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#115.忍び寄る気配

 敗走を喫したグランツは本陣に戻ると片膝を付いて頭を下げる。


「此度の敗走、言い訳のしようもございません! 陛下からお預かりした兵士二千名をむざむざと死に追いやり、ベルノート様の面目を潰してしまいましたこと、まことに申し訳ございません!!」


 日暮れに差し掛かりすっかり暗くなった陣内で黒装束の鎧に身を包む女性が色気のある笑みを浮かべた。


「よいのです、これはまだ初戦……敵の手の内を知るには多少の犠牲は詮無きことです。

 グランツ、ご苦労さまです。

 よくぞ生きて戻ってきてくれました、陛下もきっと同じことを仰られるでしょう。

 お下がりなさい、ゆっくり休むとよいですよ」


 瑠璃色の髪を無造作に流しつつも妖艶な眼差しが優美な美しさを作り出し、落ち着いた言葉遣いも相まって年齢や性別も関係無く相対する者を身震いさせるだけの威厳を彼女は讃えていた。


「し、しかし……」


 グランツの目はどこか怯えたようで、冷や汗を流しながらベルノートを見やる。


 女性は腰掛けた椅子から立ち上がり、すらりと伸びる長い手足を可憐に踊らせる。グランツの元まで歩み寄り、腰まで伸びた髪が風に吹かれて艶やかになびく。


「しかし―――、なんですか?

 言ってごらんなさい、聞きましょう―――」


 グランツは暗い瞳に睨まれて固唾を飲んだ。

 彼のあごに添えられたベルノートの細い指先は彫刻のように脆く繊細だ。それでも、その一指だけで数多の戦場を駆けてきたグランツを縛り上げる。


「―――黙っていては分からないでしょう?」

「いえ……その……」


 ベルノートは笑顔を見せたまま、グランツに問いかける。


「言い訳をしたいのですか?

 それとも汚名返上の機会が欲しいというのですか?

 ―――負け犬のアナタが?

 飼い主の命令を満足にきけもしない駄犬が?」


「め、滅相もございません……」


「グランツ、二度も同じことを私に言わせるのはアナタくらいのものですよ?」


 彼女の笑みが柔らかくなっていくとグランツは怯え、まるで猛獣と対峙したかのよう肩を震わせる。


 ベルノートは数秒ほど置いてから立ち上がり抑揚のない声色で言った。


「―――お下がりなさい、いいですね?」


 その言葉のすぐ後、地面に柔らかい何かが落ちる音がする。


 ―――ポトッ。


 不思議に思ったグランツがベルノートを見上げると彼女はいつの間にか剣を抜き払っていた。


 振るわれた剣先に僅かな血が垂れている。


 遅れてやってきた痛みにグランツは自分の右耳が切り落とされたことを理解し、人目もはばからず野を転げた。


「ぎゃああああああ―――!!??」


 ベルノートは無様に転げるグランツを踏みつけ、身の回りの者にハンカチを寄越させる。


「うるさいですねぇ……言うことがきけない耳など必要もないでしょう……?」


 まるで爪先を整えるようして愛剣に付着した血を丁寧に拭き取り、鞘に納める。


(抜く所作がまるで分からなかった……俺はいつ斬られたんだ……?)


 ベルノートが美しい赤瞳の中にケモノのような瞳孔を浮かべる。頬に返り血を付け女性らしい微笑を見せるとグランツの傷口をハンカチで押さえた。


「痛いですか、グランツ……?

 アナタに酷いことをしてしまったダメな主人を許して下さいね。


 ですが、これはアナタに期待しているからこそなのですよ。


 ―――グランツはとても利口な子、言ってる意味は理解できますね?」


「ぃ、イエス……フロイライン……」


「いい子ね、グランツ……」


 ベルノートは自身の胸元までグランツを抱き寄せて頭を撫でる。

 彼女の鎧の左胸に描かれたスノードロップの家紋がグランツにとって死よりも恐ろしい何かに見えた。


「―――さあ、お行きなさい。

 今は体を休めて―――、決戦はまだ先よ―――」


「し、失礼します……」


 グランツはフラフラと立ち上がり、千鳥足で陣幕を後にするようにして歩く。


「―――あ、そうそう!!」


 グランツが薄い反応で振り返ると彼女は頬に紅色を差し、満面の笑みを彼に向けた。


「もし―――、もしもよ―――?」


「はい」


「もし同じ過ちを繰り返すならその二枚舌、次は割かせてもらいますからね?

 そうならないと期待してますよ、グランツ?」


「イエス、フロイライン……」


 罰として耳を落とされた男が力のない足取りでその場を後にした。


 憔悴したグランツが陣幕を出て少しすると、白い鎧を纏う二枚目の男が陣幕にやって来る。


「―――うわっ!?

 ―――なんじゃ、こりゃ!!」


 彼が足元に転がる耳を見て目を丸くする。

 

「おい、ベル!!

 お前、またやったのか?」


「あら? ヘンディ?

 何か文句でもあるのかしら?」


 ヘンドリクセンは顔を手ひらで覆い、大きなため息を吐き出す。


「お前なぁ……腹いせに部下をいびるの、いい加減やめろよなぁ……」


「むぅー、それは誤解ですよ?

 あの子達が頑張れるよう心を鬼にしているのです、私は」


「……にしたって、これは悪趣味だぜ?

 どこからどう見たってやりすぎだろう」


「あら、グランツは賢い子ですよ?

 次はきっと上手くやります! 怖い思いをしないよう必死になってやってくるハズですよっ!!」


「ったく、相変わらず胸くその悪い女だな。これが裏表なく本気で言ってんだからぶっ壊れてやがる」


 無邪気に笑うベルノートを睨むようにしてヘンドリクセンは顔をしかめる。


「―――ねぇ、ヘンディ?」

「あ?」

「そんなどーでもいいことを言いに来たんじゃないんでしょう?」


 ベルノートの催促に用事を思い出したヘンドリクセンがぽんっと手を叩く。


「お、そうだった!

 偵察隊から連絡があったんだ!」


「ふぅーん? それ、面白い話なのですか?」


「ああ、たぶんお前好みだろうな。

 ファリドのじぃさん達が山越えしてくるみたいだぞ、行くか?」


 途端、ベルノートは狂気じみた笑顔を見せて黄色い声を上げた。


「ファリドおじい様とバハディーン様、お二人の首を見たらあの子達は一体どんな反応するのでしょうかぁ? 興味ありますねぇ〜」


「うぇ……ホントに趣味わりぃな……」


「特に本陣で指揮してた黒髪の子―――、あの子は私と同じ特別です。

 わたし、恋しちゃったかもしれませんっ?」


「ん? あの見慣れないヤツか。

 俺はてっきり大将はアクラフだと思ったんだが変な小僧が大将やってたな、そういや……」


 先の戦い、公国軍は帝国軍の陣容を把握する為だけに先遣隊を差し向けていた。

 例え先遣隊が全滅したとしても敵の陣容さえ分かれば取れる策は幾つもある。


 ―――ここに公国二本刀の恐ろしさがある。


 二人は味方の犠牲も厭わず、やり慣れた相手の裏をかくことで勝ち切る事だけを考える。

 兵士を使い潰す戦い方をさせれば彼らの右に出るものはいない―――。


 先の初戦も味方を囮にしながら二人は敵陣深くまで侵入し、偵察を行っていた。


 護衛も付けずに行うソレは敵の意識の裏をかく、自分達は絶対に死なないという自信があるからこそ出来る異常行動ともいえる。


「彼を見た時、私のレーヴァテインが疼いたんですよぉ、これって運命ではありません?」


「おいおい、お前は恋する乙女ってタマじゃないだろ……このイカレお嬢が……」


「し、失礼ですねっ!

 戦場にかまけて行き遅れとは許せません!!」


「そ、そこまでは言ってないぞ!?」


 ベルノートはほほを膨らませたがすぐに怜悧な横顔を見せ、冷たい微笑を浮かべた。


「―――と、まあ。そんなことはおいといて……」


「お? 珍しくヤル気じゃねーか、ベルッ!」


「小汚いじぃさん達の首二つ、持ち帰ってくればいいんですね?」


「ああ―――。

 頼むぜ、黒妖の―――……」


「子供のお使いにもなりませんよ、山越えして死にかけている年寄りの首なんて。

 ―――ヘンディ、私のお楽しみはちゃんと残しておいてくださいね?」


 陣内を突風が吹き抜け、ヘンドリクセンが僅か数瞬だけ目を伏せる。



 彼が再び目を開くとベルノートの姿はすでになかった―――。


ハジメマシテ な コンニチハ!

高原律月ですっ!(⊃•̀д•́∩)


竜の魔女、第115話が出来ました!

前回が後書き長すぎたので少し反省です(笑)


ちょっとバトルファンタジー要素の復活ですw

この作品は軍記物ではありませんからねっ!


サイコパスお姉さん登場です、こあいです。

あとおちゃらけサイコパス兄さんも登場しましたね(笑)


というか、あれです!

全然本編に帰れる気配しないです!!

助けてください! _(:3 」∠)_


それでは、また次回〜 ノシ

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