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#7.前夜

 

「なにをやってるんだ! お前たちは!」

「ごめんなさい!!」


 村長が僕たちを怒鳴りつける。

 村の神父様が怒り狂う村長をなだめながらも、何か事情を知っているかのようにリコへと視線を投げかける。投げかけられた彼女は誤魔化すようにして目線を逸らした。

ほんの数秒のやり取りを僕は確かに見ていたが、気にも留めず視線を神父様に戻す。

 

「まあまあ、彼らのおかげでこの村も無事だったんですから褒めてあげてください」

「神父殿! そんなお気楽な話じゃないですぞ!! 子供たちだけでゴブリンの群れに挑むなど、なにかあったらどうするのですか!」

「まあ、おっしゃる通りではあります」


 神父様は村長をなだめ終えると、静かに圧を放ちながら僕たちに問いかける。その声はいつもの説教のようでいつもよりも厳しく、怒りを抑えながらも僕達を諭すように低い声だった。


「アナ、村を救おうとした気持ちはとても大切だ。しかし、私はそんな無茶をさせる為にキミに魔法を教えているわけではない。

それは分かるね?」

「はい、申し訳ありません……」

「ロイ、キミもなにをしているんだ? 自分に出来る範疇はちゃんと理解しなさい。運良く乗り切ったらヒーローかもしれないが、それはただの蛮勇だ。

子供の遊びじゃないんだ、一歩間違えたら命だってないような危険な行動だったんだ。

村長や村の人達がどれだけ心配したか分かるかい?」

「はい、神父様……ごめんなさい……」

「このお嬢さんを助けたい気持ちや村のみんなを危険な目に遭わせたくないという気持ちは高尚かもしれないが、二人に何かあったら村のみんながどれだけ悲しむかを考えはしなかったのかい?」

「仰る通りです、軽率な行動でした」

「なら、私が本気で怒ってることは分かるね?」

「はい、身に染みます……」

「キミ達はもう子供じゃないんだ、自分の行動に責任を持ちなさい。

私も村長もキミ達を本気で怒れるのはこれきりなんだからね?」


 僕たちはたっぷりと二人に説教される。落ち着いたところで神父がリコに尋ねた。


「ところでこちらの方は?」

「リコリスと言います、よろしくお願いします」

「昨晩、神聖なる魔力とおぞましい魔力を感じました。おそらく、出どころはアナタですね?」

「はい、おっしゃる通りです」

「何者ですか、アナタは?」

「戦乙女です」

「神の御使い―――……なるほど、あれだけの力を使われたなら認めざるを得ないでしょう」


 リコがことの成り行きを説明する。


「ロイが英雄? 冗談はよしておくれ、お嬢ちゃん」

「私は納得しましたよ。ロイから特別な力を感じます」

「まあ、神父殿がそうおっしゃるなら」

「少し前からロイの体に神聖な力を感じていました、今の話を聞いて合点がいきました」


 神父は僕に尋ねた。


「それで、キミはこれからどうするんだい?」

「原罪とやらを止めにいきたいと思います」

「ふむ……アナはどうする?」

「私も一緒に行きたいと思います」

「過酷で危険だぞ?」

「それでも構いません」

「なら、存分に世界を見てきなさい」

「村のみんなには俺から説明しておこう、神父殿も一緒に話していただけますかな?」

「ええ、そうですね」


 二人から解放されて家に着くと僕は死んだように眠った。





 翌朝、目が覚めると僕は正気を疑うような光景に頬を叩いた。


「うそだろ……」


 悪い夢が終わっていないかのようだ。


「なんでなんだよ」


 記憶の断片を探し出そうと必死に酸素の行き届いてない頭を回転させる。昨日から眠ったまま、記憶がない……なのに、事実だけがそこにある。


「おかしいってこんなの」


 キメの細かい滑らかな肌を露わにして眠る青い髪の少女が僕の横で寝息を立てている。少しすると長いまつげがピクピクと動き、ゆっくりとまぶたが開いた。


「おはようございます、マスター」


 彼女は眠たげな顔のままで、にこりと笑う。


「リコ! なんで服を着てないんだよっ!」


 彼女は恥じらう素振りもなく僕を上目遣いで見上げながら言った。


「取り立てて不都合もなかったので寝苦しくて脱いでしまいました」

「不都合はあるだろっ!」

「ありましたか?」

「僕は男なんだぞ!?」

「それがなにか?」

「キミに恥じらいはないのかっ!?」


 彼女は至極まじめな顔つきで答えた。


「マスターだけですよ、特別なのは」

「こんなとこをアナに見られたら、どうするんだ! いったいなにを言われるか……」

「なにか問題でもあるのですか?」

「問題しかないけどっ!?」


 そんなやり取りをしている時、扉の開く嫌な音がする。


「なにしてんの、アンタたち……」

「ア、アナ……誤解だ……」


 アナがふるふると肩を震わせると火に油を注ぐようにリコが横やりを入れる。


「浮気のバレた旦那みたいな焦り方ですね」

「ひとごとみたいに言うなぁ〜!!」


「信じらんないっ! この、ドスケベ!!」


 彼女は大きな声で叫んだあと、勢いよくドアを閉める。


「……いいのですか?」

「なにが?」

「こういう時は追いかけて事情を説明しないと誤解を生んだままになってしまいますよ?」

「誰のせいでややこしくなったと思ってるんだ」

「ふふっ……」


 僕は大きくため息を吐き出して家を出た。しばらく家の庭を行ったり来たりしてみる。


「さて、どこに行ったかな?」


 アテもなく昔よく遊んだ秘密基地に行ってみることにした。


「この穴、まだ通れるかなぁ?」


 村の外れにある畑の納屋の裏まで来て、空いた穴をなんとか潜り抜けて納屋の中に忍び込む。


「アナ、やっぱりここに居たか」


 積まれたワラに腰掛けてアナがうずくまっていた。僕に気が付くとアナが丸めた体を更に小さくしてそっぽを向ける。


「なによ、こっち来ないで」

「冷たいなー」

「私なんかほっといてよ」

「昔からホント変わらないね」

「うるさい……」


 そうして、しばらく僕たちは会話することもなくただ座っていた。

 どれくらい経ったか、唐突にアナが話しかけてきた。


「ねぇ?」


 ボーッとしていた僕はいきなり声をかけられてワンテンポ遅れて返事する。


「ん、どうしたの?」


 その様子を見て、アナが呆れたような表情をする。


「マイペースね、いつも」

「ん、まあ。会話は得意じゃないし」

「まあ、いいわ」


 彼女は立ち上がるとワラを払い落として、こう言った。


「帰るわよ」


 帰り道、近所のおじさんが僕たちを冷やかして声をかけた。


「なんだ、お前たち。またケンカしたのか、分かりやすいなぁ!」


 おじさんは豪快に笑いながら僕たちの頭を揉みくしゃにする。


「ちょっとぉー! やーめーてーよー!!」

「アナ、お前はもうちょっと女の子らしく素直になったらどうだ〜! ガハハハ!!」

「おじさん、もうちょっと力加減して……けっこー痛いから……」


 おじさんはしばらく僕たちの頭をグリグリすると、思い出したかのようにニカッと笑う。


「そうだっ! 今年もウチのチーズが出来たぞ! 忘れるとこだった、持ってけ!!」


 おじさんはいちいち豪快にそう言いながら、半ば強引に僕たちにチーズを持たせた。


「おじさん、これちょっと量が多すぎるよ」

「村長たちから話は聞いたぞ、寂しくなっちまうなぁ……」

「用事が済んだらまたこの村に戻ってくるよ」

「元気でな」


 おじさんはそう言って、また僕たちをもみくちゃにした。帰る道すがら、会う人たちと似たようなやり取りを繰り返して日が暮れるころ、やっと帰宅する。


「なんだか、話の流れで旅に出ることになったけどみんなの反応を見ると実感がわかないや」


 リコがくすりと笑う。


「それが寂しいっていう気持ちなんだと思いますよ」

「そうか、僕は寂しいのか……」

「帰るべき場所があることだけは、どうか忘れずに」


 彼女はそう言って、暖かなコーヒーを僕に差し出した。いつも飲むコーヒーより苦味を感じる。


「そうです、マスター」

「ん?」

「あの耳飾りと黒い宝珠はありますか?」

「ああ、持ってるよ」


 僕は暖炉の上に置いた耳飾りと黒い石をリコに手渡す。


「どうしたんだい?」

「この耳飾りに私とマスターの力を込めてアナさんのお守りにしようかと……所以が所以なので呪物になりかねないか心配ですが、神聖魔法を扱う彼女ならば正しく扱えるかと」


 黒い石になにかを彫るように短剣の先を押し当てながから彼女はそう言った。


「どうやって僕の力を?」


 僕が尋ねると、微笑んだ彼女は僕に近づき、そっと手を伸ばすと彼女の柔らかい指が僕の髪に触れる。


 ーーブチッ!!


 そう思った刹那、髪の毛を引き抜かれる。


「いっ……!!?」


 唐突な痛みに涙が零れる。


「いっったぁぁああああっっ!!」

「失礼しました」

「抜く前に言って!!?」

「先に言ったら逃げそうじゃないですか」


 彼女は極悪な笑みを零しながらクスクスと言った。


「不意打ちは酷いよぉ……」

「ごめんなさい、身体の一部が必要だったのです」

「そういう説明はあらかじめ欲しいな!」

「本来なら血液とかの方が融和率が高くて都合がいいんですけどね」


 僕の背筋に寒気が走る。


「リコさん、笑顔が怖いです……」


 彼女は耳飾りに僕の髪の毛を括り付け、その上に文字を刻んだ黒い石と自身の髪の毛を置く。そして、机になにかを描きながら小さな声で呟いた。


「祈りよ、願いよ……我が声を聴け……」


 机に描かれたなにかがぼんやりと光って置かれた耳飾り達が青白い光に包まれる。

 彼女がかざした手を引っ込めると耳飾りと黒い石がくっ付いて1つの耳飾りになっていた。


「これで完成です」

「どんな魔法を使ったんだい?」


 僕は感心して、その耳飾りを手に取る。


「私たちの身体の一部を媒体にして錬成魔法を使わさせてもらいました」


 よくよく観察すると、金属部に文字のような模様のような不思議なものが刻まれている。


「それは魔除けのまじないです、人には読めない文字で言葉が刻まれております」

「なんて書いてあるんだい?」

「……死がふたりを分かつとも捧げた心臓はアナタの魂が朽ちるまで永遠(とわ)に……と刻まれております」

「魔除けにしては不穏な言葉だな」

「捉え方ですよ。死と生とは常に隣り合わせの存在です……死して朽ちるものもあれば、生とは無形のものでありましょう?」

「難しい話はよくわからないなぁ……」

「簡単に言えば、死そのものを生と捉え境界線を曖昧にすることで因果をあやふやにさせて事象を捻じ曲げるまじないをこの耳飾りにかけたのです」

「ふ、ふーん……」


 僕は意味もなく彼女の言葉に相槌する。


(ダメだ、さっぱり意味がわからん……)


 彼女は僕に黒い石を透かすように催促する。


「これは?」


 透かした石の中にも文字のようなものが描かれていた。


「この耳飾り、鉄ではなく銀で作られてましたので私たちの一部はその石の中に編み込ませてもらいました」

「この文字の意味は?」

「それは文字ではなく、ただの紋様です」

「そっか、また文字かと思った」

「勘ぐりすぎですね」


 僕が彼女に耳飾りを返そうとすると彼女はその手を押し返す。


「マスターから彼女に渡してあげてください」

「なんで?」

「そういうものですよ、そーゆーのは」


 リコが意味ありげに微笑んで立ち上がる。


「そろそろ寝ましょうか」




 そう言って彼女はランプの明かりを吹き消した。

ハジメマシテ な コンニチハっ!


高原律月です ∫(っ'ヮ'c)



第7話、やっと更新です!!

文字がかさむと更新が……1話の分量をどれくらいで割り振ればいいか、いまだに分かりません(笑)


なかなか遅筆なとこが直らず、めげそうです。゜(゜´ω`゜)゜。



それでは、また次回〜 ノシ

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