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#104.記憶の中で

 僕達を包むようにして燃えていた紫の火が消えると、古い建築様式の建物ばかりが立ち並ぶ街の中にいた。


「この様式……私達の時代より2300年くらい前のものね……」


 横に立つアナがいつものように冷静に周囲の観察をしてそう言った。


(ティアマト、キミ達の時代くらいか?)


(いいえ、私の時代よりも少し前ですね)


 ―――となると、答えは一つか。


「ラマンユの時代か……これまた鬱屈としそうだな……」

「そうねー、今から起きるであろうことを考えたら穏やかなものではないでしょうねー」

「アナ。冷静だな、ホント」

「神聖魔法師はドライなのよ」


 そんな会話を交わしていると、通りの向こうから黒髪の少年が歩いてくる。

 感情の読めない少年らしからぬ顔つきが通り過ぎていくのを眺める。


「なんだか暗いなぁー」


 僕が思わず一人ごちると、少年が僕の方を振り返る。

 目が合ったような気がして戸惑っていると彼は首を傾げて歩いていった。


「……ロイ、そゆとこよ」

「え?」

「チンピラみたいで恥ずかしいからやめてよね!」

「……反省します」


 歩いていく少年の後を自然と追いかけ、路地を歩く。地面の土が少しだけ湿っているような気がした。


「マスター、なぜ彼の後を追うのですか?」

「ん? なんとなく……かな……?」


 ほどなくして賑やかな大通りに出る。


「凄いな、これが2000年以上も前の生活だっていうのか……」


 大通りの左右には隙間なく露店が並び、足の踏み場もないくらいに人でごった返していて喧騒が耳を打つ。


「個人的にこの街を見て歩きたいくらいだな」

「ロイが興味を示すのは珍しいわね」

「どういう風に街が整備されてるのか、気になるんだよ」


 人混みの中をスルスルと通り抜けていく少年の後を追いすがりながらあちこちに目を向けて感嘆する。


「生活水準だけなら下手したら僕達の時代より上だぞ、この街……」

「ロイにはそう見えるの?」

「誰を見ても服や身なりが小綺麗だろ?

 相当に高度な水道技術を持ってる」

「よくそんな所まで見てるわね……」

「それに俯瞰してみないとだけれども、乱雑に建物が建ってないし人の往来がしやすいように道もちゃんと整備されてる」


 これだけの都市計画を行える文化を持った人々がなぜあんな争いを起こしてしまったのか―――、疑問は尽きない。


「……あ、曲がりましたね……」


 ジルがそう言うと、少年は大通りから路地に潜り込む。

 賑やかで華やかな大通りの裏側、少し湿度の高い空気が纏わりつくジメッとした路地から、少年は扉を蹴飛ばして建物の中に押し入った。


 ―――ダァアアァン!!


 蹴破られた扉は派手な物音を立てるが大通りの喧騒に掻き消される。


「―――動くなッッ!!」

「ヒッ―――!?」


 少年は使い込まれた剣を腰から抜き取り、住人を脅すように切っ先をチラつかせる。


「金品と食べ物を持ってこい……それから……」


 鋭い目で部屋の端にいる少女を見やる。


「―――その女をこっちによこせ」


 年端のいかない少年は自分とそう大して変わらない年頃の少女を睨み、男性と女性に切っ先を向ける。


「早くしろ、殺すぞ……」


 脅された男が裏口から逃げようと扉を開ける。


「無駄だ……」


 男性が後退りしながら尻もちを着く。裏口から入ってきた少年の仲間と思しき少女が血塗れたナイフを拭き取りながらニコニコと笑った。


「おとーさん、1人だけ逃げようなんて駄目だよぅー?

 どって腹とか首に"コレ"を刺されたくなかったら大人しく言うこと聞いてね?」


 男性は刺された肩を押さえながら無言で何度も頷き、女性を見やる。

 女性は慌ただしく家中を歩き回り、物をかき集めて机に並べた。


「こ、これで全部です……」

「本当にこれだけか?」

「ええ! 本当です!!」

「―――そう、か」


 冷めた目が怯える女性を写し出した次の瞬間、少年は剣を翻し無抵抗の女性を切りつけた。

 彼女を切りつける寸前、少女の目に入らないよう少年は少女を自分の胸に押し付ける。


「――――きゃあああああああ!!?」

「―――なっ!? 」


 つんざくような悲鳴がそれほど広くもない建物の中に響き渡る。


「おとーさん、アナタもさよーならだよー」

「は、話が違うじゃないかっ!!?」


 ―――……ブシュッ!!


 短剣が男性の首に突き刺さり、ほどなくして彼も力無く床に転げる。


「……撤収だ」

「ほいほーい!」


 少年達は集めさせた金品達を抱えると裏口から飛び出すようにしてその場を後にした。


「アイツらぁ!! なんてことを!!」


 記憶の中だから干渉出来ないことは分かっているが、僕は思わず彼らを追いかけた。

 街の端までやって来た彼らのうち、少女の方は汚れた服を着替えると金品を換金しにその場を後にする。

 少年は連れ去ってきた少女を横に座らせて食べ物を手渡した。


「……食べろ」


 少女は戸惑うように彼の顔色を窺った。少年はパンを横に置いて遠くを見る。

 しばらくして、少女が置かれたパンを手に取り少しづつ食べ始める。

 少年は遠くを見たまま、少女に問いかける。


「……名前は?」

「……アイシャです」


 パンを食む手を止めて少女が答える。


「それを食べたら移動するぞ、アイシャ」

「……はい」


 そう言われてアイシャが慌てて食べる始めると彼は優しく笑った。


「ゆっくりでいい」

「はい」


 先ほどまでのことがまるで嘘だったかのように穏やかな時間が流れる。

 程なくして換金を終えた少女が戻ってくる。


「マリアム、どれくらいになった?」

「んー、ちょっち待ってー」


 マリアムと呼ばれた少女が財布を取り出して銀貨と銅貨を見せる。


「さすがだな、金貨を持ち歩けば疑われる。銀貨や銅貨に替えてくるのは機転が利くな」

「だしょー?」


 少年は立ち上がり、アイシャも連れ立ってある建物までやって来る。


「あのー……」


 アイシャの呼びかけに少年は足を止めた。


「……なんだ?」


 アイシャがおずおずと尋ねる。


「私はまた売られるんでしょうか?」


 彼女の言葉にマリアムが声を押さえながら笑った。


「くくっ……ラマンユ……アンタのせいでこの子ビビっちゃってるじゃない!!」

「黙れ……」


 どうしていいか、戸惑うようにアイシャがおろおろと二人を見やった。


「あ、あの……その……」


 マリアムがカラカラと笑うと、少年はしかめっ面を不機嫌そうに更にしかめて建物の中に入っていく。


「あーあ、からかいすぎちゃったなぁー。

 さ、行こっ!!」

「は、はい……」


 二階に上がり、こじんまりとした部屋に通されてアイシャは尋ねる。


「ここは……?」


 決して綺麗とは言えないが、よく手入れされている年季の入った部屋を見渡して彼女は首を傾げる。


「……今日からここがキミの家だ、アイシャ」


 少年は食料と財布を机の置いて部屋の窓を開ける。春の涼しい風がアイシャの頬を撫ぜた。


「えーと、つまり?」


 街の喧騒がアイシャの鼓膜を震わせた。



ハジメマシテ な コンニチハ〜!

高原 律月です。


竜の魔女、104話になります!

ラマンユ君の過去編に突入です。舞台設定のイメージは古代ローマをイメージしてもらえればと思います(その割には出てきたキャラ名はペルシャ系という笑)


たかーらはこういった日常スローテンポを書く方が得意みたいです。

けれども、山場を作れなくてすぐにグダるので長くなるとバトルファンタジーの方がいいみたいです。


話数の設定はしていないのでどれくらいまで続くかは未定になります!


それでは、また次回〜 ノシ

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