろう。


「えっと、ちょっと色々あって。それよりダンテはいつ帰ってきたの?」

「先週くらいかな」


「あら、ダンテさんとリディはしばらく会ってなかったの?」


リディとダンテの会話からしばらくぶりの再会であることをソフィアナが察したようだ。


「あ、ダンテは隣国に留学に行ってて。……二年くらい?」

「いや、一年半かな」


「そうなのね。じゃあお二人で積もる話もあるでしょうから、私帰りますわ。リディ、またね」

「あ、またね」


ソフィアナはダンテに会釈をしたのち、リディに小さく手を振ると優雅に去って行った。


それを見送ったリディとダンテは、二人でなんとはなしにマルシェへと並んで足を進める。

その合間に近況を話した。


「リディ、お前めっちゃ綺麗なドレス着てたからびっくりしたぜ。金でも貯まったのか?」

「あー、ちょっと色々あってね……婚約して家を出たのよ」

「はぁ!? 婚約!? 誰と?」

「ルシアン・バークレー様よ」


「バークレー……侯爵家か。だからロッテンハイムのお嬢さんと仲良くなったってことか?」

「うん。そういう流れかな」


「じゃあラングレン家に会いに行かなくて正解だったな。店にいるんじゃないかって先にこっちに来てみたんだ」


ダンテは二年前に前世を思い出してリディの性格が豹変したことを知っている数少ない人物だ。


もちろん前世の話はしたことがないのだが、たまたま望美的な発言をしてしまい「あれだけ虐げられたんだからいい反応だ」と喜んでくれた。


それ以降は自立計画に協力してくれ、陰に日向に支えてくれている。

ダンテには感謝してもし足りない。


ダンテはリディを虐げていたラングレン家を嫌っていたのだが、リディを心配して頻繁に家を訪ねて来てくれた。


だから、現在はラングレン家で保護される形で住んでいることや、婚約パーティーでの一件を聞いて溜飲を下ろしてくれた。


「ははは! そりゃいいや! 天下のバークレー家を敵に回したんだ、ラングレン家ももう再起不能だな」


ダンテは留学前と変わらずリディを気に掛けてくれていたようだ。

そう言って笑うダンテは少し日に焼けていた。


隣国であるギルシースは日差しが強く、時折届く手紙の内容から気候的には前世で言うところの地中海に近いものがあるようだった。


直射日光が眩しいなどと手紙に書いてあったので、ダンテももれなく日に焼けたのだろう。

そして以前より少したくましい印象を受けた。


だが、変わらないものもある。

形の良いアーモンド形の目にある水色の瞳はいつもと同じ快活に煌めいているし、オレンジに近い赤毛のくせ毛も変わらない。


留学時も留学後も勉学に忙しく、自分のことなど忘れてしまうのではと少し寂しかったが、全くの杞憂だと知ってリディは安堵した。


「ダンテはいつ帰ってきたの?」

「一週間くらい前かな」

「そうなの。もう留学はおしまい?」

「うーん、とりあえずこっちには一時帰国って感じかなぁ。野暮用があってさ」

「しばらくはこっちに居れる?」

「あぁ、いつまでってのははっきりしないんだけどな。そのうちウチにも遊びに来いよ」

「うん! 久しぶりに叔父様や叔母様と会いたいわ」

「喜ぶと思うぜ」


その後も少しばかり近況を報告し合い、気づけば結構な時間が経っている。


そろそろ帰宅しないとラングレン家の皆が心配するだろう。

リディはまた会う約束をしてダンテと別れた。


家に帰るとエントランスでルシアンと会った。

様子からするとちょうどルシアンも帰ってきたところのようだ。


「お帰りリディ」

「あ、ルシアン様。ただいま帰りました。今日は早かったのですね」

「ああ。仕事が一区切りついたんだ。パンケーキ美味しかった。ありがとう」

「わぁ! 良かったです! さすがアレットさんのレシピですよね」


ルシアンが優しく笑ってくれたのを見るに、満足してくれたようだ。

だが突然その笑みがふっと消えた。


「どうしたんですか?」

「……香りが」

「香り?」

「リディ、今日はソフィアナと一緒だったんじゃなかったのか?」


「はい、そうですよ。あ、マルシェに行ったんでジャム買ってきたんです。ほら、見てください! バラのジャムですって。珍しいですよね。夕食のパンに合わせて出してもらおうかなと思って」

「あ、ああ……そうか」


ルシアンはリディの話を上の空で聞いているのか、反応が薄い。

だが、男性にとってはジャムなんて興味がないのだろう。


家族みんなで楽しめるものをと選んだので少し寂しい。

が、それよりルシアンがじっとリディを見つめるのでなんとなく居心地が悪い。


(な、何? え? なんでそんな神妙な顔をされているの?)


何かあったのかと思いリディが口を開こうとしたとき、エリスが廊下を小走りにやってきた。


「お姉様! お帰りなさいませ!!」

「エリスちゃん、只今帰りました」

「あーあ、わたしもご一緒にマルシェに行きたかったですわ」


「ふふふ。でもせっかくルイーズ様と仲直りされたんですもの。そっちが優先でいいんですよ。そうだ! じゃあ今度はルイーズ様も一緒に」


「それは名案ですわ! それで、マルシェはどうでしたの? 今日は異国の物も売られていたと聞いていますわ。お話聞かせてくださいませ」


エリスに連れられて部屋まで行く形になったので、リディはルシアンに挨拶しようと視線を戻すが、ルシアンは相変わらず何か考えているようだ。


「ルシアン様、大丈夫ですか? ぼーっとされていますが」

「あ、いや。何でもない」

「そうですか? ではルシアン様、着替えてきますね。また後で」

「……分かった」


先に歩いていたエリスを追いかける形でリディはルシアンの元を後にして部屋へと少し小走りに戻った。


その後ろ姿を見送るルシアンの思い詰めたような表情には気づかずに……。


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