第二話裏切り
「おはようございます!」
「おはよーございまーす」
朝の挨拶が飛び交う、学校の昇降口。
児童会役員の人たちが昇降口に立って挨拶をしている。これもいつも見る光景だ。
五年三組。
少年、優稀のクラス。琥珀とは同じクラスだ。
「優稀、ごめん、筆箱忘れた!鉛筆と消しゴム貸してくれる?」
斜め後ろの席の琥珀が焦った様子で優稀に話しかけてきた。こういう時、少年はためらうこともなく頼みを聞く。
「サンキュ!ほんっと助かるわ!いっやー優稀とダチでよかった!」
そう、優稀にお礼を言う。琥珀はよく物を忘れるのでこれも、いつも通りだ。
「琥珀くーん!ねえねえ、これどっちがいいと思う?」
琥珀はクラスのムードメーカーで人気者。当然、女子にも人気がある。
「えー、また優稀に貸してもらってたの?私に言ってくれればいくらでも貸すのに~」
優稀は、琥珀と仲良くしていることで、たまに女子から敵視されることがある。
琥珀の影響力は絶大だ。
そして、授業の時間になった。一時間目は国語。今日はなんと鞄の抜き打ち検査が行われた。
「ん?おい、出席番号4番!また漫画が入っているじゃないか!」
国語の先生はよく、出席番号で生徒を呼ぶ。なので生徒からは「俺らは囚人じゃない!」と、批判が出ている。
「ん?おい、琥珀!鉛筆と消しゴムはあるが、筆箱がないじゃないか!忘れたのか?」
琥珀だけ、名前で呼んでもらっている。さすがだ。
「あ、えっと、その…優稀に!」
自分の名前が出てびっくりした。こんなことは、初めてだからだ。
「優稀に…筆箱を貸したんです!忘れてた…から」
優稀は琥珀の口からそんな言葉が出たことにびっくりして思わず振り返った。
「またか。優稀。」
また。また?少年はこれまで忘れ物をしてきたことはない。【また】とはなんだろう。
「はぁ」
先生が、わざとらしく、大きなため息をつく。そして続けて言ったのだ。
「いつもこいつの意思で、言うのは避けていたが、お前!いつも琥珀に色々なものを借りていただろう!それなのに何にもないような顔をして!琥珀はいつも授業が終わった後に俺のところへ来てみんなに言いふらすことなく本当のことを教えてくれていたのだぞ!『忘れ物をしたのは嘘で、本当は優稀に貸してあげているんです。』てな!琥珀に感謝しろ!優稀!」
と。嘘だ。これは夢だ。僕はまだベッドの上なんだ。
少年はそう思った。思いたかった。だが、こんなにリアルな夢があるのだろうか。否。あるはずがない。途方に暮れる少年を取り残し、今までの琥珀の証言が先生によって全て話された。人気者の琥珀を疑うものは誰一人いなく、本当は琥珀が借りていることを知っている人は琥珀と口裏を合わせた。そして、少年は、絶対に思いたくもない言葉を思ってしまったのだ。
みんな、死んじゃえばいいのに。
と。
今日の琥珀の噓の証言が瞬く間に学校中に広がった。ひそひそと噂をされる気分は決して、よくはなかった。
「ねえきいた?」
「あいつだよ」
「サイテー」
「クズじゃん」
もうどうでもよかった。疑いを晴らそうと必死になっても醜いだけだ。
少年は一人、家に帰り、帰ってきた母や父に心配をかけぬよう、いつもどおりだったと、笑った。
ジリジリジリ ジリジ…
朝。
少年は学校に行きたくなかった。だが、両親に心配をかけぬよう、笑顔で学校に向かった。
それでも、母と別れてからはその笑顔は保てはしなかった。
憂鬱な気持ちで教室へ足を運んだ。
ガラララ…
また、醜いゴキブリでも見るような目でジロジロ見られるのかと思っていた。だが、それは違った。
教室には人はいなかった。いや、《もう人ではない何か》が山のように積まれている。
少年の目に移りこんだ、人ではない何か、は、足、手、首、胴体、すべての部位がバラバラになった、
クラスメイト達。
少年のあの思いがなぜか、叶ってしまったのだ。
そして、その山の頂点には同じ年頃の子供がいた。その子だけは、生きている。




