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妖刀少女が行くポスト・アポカリプス  作者: 坐久靈二
Chapter.3 存亡

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Episode.81 彼なりのけじめ

 ルカの義足はミーナの義手と同時にリヒトから与えられた物だ。

 喪われた文明の科学力によって作り上げられたそれらは驚くべき動作性と耐久性、更には自己修復機能をも持ち、ミーナの義手はこれまでの彼女の冒険と戦いを支え続けてきた。


 その義手と同じ性能を持つであろうルカの義足が見るも無残な姿となっているとすれば、それは彼が限界を超える脚力で酷使し続けたことを意味する。

 ミーナには彼がどれだけの思いでここまで走って来たか、この場の誰よりも()く解った。


 ルカは義足を引き摺り、ミーナとシャチが作った肉の(えぐ)れた窪みの前へ立つ。

 ここまでの流れで、彼が何をしようとしているのかは火を見るよりも明らかだ。


「駄目だよ、ルカ……。」


 ミーナは当然、エリ同様にルカの事も犠牲にしたくはない。

 しかし義足をボロボロにしてまでその覚悟をしてここまでやってきた彼の姿に、彼女は彼と出会った時のある記憶を思い起こしてしまった。


 ルカが右足を失ったのはダーク・リッチとの最初の戦いの中でのことだった。

 その時彼は、壊物(かいぶつ)の巣窟であった遺跡の地下で瓦礫(がれき)に足を挟まれ動けない自分を置いて行くようにミーナへ告げた。


 女の子の足手纏いになるくらいなら、死ぬ覚悟は出来ている。――あの時ルカはそう言っていた。

 出会った頃からルカは命を捨てる事も厭わない性格だったのだ。


 ミーナはルカを背中から抱き締めた。

 彼女はルカの言葉が発足(はったり)ではないと()く解ったから、それ故にどうしても引き留めたくて、そうする他無かった。


(わたし)、何度でも全力で刀を振るよ。この左腕がルカの右足と同じかそれ以上にボロボロになってもネメシスを(たお)すよ。だから(わたし)の前から居なくなろうとしないで!」


 今、ミーナ達の前に横たわりルカの命を刈り取ろうとしている肉の壁はミーナとシャチが力を合わせ、渾身の一撃を食らわせてやっと一部抉れる分厚い残酷である。

 助けを借りなければならないシャチは眉間に皺を寄せて黙っている。

 普段の彼なら頼られれば是幸(これさいわ)いにと己の力を誇示しようとするだろうが、沈痛な面持ちで二人ミーナとルカを見守る許りだ。

 彼は自信家であると同時に現実主義者なので、ミーナの言葉が到底不可能であると理解して言葉を紡げないのだろう。


 ミーナもそれが解らないではない。

 しかしそれ以上に、見知った人間が目の前から消えてしまうのは自分の痛みよりも辛く苦しかった。


「ルカ! 貴方(あなた)に出会わなければ(わたし)はこの世界でたった一人の人間だった‼」

『ミーナ……。』


 ミーナが旅に出て最初の夜、彼女が寂しさと心細さを溢した事は妖刀だけが知っている。

 確かに、彼女がルカとの出会いにどれほど救われたか、それは計り知れないものがある。


「ミーナ、(ぼく)(きみ)と出会わなければあの時死んでいたんだよ。レナさんに陥れられ、ダーク・リッチに殺されていただろう。」


 優しく諭すようなルカの声色に、ミーナは何処(どこ)かリヒトの面影を感じた。

 原子力遺跡で心臓を殺す為に『命電砲(めいでんほう)』の閃光となって消えると言ったリヒトと同じ声をしている。

 あの時、止められないと感じたリヒトの決意、結局のところ無言で逝ってしまったリヒトと同じ覚悟。


 それを背中越しに感じ、抱き締める腕が緩んだのをルカは見逃さなかった。

 彼は優しくミーナの左腕に触れた。

 するとミーナの義手は外れてしまい、図らずも彼への拘束が解けてしまった。


「悪いけど、(ぼく)はそれの外し方も知っているんだ。」

「ま、待ってルカ‼ ねえ()めて‼」


 ミーナは悲痛な叫び声を上げた。


「お願い! みんなも何とか言ってよ‼」

『無理じゃミーナ。男という生き物はこうなったら聞かん。』


 妖刀の(いさ)める声がミーナに突き刺さる。

 ルカが一歩、また一歩と前へ出るたびに、彼が遠くへ離れて行ってしまう様な気がした。


「お願い、置いて行かないで……‼」

「ミーナ、それは違うよ。」


 ルカは顔を上げ、肉壁の窪みを真直(まっす)ぐ睨む。

 恐るべき事に、それは既に少しずつ膨れ上がって折角の一撃の痕を修復しようとしていた。

 これでは(なお)の事、ミーナとシャチの渾身の一撃を連打して進む事などできない。


 その憎き肉壁を前に、ルカは息を吸って高らかに告げる。


(ぼく)はミーナ、(きみ)を連れて行く為に此処(ここ)へ来たんだ! (ぼく)(きみ)の、ダーク・リッチの根城への道先案内人なる! だから(ぼく)の後へ続いてくれ‼ 共に、(ぼく)の命が照らすダーク・リッチを(たお)す為の夜道へ着いて来てくれ‼」


 ルカの身体が眩い光を放つ。

 彼は今、ミーナ達の、人類の前途に立ち塞がる大きな壁を打ち破り、道を拓く為の光の矢になろうとしている。


「『命電砲(めいでんほう)』、発射‼」


 辺りが閃光に包まれた。

 その最中、ミーナは聞き覚えのある絶叫を聞いた気がした。

 勿論ルカの物ではない。

 ダーク・リッチが、彼を取るに足らぬと見縊(みくび)っていた悪魔が防壁を崩されて狼狽(ろうばい)しているのだ。


『ミーナ、ごめんね。』


 ミーナが聞いたルカの声はそれとかけ離れた優しく穏やかなものだった。


(ぼく)(きみ)と冒険に行きたかった。もっと君と一緒の時を過ごしたかった。』


 ルカの幻覚が寂しそうに笑い掛けていた。

 思わずミーナは右手を伸ばし、彼に触れようとする。

 しかし、腕が擦り抜けた事で彼女は実感した。


「ルカ……ルカはもう居ないんだね……。」

『人としてはそうかもしれない。』


 ルカもまた、ミーナを抱きしめ返そうとする。

 擦り抜けない様に、触れない様に。

 しかし、彼女は不思議な温もりを感じていた。


『でも心は離れない。(きみ)(ぼく)を覚えていてくれる限り……。』

「忘れないよ‼」


 ミーナは強く声を張り上げた。


「ルカの事、絶対に忘れない‼ 必ずネメシスを、ダーク・リッチを(たお)して、生きて戻って来る‼ そうしたら(わたし)の中で、これからもルカは生き続けるから‼」


 (かつ)てミーナはリヒトから言われたことがあった。


 師として、家族として彼女を迎え入れてくれたリヒトの苟且(かりそめ)の弟クニヒト。

 ダーク・リッチが『古の都』を襲った時、彼は身を挺して『破滅の青白光(デモニアクリティカ)』からミーナ達を庇い、戦死した。


 リヒトはクニヒトについて、彼が守った人々が生き続ける限り、クニヒトもまた生きた証を残し、生き続けるのだと言った。


 ミーナはリヒトの言葉を信じたいと今一度強く思った。

 クニヒトと同じく、ルカの事も生かし続けるのだと心に誓った。


『ありがとう。』


 ルカは最期に、彼女に微笑みかけて光と共に消えていった。

 辺りの景色は『命電砲(めいでんほう)』の閃光から解放され、元の姿を取り戻していく。

 唯一つ、地下遺跡の入口を塞いでいた肉の塊だけは綺麗さっぱり無くなっていた。


「ミーナさん、行きましょう。」


 フリヒトがミーナの義手を拾い上げ、彼女に差し出して告げた。

 シャチも少年の言葉に頷く。


「ルカが身を挺して道を拓いてくれた。それも何時(いつ)再び塞がるかわからん。悪いが悲しみに暮れる気持ちを汲む時間は無いのだ。」


 ミーナはフリヒトから義手を受け取ると、左腕に嵌めて一番前に進み出た。


「大丈夫。ここから先はルカに連れて行って貰う道だから。」


 彼女に足を止めるつもりは無い。

 ルカの気持ちを無駄にする訳にはいかないという事は彼女が誰よりも痛切に思っている。


「行こう‼」

「ああ、あいつの為にもな。」

「今度は(ぼく)達が彼に応える番です!」

(わたし)も一緒に行くからには精一杯戦うわ!」


 一時は未踏にして行き詰まるかに思われた四人の『古の都』地下遺跡攻略、ダーク・リッチ及びネメシス討伐は一人の掛け替えの無い青年の犠牲によってどうにか再び動き出すことが出来た。

 しかしここから先、敵はまだまだミーナ達に困難を用意し、送り込んでくるだろう。


 人類と壊物(かいぶつ)、その最後の戦いが今始まろうとしていた。

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