#3.暖炉でくすぶる小さな火
家に帰ると幼なじみのアナに耳をつねられる。
「誰よ! このひとっ!!」
「イテテテテ……落ち着けって!」
青い髪の少女、リコリスを成り行きで家まで連れてきたのだが、凶暴な幼なじみの存在をうっかり忘れてしまっていたことで痛い目に遭う。
「どこでこんなキレイな人を口説いてきたってゆーのよ!!」
ギリギリと耳を絞りあげられる。
「いだいっ! いだいっ!」
「信じらんないっ! 認められません!」
「話すから! 耳から手を離してくれ!」
「ちゃんと納得できるように話してよね!!」
「はぁ……いつつ……」
ようやく解放された耳を半泣きで撫でる。
「この子はリコリス。森でハウンドの群れに追われてるとこを助けたんだ」
「えっ!? ハウンドの群れを追い払ったの!?」
「追い払ったていうか、全滅させた」
「は……? ウソでしょ!?」
「それで、リコリス。
この子はアナスタシア。僕の幼なじみだ」
「よろしくお願いしますね、アナスタシアさん」
「アナでいいわよ、リコさん」
一通りの紹介を終え、ポケットから戦利品の入った袋を取り出す。
この世界では魔物が死ぬとその場に由縁のあるアイテムだけが残る。死体は残らないというのが常識なので誰も気に留めることがない。
たまに気になる時もあるが気にしたところで理屈が分からないので気にしないことにする。
ドロップアイテムの入った袋をひっくり返すと、机に爪や牙がガラガラと散らばる。
その中に異質で半透明な黒い玉があった。そいつは怪しく光って机の上をコロコロと転げる。
「ん? なにこれ?」
アナがその黒いガラス玉のようなものを摘み上げる。
「それ、僕にも分からないんだ。ハウンドが落としたんだけど見たこともないアイテムなんだよねぇー」
「ふむぅ、なんだろ〜?」
アナが光に透かしながら不思議そうな顔で玉を見つめる。家の中を眺めていたリコがアナの摘んだ黒いガラス玉を見た瞬間、目を丸くして大げさに驚いてみせた。
「そ、それは!!」
「リコさん、これがなにか知ってるの?」
「ええ、ハウンドたちの怨念で出来た呪物です」
「ひぃ……!?」
リコの言葉を聞いたアナが黒い玉を慌てて放り投げる。
「なんて、脅かしすぎましたね」
彼女は放り投げられたガラス玉を手に取り、僕に握らせて言った。
「ごく稀に魔物の中に特別な力を持った個体が生まれます。その魔物は種族の力を依り代にしてそのような宝珠を宿すのです。
この宝珠の力は絶大で種族の力を越えた能力を宿主に与えます」
「そういえば、1匹だけ色が微妙に違っててひと回りくらい大きかったような?」
「その力は名のある竜種に匹敵するとも言われています」
「ウソだろ?」
彼女は紅茶をすすりながら淡白に説明したが、さらりと出たその言葉に思わず戸惑った。
「種族の象徴ともいえる存在ですので、それくらいはさも有りなんと言ったところでしょうか」
「その割にはやけにあっさりと倒せたけど!?」
「ええ、マスターが串刺しにした個体がそうですね。
いくら武器を持ち合わせていないとはいえ、戦乙女である私がハウンドの群れくらいに遅れを取るとでも?」
「言われてみれば、確かに」
「まあ、現世にやって来ることで権能が剥がれ落ちて身体能力などが著しく低下しているというのもありますが……」
リコと僕が会話をしていると、アナが声を荒らげる。
「ねぇ! なんの話をしてるかサッパリなんだけど!」
「落ち着いてくれ、大きい声は苦手なんだよ」
話が読めないアナは憤慨して僕に詰め寄ってくる。
いちいちオーバーアクションをする直情型な幼なじみのけたたましい声に眉をひそめていると、リコが飲み終えたカップを静かに置く。
「マスターは理に選ばれた英雄なのです」
「マスター!? 英雄っ!?」
「まもなくこの世界に災厄が訪れます。原罪たちが終末の角笛を鳴らしたのです。
戦乙女である私はマスターを守るために主に遣わされ、人の身になりました」
リコがそう言うと、アナが口をパクパクとさせて僕を見る。
飛躍した話だが事実は事実である。
逆の立場だったら僕も同じ反応をしたかもしれない。
「この人! あたま、おかしーよ!」
「リコは英雄の守り人らしいよ?」
「は? 新手の宗教勧誘かなんかじゃないの!?」
「参ったな……説明するのが難しいぞ……」
僕は困り果てて頭をかく。
向かいに座ったリコがすまし顔で言った。
「マスター、右肩に英雄の証があるハズです」
「そうなのか」
彼女の言葉を信じて上着を脱いでみる。確かに痣のような何かがある。
「昨日までなかった気がするんだけど?」
「私と会って、あの日の夢を思い出すことで発現されたのかと」
「なるほどなー」
どういう紋様なのか、自分の角度からだとよく分からず首や肩を動かしてるとリコは言った。
「クー……猟犬あるいは狼です」
「狼なのか、これ。そう言われるとそう見えなくもないなー」
納得したところで、森で剣を出現させた時と同じように念じてみた。その剣はどこからともなく形を作り、僕の手の中に収まる。
現れた剣をじっくりと眺めてみる。立派というか美しいというか、ろくに剣を見たことない僕でも分かるくらいの特別な何かを感じた。
光に当てるよう角度を変えると、薄づきの青色を帯びた剣はどことなく自ら発光しているようにも見えた。
「この剣は?」
「神剣クラウスです、決して折れることなく万物全てを断つことが出来ると言われております」
「ちょっと待ってよ!」
アナが大仰に驚いて僕達の会話に割り込む。
「その剣、どこから出したの!?」
「ん? ああ、イメージすると出てくるんだ」
「そんな魔法、見たことも聞いたこともないわよ!
何も無いところから何かが現れるなんてこの世の法則を無視してるわよ!?」
「魔法とか魔術ってそういうもんじゃないの?」
「なに言ってんのよ!! 魔術は等価交換が原則よ!
無から有は生み出せないっ!!」
「知らないよ! そんな難しい話!!
出てこ〜いって念じると出てくるんだからさー!」
彼女は興奮気味に僕の横でがなり立てる。思わず耳を塞ぎ、冷めた目でそちらを見やった。
リコがとつとつと僕の代わりに説明する。
「魔法というよりは、この剣自体が概念で構成されています」
「僕が考えた最強の武器的な?」
「ええ、人々のイメージが具現化した象徴と捉えていただければと思います。
マスターの力は願いの具現化……イメージしたものを形にすることが出来るということです」
「なるほどね。僕が"武器が欲しい"と願ったからその願いを叶える為に無作為抽出された武器が人々にとって最も信頼できる武器――……それが最強の武器であるこの剣だったってわけだ?」
「おおむね、そんなところです。
願いの結晶である魔石には色ごとに異なる能力もあります。
人々の願いで出来た魔石は事象や因果すらも捻じ曲げて、あらゆる願いを具現化させるのです」
話の最中、これまたアナが横から口を挟む。
「有り得ないわ! そんなの神の御業じゃない!!」
「アナさん、マスターに宿る魔石もその神も人々の意識が生み出すものですよ。
人理の管理者たる私たち戦乙女もあなた方が作り出した偶像です。
もっと言ってしまえば、世界とは人々の無意識が生み出したものなんですよ?」
「世界は質量を持ってるわ! 虚構なんかじゃない!」
「世界は認識で変わります。アナタの見てる世界とマスターの見ている世界、果たして本当に同じなのでしょうか?
そも、アナタの論理で話すなら魔術や魔法など人にとって都合のいい現象が存在していること自体が矛盾でしょう?」
「あー、釈然としないわね!!」
「神は、父は存在します。人々がその存在を願う限り確かにそこにいるのです」
二人のどうでもいいような問答を聞き流して外に出る。
「てことは……」
あることを思い付いた僕は握ったクラウスを振りまわす。
――――ブォンッッ!!
勢い良く振り払われた神剣の切っ先から青い炎柱が立ち、荒々しい豪炎が天を衝く。
高揚してなのか、妙に心臓が跳ね上がり、疲れにも似た感覚を覚える。
「なな……なにこれぇ〜……」
その光景を見たアナが腰を抜かしてへたり込む。
「あの夢の中で出てきた炎をイメージしながら剣を振ってみたら、どうなるかな?って思ってさ」
「いみわかんなーい!! めちゃくちゃよ!」
幼なじみのそんな叫びに答えるかのよう、リコが補足を入れる。
「マスターの力はあらゆる物を創造することが出来るのです」
「なるほど」
僕が頷くと彼女は言葉を続けた。
「ですが、それは人々の思念や概念に則った形で発現します。使い方を間違えることの無きようお願いします」
「僕が具体的にイメージしないと、か……」
「そうですね。例えばですが、金を創造しようとすれば金を生み出すことも出来ます。それと同時に金に纏わりつく卑しい側面も生み出すことになるでしょう」
用を終えた神性な力の具現は光の粒となり跡形もなく消え去った。
たぶん、イメージから出来たこれらは僕がイメージしなくなったことで形を維持することが出来ず、崩壊するようにして消えたのだろう。
クラウスの行方を想起しながら、ある違和感について尋ねた。
「心なしかあの夢の時のキミとは雰囲気が違うね」
「そうですか?」
「うん。もう少し大人っぽかったような?」
「ああ、なるほど」
彼女は得心したように相づちを打つ。
「肉体を得る時にマスターの年齢に近い状態になったようです、肉体と精神がマスターと同期していますので」
「なるほどね?」
彼女がわざとらしく説明不足な言い様をする。僕は半分無理やり納得するように頷き、その話は終わらせることにした。
(マスター、聞こえますか?)
何の予兆も無しに突然と耳の奥からリコの呟くような声が聞こえる。
まるで耳元で囁かれたかのような声に驚き、思わず耳をおさえた。
目の前に立つ少女は口を開かず、喋っていた気配もなかったはずだ。
「えっ……? なんだ、これ……?」
「なに? 今度はどうしたのよ?」
横でアナが不思議そうに首を傾げた。僕も不可思議な現象に動揺する。
(よかった、精神同調は問題ないようですね。こちらはどんなに離れていても私の姿を念じて心の中で話しかけてくだされば、私と会話することが可能です)
彼女の説明を聞き、試しに返事をしてみる。
(ああ、そういうことか。
試してみたんだけど聞こえるかい?)
(大丈夫です、問題なく聞こえてます。
それと、あまり使い道もないですが視覚の共有も可能です)
リコと見つめ合うかのようにして精神同調による会話をしていると、むくれた幼なじみが僕のことを揺さぶって視界がカクカクと揺れる。
「ねえ、ちょっとぉー! 2人ともどうして急に黙り込むのよー!!」
「あ、ごめんごめん。どうやらリコとは喋らないでも会話できるらしくて試してみたんだ」
「それ、禁止!! ダメ、絶対っ!」
「なんで?」
「ダメなものはダメなのー!」
「えぇ……」
アナがほほを膨らませて肩をいからせる。意味が分からず返事に困っていると、リコがくすりと笑った。
「マスター、乙女心とは複雑なものなんですよ?」
「ちょっ、なに言ってるの!! 変なこと言わないで! リコさん、嫌い!」
アナがリコの言葉にアワアワとしながら僕を見た。視線の意味が分からず、ただ首を傾げる。
リコは慎ましく微笑みながら口元を押さえた。
「あら、嫌われてしまいましたね」
「ふんっ!」
からかわれたアナが不貞腐れたようにそっぽを向いて僕の後ろに隠れる。子供じみた行動を取る幼なじみを呆れつつ、リコの目を見た。
「とにかく、だ……僕は何に選ばれたんだ? そして何をすればいいんだ?」
「神々の紛争による大災厄――、400年前にもあった災禍がいま再びこの世界で起きようとしています。
夢想と世界の境界線は曖昧となり、アナタは人理によって選ばれたというわけです。
ある意味、この世でもっとも不幸を背負った人間と言えるでしょう」
「不幸、か……そうだね……」
「アナタには原罪から人々を救う義務があります。
戦乙女である私がアナタをサポートします。
共に世界を救いましょう! マスター!!」
「なるほどねー」
彼女の言う不幸とは、何なのか。
恐らく――…いやきっと、魔石が願いを叶える力という時点で僕は理解した。
過ぎた力を無条件で与えられるはずなんてない。
―――だって、この世はすべて等価交換なのだから。
力を手に入れる代償として、僕は戦わなくちゃいけない。そこに僕の意志や感情が介在する余地もなく、運命として戦う必要があるんだと感じた。
まあ、元より世界が滅ぶなんて聞いたら戦わなきゃいられないんだろうな……と、心の奥底で覚悟を決める。
「原罪ってのは、どういうヤツらなんだ?」
「彼らは全部で七人。それぞれが強大な力を持ち、魔物達を種族ごとに統率しております。
マスターの力が世界を正しく導く為にある力だとすれば、彼らの力は世界を滅ぼす為の力と言えます。
先ほど話したマスターの力と対を成すよう、卑しい負の側面を具現化させて力を暴走させています。
彼らと戦い、彼らの持つ穢れを浄化し、世界に巣食う澱を祓う使命がアナタにはあるということです」
とてつもなく壮大な話になってきたな……と、頭をかきながらため息混じりに最後の質問をぶつけた。
「キミ達は結局なんなんだ?」
「と言いますと?」
「戦乙女ってのはどういう存在なんだ?」
「私達は英雄をサポートする為に―――あるいは、英雄を戦場という地獄に叩き落とす為、父より遣わされた天使か何かだと考えていただければ、と思います。
まあ、戦場を駆けるのが私達の領分ですので大体の戦乙女は気性が荒く好戦的な性格をしていたりはしますね。
そして、私は最後の戦乙女になります。
最後の英雄であるアナタと運命を共にする為、私は存在しているのです」
「運命ね……」
「この闘争は人の歴史が始まった時より世界に穢れが満ちる度に繰り返され、我が妹達は戦禍の中に散っていきました。
その時代に選ばれた英雄と運命を共にし、その役目を全うしたのです。
アナタだって英雄ファフニールの話くらいは知っているでしょう?
彼はアナタの一代前の英雄ですよ」
「ごめん、その話ってまったく知らないんだ」
「知らないなら教えておきます。
英雄ファフニールの首をはねたのは、この私です。
私は世界の観測者として、歴代の英雄達と共に世界を見守っていました。
その中で私はあの人と情を通わせてしまったのですが、彼は最終的に私ではなく守り人である妹のアイリスを選びました。
ですので、私は彼の首をはねました。
世界を救った英雄ファフニールを殺し、竜の魔女と恐れられる戦乙女は私です」
青髪の魔女は淡々と冷徹に、まるで色のない声で語った。そこに思い入れも感情もなく、他人事のように話す横顔は果てのない先を見るかのようだった。きっと僕達には分からない覚悟がそこにはあったのだろう。
一見して悪逆でしかないその行為も当事者達にしか分からない何かがあるのかもしれない。
「おや? 二人とも私を畏れないのですね?」
言い終えたリコが訝しがるように首を傾げた。
「人の話なんてアテにならないからなぁー」
僕がそう言うと、幼なじみも頷きながら答えた。
「そもそも私はアナタが戦乙女ってこと自体を信じてないもの。
そんなの、妄言としか思えないわー」
リコはほんの少しだけ口角を上げる。
彼女は呆れたようにため息を吐き出したが、ホッと胸を撫で下ろしたようにも見えた。
彼女が飾り気のない銀の指輪を取り出し、はめられた青い石が僕の手のひらの中で光る。
「これは?」
「私たちの契りの証です。私はすでに付けておりますのでマスターも付けていただければ、と」
そう言って、彼女は左手の薬指に付けた赤い石の指輪を見せる。
「だ、だめえぇぇえええ!!!!」
アナが慌てたように叫ぶ。
「え、なんで?」
「なんでもこうもないよっ! ダメなの!!」
「おやおや、まあまあ?」
アナが顔を真っ赤にして怒るとリコが微笑を零す。
僕は横でやかましく騒ぐ幼なじみを無視して右手に指輪をはめる。指輪はピッタリと僕の指に収まった。
「なんでそこに付けるのよっ! なに考えてんのよ、もう……ばかぁああ!!」
「へえ、すごいな! ピッタリだ!!」
「ばか、ばか、ばかっ!!」
「別にいいじゃないか、彼女がそこに付けてるってことはなにかしら薬指じゃないといけない理由があるんだろ?」
「そもそもだよ! こんな怪しい話を真に受けるなんてどうかしてるよ!!」
怒り狂ったアナがそう言うと、リコが少し考え込むようにアゴに手を添える。
「そう、ですねぇ……」
彼女はおもむろに僕の方へ寄ってくると、顔を近づけた。
「リ、リコっ!?」
「なあっ!!?」
青い髪から甘い香りを漂わせた彼女が吐息のかかる距離まで寄ってくる。
赤くて柔らかい口が僕の口に触れると、青い指輪と赤い指輪に火が灯る。
「これで、契約成立です」
彼女がいたずらっぽく挑発的な笑いをアナに向ける。突然の出来事に幼なじみは目を丸くしていた。
硬直するアナをよそに彼女は少し離れて右手を振りかざす。
「出てよっ! 我が権能!!」
彼女が叫ぶと、細身の黒い剣と白い翼が現れる。リコの得意げな顔が驚くアナの目に写った。
「うそ! 本当に御使いなの?」
「こんなことも出来ますよ?」
リコのかざした左手から黒焔が吹き出して空を舞う。生きているように自在な動きをする黒焔の舞はとても美しかった。
「これでいかがでしょうか?」
「わかりました、認めますよ!」
「まあ、マスターとキスする必要はなかったんですけどね。指輪をはめた時点で繋がってたので」
「じゃあ、なんでしたのさ!!」
「イジワルしたくなっちゃったんですよ」
「いい性格ね!」
彼女たちの会話を聞きながら、急に息切れとめまいに襲われる。
「はぁ……はぁ……なんだ、これ……?」
僕は立つことも困難になり、その場に座り込む。
「大きすぎる力に器がついていけてないようですね、力を使うには基礎体力と精神力が必要になります」
「どうして、急に?」
「私が権能を行使したからです。アナタ自身も力を行使すれば同じように消耗しますが、私の権能は更に神域に踏み込むことになるので、より消耗が激しくなるのです」
「先に言ってくれよぉー」
「少しすれば治まりますよ」
疲労感と倦怠感に視界がグラグラとする。アナが申し訳なさそうに僕の背中をさすった。
「ごめん、私が証拠を見せろって言ったから……」
「まったくだよぉ!」
そんな様子を見て、リコがクスリと笑いながら言った。
「他にも色々できますが、試してみますか?」
「もっと鍛えてからにしときます!! こんなの、体が持ちません!」
飛びそうな意識の中でリコに尋ねる。
「これからどうするんだ?」
「七人の原罪たちを止める必要があるかと思います」
「ふむふむ、やっぱそうなるかぁー」
ようやく整い始めた息を吐き出す。
「まあ、やるしかないか」
「ええ。マスターならきっと大丈夫です!」
「根拠のない励ましだな、そいつは」
「ありますよ。だって、私の伴侶なのですから」
「はぁああぁ!?」
「うわっ!? いきなり大声出すなよ、アナ!」
僕の横でアナがものすごい声を張りあげる。
「アンタ、意味わかってんの?」
「それくらいは僕だって分かるよ!」
「だったら否定くらいしなさいよ!! バカ!」
「そういうのをいちいち突っ込んでたら面倒くさいじゃん?」
「このあんぽんたん! おバカ!!」
「わかったわかった、僕が悪かったって」
わーわーわめく幼なじみをなだめていると、リコが西の方角をジッと見つめる。
「湿った空気を感じますね……」
彼女は眉をひそめて険しい顔を作りながら呟いた。そんな様子に思わず声をかける。
「どうしたんだ?」
「分かりません、ただ妙に胸騒ぎがするのです」
彼女は西の方向に歩き出し、こう告げる。
「マスター、私は加護を展開してきます。極力、お体に負担はかけないように致しますが、少し権能を使わせていただきますので待機なさっていてください」
リコは振り向くこともなく、そのまま夕暮れに染まる道を歩いていった。
ハジメマシテ と コンニチハ!
高原律月です。
竜の魔女第3話の更新です!