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#119.悲しみの中で

 日が暮れ、ファリド将軍の喪失に帝国軍陣営の空気は重かった。


 本陣の陣幕内に置かれた傷だらけの兜が鈍色に光り、その中をかがり火が揺れる。


 ラマンユが空を見上げると、薄い月が雲で霞んでぼんやりと輝いてた。


「ファリド将軍―――、バハディーン様―――」


 拳を固く握り、悔やむように口びるを噛んでいると、陣幕の外から声が聞こえた。


「おい、邪魔するぞ―――」

「ハリファ殿……」


 浅黒い肌に精悍な顔つき、太い眉と無精髭、無頓着という言葉が良く似合う男は頭を掻きながらため息を吐いた。


「まるで葬式だなァ……こりゃ―――、戦の最中だってのによォ―――……」


「そういうハリファ殿も声が掠れてますよ?」


「―――あ? そういや、あれから喋ってもなかったな。

 バトラスのじぃさんも黙ったきりだしよ……他の連中もみんな同じ、話し相手がいねぇんだわ……」


 ラマンユが張り詰めた緊張をほぐすように小さく笑うと、ハリファが彼の首に腕を回し胸を軽く小突いて笑った。


「なぁーにがおもしれぇってんだよ? お?」


「痛いです、ハリファ殿……」


「お前、ガラにもなく泣いてたクチか?

 そんなんじゃ将軍に笑われちまうゾ?」


「泣いてませんよ……悔しかっただけです……」


「―――んあ?」


 ラマンユが俯くとハリファは顔を顰めて腕の力を緩める。


「将軍を討ち取られたことも―――、バハディーン様をバカにされたことも―――……、皆さんがコケにされたことも―――。


 ―――全部が悔しいんです、あんなヤツに舐められたままの自分が情けなくて悔しいんです!!


 そう思ったのは初めてです―――、誰かに勝ちたいって本気で思ったのは―――!!」


 剣の柄を力強く握り込むラマンユの手を見てハリファが大きく息を吐く。

 ラマンユが取り繕うように姿勢を正して平静を装うと、ハリファは立てた親指を返して陣幕の外を指し示した。


「―――なあ?

 ―――オモテ出ろや、辛気くせぇゾ?」

「はい―――……」


 二人は陣幕の外に出ると高台の端に立ち、陣内の明かりを一望する。

 押し黙ったままのラマンユを横目に見て、ハリファは口を開いた。


「あの女がほざいてたことはマトモっちゃあ、マトモなんだわ。

 戦場で道徳やらキレイゴトやらを持ち込むヤツなんざぁ、バカもいいとこだろーな―――……」


「しかし、勝敗だけが正義ではありません……戦争が終わった後も僕達は生きていく―――。


 争いは憎しみを産む為のものじゃない……、憎しみを断ち切るために僕達は戦わなくちゃいけないっ!!」


 かがり火の中で燃える薪木がパチッ―――と弾け、静かな夜に良く響く。

 陣内を夜半の風が吹き抜け、さざめく木々の中でフクロウが鳴いた。


「―――俺はよ、お前はてっきりあの女と同じアッチ側だと思ってたぜ?

  そんな青くせぇヤツだとは思わなかったワ!!

 悪くねェんじゃねえか? 暑っ苦しいお前もよ!」


 ハリファがラマンユの肩を叩きながら白い歯を見せて笑うと、ラマンユの顔からシワが消え、それを見て取ったハリファは至って真面目な顔を作る。


「お前によ、一つ頼みがあるんだわ―――……」

「なんですか?」


 ハリファは遠くを見ながら淡々とした声で言う。


「次に公国とかち合ったらバトラスのじぃさんは間違えなく後先考えずに突っ込んじまうんだろーな。


 だからよ―――?


 俺の兵、お前に預けてぇんだわ!!

 アイツらを巻き込む訳にゃイカンだろ?」


「しかし、それは―――……」


 ラマンユが戸惑いながら彼の顔を見つめると、ハリファは高台の端からある一点だけを見つめている。


「あんなクソジジイでもよ、俺にとっちゃ親父も同然なンだわ。

 むかしみてぇにバカ言ってバカやって、ブン殴られてやれなくなっちまったからなぁー。


 オトナなんざ、なるもんじゃねぇーよ……この歳んなって親孝行してやれるつったら、一緒にバカやってやるくれぇーだべ?」


 ハリファの口元が緩むと夏風が暖かい空気を運び、二人の衣服がバタつく。

 いつの間にか鳴き止んでいたフクロウは瞼を閉じて寝息を立てる。


「確かにハリファさんのくだけた喋り方を聞くのは初めてかもしれませんね……」


「俺らみんな跳ねっ返りだからよ、バトラスのじぃさんとファリドさんにぶん殴られて育ってんだわ。


 シメシつかねぇから硬っ苦しい言葉を使うだけでよぉ、腹ン中じゃみんな家族だしよ!」


 ラマンユが少し寂しそうに笑うと、ハリファは彼の頭を鷲掴みにして揉みくちゃにする。


「寂しがってんなよ、オメェも家族だから心配すんなって!!」

「……いえ、遠慮します」

「可愛げねぇな、クソガキが!!」

「だったら家族の為にも死なないことが大事なんじゃないですか?」

「あたぼーよ! 死ぬつもりなんざねぇよ!!

 年甲斐もなく張り切っちまうじぃさんのお守りしてくるだけだっ!!」


 ―――彼らが夜空に浮かぶ青い三日月を見上げると、帝国兵達の想いはホタルのように瞬いた。

ハジメマシテ な コンニチハ!

高原 律です!!


竜の魔女、第119話になります!


この回はなにも言うことありません!!

もうホント、書いてあることが全部です!


次話から戦闘が再開されるんですが冒頭の入り方に悩んでます(笑)



それでは、また次回〜 ノシ

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