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#112.アイシャ・ルルクゥール

 

「―――ラマンユさんっ!!」

「アイシャ!!」


 ノイシュの村の付近に野営をするということで責任者として挨拶に来たラマンユが馬小屋に馬を停めていると、よく見知った顔が人目もはばからず彼の胸に飛びつく。


「久しぶりだな、 息災だったか?」

「ええ、この通り元気です!」


 この三年間、何度かノイシュの村を訪れアイシャの様子を見守ってきたラマンユは眉尻を下げ、口元を綻ばせた。


「ラマンユさんもお変わりなく?」

「ああ……」


 それは事情を知らない者からすれば若い男女のそれに見え、周囲の空気は心無しか緩んだ。

 それに気が付いたラマンユが耳を赤くしながらアイシャから距離を置く。


「離れろ……」

「―――?」


 アイシャが首を傾げるとラマンユは真っ赤な耳のまま、咳払いをして言った。


「今日は任務だっ!!」

「―――ぇ……あっ!!」


 アイシャが辺りを見回してようやくバトラスに気が付き、赤くなった頬を両手で押さえ、白い肌を真っ赤にして走り去っていく。


「ご……、ごめんなさいぃぃい〜!!」


 ラマンユがぎこちなく顔を横に向けるとバトラスがシワだらけの顔をいつも以上にクシャクシャにして目を細めていた。


「ラマンユ……お前、やるなぁ!!」

「……ち、違いますからね!」

「よいよい! ハッハッハッハッ!!」

「本当に違いますからっ!!」


 バトラスは必死に否定するラマンユをあしらいながら豪快に笑う。


「お前ひとりでは心細かろうかと思ったが、俺はとんだおじゃま虫だったようだな!」


「……彼女とはそのような関係ではありませんからね?」


「そうかそうか、たまには長く休みを取れよ?」


「い……要りません……」


 ラマンユが不貞腐れたような言い方で突っぱねるとバトラスは不意に足を止め、髭を揉みながら威圧するような鋭い目つきで彼を見やった。


「……お前が良いか悪いかではない、あの子のために休みをちゃんと取れと言っておるのだ。

 余計なお世話かもしれんが、俺も若い頃は戦にかまけて家内を泣かせてきた口でな……」


「バトラス殿……」


「気が付けばこの歳よ、家内には申し訳ないことをした……同じ轍は踏むなよ?」


 それから二人は村長に軽い挨拶を済ませて家から出た所で足を止める。ラマンユが木の陰から覗く青い瞳に気が付き、伺うようにしてバトラスを見やった。


「―――行ってやれ、隊の方は任せておけ」

「……ありがとうございます」


 バトラスが去った後、アイシャがたどたどしい足取りで歩み寄ってくるとラマンユは優しく微笑んだ。


「あの……さっきはごめんなさい……」

「……気にするな、気恥ずかしかっただけだ」

「お仕事は?」

「バトラス殿―――……と言っても分からないか、さっき人に任せたよ」

「それじゃあ、今日はもうおヒマですか!」

「ああ……」


 途端、アイシャは明るく笑い、ラマンユの腕を掴んで駆け出した。


「お、おい……急に引っぱるなよ……」

「明るいうちに見せたいものがあるんですよ!」


 彼女に引かれるまま村を歩き、家の庭先までやってくる。


「これです!!」

「花じゃないのか?」


 アイシャは小さな花壇に植られた若草を満面の笑みで見つめる。


「シオンという東の国のお花らしいです。先日村を訪れた行商の方から分けていただきました」

「東の国、か……」


 ラマンユが呟いて少し目を伏せると、少女は慌てて両手を振った。


「あ、いえ……それよりもっと東にある国だそうですよ。

 私達が考えてるよりこの世界は広いですねぇ」

「育つのか?」

「ふふっ、それはどうでしょう?」


 アイシャは膝を揃えて屈むと小さなじょうろで根元に水をかけながら笑った。


「……花を咲かせるのは秋頃と聞きました、半年後が楽しみです」

「咲くといいな……」


 ラマンユがそう答えると、彼女は彼の顔を見上げて笑顔を作る。

 口の端が僅かに震え、それは笑顔と呼ぶにはあまりにも痛切なものだった。


「―――必ず帰ってきてくださいね?」


「もちろんだ、約束する」


「アイシャは貴方を愛してます―――……だから―――……」


 彼女は根付いたばかりのシオンに顔を向け、彼の言葉を待つようにして目を伏せる。

 突然の言葉に少し驚き、ラマンユは戸惑うようにして口を開いた。


「アイシャ、すまないが―――」

「わかってます」


 彼女の横顔を夕陽が照らし、すっかり大人びた女らしい顔立ちは絵画のように切り取られ、女性特有の憂いは淡い輪郭を優しくぼかす。


「あの人にかないっこないなんてこと、私がよく分かってます、―――それでも私は貴方が好き。

 例え、貴方の心の中に私が居なくても―――。

 それでもいいって、傍に居たいって……どうしたってそう思ってしまうんです……」


「アイシャ、僕は……」


「マリアムさんは死んじゃったんですよ?

 思い出の欠片の中にあの人を捜したって死んだ人は帰ってきてはくれません。


 いつまで貴方はそうしてるんですか?


 彼女のこと、ちゃんと憶えてもないのにっ!!

 思い出だけ綺麗に着飾たって! そんなの、意味なんてありませんよ!!

 守れもしなかったクセしていつまでみっともなく引きずるんですか、アナタは!!」


 荒い息を吐きながらおそるおそると彼の顔を見上げるが、ラマンユの伏せた顔は前髪に隠され、表情を読み取ることは出来なかった。


 少女は背中を向けて無言で歩き出す彼を必死に抱きとめた。


「―――待って!!」


 キュッと閉じた目には涙が、震える肩のまま掠れる声を絞り出す。


「こんな女で幻滅しましたか―――?」

「いや、お前の言う通りだと思う。

 いつまでも前を向いて歩けない僕が悪い……マリアムだってきっと同じことを言うさ……」


 ラマンユが胸の前で組まれたアイシャの手を優しく解き、また歩き出す。

 過呼吸を起こしそうな息を抑え、アイシャは遠くなっていく彼に向けて叫んだ。


「―――わたしっ!!」


 そんな彼女の言葉にラマンユは足を止めて振り向いた。


「待ってますから―――!! ずっと―――!!」


 彼はアイシャに微笑みかけると、足掻く為に戦地へと歩みを進めた。


ハジメマシテ な コンニチハ!

高原 律月です!


竜の魔女、112話になります!


いよいよ文量がとんでもなくなってきましたが、書きたい部分の半分くらいの位置なんですよね……(震え声)


少しカットを考えつつ、丁寧にやりたい気持ちもあって……どうしようか悩んでおります(笑)


今回も読んで下さった方、ありがとうございます!!

最近は執筆に手一杯で書けていませんでしたが、いつも感謝しておりますっ!


ブクマしてくださってる方も評価してくださった方も本当にありがとうございます!


それでは、また次回〜 ノシ

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