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#14.晴れた空にかかる虹


 しばらく小屋でのんびりしていると村の人達が僕の快気祝いも含めてお祭りをしたいと訪ねてきた。


「こういう気持ちは素直に受け取るものですよ」


 リコがそう言うので、ありがたくその話を受ける。

 祭りまで時間を持て余した僕はその辺を散策することにした。


「ちょっと村の様子を見てくるよ」

「いってらしゃ〜い」

「病み上がりですので無理はなさらない程度に」


 彼女達は難しそうな顔で討論しながら、僕の言葉に相槌を打った。


「ふぅ……」


 一人になって詰まった息を抜く。


「二人の話は難しすぎて息が詰まるなー」


 頭を掻きながら独り言を呟いた。

 特に目的もなく村の中を歩き回って、建物がまばらになってきた村の端までやってくる。

 人の背くらいの高さに組まれたバリケードを見ながら、改めて自分の村の平和さが身に染みた。


「普通は魔物対策で村の周囲に塀や壁が築かれてるものなのか……」


 僕は窮屈に見えるソレを眺めながら1人ごちた。


「魔物だけではありませんよ?」


 不意に聞こえた声に驚いて振り向く。


「あ、どうも」

「お散歩ですか?」


 先ほどのオババ様のところにいた女性が立っていた。


「今のって?」

「襲ってくるのは魔物だけでないですから。野盗や他国から攻められたら自衛せねばなりませんからねー」

「そんなこともあるんですか!?」

「野盗はごくたまに……」


 女性は涼しげに笑うが笑えない話である。


「結局のところ、人が一番厄介かもしれませんね〜」

「僕の村はホントにのどかなところだったんですね」

「まあ、生まれは選べるものではありませんからね」


 彼女は優しげな顔立ちをことさら緩めてそう言った。

 返す言葉を探していると、どこからかなにかを叩くような音が聞こえてくる。


 ーーコンッ……コンッ……。


「ん、なんの音だ?」


 僕は音につられて、聞こえてくる方角に自然と足が向いていた。


「あれは……」


 僕が音の出処を覗き込むとジルが吊るされた的に剣を打ち込んでいた。キリッとした横顔を汗が伝って頬から垂れ落ちると彼は膝に手をつき上がった息を整えるように肩を上下させる。


「私の用事はこれです」


「というと?」


「無理しすぎてないか、時おり様子を見に来ているのです。あの子、放っておくと一日中ああやって打ち込みしてるんですよー」


「なぜ、1人で?」


「とっつきにくいでしょう? 実は本人が一番気にしているんです……それにあの子と打ち合える相手がこの村だと大人でも居ないんですよ〜」


「へぇ、そんなに……」


 しばらく様子を伺っていると向こう側からリコがやって来る。


「ん、リコ?」


「ここのところは彼女に手合わせをお願いしてるみたいなんです。初日にこぴっどく打ち負かされたことを悔しがってました」


「そうなんですか」


「正直なところをもうしますと、あの晩にアナタ達が手酷い傷を負って戻ってきた時に私は安心してしまったんです」


「なぜ?」


「あの子があんな目に遭わずに済んだことに安堵してしまったんです、酷い女でしょう?」


「誰だって親しい人が傷付くよりは見知らぬ人間が傷付く方がいいに決まってます、そういうものでしょう?」


 僕達がそんな会話をしているうちに彼らは木剣を構えて張り詰めた空気が流れる。

 夏のじめっとした風が吹き抜けると、ジルの黒い髪を吹き上げた。


「ーーたあああああっ!!」


 彼が勢いよく打ち込み、それをリコが事もなげに握った木剣で受け止める。押し込むようにジルが更に強く踏み込むと堪らずにリコが飛び退く。


「くっ……」

「まだまだぁ!」


 ジルは彼女が下がったとこを狙い澄ましたように木剣を振りあげる。振り払われた木剣がリコの髪を掠めると、彼女はくるりと長い髪を巻き上げ、とてつもない速度で剣を払った。


 ーーカンッ!!


 彼はそれをなんとか受け止めていなした。


「すごい、あの振り払いを受け止めるなんて……」


 斬撃をいなすと晒された上体に向けて、ジルが両手を強く握り大きく右足を踏み込む。

 捻られた体からリコの目線に対して直線上に刺突が繰り出されるとリコは距離を測りかねるようにもたつく。


「もらったあああああ!!」


 彼が渾身の一撃を放ち、初対面の印象とは違った激しい感情を覗かせる。

 そんなジルを見ながら、リコはクスリと口角を持ち上げた。


「……クスッ」


 微笑を浮かべた彼女は柔らかな肢体を柳のようにしならせて彼の突きを避ける。


「まだまだ甘いですね」


 リコは体を仰け反らせたまま、つま先でジルの手を蹴り上げて彼の剣を叩き落とす。


「くぅ!?」


 彼が痛苦で右手首を押さえていると彼女は容赦なく足払いで蹴倒して木剣を振り上げた。


「おや? 命のやり取りはまだ終わってませんよ?」


 横顔から覗くリコの目はハウンドを蹴散らしていたあの時と同じ冷たく鋭いものだった。


「くたばりなさい、小兵が……」


 振り下ろされた斬撃は速度を緩めることなく、ジルの顔を急襲する。

 僕が止めようと半身を乗り出すと横の女性がそれを制止した。


 ーーブンっっ!!


 彼女の斬撃はジルの薄皮1枚のところでピタリと止まり、なにを言うもなくリコは木剣を引っ込める。

 リコが立ち去ると、ジルはとても悔しそうに地面を叩いた。


「あー見えて、とても負けず嫌いなんです」

「みたいですね」

「姉としてはあの子が無茶をしないか、いつもヒヤヒヤしてますが」

「まあ、今の感じを見てると分かる気がします」


 僕たちは彼に気取られないうちにその場を後にした。


「しかし、毎日やってるのに進歩がありませんねー」

「リコの剣に反射するだけでも凄すぎますけどね」

「そうなんですか?」

「僕だったら勝負すらしてもらえないでしょうね」

「それは複雑ですね。私としてはあーいうのは早くやめてもらいたいのですが……」

「心配なんですね」


 僕がそう言うと複雑そうな心境が窺い知れそうな面持ちで彼女は笑顔を作った。


 日が暮れ、また夕蝉の鳴き声が聞こえる。

 のどかな村の雰囲気が次第に色めき立ってきた。


 とつとつと村のあちこちに明かりが灯り始め、決して大人数とは言えないが広場は人で賑わっていた。


「はぇー、すごいねー」

「実はこの日の為にかなり準備されてたようですよ」

「とても1日で準備できる規模じゃないもんね」


 オババ様たちは僕達の姿を認めると、こちらへやってきた。


「改めて御礼もうしあげます、この度は我々のために尽力して下さり大変ありがとうございました」


 ジルの父親である男性がそう言って頭を下げると、集まった皆さんで深々と頭を下げた。


「いえ、そこまでするほどのことじゃ……」

「ロイ殿のお陰で困窮した我が村は救われたのです」


 彼らの眼差しに、そよ風で揺れるカーテンに背中を撫ぜられたようで落ち着かなかった。


「……と、堅苦しい挨拶はここまでにいたしましょう」


 男性がにんまりと破顔し、ジルの姉から飲み物の注がれたコップを手渡される。


「みなのもの、英雄殿に乾杯だー!」


「「かんぱぁーい!!」」


 どんちゃん騒ぎが始まり、みんなで片田舎の村とは思えないような豪奢な料理にかじりつく。


「ロイ殿、今までのうさを晴らす口実にアナタを使ってしまい申し訳ありません」


 騒ぎの中で村の代表格であるジルの父に話しかけられる。


「みな、不安だったんですよ……魔物の襲撃がいつまで続くのか、我々はあの群れにいずれ食い尽くされるのかと毎日を怯えて過ごしていたのです」


「いいんですよ、こういうのは僕も好きなんで」


「かたじけない」


 僕はふと、騒ぎの端にいる顔見知りに気が付く。


「ん?」

「あやつも来ていたのですな」


 男性が振り向くと、ジルが物陰に隠れるようにして騒ぎの様子をうかがっていた。


「こーいうのは毛嫌いするタイプかと思ってました」

「ははっ、あー見えて村のことが好きなんですよ」

「そうなんですね」


 初対面のジルはどこか冷めたような表情が印象的だったが、この数時間でだいぶ印象が変わってきた。


 僕は喧騒に酔いながら、賑やかな情景をしばし呆然と眺める。不意に人の気配を感じて慌てて意識を戻して横を向いた。


「ん、あれ?」


 確かに気配を感じて横を向いたのに誰も居なかった。


「ンバッ!!!」

「ひぃやぁあああ!!」


 すると、急に聞こえた声に思わず変な声が出る。横に向けた顔の目線を下に向けるとオババ様が立っていた。


「オババ様〜……」


 追いかけてきたようにジルの姉もやって来る。


「オババ様は案外お達者なんですぅ〜……」


 息を急き切りながら、彼女が続けて言った。


「お祭りが始まってからずっとあちこち行ったり来たりしてて……はぁ……はぁ……」

「大変ですね」


 相槌を打ちながらも頬を緩めずにはいられなかった。

 オババ様が何かを言いたげに短い手を振り回す。


「ええっと……これは?」


「はぁ……はぁ……こほん……えーとですね、ふむふむ……」


「んんばばっ! ババっ!」


 彼女はこくこくとうなずく。


「英雄殿! 旅の行き先が決まってないのならば、ここより西の方角に進むとエルフの森があるぞよっ! 立ち寄られてみてはいかがかのぅ? と、オババ様はおっしゃっております」


「ふんばっ! ふんばっ!」


「エルフは他種族との交流を避けておるのだが、ワシからの紹介であれば受け入れてくれるはずじゃ!」


 オババ様が激しいジェスチャーをしながら体をぱたぱたさせると、同時翻訳で彼女が説明する。


「んばぁ〜!!」


「ワシもエルフ族なのじゃ!! ……えっ!!?」


 ロイの姉が驚きを禁じ得ない様子で目をぱちくりとさせる。


「ンバッ!」

「へぇ〜、そうだったんですか〜」

「ふんばっ!」

「あらあら〜、オババ様ってば大胆なんですねぇ〜」


 二人で話が盛り上がっているが通訳がなくては、こちらはまったく話が分からない。


「あの〜……」

「あ、すみません! オババ様は旅人だったじぃさまと駆け落ちしてこの村に来たそうです」

「じゃあ、オババ様のこれってエルフ語みたいなものなんですか?」

「いえ、ろれつが回ってないだけです」


 明らかにろれつが回ってないとかっていうレベルではない気がするが、掘り下げても不毛なのでなにも聞かなかった。


「ふんばばっ!!」

「あなたにコレを……と、おっしゃっております」

「これは?」


 僕は差し出された首飾りを受け取る。


「ふば! ふば!」

「エルフにコレ見せれば里に入れてもらえるぞよ!」

「ありがとうございます!!」




 そんなやり取りをして夜を明かし、僕達はお世話になった村を後にした。

ハジメマシテ な コンニチハ〜

高原律月ですっ!


竜の魔女14話になります。

新メンバーも増えて、いよいよ次に向けて出発ですね!


オババ様とお姉ちゃんのコンビが手放すには惜しいキャラでした(笑)


ちなみに竜の魔女の世界的には、エルフは耳はとんがってないですし歳もやたら長生きでもないです。ほぼ人間と同じですが、人間より身体能力が高く使役する精霊が強力なので高位の魔法が使えたりします。

人間との相違点は、死亡するとモンスターのように光の粒子になって消えていくこと。基本的に小規模で森の中に集落を作り、独自の解釈で魔法を扱っている点になります。


その他にも人間に近い精霊種には、ウンディーネ・シルフ・ノーム・セイレーン・バンシィなどを設定として作ってありますが出てくるかは今のとこ未定です。


定番のエルフ採用裏話でしたー!


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唐突なキャラ紹介


キース·ブライトン

ジルの父親。早くに嫁を亡くし、男手一つで子供二人を育てた顔に似合わずイクメン。

村の人達からの信望もあつく、実質的に村を取り仕切っている苦労人でもある。

得意料理はラタトゥイユやシチューなど家庭料理


マリエル·ブライトン

ジルの姉。実はオババ様に英才教育を受けており、薬学などに精通している。

得意料理は村の若い男たちを切って捨てること(しつこくすると、シビレ薬で一週間くらい寝たきりにさせちゃうぞ☆)


それでは、また次回〜 ノシ

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