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そして運命は回りだす①

本日より連載開始しました!

今日は5話連続投稿です。よろしくおねがいいたします

その日、リディ・ラングレンはテーブルの上に置かれた一枚のタロットカードを見て首をかしげていた。


「運命の輪?」


リディは毎朝出勤前に一日の運勢をタロットカードで占う。

といっても簡単なもので、大アルカナ二十二枚のカードから一枚引くのだ。


そして今日引いたカードは『運命の輪』だった。

これの意味するところは恋愛なら運命の出会い、他にも幸運や好転といった意味がある。

だがどれも心当たりがない。


(電撃的に恋に落ちるとか? ふっ……ありえないわ)


自分の思考を思わず鼻で笑ってしまう。


2年前、いきなり婚約破棄されて以来、もう愛だの恋だのは懲り懲りだ。

それに婚約破棄されたご令嬢を引き取ってくれる男性はいないだろう。


好転というならば、収入が増えてこの家を出られる……とかの方がまだ現実的だ。


「でもタロットが示してるんだから……なんにもないってことはないだろうけど」


うーんとカードを見つめつつ、そう独り言をつぶやいたが、今考えても仕方がない。

リディはこのことを頭の隅にでも置いておくことにし、急いで外出の準備を始めた。

予約のお客様を待たせるわけにはいかない。


屋敷の一角にあるリディの部屋は、貴族令嬢であるにもかかわらず使用人の部屋と言っても差し支えないほど狭く、そして質素なものだった。


くすんだ壁紙に、板張りの床。

日当たりも良いとは言えないし、室内の家具も最低限のものしかない。


だが、リディは静かに過ごせる環境であるのであまり気にしていない。


(むしろ〝以前〟の部屋より立派だしね)


そう思いながら、リディは窓際の塩と水を取り替えた。


「妖精様、今日もいい一日になりますように。妖精様にも限りない力が備わりますように」


リディはそう妖精に祈りを捧げた。

塩と水を備えるなどこの世界での祈りの儀式としては少し変わっている。

まるで日本の神への供え物のようだ。


いや、実際それを模している。


なぜリディが日本の宗教儀式を知っているかというと、リディは前世の記憶を持っているからだ。


リディは現在ラングレン伯爵家の長女であるが、前世は今井望美という女子高生だった。


下校時に歩道を歩いていただけなのに、飲酒運転の車が突っ込んできたのだ。

その際に何人かが巻き込まれ、死傷者が出たのだが、今井望美は運悪く死んでしまったようだ。


2年前に高熱にうなされ、回復した際にリディは記憶を取り戻した。

そして前世の記憶を取り戻すと同時に、リディの体にはある変化が生じた。


リディの体の変化――それは妖精が見えるようになったことだ。


『今日もありがとうね、リディ!』


キラキラとした光がリディの周りを飛びながら、声を掛けてきた。


「あらユッカ様。今日も元気?」


普通の人間には見えない妖精が見えるのは前世の能力を引き継いだからだと思う。


今井望美はスピ系少女というか……要は色々な不思議体験をする体質だったのだ。


それがこの世界では妖精が見えるという能力として現れたようで、ユッカと呼ばれたティンカーベルのような妖精は、リディの視線の位置に留まりパタパタと飛んでいる。


『ええ、元気よ。リディも元気そうね』

「お陰様でね」

『もうお仕事に行くの? なら傘を持って行くといいわ』


ユッカはそう言うが、窓から差し込む日光と晴れ渡った空を見る限り、雨が降るとは思えない。

だが、このユッカは天気を司る妖精だ。彼女の言うことなら間違いないだろう。


「分かったわ。じゃあ、行ってくるね」

『気を付けて』


リディはユッカに見送られて部屋を後にした。


部屋から出てエントランスへと向かっていると、義妹のシャルロッテがやって来た。


シャルロッテは相変わらずぱっと見は可憐な少女だ。

艶やかに輝くピンクブロンドの巻毛にふさふさと長いまつ毛。

大きくつぶらな瞳は鮮やかなロゼの色合いだ。

何に対しても頑張り屋で守ってあげたくなる少女。


そんな可憐な少女はリディを見ると、小馬鹿にしたような表情を浮かべ、わざとらしく大仰に声をかけてきた。


「あら義理姉様、お出かけですか?」

「シャルロッテ、おはよう」


「また暗い色の服を着て、貧相な容姿がさらに貧相に見えてしまいますわよ。それに、また教会に行かれるんですか? ……ふふふ、まぁ将来行かれるところですから、今から慣れたほうがよろしいかもしれませんね」


リディは心の中でため息をついた。あまり会いたくない人間に会ってしまった。


(幸運のカードが出たはずなのに、朝からこれかぁ……。というかこれが〝ヒロイン〟ねぇ……)


リディはまじまじとシャルロッテを見つめた。


実はリディが高熱を出した時、思い出したのは前世の記憶だけではなかった。

この世界が乙女ゲーム「セレントキス」の世界だということも思い出したのだ。


前世でプレイしていた乙女ゲームの世界に転生したことに衝撃を受け、何度かそれを否定したがさまざまなことを考え合わせた結果、「セレントキス」の世界であることは間違いないと確信した。


「セレントキス」はよくある乙女ゲーで、キラキラ王子様とクールな侯爵、ワイルド系隣国の王子の三人と恋愛するゲームだ。


他にも隠しキャラとかも出てくるが……まぁ置いておくとして、イベント発生場所に行って会話をすると選択肢によって好感度が上がり、キャラ分岐でストーリーが展開する的なゲームである。


そのゲームの主人公こそ目の前の少女――シャルロッテだ。


ではリディはというと……モブキャラだ。

自分がハマったゲームの世界に転生したことを知って少しの興奮はあったが、元々夢思考はないので傍観者で問題ない。


「あまり伯爵家の評判を落とすことはしないでくださいね。あ、でもちょうど良かったわ。ジル様が来てくださるから、お義姉様はいない方がよろしいですものね」


そう言ってシャルロッテはせせら笑いながら言った。


ジル伯爵はかつてリディの婚約者であった。

だが、シャルロッテを見るなり彼女と急速に仲を深め、リディとの婚約を破棄したのだ。


今はまだ二人は婚約していないものの、こうして屋敷を訪れて愛を深めているようだ。

リディはジル伯爵には恋心などなかったので問題はない。


ただ世間では婚約破棄された女というレッテルを貼られ、また既にそこそこの年齢に達しているため次の婚約者など見つからない。

まぁ、行き遅れに近いのだ。


(でもほんとさ……ゲームと性格違くない?)


シャルロッテと過ごしてつくづくそう思う。


外面は良いが、我儘で自分を一番に優先しないと癇癪を起こす。

それでも両親は蝶よ花よと育て、彼女の欲しがるものは全て買い与えた。


義母はともかくリディの父でさえ「長らく父親がいなかったのだから可愛がらねば」という謎の理由でシャルロッテを優遇した。


そんなこともあってか、シャルロッテはリディを馬鹿にして軽んじるようになり、また我儘三昧の自分勝手な人間になった。


リディとしてはシャルロッテの本性を知っているので、こんなのに引っかかる男性の気がしれないが、そこは乙女ゲームのヒロイン効果でシャルロッテを慕う人間は多い。


さて、彼女は誰を選ぶのか?


(まぁ、私はモブだからいいんだけど)


ゲームの展開はゲームのキャラ達が進めればいい。モブキャラの自分とは世界が違うのだ。


それよりもリディには金を稼ぐという目的がある。今はそれに邁進するのみだ。

早くこの家を出るために、リディには金が必要なのだ。


ブクマ・星評価ありがとうございます!

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