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#120.激突


 上り始めたばかりの日が平原を照らし、涼しい風が吹き抜ける。

 両陣営とも相対する敵を視認できるほどに明るくなると、合図する訳でもなく一斉に駆け出した。


「行くぞぉ!!公国のタコ共を押し潰せぇい!」


 帝国軍北方征伐軍ラマンユ隊の副官バトラスが大音声で号令をかけながら雪崩込むように平原を駆ける。


 逸る気持ちからか、握る手綱を激しく揺さぶり前線まで張り出た老将を見て公国陣営は囲い込むように左右に別れた。


「バカタレ! そこまで頭に血は上っとらんわ!!」


 バトラスは速度を緩めると先の鋭い密集隊形を作り始める。

 第二中隊は魚鱗と呼ばれる槍の先のような三角形の陣を組み、公国軍の敷く左右に開いた鶴翼の一端に突っ込んでいく。


 左手に見えるスノードロップの紋章を目指して―――。


「さすがの柔軟性だな……だが、これでバトラスは引き剥がした……」


 公国陣営の本陣内で白銀の鎧に身を包んだ男が不気味に笑う。

 ヘンドリクセンは片耳を奉じた男を見やり、確かめるような口調で訊ねた。


「して、グランツ殿? ここからどう崩されるおつもりかな?」

「ここから押されているように見せかけながら少しづつ陣を引きます。

 平静を装ったとしてもバトラスは業腹です、必ず食い付くでしょう」

「なるほど、その為の布陣か。

 ―――よく考えたものだな」


 平原まで降りてきた帝国陣営からは見づらいが公国側の布陣を上から細かく眺めると、30人ほど兵の塊が三段に別れており、それが等間隔で左右に広がって並んでいる。


 帝国が攻めている反対側は軽装歩兵と騎馬隊がほとんどで、攻められることを想定していないのか弓矢隊も翼の端くらいにしか居ない。


「ベルノート様の旗印を見ればヤツらが翼のどちらに食いつくかは推し量るまでもありません。


 どちらか攻めてくるかが分かれば守りも敷きやすいというものです。それは兵力の半分しか使わずとも―――、です」


「さすがだな、グランツ……その手腕で初戦と右耳を落としたのは不幸だったな……」


「いえ、ヘンドリクセン様とベルノート様のお膳立てがあればこそです」


 鶴翼の陣を敷けば兵士の数で劣る帝国側は左右に展開する公国軍に対して片寄せの攻めを行い、その差を補いながら突破することで勝機を見出そうとするだろう―――。


 それは公国陣営側の軍議で一致するところであり、問題はどちらに敵が寄せてくるかだった。


 それを解決したのがファリドの討ち取りであり、先の挑発行為でもある。


「ヘンドリクセン様が守備で苛立たせ、ベルノート様の挑発があったからこそヤツらは撒き餌に食い付いたのです」


「帝国兵は士気の高さと結束力が強みだからな、それを利用させてもらっただけのことだ。

 強すぎる愛国心と自負が彼らを泥沼へと引きずり込むとは―――、まったく皮肉だな」


 知らずのうち罠に引き込まれたバトラス隊を見やり、ヘンドリクセンは憐むように嘆息を零した。



 一方、帝国側の陣営は飛び交う怒声と金属が叩き合う音で互いの連携を上手く図れずにいた。


「兵士達が流れに飲まれてる……このままでは……」


 飛んできた矢を打ち落とし、ラマンユが歯噛みする。


「不味いですな、ラマンユ殿。バトラス殿が出過ぎてしまってます。

 後を追うようにしてハリファ殿も……」

「二人だけじゃありませんよ。ファリド将軍とバハディーン様を討たれて兵士がみな、前がかりになってます」

「くっ、このまま雪崩込むしかないのか……」


 アクラフとラマンユはズルズルと突出していくバトラス・ハリファ隊を見やり、嫌な予感に焦燥する。


 後方から見ればこちら側にさほどの被害は出ていない―――、それが返って不気味だった。


 よく見れば、戦闘の激しさに対して死体の数自体が少ない。

 冷静な二人がそれを見落とすハズもなく、罠と気が付いた時にはすでに手遅れとなっていた。


 先鋒で怒りに猛るバトラスが叫ぶ。


「ベルノートッ!! 出てこぉおい!!!!」


 よく通る声は敵陣深くに構えたエミリア・ベルノートの元まで届く。

 黒妖の魔女は口の端を歪ませ、馬上でレーヴァテインを抜き取ると旗印を立てこれ見よがしに姿を見せる。


「釣れましたね……間抜けな鯉が一匹……」


 視認できる距離にいるベルノートを認めたバトラス隊は一直線に駆けていく。


「そこかぁああ!! 小娘めぇええ!!!!」


 激情に身を任せて突撃するバトラス隊の露払いをしながらハリファが諌めた。


「落ち着いてください、バトラス殿!!

 あそこまで踏み込めば兵士もろとも敵に飲まれますぞ!!」


「彼奴を討ち取ればお釣りが来るわ! 不満ならワシの兵士でも連れて下がっておれ、若造!!」


「―――落ち着けって言ってんだよォ!! このクソジジイが!!」


 この時、敵陣の中ほどまで潜り込んでいた帝国側は前衛のバトラス・ハリファ隊と後衛のラマンユ・アクラフ隊で完全に分断されてしまっていた。


「今です、帝国兵共をなぶり殺してあげなさい……私の可愛い兵隊達…………」


 分断された間隙に公国兵が雪崩込み、後衛のラマンユ達を目掛けて右手側の公国兵が押し寄せる。


 敵味方の入り乱れる混戦となり、戦場は地獄の蓋を開けたよう異質な熱気に包まれ、死神が高笑いしながら戦地を駆け巡った。


 高く昇った太陽がギラつく刃を煌めかせ、緑の草花達が踏み折られていく。


 ラマンユとアクラフの二人は押し寄せる大量の公国兵と応戦するようにして陣形を整え、突貫した二隊に気を配る余裕を奪われる。


 止んだ風は汗と土の匂いを残して彼らにべったりと纏わり付き、日照りで滲む汗と大地を踏み荒らす足音だけが非日常の中でも現実を確かたらしめる何かだった。


「この物量差、ただでは済まないでしょうね……」

「泣き言は後に! 乗り切りますよ、アクラフ殿!」


 倍はあろうかという物量がラマンユ達に差し迫った時、地鳴りを響かせてハリファの騎馬隊が敵の前線を切り裂いていく。


「―――騎馬隊っ!? ―――なぜ!?」


 ラマンユとアクラフが呆気に取られたように目を丸くするとハリファの右腕である部下が二人の元に駆けてくる。


「ハリファ隊長からの伝言です。


 "お前に俺の家族を預ける、生きて帰るぞ―――"……だそうです。


 これより第四中隊、一時的に第五中隊の指揮下に入ります!!

  どうぞ、ご指示をっ!」


「ハリファ殿……」


「隊長はバトラス様が突貫し切る前に我々を密かに下げさせました。

 乱戦になれば騎馬の機動力は活かせない、お前らを活かしてやれるラマンユ殿の所に行ってこい―――そう告げて、一人で死地に飛び込んで行かれました」


 そう告げる彼の手元は握る手綱が千切れんばかりに強く握り締められ、微かに震えていた。


 ラマンユはバトラス達の方を一瞬だけ見やり、視線を前方に戻し押し寄せる公国兵を睨め付ける。


「こっちはすぐに片付けるぞ……いいな……?」

「―――心得ました!!」


 青年の瞳に紫の火が灯り、静かな圧力が戦場を駆け抜けた。


ハジメマシテ な コンニチハ!

高原 律月です!


竜の魔女最新話、第120話になります。

120……なんと美しい数字なのでしょうか……:∫(っ'ヮ'c):ハワッ……


こほんっ、取り乱しました(笑)


今回はヒロイック・ファンタジーらしい流れになった気がします!

変なデティールに拘るせいでいつも半端なとこを行き来しちゃうたかーらですが、味方ピンチと熱い想いを受け取って主人公がんばります!くらいがホントはいいんでしょうねꉂ(´꒳` )ケラケラ


いや、ラマンユ君はラスボスでした(笑)


次回はバトラス・ハリファ組のお話になります、予告します!

アクラフさんだけ空気やってますが本当はすごい人なんです!←なんの擁護かも分からないw


それでは、また次回〜 ノシ

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