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#111.あの丘を越えて

 数日後、第三師団の第二から第五中隊の四隊は首都オランジットから出征した。

 臨時連隊長は兼ねてより推薦のあったラマンユ・ハキラフが指名される。


 ある者は彼を値踏みするように、ある者は訝しがるように、ある者は取り入るように、それぞれの思惑が交差するその視線は若き将に向けられる。


 華やかな出征のパレードに後押しされて彼らは誇りを胸に街の大通りを行進する。


「―――圧巻ですな、ラマンユ様」


 彼の隣、この度の遠征軍で副将に選ばれた第二中隊長バトラス・サリクは後ろを振り返り笑った。


「……バトラス隊長」

「今回は貴殿が上官だ、遠慮なく物申していただきたい」

「しかし……」

「しかしもカカシもありませんぞ。

 今の貴殿は仮とはいえバハディーン様と同じ立場だ」

「そうですね……」

「そして、いずれファリド将軍やジャミル将軍と肩を並べる……貴殿の後ろを歩く者達はみなそれを感じ取っています。

 ファリド将軍の後を継ぐのはラマンユ・ハキラフである―――と……」

「バハディーン様はどうお考えなんでしょうか?」

「カッカッカッ!! そうきましたか!」


 バトラスは大声で笑い、仰け反りすぎて思わず落馬しそうになる。


「おっとっと……」


 立て直してラマンユを見ながら不敵な笑みを浮かべる。

 老練な将はもったいぶるようにニヤニヤと口の端を揺すり、訝しがるラマンユの様子を見て目を細めた。


「―――貴殿を将軍に推したのはバハディーン様です」

「―――ッ!?」


 ラマンユが目を開いてバトラスを見やると老将はからかうように笑った。


「意外だ……と言いたげな目をしてますな?」

「当然です、自分はバハディーン様に叱責されてばかりですから……」


 バトラスは神妙な面持ちを作り、平原を見ながら言った。


「年寄りの昔話を聞いてもらえぬか?」

「ええ……」


 のどかな平原を小鳥が横切っていく。


「―――あれは五十年前だった。

 当時の帝国は今の1/3にも満たない領土しか持たぬ大陸の中でもよくある普通の国だった。

 どちらかと言えば大国からの侵略を阻止する防衛戦が戦いのほとんどだったよ」


 老兵が昔を懐かしむように目を細める。


「この辺りの平原も敵国に押し込まれた時があってな。

 近隣の村では女は拐われ、男は皆殺し……ということはそう珍しいことでもなくてな。

 兵士はみな国を守る為に必死に戦に明け暮れたものよ」


 耳を傾けるラマンユを見やり、バトラスは白い歯を見せて笑った。


「当時ひよっこ兵士だった俺は自分の無力を恨んだよ。

 陣中で祖国を守る兵士を労う為に食事を提供してくれた村が次に通る時には見る影もなく踏み荒らされて廃村となる―――、そんなことはザラだった。

 そんなある日、この国は変わった。

 貴殿も知っておろう?」


「三傑……」


「そうだ。この国に革新的な技術をもたらし豊かにした天才アクバル、内政の混乱を収め確固たる王政を作り上げた摂政ハザール、そしてもう一人は―――……」


「猛将ファリド―――ですね?」


「もちろんジャミル将軍のお父上や他の将軍が駄目だったかといえば、そんなことはない。


 一人一人の将は正に一騎当千。


 長年、戦場を駆けた将軍達は俺達ひよっこにとってはみな英雄だよ。


 しかし、八人将の中でもファリド将軍は別格だった。


 戦場を駆ける姿は迅雷の如し、振るわれる槍は一振りで小隊を壊滅させ万の敵兵を切り裂いて敵軍に風穴を空ける勇猛さは人知を超えた正しく軍神―――、俺も必死にファリド将軍の後ろをついてこの歳までやってきた。


 ただ必死に、幾多の仲間や部下達の屍を越えてユディル帝国第三師団は大陸最強とまで謳われるようになった」


 老兵の語る言葉の真意を汲み取れず、ラマンユは訝しがるように眉根を寄せる。

 それに気が付いたバトラスは照れるように頭をかいた。


「あー、すまぬすまぬ。どうもこの歳になると話が長くなってな……要するにだ……」

「……はい」


  咳払いを一つして老兵は言った。


「先の戦、お前を見て思ったよ。

 あの日、祖国を守る為に土にまみれて戦いに明け暮れた若かりし日に見たファリド将軍―――……俺の英雄の背中とお前の姿は重なった」


「そんな、自分など遠く及びません!」


「そう、謙遜するな。その歳でお前すでに俺やバハディーンより上だよ。

 バハディーンのヤツも感じたんだろう……いや、恐らく俺よりもっと前から―――」


 バトラスがそう言ったところで後ろを振り返り、白い歯をまた見せた。


「話に熱がこもり過ぎてしまったな。連中を置いてけぼりにしてしまったわ!!」


 つられてラマンユが振り向くと兵士達は遥か後ろにいた。

 速度を落とし、行軍が先行するラマンユとバトラスの二人に追いつく頃になると小さな村が見えてくる。


「ノイシュの村……」


 ラマンユは誰に言ったわけでもなかったが思わず口に出てしまう。


「誰か知り合いでも?」


 耳聡いバトラスは聞き漏らさず、少しニヤけたような顔をして訊ねた。


「……いえ」

「ラマンユ殿、嘘はいけませんなぁ〜?」


 バトラスが白い髭を揉みながら小指を立てる。


「ズバリ! これでしょう?」

「……違います」

「貴殿のようなむっつりは分かりやすいですなぁ!!」


 ラマンユは隣に聞こえるように大きくため息を吐き出して言った。


「知り合いの生まれた村ってだけですよ……」

「ほほぅ? 人に興味を持たなさそうな貴殿が?」

「市井にいた頃の知り合いです……今は赤の他人です……」


 バトラスは馬を止め、目を瞑りながら髭を揉む。


「……ラマンユ殿、いえ連隊長殿」

「なんですか?」


 ラマンユも馬を止めて彼の方を見やる。


「今夜は冷えそうですな、早めに兵達を休めた方がよろしいかと……」


 右目を開け、したり顔でラマンユを見やり、バトラスはニカッと悪戯っぽく笑う。


「個人的な事情で行軍を止める訳にはいきません……」

「これは副官としての提言です。

 ご覧なさい、鳥の飛ぶ位置が低い……湿度が高い証拠です。

 まだ春先、夜になれば冷えますぞ?」


 ニヤニヤと笑うバトラスをしばらく無言で睨んだあと、ラマンユはまた大きく息を吐き出した。


「はあ……敵いませんね、アナタには……」

「伊達に歳は取っておりませんよ、ハッハッハッハッハッハッ!!!!」


 日は西の空から地平線の向こうに見える山の中へと向かっていた。



ハジメマシテ な コンニチハ!


高原 律月です!


竜の魔女、111話いかがでしたか?


一向に終わる気配がないラマンユ君パートですが、もはや別作品レベルになってきていますね()


終盤の仕上げをどうしようか悩みつつ、続きを執筆していきます!


それでは、また次回〜 ノシ

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