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#124.凱歌を捧げて

 

 公国との戦の勝利―――、それは帝国領内で大きな衝撃となって瞬く間に広まっていった。


 結果だけ見ればこの戦争、両国の民は戦火に巻き込まれず短期決戦にて集結することとなり民衆は胸を撫で下ろす。


 第三師団は多くの犠牲を払い、公国の戦死者も英霊として自国で弔われている。二大国の大戦は両国合わせて二万を越える歴史上最も多くの戦死者を出した戦となった。


「ラマンユ様、戦死なされたファリド将軍・バハディーン連隊長ならびに中隊長七名の埋葬が完了しました」


「わかった……」


 意外も意外、ベルノートが引き渡した彼らの遺体は丁重に扱われており戦死したとは思えないほどに身綺麗な状態だった。


 彼女曰く、「キミに嫌われたくはありませんからね。死体の扱いに気を遣うなど私には到底理解も出来ない感覚ですが……」とのことである。


 これは第三師団内に拘留されているベルノート自身の立場も好転させる。


 特に第三師団は義に厚い人間が多く、各隊隊長達の遺体を丁寧に扱ってくれたことで兵士達の彼女に対する態度は大幅に軟化していた。


「人間とはよく分かりませんねぇ、死体を丁寧に扱っただけでこんなにも態度が変わるなんて……」


「白々しいな、計算づくだろう?」


「まさか。私は本当にキミに嫌われたくなかっただけですよ」


 掴み所なく笑ったベルノートの囁くような笑い声が陣内の風に紛れて何処か遠くへと運ばれていった。


 凱旋する第三師団に対する人々の反応はまちまちだった。


 ある村では手厚い歓待を受け、ある村では冷遇もあった。帝都に近づくほど目に見えての冷遇は減ってはいるものの、今日滞在した村でも冷えた食事が供され、ベルノートはそんな彼らの反応に首を傾げる。


「本当に不思議ですねぇー」

「親公国派からすれば縁のある国を滅ぼされたんだ、やるせない気持ちもあるだろう……」

「私は祖国に対して思入れも何もありませんからね。国だ思想だの、人は難しいことを考えすぎなのでは?」


 冷えた粥のような一応食事らしいものを食みながら彼女はまた笑った。


 同行させてから数週間、彼女は思ったよりも笑い、思ったよりも純粋だということが分かる。


 人間らしい感情をあまり持ち合わせていないようでその実、ベルノートはひどく人間らしく自身の意見を口にする。


「……なぁ、ベルノート?」

「エミリアとお呼び下さい」

「ベルノート、お前は一体何者なんだ?」


 ベルノートがむくれたように眉を寄せ頬を膨らませるがラマンユは意に介さず彼女の顔をじっと見つめる。彼女はため息を吐き出した。


「少し長くなりますが?」

「構わない……」


「私の真名アジダーハは忘れられし神の名です。公国の大家でもあるベルノート家は密かにこの名を継いできました。

 私達は神に選ばれし子を”竜の巫女”と呼び、先代が死ぬと竜選(りゅうせん)(あかし)と共に次代が産まれます」


「……証?」


「ええ、左肩と背にあります」


 ベルノートは左肩を露わにすると痣が蛇のように二の腕まで這っていた。


「―――背中も見ますか?」


 彼女が挑発な目つきでラマンユを見やる。青年は咳払いをして顔を背けた。


「いい、それだけ見せてもらえば充分だ……」

「ウブですねー、まあコレのお陰で貞操は守られているので悪くはありませんよ」


 ベルノートは服を着直し、瑠璃色の髪をまくり上げて笑う。


「アジダーハは三つの首を持ち、六つの目でこの世総てを見通し管理していると言われております。


 一つは現世、私達の世界ですね。

 二つ目は幽世、端的に言ってあの世ですね。


 そして最後は―――……」


「現世と幽世の狭間―――、だな―――?」


「その通りです。どこでそれを?」


「僕はその狭間に心当たりがある。夢を見るんだ、毎日ではないが見たこともない場所のハズなのにどこか懐かしい―――そんな場所の夢を見ることがある」


「その狭間は黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)と言い伝えられています。


 原初、ヒトはそこに住んでいたと―――。


 曰く、私達は神の手から離れ、この現世に堕ちたと伝えられております。


 神の手を離れた我々は生きる苦しみを与えられました。救世を求めて足掻き苦しむことでヒトは神の元へと回帰することが出来る―――、そういう考えがこの世にはあります」


 真剣に聞き入るラマンユを見やってベルノートは言葉を続けた。


「死生の苦しみから解放され肉体から魂を分離し、人々は永久の幸福を手にすることが出来る。

 その導き手が私達竜の巫女であり、竜の巫女が選びしキミということです」


「なぜ、僕なんだ?」


「いい質問ですね。簡潔に答えましょう、キミは黄泉比良坂を視ることが出来る。

 それはとても特別なことなんですよ?

 キミに渡した紫色の小石は単なる石ころなんかではありません。


 あれは人々の欲望が生み出した願いの結晶です。魔石でも賢者の石でもエリクシールでもお好きなように定義して下さい。


 ヒトをヒトたらしめるのは意志です。神の子ではなく人類として私達を私達たらしめるのはアイデンティティ―――、知恵の実と呼ばれる理性に他なりません。


 アジダーハは三つの首を持つと言いました。キミはその意味を理解しているのでしょう?」


「なるほど、大体わかった……」


 ラマンユは冷えた粥を一息で胃に流し込み、それきり無言のままベッドに横たわる。


 背中越しに布の擦れるような音が聴こえるが青年がそれを無視していると背に体温を感じた。


「一目見た時に確信しましたよ、私の片翼はキミだと……」

「おい、勝手に人の横に寝そべるな!」

「女の一人や二人、抱いたことくらいはあるでしょう?」

「興味もないな、それこそ僕にとって必要のないことだ…」

「確かにそんな甲斐性などなさそうですねぇー」


 ラマンユが眉を寄せながらベルノートの方に体を向けると赤い瞳がランプの火を孕んで煌々と輝いている。


「挑発するだけ無駄だ、分かれよ」

「それはまた、ずい分と傲慢で?」

「そうだな、だから無駄なことはやめろ…」

「ええ、存じてますとも? この数週間、一度たりとも私をモノにしようとはなさらなかったのですからね」


 ベルノートは白い肌を易々と晒しながらも何処か恥じらうようにして肩や頬を赤らめる。


「……慣れないことするな、あほう」


 ラマンユは彼女に羽織っていた布団をかけると再び背を向け、そう時間も置かずに寝息を立てる。


 ベルノートは深く上下する肩を見やりながら小さく呟く。


「まったく本当に甲斐性のない……」


 ランプの火がフッと消えると月の明かりが二人の部屋の中を照らした。


ハジメマシテ な コンニチハ!

高原 律月ですっ!


竜の魔女、124話になります!

いやー、見事な謎回になりましたね(笑)


ラマンユ君はアイシャちゃんもいるのに何をやっているのか…ってレベルですw


これは次話が修羅場確定ですꉂ(´꒳` )ケラケラ


ちょいとこんなお話を差し込みたかったんですが緩衝材で恋愛を持ち込んだらドロ沼になりました(笑)



それでは、また次回〜 ノシ

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