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Episode.71 壊れていくこの世界で

 所は再び『古の都』より遥か北、原子力遺跡は立体映像の間。

 話を聴かされたミーナ達は絶句するより他は無かった。


『何という……恐ろしい事を考える人じゃ……。』


 普段はリヒトに好意的な妖刀ですら、彼が最後に計画していた切り札、この攻撃には(おのの)いたようだ。

 だが(そもそ)も、リヒトは元々自身の後に続き大勢の人間が自爆特攻することを望んで、そしてその狙いを実現した男である。


「この場で聴かされたあいつの過去……それを踏まえれば、それくらいはやっても不思議では無いのかも知れんな。」


 シャチは複雑な思いを忍ばせつつ、神妙な面持ちで吐いた。


『この攻撃に対して思う(ところ)はあるだろうが、確実に言えることは三つ。兄の策が無ければ今回〝命電弾(めいでんだん)〟となった人々はより悲惨な死に方をして奴の餌となり回復の糧とされたであろうという事。逆に残された人々にとっては、(しばら)くネメシスに襲われない理由を得たという事。そして、攻撃によってネメシスは(しばら)くの間弱った状態のまま中央大遺跡の最奥で潜伏するしか無いであろうという事。』


 ビヒトが冷静に状況を整理していく。


(しばら)くって、どれくらいでしょうか? それが明けたら、どうなるのでしょう?」


 先祖に問い掛けるフリヒトの眼には光が(とも)っている。

 それは強い決意に満ち溢れていた。


(ぼく)達が生き残った人類の為にやるべきことは何か、それが知りたいです。」

『うむ。』


 ビヒトは静かに頷き、ミーナ達の方へ視線を向ける。

 ミーナはフリヒトの言葉で戸惑いを抑えてやるべきことに徹しなければと思いを新たにした。

 あれこれと溢れてくる思いは一先ず脇に置き、彼女はビヒトの言葉に耳を傾ける。

 シャチやエリの表情も、(おおむ)ねミーナと同じ思いであると無言の内に語っていた。

 そんな様子を見て、ビヒトは語り始める。


『先程も言った通り、転移装置を再び作動させ此処(ここ)と古の都を繋ぐには少なく見積もっても一日は掛かる。(わたし)は最速でその準備を整えよう。接続を維持している間に先んじて此処(ここ)へ避難してきた警邏(けいら)達が()ず都へ(おもむ)き、生き残った住民達を此処(ここ)へ避難誘導する。そしてミーナ、シャチ、フリヒト、エリの四人は中央大遺跡の地下最深部へ向かい、奴を、ネメシスを(たお)してくれ。奴が弱っている今ならばチャンスは十分にある。』

「逆に力を取り戻せば希望は無い、という事になるのか? この(おれ)達の力を以てしても。」

『シャチ、(きみ)やミーナ、それとエリの強さは充分に認めるが、これ(ばか)りは無理と言う他無いな。』

「フリヒトを一緒に連れて行くのは?」


 今度はミーナが尋ねる。


『兄の管理を離れた今、遺跡の攻略には(わたし)の血を引く彼が再び必要になる〝可能性がある〟からだ。』

「そっか。」

「一緒に行くのは覚悟していましたが、武器はどうするんです? (ぼく)にはミーナさんの刀やシャチさんの戦斧(ハルバード)、エリさんの短剣の様な『負の想念体』にも通る武器はありませんよ?」


 ビヒトは黙ってルカに視線を向ける。


『お前のクロスボウにも合った思念の矢をこれから作る。彼だけではない。エリの短剣も此処(ここ)へ持ち込めたものはゴモラの骨ではなくただの武器だから、同じく用意する。そしてここに避難できた警邏(けいら)達の長槍も順次作成していく。作り方はルカ君に教えてある。この原子力遺跡の設備を使い、(わたし)が転移のエネルギーを充填している間に最低限矢と短剣だけでも拵えておいてくれ。』

「わかりました。」


 ルカは最初から分かっていたかの如く即答した。

 どうやらこの最悪の事態を想定した準備は想像していたよりずっと緻密に計画されていたらしい。


『転移の接続中はこの広間は危険だ。一般の避難民には別の部屋を用意しておかねばならんな。』


 ミーナはシャチと顔を見合わせる。

 ここへ来て、ビヒトは皆の纏め役として非常に頼りになる動きを見せていた。


「ビヒト。」

『どうした、ミーナ?』

貴方(あなた)、別にリヒトに引け目を感じなくても良いと思う。」


 ビヒトはミーナの言葉に瞠目し、そしてやや照れ臭そうに顔を背けた。


()が尊敬すべき兄のリーダーシップはこんなものではない。それは流石に(わたし)を買い被り過ぎだ。だが、悪い気はしないな……。』


 再び顔を見合わせたミーナとシャチは、二人同時に小さく笑みを溢した。

 屹度(きっと)シャチもミーナと同じことが言いたかったのだろう。

 ビヒトは再び四人の方を向き、声を張り上げる。


『この原子力遺跡の周辺から壊物(かいぶつ)の気配が完全に消えている。恐らく奴は、ネメシスは壊物(かいぶつ)どもを吸収してエネルギーの回復を図っているらしい。手に負えなくなる前にケリを付ける必要がある。ミーナ! シャチ! フリヒト! エリ! 今は全力で休養を取り、全力を持ってネメシス討伐に向かう準備を整えてくれ‼ 人類の未来は(きみ)達に託されたのだ‼』


 ミーナは決意を固める。

 自分達の不甲斐なさから、ネメシス復活という最悪の事態を招いたのは確かだ。

 だが、色々な人たちがそれでもどうにか懸命に希望を繋いでいる。

 そして自分達の歩みも全てが無に帰したわけではないと言う。


 ならばまだ、諦めるわけにはいかない。

 此処(ここ)に居る誰もが、まだ何一つ諦めてなどいない。

 壊れかけの世界が再び、壊れていくその最中で、人類は再びネメシスの脅威と対峙する。


 ミーナは仲間達と共に最後の決戦に(おもむ)く。

 人類と壊物(かいぶつ)、その種の在り方そのものへの決着を付ける為に。

今話でChapter.2は終了となります。

前々からアナウンスいたしておりました通り、Chapter.3の更新開始は来年の2/2㈭となります。

以降はこれまでと同じく週二回(日、木)の更新となります。

恐らく連載終了は5月末頃になるかと思われます。

少し休憩という事で、間隔は開いてしまいますが、願わくは最後まで御付き合いいただければ幸いでございます。


ここまで御読みいただき誠にありがとうございます。

宜しければブックマーク、いいね、評価、感想、レビュー等頂けますと大変励みになります。

また誤字脱字の報告も気兼ねなくお寄せください。

今後とも宜しくお願い致します。

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