#80.森の中の鍛冶師
家の中に入ると鉄臭い匂いと煙の匂いが充満していた。鍛冶屋の工房らしく熱がこもってムワッとした空気が首すじに張り付いて、背中がじっとりと汗ばむ。
「ご友人、はじめまして。わしはスミスという、お主の名は?」
「失礼しました、僕はロイ・オックスフォードと言います」
ドワーフとはどんなものか、初めて出会う種族に色々と想像を働かせてみたがアテは外れて思わず呆けてしまった。
僕の半分ほどの背丈をした武骨な風貌に似つかわしくないほど紳士な男性と目線を合わせるように屈んで握手を交わす。
「まじまじと眺めてしまってごめんなさい」
「慣れておるのでな、大丈夫じゃよ」
「鍛冶師の工房を見るのも初めてで気になっちゃって……こんな風になってるんですね……」
「若いもんが見ても面白くなかろう?」
「ぼく、こういうの好きなんです」
「変わっとるな、おぬし」
スミスさんがニカッと笑うと歯並びのいい白い歯が蓄えた黒髭から覗いた。つぶらな瞳の目尻にしわを作る笑顔だけでも良い人だと分かる。
「それでご用件は何かな? 武具の製作かの? はたまた、包丁か鉈でも欲しいのかの?」
「しなやかで加工しやすい金属を探してるんです」
「そいつはまた変わった依頼じゃな」
スミスさんは椅子に溜まった埃を軽く払うと僕達に座るよう促しながら用件を尋ねた。
お茶を濁しても仕方ないので僕も単刀直入に答える。
「装飾品を作るのに加工しやすく、日常生活で使い込んでもそうそう壊れないような素材に心当たりはありませんか?」
「ふむ、なるほど。お嬢ちゃんが連れて来るだけあってお主は真っ直ぐじゃな!
下手に気を回されたり、おべっか使われたりするより気持ちがええわい!!」
「そう言われると照れますね……」
「わしは職人じゃからの、口下手でな。歯が浮くようなことを言われると困るんじゃよ」
「ロゼリアさんの剣を見れば、腕が確かのは分かりますからね」
「ほう、分かるのか?」
「デザインがカッコイイです!! 鎧も!!」
「おぬし、やはり男じゃなっ!!」
「はい! カッコイイ武器は正義です!」
もう一度がっちりと握手を交わしていると仲間の視線が背中に刺さる。
「もちろん、作りがしっかりしてるのも分かります。これは言うより見せた方が早いかもしれないですね」
僕は蒼穹連刃アロンダイトを顕現させて、スミスさんに手渡す。
「どこから取り出したのかを聞くのは後にして……お前さん、この業物は……」
「正直に言うと、僕は剣について詳しくはないです。だけど、このアロンダイトと打ち合って芯に響くような手応えを感じたその剣は確かな業物なんだと思います」
「この剣は一体どうやって作られとるじゃ……技法も素材もまったく検討がつかぬ……」
「ティアマトという英雄が使っていた武器です」
「ティアマト!? あの青の英雄ティアマトか!?」
「ご存知で?」
「こー見えてワシは1000年近く生きとるからの。今は名もなき英雄になってしまったが、ティアマトの名は知っておるぞ。
かの英雄は2000年以上前の人物ではないか……」
「ティアマトの愛剣を完全再現したのが、その二振りの剣です」
「どうやって入手したんじゃ?」
「説明すると長くなるんですが……」
僕は簡潔に英雄の話とこれまでの旅、現状の問題について説明した。
「……なるほどな、そういう事情か」
「ご協力いただけると助かります」
「ちと、この剣を調べさせてもらってもよいかの?」
「どうぞ!」
「この歳になっても知らないことがあるとワクワクするぞぃ!!」
スミスさんが手に取った蒼穹連刃を食い入るように見つめる。少しして、ハッとしたよう我に返ってヒゲを揉んだ。
「すまぬすまぬ、お茶の一つも出さずにおったわい! 長くなるから飲んで待っておくれ」
「いえ、そんな……」
「若いもんが遠慮するでない。確か、シュルーズベリーのお嬢ちゃんはナッツのカラメリゼが好きだったかのぉ……」
「うん、大好き!!」
「相変わらず甘いものになると食い付きがよいな。お前さん、人間の中じゃそれなりの歳じゃろ?」
「今年、二十歳になるね〜」
「成人の歳ではないか、もう少し慎み深くなりなさい」
ん、いま聞き流しがたい事実が聞こえたような……思わずもう一度聞いてしまった。
「え、ロゼリアさん幾つだって言いました?」
「二十歳です!」
「……え?」
「……はい?」
「歳下だと思ってた、ごめんなさい……」
「私より四つも上よ、ウソでしょ……」
「お2人とも何ですか、その反応!!」
「いや、何でもないです」
後ろで「年齢など飾りですわぁ……」とか、横から「年を気にするなど愚かなことです」などの声が聞こえる。
クリスは分かっていたけど実際のところリコはどれくらいなんだろう?と、疑問を投げかけた。
「そういえば、リコは幾つなの?」
「どちらで?」
「どちらって?」
「戦乙女カウントですか? 聖女カウントですか?」
声のトーンに若干の圧がこもる。これは後者で聞かないといけないやつだと流石の僕でもすぐさま理解した。
(あ、しまった……これは地雷だったな……)
気を取り直すように慌てて尋ねる。
「もちろん聖女カウントだよ!」
「でしたら、17歳ですね」
「僕より下か! そっか!!」
「リコ様、それはズルくありません?」
「……は?」
「聖女の年齢を出すのは卑怯ではありませんこと?」
「クリスティーナ、何が卑怯なのですか?」
「若見せするのはオバサンのやることですよ?」
「表に出なさい……首をはねて差し上げます……」
「隠蔽するおつもりですか? 必死ではありませんこと?」
「黙りなさい。どうであれアナタの年齢が一番高いのは揺るがぬ事実ですよ、クリスティーナさん?」
「急に敬称を付けて何をおっしゃってるんですか? リコリス・お・ね・え・さ・ま・?」
女性に年齢を尋ねてはいけない。本当にやってはいけない。
「ちょっと……アンタのせいよ……どうすんの……」
「どうすると言われても……」
アナが小声で僕の襟首を揺さぶる。そんなことをしていると、ロゼリアさんが勢い良く立ち上がり息を大きく吸った。
「お2人とも! 年齢がなんだというのです!!
クリス殿は気品溢れるほどにお美しく、リコ殿はあどけなさも残る美しさではありませんか!!!!」
「すげぇ、勇者だ。アホの子、怖い……」
「バカなの? この子?」
「私なんて未だにお城の侍女さん達から飴ちゃん握らされるんですよっ!! なんでですか!! 二十歳だというのに!! 部下からは砂糖菓子をもらうんですよ! 二十歳なのに!!」
こっちはこっちで別の方向で年齢を気にしてるんだな。割と切実な訴えかけだった。
「子供扱いされるのと淑女扱いされるの、どっちがいいですか!!」
いきり立つロゼリアさんの勢いに押されて、ケンカしていた二人が縮こまる。
「私は淑女になりたいんです! 聖騎士なんです! 先代のような大人の女性になるのです!!」
そーやって、体をバタバタさせて怒るから女児扱いされるのでは……と思いながらも黙っておいた。
「大人げないケンカをしてすみませんでした……」
「反省してますわ〜……」
二人がそう言いながら、プンスコするロゼリアさんの頭をナデナデする。
「分かればよいのですっ!! 仲良くしましょう!」
そして、なぜかすごく得意げなロゼリアさんだった。
ハジメマシテ な コンニチハ!!
高原律月です。
竜の魔女、79話です!
更新遅くなってしまい、ごめんなさい!
それでは、また次回〜 ノシ




