#13.新しい出会い
あの事件から2週間ほど経つが、前のように集団でのモンスターの襲撃は無くなったそうだ。
僕はすっかりなまった体を動かして伸びをした。
「ん〜……」
アナとリコにきつく言われて長めに休ませてもらっていたが、さすがに動かなさすぎた。自分の体なのに感覚が合わないような妙な感じがする。
「ん、どこも問題なさそうだな」
左手を動かしてみたりして調子を確かめる。
「マスター、そんな急に体を動かしてはいけません」
「目が覚めて最初の2〜3日は血が足りなくてダルかったけど今は逆に動かない方が具合悪くなりそうだよ」
「ですが……」
「過保護だなぁー」
リコが心配そうに僕を見つめるので横に置かれた大きな木剣を振ってみる。
「ほら、問題ないだーー……」
ーーバキッ……。
「あっ……」
大げさに勢いよく振りすぎた大剣が壁に突き刺さる。
「なにやってるんですか!?」
「室内だってことを忘れてた……」
「まったく、もう!」
リコが呆れたような顔つきでこちらを見やる。
「と、とりあえず……村長のとこに行って謝ってくる!」
責める視線に耐え切れず、小屋を飛び出した。
小屋を出てすぐのところにアナが立っていた。
「おはよう、アナ!」
「朝からなにしてんの?」
彼女は壁の穴を見ながら口角を引きつらせる。
「勢いあまって、その……」
愛想笑いでそう答え、僕は足早にその場を後にした。
「ちゃんと謝ってきなさいよー!!」
もはや、口うるさい母親である。
「わかってるよー!」
僕は顔も見ないで生返事をしておいた。
初日に通された一際大きな建物に入ると、年老いた女性が開いてるのか分からない目をしながら奥の机に座っていた。
「おはようございます」
僕が挨拶をしても反応がない。
(ま、まさか……座ったまま死んでるんじゃ……?)
なんて、失礼なことを考えていると村長の隣に立つ女性が微笑んだ。
「オババ様は英雄殿がお元気になられたようで大変喜んでおられます」
「そ、そうなんですか……」
「いつもより嬉しそうです」
「え、それで?」
僕は引きつった笑顔を作った。
「ええ、こうして足をお運びいただいたということはお身体の方はもうよろしいのでしょう?」
「この度はご迷惑をおかけした上に大変お世話になりました」
僕が頭を下げようとすると、オババ様の目がカッと開く。
「ンバッ!!」
急に動き出すので僕はとっさに尻もちをついてしまう。
「あー、びっくりしたぁ〜!」
オババ様がもにょもにょと口を動かすと、隣の女性がこくこくと頷く。
「ええ、ええ……そうですね……ふふっ!」
「え、えーっと……」
「オババ様は村を救ってくれた英雄殿には感謝してもしきれないと仰っております」
「そんな僕はなにも……」
「お亡くなりになられたじぃさまの若い頃によく似ていると」
「それは褒められているのでしょうか?」
「ワシがあと40年若ければ押し倒しておったのに……」
そこまで聞いて僕の背筋に怖気が走る。
「……ひぃっ!?」
無意識に半身を引いてオババ様を見ていた。
「ふふっ……まあ、オババ様なりの冗談ですよ」
「身の危険を感じました……」
女性はクスクスと笑い、僕に言葉を催促した。
「それで、ご用件は?」
そう言われて本来の用事を思い出す。
「お世話になったのでお礼を……それと……」
「はい?」
「ごめんなさい、お借りしていた家の壁を壊してしまいました」
「それは、なんと……まあ……」
さすがに女性も驚いたように目を丸くする。
「すみません」
「どうやったら壁を壊せるのか、さすが英雄殿です」
「えと、それは嫌味ですか?」
「そのような意図はありませんよ」
女性がにこやかに笑うと、オババ様が唐突にガタガタと震え出す。
「ブルブルブル……」
「そうですね」
僕は首を傾げる。
「オババ様は英雄殿が残された傷を消してはならぬ!と言っております。語り草にするのじゃっ!と……」
「ンババ! んバッ、んバッ!!」
どうやって意思疎通してるのかすらどうでもよくなってきた。
「僕はどうしたらいいのでしょうか?」
半ば呆れ気味に尋ねると女性が答えた。
「どうぞ、お気になさらず」
にこりと彼女は微笑む。
「いや、そういうわけには……」
「よいのです。私たちは、みなアナタ様に感謝しております」
「わかりました、ありがたく甘えさていただきます」
「ほかにも困り事がありましたらいつでもおっしゃってくださいね」
「失礼しました」
僕は軽く会釈をして外に出た。
「なんなんだ、あの珍生物と不思議お姉さんはっ!!?」
他に聞こえないように心の中でツッコんでみる。
「なんで、あれで会話が成り立ってるんだよぅ!!」
世の中とは不思議なことで溢れているな……と感じた瞬間だった。
顔をしかめながら借りてる小屋に戻ると、リコとアナが出立の支度をしていた。
「おかえり〜」
「マスター、どうでしたか?」
「とりあえずそのままでいいってさ……」
「おや、よろしいので?」
「ここは厚意に甘えさせてもらおう」
僕も自分の荷物をまとめて旅支度を整える。
「いつ、ここを出るの?」
「あまり長居してもなぁ……」
「明後日くらいに出立いたしましょう」
「そうだね」
そんな他愛のない会話をしているとドアをノックする音が聞こえる。
「……コンコンッ!」
「はーい」
ドアが開き、壮年の男性が入ってくる。
「ロイ殿、すっかり良くなられたようですな」
「ええ、おかげさまで」
「……少しよいですかな?」
「はい?」
男性は眉にシワを作りながら僕に話しかけ、促されるまま外に出て話をする。
「どうされたんですか?」
「こほん……まこと勝手なお願いというのは重々承知しておるのですが……」
「はい」
「この村に残ってくださらぬか?」
「それは……」
「我々としても村の英雄殿に長く居てもらいたいのです……個人的にもアナタのことが大変気に入りましてな、是非ともお願いいたします」
「残念ですが……」
「やはり、ですか……いやはや分かってはおりましたが、それでも聞いてみたかったのです」
「お気持ちは嬉しく思います」
「覇気のない少年と言ったおのれを恥じるばかりです、とんだ盲目でしたな」
「いえ、そんな……」
「リコ殿がアナタを抱えて戻ってきた時は身が震える想いでした。アナタは本当に立派な方です、体を張ってこの村から脅威を取り除いてくださった。ありがとうございます」
肩を震わせながら男性が頭を深々と頭を下げる。
「よしてください、僕はなにも出来ませんでした……」
自身の無力さを思い出し、ダフネに見逃されただけの立場というのを改めて噛み締める。
「どうであれ、結果として守ってくださったことに変わりはありません。なにか力になれそうなことがあれば、いつでもこの村をお尋ねください。我々も出来る限り力になりたいと思います」
「ありがとうございます」
僕は照れくささから思わず、頬をかく。
「お願いばかりで大変申し訳ないのですが、こやつも一緒に連れて行ってはもらえませんか?」
僕がすわり悪く横を向いていると、男性が僕と同じくらいの細身の男の子を手招きで呼ぶ。
「えっと……」
「やはり、世間というものをこやつにも見せてやりたいのです。
……親心というやつですな」
「それは構いませんが」
「あの晩のアナタ様を見て自ずから言ったのです、どうかお願いいたします」
「わかりました」
男性が励ますように背中を叩くと、少年がぶっきらぼうに自己紹介をした。
「ジル·ブライトンです、よろしくお願いします」
「ロイ·オックスフォードです」
彼は僕が右手を出すと不満気な顔をして僕を見る。
「よろしく、ジル!」
「これは?」
「え、握手のつもりだけど……」
「不要です、仲良くしたいわけではないので」
「そう。そゆのが苦手な人もいるよね」
「そんなところです」
男性が笑顔を強ばらせながら僕を見やる。
「申し訳ありません、誰に似たのか……その……」
「気にしないでください、人それぞれですよ」
「ジル、お前は人付き合いというものを考えなさい」
「要りません」
彼は冷たい目を遠くに向けて一言だけそう言った。
僕は小屋に彼を招き入れて、二人とも顔合わせしてもらうように促した。
簡素かつ手短に彼が自己紹介して続けた。
「出立はいつ?」
「明後日にはこの村を出ようかと」
「わかりました、ではまた明後日に」
彼はそれだけを言い残して去っていった。
「なんなの、アレ……」
アナが不満そうに僕を見る。
「まあ、みんながみんなニコニコできる訳じゃないからね……不得意なことはあるでしょ」
「それにしたってもうちょっと、こう!」
「アナくらい感情表現する人も珍しいと思うけどね」
「悪かったわね! 情緒不安定で!!」
「そうは言ってない!」
「ふーんだっ!」
すっかり機嫌を悪くした幼なじみをなんとか宥めようとしていると、リコが独り言のようにごちた。
「あの人からは強い意志を感じます……とても不安定で、とても激しい信念を持っているようです……悲愴なまでの眼差しをしていました」
彼女のどうとも取れない面持ちが、どうしてだか強く印象に残った。
ジル君
ハジメマシテ な コンニチハっ!!
高原律月です◝(⑅•ᴗ•⑅)◜
竜の魔女第13話ですね!
話すことが今回はあまりないですね(笑)
それでは、また次回〜 ノシ