#53.攻略班
ゴブリンブッチャーとの激闘を越え、あれから数日が経過して四層目まで降りてきていた。
フロアボスらしき巨大猪が光に解けていくのを確認して仲間達と休息をとる。
「ダンジョンの戦い方というのが分かってきたな」
「次からいよいよ中層に突入ですよ。ここからは私も未知の部分が多いです」
「ああ、今まで以上に気を引き締めて行こう!」
エマもすっかりパーティに馴染み、今ではクリスと並んで戦闘補助までこなしてくれている。
「エマがいてくれて本当に助かるよ!!」
「これもお仕事ですので」
「ああ、それでもキミが居なくちゃダンジョンは攻略出来ないと思ってる!」
「そうですか。微力ながらアナタ方の力になれるように努めますよ」
彼女はカリカリと音を立てながらマッピングの清書を行い、出来上がった地図とメモ帳をバッグにしまう。
最近ではすっかり見慣れた一日の終わりの光景だ。
僕がその様子を眺めていると視線に気が付いたエマが怪訝な面持ちで僕を見やった。
「……なんですか?」
「いや、意味はないけど?」
「変な人ですね。見てて面白いものではないでしょう?」
「面白いよ、真剣に何かをしてる姿っていうのは惹かれる何かがあるよね!」
「アナタ、自分が何を言ってるか自覚はないんですか?」
「どゆこと?」
「終わりました、リコさん達を手伝ってきます」
エマが少し強めの語気と歩調で去っていく。
「なかなか、掴みどころがないなぁ……」
その後ろ姿を何となく見ているとアナに耳を引っ張られる。
ーーグイッ!!
「いてっ! いてて!!」
「野営準備をサボって口説いてるなんて、どーゆー神経してんのよ! アンタ!!」
「サボってないし! 口説いてもいないから!!」
「デレデレと見つめちゃって節操ないわねー!」
「誤解だって! サボってたんじゃなくてエマが真剣にマッピング作業してたからモンスターとかに気が付かないと危険だから見張りをしてたんだよぅ!!」
「この付近は安全地帯よ!」
「あ、それもそうだったな……」
「相変わらずマヌケねぇ、アンタって……」
食事を終えて、僕は今後の方針についてリコと話した。
「なあ、いったん街に戻るかい?」
「どうして?」
「食料が尽きてきたのが1つ。今のところはダンジョン内でも補えているけれど、ここから先も環境が同じとは限らないからさ。
エマがマッピングしてくれてるから一度出直してもここまではすんなり戻って来れるだろ?
もう1つの問題は、ここのとこ連戦だったから一度ちゃんとした休息を取った方がいいと思うんだ」
「そうですね。私達は体力にも余裕ありますが、アナさんはずっと私達の補助をしっぱなしですからね……口には出さないでしょうけど疲労の色は窺えます」
「だよなぁ……つい頼りがちになっちゃうけど僕達のパーティはアナ無しには回らないからなぁ……」
ここのとこ、アナが僕に絡んで来る回数が増えている。
長年の付き合いだから感覚で分かる指標なんだが、アナは精神的に疲れてたり体が参っていると僕にちょっかいを出してストレス発散する妙なクセみたいなものがある。
外で遊べないネコかよ……みたいな話ではあるが、事実だから放っておく訳にもいかない。
「よし、今日はゆっくり休んで明日は街に戻ろう!」
「そうですね」
翌朝、僕達は街に戻るためにダンジョンを出た。
日が暮れるより早く家について一安心する。
「久しぶりの我が家だぁあ!!」
「家というほど馴染みもありませんけどね……」
「ジル、そういうこと言うのは駄目だぞ! こういうのは気持ちが大事なんだ!!」
僕達が不在の間もエルフの人が欠かさず手入れしてくれていたんだろう。
小綺麗なリビングにあるフカフカのソファに体を投げ出して大きく息をした。
「にゃー、生き返るぅー」
「アナさんも順応が早いですね……」
「んにゃあ、だって自分んちだしぃ〜」
「さいですか……」
ジルが手で顔を覆いながら隅っこに座り込む。
「ジル、そんな端っこでいいのか?」
「いいんです、ここが落ち着きます……」
「変わってるなぁー」
リコはというと、アナをひざ枕してじゃれていた。
「アナさん、ほっぺがふにふにですねぇー」
「やめてぇ〜、くすぐったいよぉ〜」
「髪の毛もサラサラですねー」
「にゃあああ……リコさん好きぃ〜……」
「きゃあああ! 天使っ!!……むにむにっ」
あまりに緩い空気にまぶたが重くなる。
気が付くと、少しだけ寝てしまったようだ。
リコもアナもジルも寝息を立てている。
「ふぅ、ちょっと寝たら疲れが飛んだな……」
エルフのお姉さんに声を掛ける。
「あの……」
「はい、なんでしょうか?」
「クリスとエマは?」
「クリスティーナ様はご帰還されてから御公務に精を出しております。
エマ様はギルドに進捗報告に行かれました」
「公務……?」
「ええ。ここは一応エルフ族の大使館的な意味合いも含んでおりますので、ご不在の間に溜まった書類の整理や各商会との取り引きの商談などを調整したりしております」
「え、そんなのあったの!?」
「はい、先ほども近場の商会へ挨拶に行かれましたよ。帰りは役所によって申請書類を提出してくるので遅くなると申し付けていかれました。
不在の間は私の兄が代わりに行なっているのですが、やはり帰還した際はちゃんと挨拶をしておきたいと……」
「なんだが申し訳ないな、それは」
「体裁上の代表はクリスティーナ様ですからね。お気に病むことはないかと?」
「でも……」
「彼女は幼き頃からこのようにエルフが開けた環境で生きていくことを夢として語っておりましたからね。
好きでやってることですのでロイ様が放っておいても勝手にやってたと思いますよ?
むしろ、足がかりを作って下さって私を含めクリスティーナ様も私の兄も感謝しております」
「ミレーユさん、その話を詳しく聞かせてもらってもいいですか?」
「ええ。私とクリスティーナ様は幼なじみでして、兄は幼少よりクリスティーナ様の護衛として親衛隊で剣の研鑽に励んでおりました。
私達は歳が近く、兄妹のように過ごしてまいりました……ククルカンが侵攻を開始して平和を壊すまでは…………」
「ククルカンとの戦いの話って僕はあまり聞いてないんだよね」
「5年前に起きたククルカン第一次侵攻の際、我らエルフ族も含めて精霊種は半数近くを壊滅させられて多くの部族が住処を焼き討ちにされて追われました。
我が里も先代長と精鋭部隊が決死の抵抗戦を敷くことで命からがら逃げ帰ってきたといった有り様でした。
第一次侵攻の時に出陣されたクリスティーナ様のご兄弟もクリスティーナ様の退路を作る為に舞台を率いて討ち死になされたと聞き及んでおります。その部隊の中にはクリスティーナ様の婚約者もおられました」
「……なるほど」
「ですが、生き残ったクリスティーナ様が一番辛かったかもしれませんね。
齢18になろうかという少女の肩にのしかかった重責は途方もないものでした。
種族長としてエルフ族の保護に奔走し、ククルカンの侵攻をせき止める為に戦場を駆け、死んだ仲間の悲しみを背負い、泣くことも逃げ出すことも許されずに一族の行く末をその肩に乗せて火の海を越えてきたのです。
それを横で見てきた私の兄は自身の不甲斐無さを何度も私に吐き出していました」
「…………」
「私は二人の姿を見て、いずれ終息するこの戦火を乗り越えた先にあるクリスティーナ様の夢を支えられる日が来ることを半ば一縷の希望に縋るよう、交易学や商業学を学び、アナタ方人間の文化や歴史も学んでまいりました。
転機が訪れたのは、半年ほど前です。
ティアマト様達が里を訪れ、貴方を探し出すようにクリスティーナ様に命じられたのです。
内心、私はホッとしましたよ。
クリスティーナ様の心身は限界でしたからね。遠目から見ても分かるほど神経をすり減らして亡者のように歩く姿はお労しいものでした。
この勅命を期に、少しでもエルフ族のことを忘れて本来の明るさを取り戻して欲しかった。
そして、彼女とアナタ達は巡り合い……今があるという訳です」
エルフ族の壮絶な歴史に僕は言葉を失った。
「ですから、あの日々に比べたら今はとても楽しいものです。
クリスが心の底から笑って、兄が呆れながらも楽しそうに日々を話してくれる今をくれたのは紛れもなく貴方です、ロイ様。
私達の歩んできた道のりからしたら、今くらいのことは苦労のうちに入りませんよ」
ミレーユさんがにこりと微笑んで会釈した。
「では、夕飯の支度をして参りますのでごゆっくりとなさって下さい。
今日はご馳走を用意しておりますので」
「お話、ありがとうございました」
「いえいえ、クリスティーナ様の過去を私が明かしてしまったことはナイショですよ?
ああ見えて見栄っ張りだから……クスクス……」
「見栄っ張りなのは知ってます」
しばらくすると食欲を誘う匂いが鼻をくすぐり、ヨダレを垂らしたアナがむくりと起きる。
「んぁ……おはよぉ〜……」
「おはよう、アナ」
「すっごくいい匂いがする〜」
「アナ、ヨダレ……」
「ふえっ!?」
彼女が慌てて服の袖でヨダレを拭った。
「リコ、ジル。キミ達は起きていたんだろう?」
「さあ、なんのことやら?」
「私はいま起きたところですよ……」
「今日はご馳走だってさ!」
「とても……とても、楽しみですね!」
「ですね……」
いつも無表情な二人がクールに笑った。
ハジメマシテ な コンニチハ ∫(っ'ヮ'c)
高原律月ですっ。
竜の魔女53話です!
ちょっと小休止回です。
定期的にコメディしないと疲れますね((´∀`*))ヶラヶラ
まあ、この辺のことはRPGやってると疑問に思う部分でもあったのでやりたかったというのもあります!
ノンストップでダンジョン攻略してボスまで辿り着くって無理くね?と思ってて(笑)
実際にゲームとかでも1度戻って再突入とかしたりもするので、それにストーリーを持たせた感じで理解してもらえればと思います!
それでは、また次回〜 ノシ




