#103.回る世界
「……お待ちしておりましたよ、最後の原罪」
黒の神剣を携えた青年が僕に声を掛ける。
「アンタがラマンユか」
「はじめまして、僕が始まりの原罪ラマンユです」
ラマンユは好青年らしく温和な笑顔で笑い、身構える僕達に剣を降ろすよう促した。
「そう警戒しないで下さい。今はアナタ方と剣を交えるつもりはありませんよ」
「だったら何をしに来たというんだ!」
「ヴリドラの討伐をお祝いさせてもらおうかと……おめでとうございます、英雄ロイ。
アナタはまた一つ世界を越えましたね」
「アンタのその笑顔、嘘くさいんだよっ!」
ラマンユは少し驚いたように目を丸くして微笑を浮かべた。
「そう、警戒しないで。
本当に祝辞を述べにきただけなのですから」
「用が済んだのならさっさと消えろよ」
「まあそう邪険にしないでください……」
絶えず視界に捉えてたハズのラマンユがいきなり僕の真横に現れる。
「―――なっ!?」
「ヴリドラ、彼女は厄介な存在でした。
僕の権能が届かない存在であり不純物でしたからね。取り除いてくれたキミには感謝してるんですよ、ロイ・オックスフォード」
また彼が消える。
「―――彼女の焔は因果を生み出す。
それはこの世界のルールである僕にとっても看過し難いものでした。
加えて、ヴリドラはミティアによく似て聡明でしたからね。
この虚構の世界で彼女だけは質量を持っていた―――……ロイ、キミは打つ手を間違えたんですよ」
ヤツの声に釣られて天井を仰ぎ見ると、ラマンユは世界を上下逆さにしたように平然と天井を歩いていた。
彼の髪の毛さえも天地の理を無視し、その異様さに拍車をかける。
「ヴリドラの言葉は真実です。
キミはヴリドラの手を取るべきだった。この世界そのものである僕と対峙するのであれば彼女の手を取り、ミティアを手放すべきだったんですよ。
この美しき竜の魔女は僕の持ち物ですからね」
ラマンユはリコの横に現れると、彼女の肩を抱いて引き寄せる。
「リコから離れろ!!」
ヤツをリコから引き離そうと手を伸ばすと掴んだ手は空を切る。
「離してください―――!!」
ラマンユはリコの肩を抱いたまま、音も無く一瞬で僕の後ろに現れる。
「ミティアを永遠とし、僕のモノにする。
その為だけにこの世界は存在しています。
あの日見た彼女は強く美しかった。再びミティアと邂逅する為、どれだけの時間と労力を使ったことか―――……。
この器を使い、世界の膿を注ぎ、遍く生命を犠牲にすることでミティアは神となり、僕と彼女の永遠は完成するんです」
「なら、なぜ今すぐそうしないんだ?」
僕が背を向けたまま尋ねると、彼はリコから手を離して僕の目の前に現れる。
世界を上下逆さまにして―――。
彼の立つ逆さ向きの世界が正しいのか、僕達の立つ世界が正しいのか、それすらも分からない。
「その質問はナンセンスですよ、神殺し―――
……いや、最後の原罪―――……」
「わざわざ僕に世界を作り直させる必要はないだろ?」
「ありますよ。そのイレモノはあまりにも粗末すぎて面白みがない。
僕に従うだけの模造品で満足することが出来るなら最初から君達原罪なんて必要ありませんよ」
「―――趣味がわりぃな、アンタ!!」
ラマンユが笑いを堪えられないといった様子で腹を抱えて口元を抑える。
「―――趣味が悪い?
人のアナタがそれを言う?
滑稽で笑ってしまうじゃないですか、冗談はやめてくださいよ」
「英雄達がどんな想いで世界を支えてきたか、アンタも知ってるだろ!」
「知りませんよ、そんなこと。
出来損ないの下等種共のいざこざなんてものは見てるだけでも不快極まりない。
所詮、原罪達も不出来でブサイクなゴミ共が産み出した肥え桶です。
ただの当て馬じゃあないですか……下品なアナタ達らしいですよ、とても……」
「人はより良い明日を作る為に希望を見い出して間違えてでも悩んででも歩き続けているんだ!!」
向かいにいる彼はクスリと一笑いして僕と同じ地に立つと、指を鳴らして紫の獄炎で僕達を囲む。
「―――これはある人間の記憶です」
洞内は真っ暗になり、妖美な紫の火が暗闇の中を揺らめいた。
ハジメマシテ な コンニチハ〜
タカハラ リツキです。
竜の魔女、第103話になります。
ラマンユ君、思ったよりメンタルいっちゃってる系の優男でしたね……(笑)
不思議さというか異物感というか、そゆのを出す為に落ち着きなく動き回ってしまい、シーンのイメージがしにくいかもしれませんね……ごめんなさい(笑)
かんわきゅーだい! 私ごとなんですが!
最近、ちょっとバタバタが落ち着いて執筆が進むようになりました!
1話辺りの分量も1600〜2000文字くらいに収まってくれているので(*´꒳`*)ヨキヨキ
つい長文になりがち、大ボス戦も3話構成くらいになってしまうたかーらですが、ここの所はシーン変わる時は思い切って話数を変えてしまえ!えいっ!!とやってみてる感じですね。
ラマンユ君、喋り出すと長いからどこでセリフを切るのかが悩みどころです(笑)
それでは、また次回〜 ノシ