#10.戦場
ーー獣臭い匂いが鼻につく。夜風がその匂いに混じる乾いたヨダレのむせ返るような匂いを運んだ。
「マスター、覚悟はできましたか?」
「ああ……」
「それでは参りましょう」
横を歩く凛とした女性は美しい赤い瞳で暗闇を射抜き、その双眸が見据える先を艶めかしい足取りで踏み進める。絹のような淡い青髪を風に任せて踊らせその歩みを止めると、地面を踏みしめて踵を擦りあげた。
「マスター、聴こえますか?」
「ああ、聞こえる」
「飢えたケモノ達の汚い喘ぎが私たちを待ってますよ」
「言葉になってないだけゴブリン達よりはマシだな」
「それはけっこうです」
彼女は月明かりに照らされた美しい切っ先のような横顔をこちらに向けることもなく微笑んだ。
「一発目は思いっきりかましてあげてください。マスターの速度で突撃されたらきっとワンちゃん達も驚きますよ」
「わかった!」
僕は大剣を後ろに振り下げ、自分の足を地面に埋もれさせるくらい両足を踏みしめる。地面を蹴り上げると返ってきた反動で僕は飛ぶように夜の野原を駆けた。
「うおおおおおっっ!!」
足が着地する度に体が加速し、急加速に身体中の血液が後ろに吹き飛んでいくような脳内の酸素が後頭部にへばりつくような不思議な感覚に包まれる。
群れの鼻っ先に差し掛かっても僕は止まらず、ハウンド達を体当たりで跳ね除けながら大きく振り回した大剣で犬共をなで斬りに吹き飛ばす。
「ふんっ!!」
振り回した勢いをそのままに僕は大剣で地面を突き刺して飛び跳ねる。なるべくハウンド達の視線をこちらに集めるようにド派手に身体を翻しながら大剣を振り上げた。
「いっけぇえええええ!!!!」
振り上げた大剣ごと自由落下すると衝撃で地面が爆ぜる。めくれ上がる地面と共に何匹もののハウンド達が吹き飛んでいく。
「ーーキャン、キャンっ!!」
出鼻くじかれたハウンド達は悲鳴を上げる。
「マスター、ナイスです!」
彼女の声がつぶさに聞こえると、僕の肩をなにかがヒョイっと乗り上げ、僕は思わず空を仰いだ。
青い髪の少女が月を背に空をたゆたい、両腰に携えた鞘から切っ先を滑らせる。鉄の擦れる音が旋律のように響き渡ると前方で様子を伺っている群れを急襲した。
「まるで、暴風だな……」
何匹ものハウンドを踊るように切り裂きながら彼女は血しぶきを巻き上げる。舞い上げられた血はすぐに空へと融けてゆき、白い光となって瞬いた。
刹那にどれほどの敵をなで斬りにしたのだろうか、すぐさま彼女が退くと、僕も合わせるように飛び退いた。
「マスター、ここからは軽くでいいです。持久戦になりますよ」
「そうだな、押し寄せるハウンドを押し返すだけでいい」
僕たちは背中合わせに立つと、彼女は言った。
「左手、斜め前……突撃どうぞ」
「はいよ!」
彼女が的確に敵の母数が多い方向を指示しながら僕の突撃に合わせて横からすり抜けるようにハウンド達をなで斬りにする。時間を開けずにすぐさま飛び退いてはまた急襲を何度か繰り返していると、火矢が夜空を飛んでいく。
「頃合いですね、いったん下がります」
僕たちは全速力で後方に離脱すると僕たちと入れ違うように自警団の人たちが弓矢を空へと向ける。
「放てぇええええ!!」
号令が響くと無数の風切り音が降り注ぐ。
「尽きるまで射ち続けろー!!」
僕たちが防衛線まで下がると村の人たちが神聖魔法をかけて体の負荷を軽減してくれた。
リコは欠けた剣を新調してもらい、僕も軽くなった体の確認をする。
「もう充分です、ありがとうございます」
アナほどの神聖魔法ではないが、ずい分と疲れが取れたのを実感する。
再度、前線まで駆けて自警団の隊長にリコが声をかける。
「時間稼ぎありがとうございます、防衛線内まで撤退を……」
隊長は黙って頷くと号令を発した。
「ひけぇええ!!」
金属のガチャガチャと当たる音が遠のいていく。
「さて、どれくらい減りましたかね?」
リコと二人で辺りを見回すと物陰が見当たらない。
「まさか、これで全滅?」
僕は安堵したように言葉を零したが、胸を撫で下ろすヒマもなく嫌な風が吹き抜ける。
「ーーーーウォオオオオオオンンンッッ!!」
ひときわ大きな遠吠えが木霊すると、数え切れないほどの眼光が僕たちを睨んでいた。
「そう上手くはいかないか……」
「向こうもだいぶ数は減りました、もう一押しです」
「ああ、そうだな」
握り締める大剣から手汗が垂れ、僕のほほを汗が伝った。
ハジメマシテ な コンニチハ!
高原 律月です!
竜の魔女10話になります!
序章が終わり、本格的に物語が始まりました!
けっこー脳死で進めてるので文体がおかしいとこがチラホラあって自分で見直しするのが怖いです(笑)
こゆのを作るとセルフでRPGっぽくなってしまってますが、別段意識してる作品とかはないです。
書く量が増えると語彙力の低さを痛感しますね……もっと色々な本とか読んで勉強せねばと思うのですが時間が足りないのが辛いです_(:3 」∠)_
文章力自体も落ちたような気がしたような、変わらないような……と思いながら続きを書きつつ、校正しております。
それでは、また次回〜 ノシ