#127.砂上の楼閣
長らく帝国を支えた俊英の一人、アクバルの訃報に人々は別れを惜しんだ。
三傑と謳われ時代の象徴だった三人の英傑も残るは一人となる。
彼の死を境に日毎、摂政ハザールは取り憑かれたように狂っていった。
忍び寄る死の気配を恐れ、夜な夜な悲鳴にも似た慟哭を上げる。
英傑の狂乱は帝国の内政にも混乱をもたらした。
腐敗の粛清と称し罪なき人々が次々と処刑され、かつての西側諸国の領地だったという理由だけで反乱分子を匿ってると断じて西方の村を丸ごと焼き討ちにするなど、その過激さは醜聞となって帝国領内を駆け巡る。
「愚かな民衆共めッ!! 誰のおかげでこの国が豊かになったと思っておるのだ!!」
ハザールは血走った眼で憤りを隠さず机に叩きつけた。
側仕えの書記官は両肩を強ばらせ、嵐が過ぎ去るのをただじっとこらえる。
―――コンコンッ!!
老人は荒い息を大きく吐き出し、何度か深呼吸を繰り返して体裁を整える。
「―――摂政殿、入室してもよろしいでしょうか?」
「構わん、入れ……」
書記官が扉を開け、来訪者を認めるなり摂政は破顔した。
「おお! これはジャミル殿!!
よくぞ参ってくれた、待っておったぞ!!」
黒い長髪に浅黒い肌、切れ長な目元がどこか知性を纏わせる八将軍が一人ジャミルは深々と頭を垂れる。
「急な訪問、どうぞご容赦いただきたく存じます」
「よい。貴殿の父上との頃からの付き合いだ、今さら遠慮するでない。
今しがた休憩を取るつもりだったのでな、ちょうど良い……僥倖というものよ……」
豪奢な机に香り高い飲み物が置かれ、ジャミルは促されるまま席につく。
彼は差し出された飲み物を一口あおり、ハザールと目線を交わすと含むように口角の端を上げた。
「摂政殿、ネズミの巣がまた一つ見つかりました……いかがなさいますか?」
「無論、駆除だ……根絶やしにしなさい……」
「イエス、サー。ラマンユ殿にはお伝えしておきます」
ジャミルが空になったグラスに葡萄酒を注ぎ入れるとハザールは思わず笑いを零す。
「貴殿も酷いではないか、あれほど有能な人材もおるまい?」
「適材適所―――って、ヤツですよ。
彼は有能だが少々頭が硬い、政治のことなどまるで理解などしておりませんよ」
「上手いポジションに座ったな、ジャミル……」
「生憎と私は自分の手を汚すのは嫌いでしてね。汚い血で私を穢したくはありませんから―――…その点、それにうってつけの人材が居たまでのこと……担ぎ上げておけば、彼はよく働きますよ……」
「飼い犬が染み付いてるようだな、英雄殿も」
二人は一息に葡萄酒をあおると空のグラスを突き合わせた。
場所は変わって、宮殿のとある一角―――。
「ラマンユ殿ぉ!! これはいつ以来ですかな?」
「……ヘンドリクセン卿、オランジットにお越しになられていたのですか?」
「陛下にご報告がありましてな。貴殿の勇名は私の元にも届いておりますよ」
ヘンドリクセンは嘘くさい笑顔をべったりと貼り付け、ラマンユと握手を交わす。
「……お互い禍根もありましょうがこの場はどうぞ穏便に」
一瞬だけ射竦めるように青年を睨んでユディル帝国フロイス領の大公は小さく声をかける。
「元より事を荒立てるつもりもありませんよ……」
ラマンユも嘘くさい笑顔を見せ、柔和な声で返答する。
「大人になりましたな」
「ええ、まあ……」
フロイス領内で大きな混乱が無いのはこの男のおかげでもある―――。
何とも言えない皮肉にラマンユは業腹を噛み潰し、解いた手をさりげなく衣服で拭った。
「旧交を温めたいところではありますが、自分は公務がありますので失礼します」
「少々寂しくはありますが公務でしたら致し方ありませんね、また機会があれば」
彼が足早にその場を後にしようとすると、ヘンドリクセンはわざとらしい声を上げる。
「ああ、そうそう!」
「……―――ッ!?」
青年が足を止めると北国の大公は言った。
「―――"領内の北東視察"、頑張って下さいね?
―――ラマンユ・ベルノート総督閣下」
「―――クッ!!」
この男、どこまで食い込んでいるのか―――、ラマンユは今しがた皇帝より拝領された任務が部外者であるはずのヘンドリクセンに漏れていることに苦虫を噛み潰したような顔で歯ぎしりする。
自身の執務室まで戻り、青年はやり場のない怒りをぶつけるようにして椅子にもたれかかった。
「どこで漏れた……」
北東部の視察といえば聞こえはいいが、内情としては不穏分子の弾圧であることは恐らく露見している。
巣食う腐敗に彼は焦った。
元より内部からこの国を潰す覚悟で軍部に身を置いてはいるが、探りを入れるほどにこの国の闇は深い―――。
元老院の専横、軍部の傀儡化、人種差別の蔓延……どれ一つをとってもアクバルの指摘した未来がヒタヒタと足音を立てて近づいてくる。
「人同士による殺し合いの果てに迎える終末か……ドクトル、なぜ逝ってしまわれたのですか……」
青年が深い思考の海に沈んで夜も深くなった頃、ベルノートは美しい瑠璃色の髪を揺らめかせてラマンユの頭を抱いた。
「アナタ、そんなに根を詰めては体に毒ですよ?」
「エミリア……」
「今日も家に帰らないから心配になって見に来れば、また仕事のことばかり」
「すまない、この仕事は今日中に片付けておきたくてな……」
「こんないい女を捕まえて放ったらかしするのはキミくらいのものですよ?」
気を紛らわすように没頭していた机仕事も気が付けば残り幾ばくもない。
エミリアが優しく笑いかけるとラマンユは毒気を抜かれたように肩の力が抜けていくのを感じた。
「交わした契約を反故にされるのは些か不愉快です。埋め合わせはしてくれるんですよね?」
「……なんの話だ? 聞いてないぞ、そんなもの」
「あー、すっとぼけるおつもりですか?」
エミリアはむくれたように頬を膨らませた後、甘ったるい表情を作ってラマンユの襟首を強引に持ち上げて顔を寄せる。
「キミは地位と後ろ盾をベルノート家から受ける、私はキミを私のモノにする……そういう約束ではありませんか……」
「……悪いが、その契約の中に情事が含まれるなんて聞いてないぞ?」
「私物に何をしようとも私の勝手ですからね。
魔女と契約したんです、それ相応の対価を支払ってもらいましょうか。
当然、私が最優先です。お分かりでしょう?
―――ね、ラマンユ・ハキラフ?」
黒妖の魔女は熱い口びるを重ね、秋の夜の寒さを重ねた体で忘れさせた。
ハジメマシテ な コンニチハ。
高原 律月です。
竜の魔女、127話になります。
ストーリー終盤がちょっと艶っぽい雰囲気ですがキスで止まってます、セーフです。
このあと二人は仲良く手を繋ぎながら帰宅してます、重ねた体ってのは抱き合ったって意味です←どこにしてる言い訳かは分からない(笑)
はいお察しの通り、エミリアルート分岐です。
アイシャちゃんはフラれてしまいました。
ここから更にもう一つルート分岐するんですが、楽しみに予想していただけると嬉しいです。
ちなみにアイシャルートだと話が詰むのでエミリアルートに突入しましたが、アイシャちゃんとイチャラブするところもちょっとはやりたかったです……⁝( ;ᾥ; )⁝
いま流行りの(もう流行遅れ?)契約婚ってヤツです、ええ。
メインストーリーから最後が少しだけ(?)逸れてしまいましたが、たかーらは基本少女マンガ脳なので許してください :∫(っ'ヮ'c):
あと余談ですが、この時点でラマンユ君は27歳くらいでエミリアさん(ベルノートさん)は32歳くらいです!
さらにプラスで余計な情報を入れとくと、週4くらいでお盛んです(笑)←最後の描写で分かると思いますがw
夫婦だしオトナなのでなんら問題はありません(`・ω・´)キリッ!
このテンションなので察しのいい人は次回は話が重めだと勘づくと思いますが、重いです(笑)
最後にちょこっとキャラ紹介しますね〜!
『名前』
『誕生日・血液型・身長』
『いつものアレ』の順です!
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ラマンユ・ハキラフ
2/17 A型 174cm
ボクサータイプ(ベルさんが選んでる)
マリアムさん
1/15 B型 156cm
スポブラと黄緑のおパンツでスパッツ装着
アイシャ・ルルクゥール
9/9 A型 162cm
可愛らしい白の上下です
エミリア・ベルノート
10/4 O型 164cm
この人は過激で黒しかないでしょう!!
フランツ・ヘンドリクセン(どこかでフルネーム出てきてて間違えてたらごめんなさい、こっちが正しいです報告を待ってます)
8/19 A型 182cm
白のビキニパンツ!
グランツ・シュバインシュタイガー
1/21 A型 184cm
この人もオーソドックスなボクサー(こだわりは無いのでトランクスでもブリーフいい)
第三師団のみなさん(キャラが多すぎて大変なので一括します)
男は黙ってフンドシだろ!!の人達です。
↑
そのうちヤル気が出たら個別にプロフィールを挿入させてもらいますが、ファリド将軍は190cm、バハディーンさんとバトラスさんは2m前後くらい、ハリファさんとアクラフさんは180cm前後くらいです(屈強な人達が多いのでガタイいい人が多いし、なんならおじいちゃん組も含めて全員もれなくムキムキです笑)
以上、ラマンユパートの皆さんのプロフィールでした!
それでは、また次回〜 ノシ