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Episode.46 衝撃の真実

 思わぬ形で因縁の相手と遭遇したエリは、彼我(ひが)の戦力差を分析する。

 彼女はあれからソドムとゴモラの手により図らずも鍛えられ、かなり腕を上げている筈だ。

 故に、あの時のままのダーク・リッチならば勝てるかもしれない。


 しかし、彼女は敵に不気味な気配を感じていた。

 まるでダーク・リッチの中に全く別の壊物(かいぶつ)が植え付けられ、覚醒の時を待ち侘びながら寝息を立てているような、そんな嫌な気配である。


「ダーク・リッチ……! 父の仇……!」


 彼女の後ろでフリヒトがクロスボウをダーク・リッチに向けている。

 その様子をダーク・リッチはケラケラと嘲笑っていた。


「無駄だよ、無駄無駄。聞いておらんのか、餓鬼(がき)よ?(われ)に物理攻撃は通らんのだ。」


 そう、彼女が(かつ)てダーク・リッチに敗れたのは、この特性がどうしようもなかったからだ。

 逆に言えば、攻撃手段さえあれば彼女にも勝機はあった。

 そして今、彼女が握っているのはダーク・リッチにも通り得る武器である。


 (わたし)の短剣は、あの二体の骨で出来ている。

 即ち、強力な「負の想念」の量子秩序を持っている。

 ダーク・リッチに物理攻撃が通らない原理が、一定の量子秩序の有無に依存しているとしたら、この短剣ならば奴の身体を斬り裂けるかもしれない。――エリは短剣を構え、直接斬りつけようとダーク・リッチに飛び掛かった。


「ぬっ⁉」


 思いも掛けず襲ってきたエリの行動にダーク・リッチは反応できず、ほぼ無防備の状態で短剣による斬撃を受けた。

 そして彼女の予想通り、『双極の魔王』の骨によって造られた短剣の攻撃はダーク・リッチにも通るらしい。

 胸に大きく想定外の傷を負ったダーク・リッチは激昂する。


「小癪な! いつの間に我が古の叡智(えいち)を擦り抜ける武器がこれほど作り出されたのだ‼ 腹立たしい! (われ)を怒らせて、そんなに死に急ぐか‼」


 ダーク・リッチが両腕を振り上げ、大技を仕掛けようとする。

 それは幾度と無く対立者を苦しめてきた猛威、『破滅の青白光(デモニアクリティカ)』であったが、悪い事にエリはその技の存在を知らず、フリヒトも発動を直接見たことが無かった。

 止める者の居ない状況で、発動したが最期人間に確実な死を(もたら)す脅威の大技が二人に向けられようとしていた。


 しかしその時、彼らがいる遺跡全体に異変が起こった。

 エリとフリヒトが立っていられないほどの揺れがフロアを襲い、浮遊しているダーク・リッチすら影響を受けて攻撃を停止せざるを得なかった。


「な、何だこれは……! まるでこの遺跡が一つの役割を終えようとしているような……‼」


 ダーク・リッチはこの現象をそう形容した。

 そして、それはある意味で正しい。

 この場に居ない人物たちによって、正にこの遺跡は最後の役目を終えたのだ。


「ミーナさん……! シャチさん……‼」


 フリヒトは察した。

 屹度(きっと)、二人が目的を果たしたのだと。



**



 エリが二度目のスイッチを作動させた事でダーク・リッチと遭遇してしまったのと同様、ミーナとシャチが走っていた通路にも異変が起きた。

 そして床が大きく動いた先で繋がった通路のすぐ向こうに、その装置は二人の訪れを待っていたかの如く鎮座していた。


「シャチ、これって……。」

「ああ、間違いない。『古の都』で見た装置と同じものだ。やはりあの扉を開ける仕掛けは他の『五大遺跡』に仕掛けられていたのだ。」


 ミーナとシャチはフリヒトの身を案じて先を急いでいたが、ここへ来て先へと進む手段を失ってしまった。

 しかしそれが逆に、この仕掛けを作動させるという選択を二人に取らせた。


(おれ)の経験ではこの装置を作動させると床が動くことも考えられるからな。やってみる価値はあるだろう。」


 但し、罠が作動する可能性もあるから警戒しておけ、とシャチはミーナに警告する。

 ミーナは頷き、五感を極限まで研ぎ澄ましていた。

 そして、その様子を確認したシャチが装置のスイッチを入れる。


「どうなる……?」


 シャチが作動させた装置は光の球を浮遊させ、天井に埋め込まれていた球に宿って鳥の紋様を赤く照らした。

 と、同時に脇に備え付けられた四つの球の小さな内、二つが既に点灯していることも明らかとなった。


「何だ……? 既にほかの遺跡は誰かが装置を作動させたのか……?」

『そう見るべきじゃろうの。今回(わし)等が見付けたこの装置は朱雀の玉。四体の聖獣の中で南を守護するものじゃ。そして、既に点灯している青龍と白虎はそれぞれ東と西を守護する。』

「つまり、残りは『古の都』から北方面、ここから真反対の遺跡一つってこと?」

『そうなるの。北方を守護する玄武という霊亀は、四神の中でも最高位とする説がある。(やや)もすればこの遺跡よりも攻略難度は高いかも知れん。』

「しかし、(おれ)達の他に一体誰がそんな手間を省く様なことを……。」


 ミーナとシャチ、そして妖刀がそんな事を話していると、突然遺跡全体が揺れを起こした。


「やはり仕掛けの作動がキーとなって床が動くのか!」

「ちょっ……‼ これ、大丈夫⁉」

「分からん! 最早(おれ)達は祈るしかない‼」


 ミーナとシャチの懸念を余所に、遺跡は床を大きく動かし始めた。

 そして彼らの仲間が分かたれていた通路はそれぞれ元通りに繋がり、(はぐ)れていた二組を合流させることとなった。

 ミーナとシャチはフリヒトとエリに合流することが出来たのだ。



「あ……、ああっ……‼」


 ミーナは驚きの余り叫び声を上げた。

 そう、この状況で合流したという事は必然、ミーナとシャチもダーク・リッチと遭遇することになった。


「ぬぅううっ‼ いつぞやの忌々しい小娘……! そして……‼」


 ダーク・リッチはミーナとシャチへと交互にその眼窩を向ける。

 そして酷く不服そうに奥歯を噛み締めて憎々しげに呟いた。


「成程……。貴様(きさま)等がこの遺跡の仕掛けを解いたという事か……。攻略には複数名が二手に分かれる必要があった……。(われ)一個体では解けぬわけだ……。」


 ダーク・リッチの言葉にミーナは目を見開いた。


「ま、まさか他の遺跡の仕掛けは貴方(あなた)が……⁉」

「いや、違う。以前より『五大遺跡』と呼ばれる遺跡群がある事は承知していた。そしてその二つを攻略し一つを根城としていたのだが、忌々しい事により強力な二体に両方を奪われてしまった。恐らく仕掛けを作動させたのはそ奴等の仕業。あの様な者共が『奴』を狙っているとあってはのんびりしてはいられぬ。(われ)は急いで『奴』を取り込むべく動かねばならなくなった。」


 ダーク・リッチはふわりと宙へ跳び、四人から離れていく。


(われ)は今、『奴』の『臓腑』を集めている! その過程で遺跡から得た情報により、どうやら人間やあ奴め等は『五大遺跡』の全ての仕掛けを作動させねば『奴』の『脳髄』までは辿り着けぬという事が解った! 今はまだ『臓腑』は揃っていないが、次の遺跡で全てが揃うだろう! 貴様(きさま)等の命はその時まで預けておいてやる‼」


 どうやら敵に戦う意思は無く、それを裏付けるように髑髏(どくろ)壊物(かいぶつ)は天井を擦り抜けて消えて行った。


(われ)は『闇の不死賢者(ダーク・リッチ)』‼ この世界の全てを手に入れ、その頂点に君臨する者‼ 邪魔者が増えた事は忌々しいが、全ては『奴』さえ、『奴』さえ手に入れれば達成される‼ 生意気なあの猛禽の二体も、貴様(きさま)等も、そして人類そのものも(ことごと)(みなごろし)にしてくれようぞ‼ では諸君、北の大遺跡で会おう‼ フハハハハ‼ 女、小童、小娘……そして……()が息子よ、さらばだ‼」


 その捨て台詞は驚愕を持って迎えられた。

 確かにダーク・リッチはこの場に居る一人を息子と呼んだ。

 そう、シャチにミーナ、フリヒト、エリの視線が集まっている。


「……事実だ。」


 シャチは静かにそう呟いた。


「お前達が(しき)りに言っていた時にぼんやりと思い浮かべてはいた……。だがその時点で話すべきか決断が出来なかった。あいつは確かに、(おれ)の親父と言っても差し支えの無い男だ。」


 そして更に、シャチはミーナ達に衝撃の事実を告げる。


「あいつは生まれついての壊物(かいぶつ)ではない。元人間だ。人の身でありながら研究の果てにそれを捨て、壊物(かいぶつ)へと身を堕としたのだ。(おれ)もあいつが人の道からどんどん外れていく過程で生まれた実験の産物という訳だ。」


 これまでに無い苦悶の表情を浮かべるシャチにミーナは掛ける言葉が見つからなかった。

 遺跡の装置は作動させ、目的は達したものの、一行の旅路に(かつ)て無い程深い暗雲が立ち込めていた。

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