#85.ダンシング ミンストレル
翌朝、スミスさんが僕に話があると言った。
僕は思い当たる節が沢山あるので彼の言うまま、家の裏までついて行った。
「ロイ君……」
神妙な顔色でスミスさんが僕に話しかけると、僕は反射的に額を地面に付ける。
「昨日は床と壁をぶち抜いてしまってごめんなさい! フェンリルがスミスさんに当たらなくて本当に良かったです!!」
「それは気にするなと言ったろう!」
スミスさんは僕が謝罪をすると、鋭い目つきで僕を見抜いた。
「若者が背伸びをするでない!!
年長者はな、若者が失敗した時に赦すのが仕事なんじゃ!
そうやって軽々しく頭を下げるのは侮辱と同じじゃぞ! ワシを侮るか、こわっぱ!!」
「ごめんなさい、軽率な行動でした」
「うむ、分かればよい。ワシが気にするなと言ったんだ、気にするな」
スミスさんは白い歯を見せて笑うと立ち上がった僕の尻を叩いた。
「それで用というのは?」
「アレは拾って来れたか?」
昨日、坑道へ探索に出る前に僕はスミスさんにある頼みごとをされていた。
「はい! あります!」
すっかり失念していた僕は思い出して彼に頼まれた物を手渡した。
皮袋を受け取ったスミスさんは前触れもなく中身をひっくり返すと赤茶けた砂が積もって山を作り、彼は破顔しながら愉快そうに言った。
「これじゃ、これ!」
「この砂はなんなんですか?」
「面白いものが見れるぞ!!」
僕は手招きされるまま、傍によってその山を覗き込む。
「ロイ君、あの青い火は出せるか?」
「出せますよ」
「危ないからの、離れた方がいい。武器から火が出せるなら長い棒の先に火を出すことも出来たりはするかの?」
「やったことはないですけど理屈的には出来ると思います」
「では、やってみてくれ!!」
スミスさんに長い棒を手渡され、赤茶けた砂山に棒を突き刺す。
「よし、着火ぁあ!!」
「はい!!」
「目をつぶれぇい! 目ん玉が焼けちまうぞ!!」
火を付けた瞬間、物凄い音を立てながら赤茶けた砂はとてつもない閃光を放つ。
静かになったところで目を開けると砂山は跡形もなくなくなっていた。
「どうだ? ビックリしたろう?」
スミスさんはカッカッカッと笑いながら及び腰になった僕の背中を叩いた。
「ええ、すごくビックリしました……」
「だろうな!!」
スミスさんは砂山があった所を道具で掘り返しながら大きな火バサミで地面から箱のような物を引き抜く。
「コイツはすごいぞ!!」
「一体なにが起きたんですか?」
スミスさんが箱をひっくり返して底を叩くとコンコンと甲高い音が裏山に響き渡った。箱がどかされ、僕は思わず驚嘆の声を上げた。
「おおおおおぉぉ……!!」
「どうじゃ、純度100%の鉄じゃよ!! 鉄とは思えないくらい美しいじゃろ?」
「え!? これ、鉄なんですか!?」
朝日を受けて神々しく煌めいた無垢の鉄塊が厳しくギラついた光を放っていた。
「まあ、このまま使うと錆るでな……ちょいと加工をしてやることで錆びにくくて丈夫な鉄に出来るんじゃ!!」
「それって……」
ここ最近読みふけっていた書物の中に「錬金術」といえ怪しいものがあったのを思い出す。
「おいおい、お主が想像してることは分かるぞ!」
「オカルト臭いヤツかと思いましたよ」
「そういう所が青いって言うんじゃよ。
錬金術は立派な学問だぞ? バカとハサミは使いようっていう言葉を知らんのか?」
「勉強になります」
「まあ、ちと説教くさかったかの……錬金術自体は眉唾もんじゃが、錬金術師達が汗水を流して生み出した成果を軽視してはいかんぞ?
中には応用することで本当に使える発想もあったりする。物事ってのはみんなそういうもんじゃよ」
スミスさんは髭を揉みながら僕を工房に案内する。
「今の実験を外でやったのは屋内でやるには危険だったからじゃな。今からやるヤツも大概、危険じゃがな!! ガハハハハ!!!!」
スミスさんは先ほどの鉄塊を二段式の機械の上段に入れ、キラキラした乳白色の粉末を投入して蓋を閉める。
「これはワシしか知らん秘伝じゃ! 見て学べ!!」
彼がそう言うと機械に施された刻印が鮮明に浮き出る。怪しくも美しい青白い光に目を奪われていると、赤くどろりとした液体が上段の下部から流れ出て下段の受け皿に落ちていく。
「あれは溶けた鉄と先ほどの乳白色の粉末に混ぜてある鉱物が混ざって出来た合金じゃ!
合金は人間などの他種族にはない概念かもしれんな……かく言うワシも錬金術を学んでいて閃いたんじゃがの!」
なるほどそんな手があったとは……なんて関心しているとスミスさんが装置の横にあるレバーを回し始める。
レバーを動かすと装置の下部にある棒がクルクルと回り始めた。
少し間を置いて赤い液体が下段の器から流れ出てると棒は半液体の物質を引き出しながらゆっくりと回る。
「コイツが妙でな! 早く回しすぎても品質を悪化させてしまうし、遅すぎると鉄が固まってしまって目詰まりしてしまうんじゃ!」
じれったいくらいにスローペースな作業が終わり、立方体の鉄塊が完成する。最後にスミスさんは端っこの方を切り取るように刃物状の道具を鉄塊に押し当てると、赤い塊はぬるりと割れた。
「他にも技法はあるがお主に必要なものは凡そコレじゃろうて!」
「冷めるまで時間がかかるから待っていてくれ」と言われたので「手が空いてるうちに少しでも鉱山内のヤツらを間引きしてきます」と答えて工房を後にした。
裏山まで来て、深呼吸を一つ。
「ヴリドラの言ってたことが正しいのなら……」
「ロイ、何するつもりなの?」
横に立つ幼なじみが不思議そうにこちらを見やる。そんな彼女を横目で見ながら僕はアロンダイトを手に取った。
「換装:精霊女王の円舞曲!!」
その掛け声と共にアロンダイトは爆ぜる。
巻き上がった水色の業火は僕を飲み込み、神秘的に揺らめいた。
一気呵成に僕の身体を飲み込んだ水炎は僕を燃料に荒ぶる火焔を生み出して空に昇っていく。
炎がすっかり落ち着いた頃、僕の体はティアマトと同期していた。
(アナタが最後の原罪ですね?)
(キミの力を貸してほしい、ティアマト!!)
(分かりました、王よ……仰せのままに……)
ティアマトの声が頭に響くとアロンダイトは僕を焼いていた炎を剣身に束ねて嘶いた。
(わたくしに燃やせぬ因果はありません!)
僕はアナを見た。
その視線に気が付いた彼女は神聖魔法を僕に付与する。
溢れる活力を魔力に変換して重ねたアロンダイトの切っ先から水炎が迸り、やがて弓を形成する。
片割れのアロンダイトを水炎で出来た弓に番え、片割れを地面に突き刺して僕は大きく矢を引き絞った。
水炎を通して見た世界は理を越え、射抜くべき先を捉える。
(あそこか!!)
(ええ、あの因果の鎖を縫い止めて下さい!)
もう一度、大きく深呼吸をして番えたアロンダイトを指先からゆっくりと離す。
(その因果、喰らわせていただきますッ!!)
静かに放たれた神性の剣は僕の手から離れると、爆炎を噴き上げ、超音速で空間を切り裂いた。
(二千と数余の間、耐え忍んだ甲斐があったというものです!!
――――ああ、我が王よ。
人の罪、業も欲も!! その夢を!!
しっかりと噛みしめるのですよッッ!!)
(行けっ!! 色欲の原罪!!
青のティアマト! その力を見せてくれ!!)
僕が彼女の呼びかけに答えると、燻った炎は坑道内で激しく燃え盛り食い荒らす。
「「御王、招来! 青に染まる暁の空ッッ!!」」
薄気味悪く口を開けた洞穴を美しく淡い青が照らし、まるで炉のように神秘的に揺らめいた。
艶やかな業火が火力を上げるほどに僕の心に黒い澱みが流れ込んでくる。
悪食な彼女の炎は人々の色欲を愛おしそうに舐め上げては丁寧に咀嚼した。
炉の中は、暁で灼けた赤色を粘つく優しい愛情で撫で回して青に染めていくような、そんな情景だった。
(なぜ、妬むのです? なぜ、憎むのです?
忘れなさい、私に溺れなさい。
ああ、その愛情こそがこの世で最も純粋で甘美な――ヒト本来が持つケモノの知性だというのに!!)
火が落ち着くとティアマトは言った。
(瘴気を燃やし、増殖の因果を灼きました。
わたくしに出来るのはここまでです)
(この結界はどれくらい持ちそうなんだ?)
(それはアナタ次第ですよ、我が王よ)
ティアマトの気配が消えると、坑道から漏れていた青い光も消えていた。
ハジメマシテ な コンニチハ!
高原 律月です。
竜の魔女85話になります!
今回は色々とごちゃまぜ回です。
ティアマトさんは出さない予定だったんですが、ティアマト無しだと絶対意味わからんなーと思って緊急出演です!!
ちなみにここで出てきたティアマトは、「ティアマト」という意識の残滓ですので、ロイ君に斬られて消えたティアマトさんとは若干違います。
これでロイ君は色欲を受け入れたので、次は強欲を受け入れる感じですね〜!
今はどこでヴリドラの戦乙女マリーを出そうかタイミングを悩んでます(笑)
工業を発展させようとしたら、思ったより学ばなきゃいけないことが多くて大変です。辻褄合わせしながら、どこを魔術で誤魔化すか考えてたらどんどん日にちが経ってました((´∀`*))ヶラヶラ
ぶっちゃけ、1から10全部を魔術頼みにしても良かったんですけどそうなるとコンセプトがズレてしまうので止めました(笑)
次話もいつになることか……
それでは、また次回〜 ノシ




