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#108.リィンカーネーション

 ラマンユはマリアムを部屋に残して夜の街を歩いた。

 街外れの真っ暗な公園のベンチに腰掛けると、月の明かりが彼の背中を照らした。


「―――クッ!!」


 懺悔をするよう両手を固く結んで寄せた眉の間には深いシワが刻まれる。


「―――どうした、ラマンユ?

 ……らしくないじゃないか?」


 どこからか声が聞こえると、ラマンユは平静を装うようにして眉間のシワを取り払う。


「……いえ、なんでもありません」


 感情を殺したような平坦な声でそう答えると物陰に立つ人物は言った。


「……殺しはイヤか?」

「いえ、そんなことはありません」

「―――次の任務が最後だ。

 お前の顔は世間に割れつつある……暗殺稼業から卒業だ、よかったな……」

「ですが、僕にはこの道しか―――!!」


 突然の言葉にラマンユは振り返る。

 用が無くなれば自分など始末される―――、残されたマリアムはどうなるのか、彼は思わず悲痛な声を上げていた。


「安心しろ、軍部に席を用意してある。

 お前もこれからは大手を振って街を歩けるようになる」

「……本当ですか?」

「上もお前ほどの優秀な人間を失いたくはない。使い捨てるにはお前は余りにも惜しい……そういう話だ……」

「……分かりました」


 ラマンユは胸を撫で下ろすように息を吐き出してベンチに深く腰を下ろす。


「一週間後に連絡をする、しくじるなよ?」

「まさか、失敗したことなんてありませんよ」

「―――ああ、期待してるぞ」


 ラマンユは立ち上がると、ほのかな明かりを頼りに夜の街を歩く。

 静かになりつつある街の夜風は暖かった。


 それから、一週間後。


 よく晴れた青空にラマンユは珍しく笑った。


「マリアム、今日で最後だ……」

「本当なの?」

「……ああ、もうこんなことはしなくていい」

「良かったね、ラマンユ!」


 マリアムが嬉しそうに笑うと少年は咳払いをした。


「……気を抜くな、命取りになるぞ」

「そうね、気を付けるわ」


 二人はいつも通りの手筈で別れて路地裏を歩く。


(これが最後……か……)


 少年は目的地まで辿り着き、いつもと同じように扉を蹴破る。

 蹴飛ばした扉の向こうはラマンユの予想を裏切る光景だった。


「―――っ!!?」


 誰もいない部屋に一人の少女が横たわっている。

 黒髪の少女はうつ伏せで床に転がり、血溜りの中でもがきながらラマンユの元へと這い寄る。


「えへへ、ごめん……ドジった、みたい―――…」


「―――マリアムッッ!!」


「わたし―――……、バカだからさ―――……。

 浮かれちゃったんだよ―――……そしたら、このザマ―――…………」


「…………喋るな、傷にさわる」


 ラマンユはマリアムを優しく抱き上げ、刺された腹部を強く抑えながら布を巻き付ける。

 少女は少しだけ呼吸が楽になると愛する彼の頭を抱き寄せた。


「生まれ変わったら―――……。

 きっと、キミ……と―――……」

「―――っ!?」


 マリアムの手がだらりと床を転げ、ラマンユの腕に重さが掛かる。


「―――マリアッ……!!」


 彼は彼女の名前を呼びかけて、口びるを噛みながら叫びを押し殺す。


「―――ぐぅ!!」


 真昼間のハズなのに妙に薄暗い室内で少年はただ泣いた。

 二人の思い出を捜して、自分を呼ぶ時の彼女の笑顔を―――、カラカラとよく通るあの声が、少し口の悪い説教も―――……もうこの世界のどこを捜したって居るはずのない一人の少女の為に泣く。


「どうして……僕は…………」


 もっと優しくすればよかった、と悔やんでも悔やみ切れず少年は言葉にならない声を漏らした。


(人ってさ、その人を忘れる時は声から忘れていくんだって。

 やだなぁー……わたし、キミの声が好きなんだもん……)


「―――僕もだよ、マリアム」


(ねぇ! ちゃんとご飯は食べなさいよっ!!

 死んじゃったらどーすんのさ!! キミが死んだら私はどうやって生きていけばいいのよ!!)


「僕だってそうさ、お前がいなきゃ―――……」


(ねえ、ラマンユ?)


「……なんだ」


(キミの子どもはきっと可愛いんだろーね! 早く見たいなぁ〜!!)


「バカが、もう見ることなんてない―――……っ!!」


 しばらくして、顔を上げた少年は言った。


「……これはアナタの筋書きですか?」


 後ろに立つ男は冷徹に答える。


「―――そうだ」

「……なぜ?」


 黒ずくめの男は煙草に火をつけるとラマンユの肩を叩く。


「おめでとう、これでお前も頻繁している押し込み強盗の被害者だ。

 お前に向いた疑いの目は強盗に襲われた悲劇の若い男女を哀れむ目に変わるだろうな―――。

 お前達は2日前からここに住んでいることになっている、これはそういう筋書きだ……」


「そんな―――っ!!」


「お前が拾ったオモチャに情けをかけていたことくらいこっちが知らない訳がないだろう。

 黙認してやっていたんだ、使えそうだったんでな」


 吸い終えた煙草を床に擦り付け血溜まりの中に投げ捨てて、男は裏口から出ようと歩き出す。


「―――さない」

「なんだ……?」


 ぽつりと聞こえた声に足を止める。


「許さない……お前らも、この世界も…………!

 僕はお前達を許さないッッ―――!!」


「赦してくれなんて思ってないさ」


 裏口が閉まり、少しすると兵士達がやって来る。年配の兵士が少年を励ますようにして優しい言葉をかけた。

 マリアムの遺体を兵士が連れ去り、喧騒の中でラマンユは一人、世界に置いてかれたような感覚を憶えた。


ハジメマシテ な コンニチハ。

高原律月です。


竜の魔女、108話になります。

この展開が分かってから、ここ数話は執筆してて本当にしんどかったです……。


たかーらは性格的にキャラでも人が死んでしまうとしんどくて上手く文章に出来ないタイプのようです。

心を込めて文章にしてるハズなんですが、どうも感動的に作ることが出来ません。


マリアムちゃんは出てきた瞬間から、あー死ぬなぁ……みたいなキャラでフラグもバンバン立ててましたからね、それくらいしないと自身が描けない感じでした。


拙い文章力でごめんなさい。


ちなみに今回のタイトルはダブルミーニングです!


それでは、また次回〜 ノシ

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