#126.加速する未来
帝国が大陸を統治して数年、統一された世界は一応ではあるが平和を見せていた。
ラマンユは摂政ハザールと天才アクバルの薫陶を受け、将軍としてその才覚を遺憾なく発揮する。
元々豊かだったユディル帝国は瞬く間に発展を遂げ、日進月歩の勢いで人々の生活は豊かとなっていく。
「アクバル殿、お尋ねしたいことがあるがよろしいか?」
「おぉ! これはこれはラマンユ様!!」
宮殿の端にある誇り臭い部屋で白髪頭の男は好々爺らしくラマンユに笑いかけた。
青年は恥じらうように耳を赤くして咳払いをする。
「……様付けはよして下さい。ガラじゃありませんよ、自分は」
「ご謙遜なさるな、貴殿は八将軍筆頭ではありませんか! 先日の任命式、お見事でありました!」
ベルノート家と摂政の後ろ盾を受け、メキメキと頭角を現した青年は今や軍事最高責任者の地位まで登り詰めていた。
「自分の実力ではありません、ハザール様と家内の引き立てがあればこそです」
「とても、らしいですな。今この国で貴殿の名を知らぬ者はおりませんぞ、カカカ!!」
実に政治らしい会話を挟んだ後、ラマンユは単刀直入に切り込んだ。
「アクバル殿、そんなことはどうでもいい……貴殿はこの国の未来―――、もっと言えば世界の終わりを予見しましたね? なぜそのようなお考えを?」
老人は作業する手を止めて青年に腰掛けるように促した。
「これは驚いた、あの論文からそこまで読み解くとは―――……。
貴殿で初めてですよ、ここに詰めかけて来たのは」
「誰の教えを受けているとお思いで?」
「ハザールのヤツは耄碌しましたな……古き友人に人生最後の挑戦状を叩きつけたつもりではありましたが……いやはや、見る価値もないと一笑に付されましたよ……」
「貴殿の論調は些か憶測が見られましたからね……自分としては有り得なくもない―――、そう思って訪ねてきた次第です」
「政治とはなんとも面白みのないものです」
「ドクトル……」
アクバルは深い嘆息を漏らし、独り言のように呟いた。
「民と国を忘れた施政など、ひどく愉快なものです。言いたいことを言う―――、これがどれほど難しいことか―――…。
責任を負わない者は気楽です。思うことを言えばいい、かつて血気盛んだった私もそうでした。
今の私とハザールを見ればファリドは腹を抱えて笑うでしょうなぁ」
自嘲する乾いた笑いがほこり臭い部屋に響く。沈みゆく西日が老人を照らし、ラマンユは堪らず目を細めて顔を逸らした。
「私はもう長くはない、最後まで世を変えることは出来なかったよ。
後はキミに頼んでもいいかね、ラマンユ君?」
「ドクトル、日暮れるにはまだ早いのでは?」
「天才だなんだと囃し立てられても所詮は私も過去の遺物……もはや時代は変わったのだよ……」
「貴方を必要とする者はまだ居ます。自分もその一人ですよ」
「年寄りに気を遣うな、宛てがわれたこの部屋とあの論文が全てだよ」
それきり二人は押し黙って陽が沈みゆくのをただ見やった。
「……ドクトル、件の話は?」
ラマンユが唐突に訊ねると老博士は目線も合わせないまま、彼に何かを書き記した紙を手渡す。
「帝国議会の元老院には根回し済みだ……持っていけ……」
「これはまた、ずい分と気が進まないご様子で?」
「一介の武官が通すにはあまりにも障害が多い……もう一度だけ聞くぞ、本当にやるつもりか……?」
アクバルが問うと、ラマンユは子供っぽい笑みを浮かべて頷いた。
「……ええ、この国の腐った根を引き抜く。裏切り者は必ず炙り出しますよ、ドクトル……」
「下手を打てばお前さんは反逆者として公開処刑されることとなるぞ?」
「この時を十年と待ちました。この国の暗部を潰し、逆賊を根絶やしする必要があります」
「再び混乱が戦火を振り撒くことになるぞ?」
「承知です―――…」
青年はマントを翻して踵を返す。アクバルの目に青年のそんな姿が鮮烈に焼き付いた。
「ドクトル、貴殿の論説を一つ否定させていただきます―――。
壊れるのはこの世界じゃない―――、腐り切ったこの国だっ―――!!」
―――天才と言われた老人は確かに神を見る。
数週間後、老博士は自身の見た神を書き記して静かに逝くのであった。
ハジメマシテ な コンニチハ!
タカハラ リツキです!!
竜の魔女、第126話の校了ですっᡣ(⩌⩊⩌)
久っしぶりに更新です!!
去年もこれくらいの時期は未更新だったので察してる人はいらっしゃったかも分かりませんが繁忙期です、ふつーに(笑)
まあ、ラマンユパートが長すぎて書くのだらけていたというのもありますが無事復活です!
ちょっとふわふわさせて誤魔化してますが、いよいよラマンユ君の本領発揮となります。
ここからはラマンユパート前半なんてもんじゃないくらいにダークサイドな話を描いていけたらなぁ…と思いますっ!(作者があまりそういうのが得意ではないのでヌルい感じになるかも分かりません笑)
エピソード0(序章)で練習したので何とか頭の中で描いているモノを形に出来たらなと思います。
それでは、また次回〜 ノシ