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お披露目会①

赤、白、黄色……


(どの花見ても~綺麗だなぁ~♪って違う!! 思わず現実逃避するところだったわ)


目の前には色とりどりのドレスが並んでいる。


店内には原色だけでなく、淡いピンクのドレスやレモンイエローのドレス、エメラルドグリーンのドレスなどもある。


どれもデザインが凝っていて、スパンコールが入っているものや繊細なレースがふんだんについていものなど、流行のスタイルを入れつつ上品で洗練されたドレスばかりだ。


美しくて思わずため息が出そうだが、同時に値段もべらぼうに高い。


「お姉様! こちらはいかがですか?」


エリスがリディにターコイズブルーのドレスを差し出してきた。


そう、今日リディはエリスに連れられて街中の老舗ドレスショップを巡っている。


「一応確認ですけど、そのドレス、私が着る……のでしょうか?」


「当り前ですわ! 今日は婚約お披露目のパーティーに着るドレスを選びに来ているのですから」


明後日、バークレー家でパーティーが開かれる。


その目的はリディが正式にルシアンの婚約者になったことを世間に示すためのもので、つまりはリディのお披露目会といったところだ。


占いで友人と仲直りをしてからエリスはリディに色々と優しくしてくれる。


というより……四六時中行動を共にしており、何かにつけて世話を焼いてくれるようになった。


お披露目パーティーのドレスについてエリスが尋ねてきたので、何を着るか決めてはいないがルシアンから貰った中から選ぼうと話したところ……


『お兄様、センスない!! お姉様ならもっと素敵なドレスの方が似合うわ!お姉様、今からドレスを買いに行きましょう! わたしが飛び切りのドレスを選んで差し上げますわ!』


と鼻息も荒くそう言うと、そのままリディはエリスに連行されるようにこの店に連れてこられたのだ。


その後は、あーでもない、こーでもないと、エリスによって着せ替え人形よろしくドレスを試着しまくっている。


今試着しているのは、濃いめのイエローの生地でオフショルダーのドレスだ。

腕の部分がスリーブデザインになっており、豪華な印象を与える逸品だ。


「あ、あのですね。エリス様。お気持ちは嬉しいのですが、こんな素敵なドレスはドレスに申し訳ないといいますか。私みたいな平凡人間にはおそれおおいといいますか……今までのドレスも本当綺麗ではあるんですけど……私には過ぎたるものかなぁ……」


「もうお姉様、〝エリス様〟だなんて他人行儀に呼ばないでくださいまし!」


「そうだったわね。エリスちゃん、このドレスはちょっと私には派手じゃないかな?」


「そうだぞ、エリス。リディには似合わない」


そう言ったのは一緒に付いてきたルシアンだ。


エリスの選んだドレスの桁を考えると、正直リディの稼ぎでは一年かかっても払えない。

なるべく安いドレスにしないと破産してしまう。


そのためエリスにやんわりと辞退の言葉を伝えた。

ルシアンもリディの意見に同意してくれたようで、味方がいてくれて心強い。


でなければ、この高級なドレスを買わざるを得なくなってしまう。


「ですよね。ほら、ルシアン様も仰ってますし!」

「あぁ、リディにはこっちのドレスのほうが似合う。リディもこういうのが好きだろう?」


そう言ってルシアンが持ってきたのは黒に金糸で刺繍があるドレスだった。

動く度に金糸がきらきらと光り、ゴージャスさを演出している。


(綺麗なドレスだなぁって……あれ? 似合うとは?)


なんとなく話が違う方向に行きそうである。


「リディ、これを着てみてくれ。絶対に似合うと思う」

「お兄様は黙ってて! 私がお姉様のドレスを選ぶのですから!」

「リディは俺の婚約者だ。お前よりリディの好みを知っている」


「婚約者であることをかさに着ないでくださいまし。お兄様はセンスがないわ! リディお姉様にはもっと華やかなお色の方が似合いますのよ!」


「華やか? お前が選んだ色は派手で下品じゃないか」


「はぁ? 下品ですって? お兄様は地味すぎるのよ! 女性は華やかに着飾った方がいいんですの! というか、なんでお兄様がいらっしゃるんですか?」


「なんでって、婚約者のドレス選びに同行するのは当然だろ?」

「邪魔ですから帰ってくださいまし」

「は? むしろお前が邪魔だろう!? お前が帰れ」


エリスとルシアンが言い争いをし始めてしまったのでリディは慌てて二人を止めに入った。


「お二方、どうぞ落ち着いてください。ほら、私のドレスなんてなんでもいいんですよ?」

「「よくない/よくありませんわ」」


「お姉様は魅力的な方ですのよ。お披露目会でばばーんと自慢したいではありませんか!」

「そうだ。リディ。君の魅力をみんなに知らしめたい」


(うーん。これはバークレー家の威信にかけて、まともな婚約者であるとアピールしたいってことかしら?)


確かに筆頭侯爵家である天下のバークレー家の婚約者が貧相な恰好をするのは家名を汚すことかもしれない。

分かる……分かるが……


(先立つものがない!! ここはちゃんとお金がないことを言って、一番安いドレスにしてもらいましょ)


その一番安いドレスでも、リディの占いの収入で1年かかってようやく払えるかというところだ。

やっぱり出世払いにしてもらうしかない。


そう思って口を開こうとしたリディを無視して、エリスとルシアンは話を続けていた。


「……もう、こうなったら最後の手段だな」

「そうね」


「「この店のドレス、全部いただく/いただきますわ」」


エリスとルシアンの言葉が再びハモった。

この兄にしてこの妹である。


(二人とも金銭感覚バグってる!! ……てか思考回路似すぎ!)


二人の言葉にリディは青くなりながら慌てて言った。


「いえ!! いくら何でもおかしいですよ!」

「いや、おかしくない。なんならパーティーでは衣装替えをしよう」

「そうですわね。二着・・・いえ五着の衣装替えが必要ですわね」


このままでは一生分の給料となってしまう。


リディは慌てて手近にあって、リディが買える限界のドレスを手に取って行った。

それは薄い桜色のドレスで、オフショルダー部分にフリルのレースがふんだんに使われている。


「こ、これがいいです!! わー、これ素敵だなー」


「……そうですわね。これならお姉様に似合いそうですわ。フリルの部分がお姉さまの可愛さを引き立てますね」

「そうだな。スカート部分もシフォンになってて華やかの中に清楚さも感じる」


ルネサンスの絵画のごとき美しい二人の顔がじっとリディを見つめる。

そして納得したようで、それを購入することとなった。


ルシアンは後日そのドレスを屋敷まで届けるように店員に言ったのち、三人で馬車で屋敷へと戻ることになった。


「あの……お代ですけど……その、先立つものがないので、出世払いで」

「「は?」」

「お姉様、仰っている意味がわかりませんわ」

「婚約者にドレスを贈るのは当然だろう? 君は自分で支払う気でいるのか?」


目の前に座る兄妹が唖然とした表情をしている。


確かに婚約者がドレスを贈るのは普通かもしれないが、自分たちはあくまで契約なのだ。

対等に結ばれた契約であり、ルシアンが金銭を負担する必要はないのだ。


「でも……私達はその……ご迷惑をおかけするのは」


エリスがいる以上「偽装婚約だ」などと言えず、リディが少し言葉を濁すと、ルシアンはなんとなくそれを察してくれたようだ。


「迷惑ではないが……そうだな。じゃあ、お礼を貰ってもいいいか?」

「はい! もちろんです!」

「じゃあ、今度一緒に行ってもらいたいところがある」

「それでいいんですか?」

「あぁ」

「分かりました。ご一緒いたします」

「楽しみにしてる」


そう言ってルシアンは柔らかく微笑んだ。


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