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#118.黒妖の魔女

 

 ―――フロイス公国とユディル帝国の国境で発生した両軍の衝突は3週間を越え、両陣営の兵士達は疲れの色が濃くする。


「公国のヤツら、粘りますな……」


 国境を越えて数kmの地点の高台にある帝国軍の本陣に集まった将兵達は若干の焦りを募らせた。


「ファリド将軍達がそろそろ後方を叩いてもいいハズなのだが―――……」


 第二中隊長バトラスが白髭を揉みながら顔を顰める。

 彼らは数日前に本隊が壊滅したことを知らないまま、やって来ることのない援軍を待って少ない兵糧を食い繋いでいた。


「もう少しの辛抱です、将軍はきっと来ます……」


 部隊を率いる若き将が静かに力強く言い切ると一同は陣幕の外に出て平原を一望した。

 遠くに見える数km先のフロイス公国軍陣営を睨み、歯痒い気持ちを噛み潰す。


 ―――その場にいた誰かが言った。


「おい、なんだ……あれは……?」


 公国陣営から数騎の騎馬が自分達の陣営を目指して駆けて来る。

 大旗をなびかせて悠々と駆けてくる彼らを将兵の一人が冗談交じりになじった。


「旗なんぞ持って降伏でもしに来たか?

 さすがはフロイス公国兵、誇りも何もないな……」


 その言葉を聞いた誰かが笑う。


「言ってやるな―――……我らとは比べては酷というものよ―――……」


 馬は帝国軍の前で旋回し、騎馬兵達は何かを主張するように旗を振り上げる。


 様子がおかしい―――。


 一同がそのことに気が付いた時、伝令が息を咳切らして陣幕まで駆け込んだ。


「―――ほ、報告がございますっ!!」


 ―――伝令の報告を聞いた彼らは顔を強ばられて気色ばんだ。


「適当なことを抜かすでない!! 有り得るはずなかろう!!」


 バトラスが怒号めいた大声を張り上げる。

 その場に緊張が走り、怒鳴られた兵士は青ざめた顔で首を横に振った。


「……い、いえ……ま、間違えありませんっ!!」


「ええい! 貴様では話にならんわ!!

 俺が直接見てきてやるわっ!!」


 バトラスは武器も兜も持たないまま馬に飛び乗り、高台を駆け下りていく。

 残りの将兵達も後を追うようにして駆け下った。


(そんなバカなことあるはずない―――……)


 誰しもがそう思いながらも、フロイス兵が掲げる旗に嫌な予感が走る。

 帝国兵達を掻き分け、彼らが陣営の一番前までやって来ると黒鎧に身を包む妖艶な美女が笑った。


「―――やっと来ましたか」


 彼女の背中越しに見える第三師団の軍旗は惨たらしく裂け、風ではためく。

 女性は馬を降り兜を脱ぐと瑠璃色の髪を風に任せる。


「ユディル帝国のみなさん、こんにちは。

 わたくしフロイス公国軍が所属、黒妖の魔女―――エミリア・ベルノートと申します。

 本日はお見せしたいものがございまして―――……」


 ベルノートと名乗った彼女が手のひらを出すと取り巻きの一人が彼女に近付き、血のりがべったりと張りつく兜をその手の上に置いた。


「―――さてさて、これなんだと思います?」

「その兜は―――!? まさかッ―――!!?」


 彼女はクスクスと笑いながら手に乗せた兜を大仰に見せびらかし、帝国兵が青ざめた顔で見つめるとその兜を足元に落とす。


「ファリド将軍―――、私が殺しちゃいましたっ! ―――きゃはっ!!」


 ベルノートが地面に転がる兜を足先でコロコロと転がし、挑発するような目つきで帝国兵を見やるとラマンユ達は怒りを滲ませる。


「その足をどけろ! クズが!!」

「んん―――、たまりませんねぇー……その間抜け面が見たかったんですよぉ――――」


 彼女の下衆な笑い顔は整った顔立ちも相まってより一層の狂気を纏い、黒い鎧の隙間から見える白い肌が魔性のそれを感じさせる。


 そんな中、ふとしたことにバトラスが気が付く。


「おい貴様、バハディーン様はどうした?」


 バトラスの問いかけにベルノートが首を傾げる。


「……バハディーン? ―――ああ、丈夫さだけが取り柄みたいなお猿さんのことでしょうか?

 突っかかってきたから細切れにして差し上げましたよ。


 死にかけのクセして外道だなんだと泣き喚いていたのが本当にうるさくて―――……あの手の人種は戦場での心得を勘違いしてて迷惑極まりないですね。


 つまらない正義感を振りかざしては戦場で役にも立たず、戦いは無策な上に根性論でどうにかしようなど……今ごろカラスに突つかれてる頃じゃありません?

 ―――よかったですねぇ、駄目な上司から解放されて!」


「―――ギリッ!! ―――この外道めが!!」


「弓矢も持たない歩兵部隊がのこのこと進軍すれば、定石通りの戦い方でなぶり殺しにされて当然ですよ。


 あのおバカさんは私が兵士を道具扱いにして戦うことに腹を立てていましたが、弱者が強者の盾になるのは当たり前のことだと思いません?


 戦は勝つことが正道―――、弱い者には弱いなりの使い方があるんですよ。

 弱い者は盾でもやって強い者が狩ればいい、それだけの話じゃありませんか。

 それを外道だなんだと騒ぐのは愚者のやることです」


「腐っとるな、お主っ! 貴様のようなやつが将をやっているなど!!

 上に立つ者としての恥ずかしいとは思わんのかッッ!!」


「……やれやれ、帝国軍にはお猿さんしかいないのでしょうか? 恥ずかしいのはその腐った思考回路ですよ?


 そうやって誇りだの美徳だの、無意味で非効率な戦い方をするから全滅するのです……数的優位を活かし前線を壁にしながら力押しで攻め落とそうとしないからジリ貧になって死んだのですよ、彼らは。


 私だったら味方を踏み潰させてでも前進させます。数が有利なうちに無理やりにでも押し潰しますよ、死体には何の価値もありませんからね。


 死んだ味方を躊躇いなく踏むことが出来なかったその弱さと驕りがアナタ達の間違いです、本当におバカさんですね……」


 彼らが今にも飛びかかりそうな勢いで彼女を睨め付けると、ベルノートは踏みつけた兜から足を離して右脚を大きく振りかぶった。


 ―――カァァン……!!


 蹴り上げた右脚から金属を叩く音が響き、帝国軍は飛んで行く何かを仰ぎ見た。


「なっ―――!!?」


 ラマンユ達と兵士達の間をひしゃげた兜が転げる。


「大の大人達が揃いも揃ってキャンキャンとみっともないのでなくて―――?

 犬っころは犬っころらしく放られたモノを拾ってるといいですよ、アハハハハ!!」


 彼らがファリドの兜に目を奪われている隙にベルノートは馬に飛び乗り、笑い声を残して去って行く。



 帝国兵士の誰もがその瑠璃色の髪と黒き鎧を瞳の奥に焼き付けた。



ハジメマシテ な コンニチハ!

高原律月です!


竜の魔女、第118話の完成ですー!


いよいよ総力戦に突入しそうな予感がしますね!

ベルちゃんを下衆で嫌なヤツにしたくて試行錯誤してるのですが、今いちヒールになり切れてない感がありますね……(;'ω'∩)


盛り上がるのは戦いの最中に兜を持って歩いて煽りながら帝国兵を誘い込んで罠にはめてバトラス・ハリファ辺りを討ち取るとかだったんでしょうけど、ぶっちゃけ将兵が最前線で戦う訳がないので没にしました(笑)


まあ、ギリ見える距離で戦闘になったとしても悠長に見つめてるヒマもないでしょうしꉂ(´꒳` )ケラケラ


そしたらド正論で論破するだけの中途半端なゲスになっちゃいましたよ!

論調に人間味がまったくないだけで、ある意味だと正論だからゲスというよりはサイコパスというタチの悪さ(笑)


フェードラッヘのお二人はどうやって地獄に送ってやろうかと悩みながら次話を書いていきたいと思います!


それでは、また次回〜 ノシ

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