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Episode.28 地下への入口

 リヒトが待っていたという『未来の導き手』の意味、それはこの『古の都』の奥に眠る壊物(かいぶつ)達の根源となった『奴』の根幹となる一部の(もと)まで辿り着き、破壊することが出来る『冒険者』だった。

 成程、確かにそれを満たし得るという意味ではただ強いだけでは不足であろうし、ミーナとシャチに希望を見出したことも頷ける。


『リヒト様、しかし解らぬことがあります。』


 妖刀がミーナとシャチ、そして質問相手であるリヒトにしか聞こえない声で問いかける。


「質問は何かな、御老人?」

『先程、貴方(あなた)はこの巨大な遺跡、古の都に眠っているのはその壊物(かいぶつ)の根源たる存在、その一部だと仰いました。ということは、他にもそれは何処(どこ)かに眠っているという事になりませぬか?』

「ふむ、『奴』の他の一部か……。その懸念は御尤(ごもっと)も。だが、実はこの『古の都』の最奥に眠っているものこそが最も重要な部位、『奴』の脳髄に匹敵するものだということは解っている。」

『つまり、それさえ破壊すれば敵は確実に息の根を止められると?』

「いや、後一つ破壊する必要があるが、此処の地下とそれを失えば『奴』は確実に死ぬ。」

『もう一つ、宜しいですかな?』

「いくつでもどうぞ。」

(わし)も旧文明の力、その一端を存じております。その旧文明を以てしても破壊できなかったものとなると、一個人の力ではそもそも厳しいのでは?』

「成程、貴方(あなた)程の知識があるとそう思われるのも無理はない。確かに、旧文明が持っていた力はこの世界そのものを破壊しかねないほど強力なものだった。但しそれは、何処(どこ)まで行っても物理的な力だ。ならば無効化されてしまう現象を既に見ているだろう?」

『ダーク・リッチと同じ様な原理で物理攻撃を無効化していると? そう考えられる根拠はあるのですかな?』

「根拠は(わたし)の知識、としか言いようが無い。旧文明はどうにか『奴』をバラバラにするところまでは成功させているんだ。ダーク・リッチに物理が通じない理由が『奴』と同じなら、同じように破壊する方法はある。貴方(あなた)がその手段になり得る。」


 妖刀の質問に一つ一つ回答していくリヒト。

 彼は、特にミーナと妖刀に彼が言う『奴』を破壊する力があると自らの知識から確信しているようだ。


「みんな、この間のダーク・リッチの一件を思い出して欲しい。『奴』の息がある限り、いつ壊物(かいぶつ)が奴の力を得て我々に致命的な脅威となるか判らない。故に、人類の再興には『奴』の除去が不可欠なんだよ。それさえ出来れば、文明の発達に従い壊物(かいぶつ)と戦う我々の力は盛り返していき、(いず)れはその脅威を撲滅できる。だが、『奴』の力が目覚めれば恐らくその前に我々は今度こそ滅ぼされてしまうんだ。」


 リヒトは、ミーナ達にこうも告げた。

 自分達がこの『古の都』に居住しているのは何もその利便性だけの為ではなく、壊物(かいぶつ)の手から『奴』の復活を防ぐ為でもあると。

 それほど、彼は今回ミーナ達に託した仕事を重要視していた。


 地下遺跡の場所へは翌日、リヒトの側近であるアリスが案内するという。


「探索メンバーは一先(ひとま)ずミーナとシャチ、(きみ)達二人で行ってくれるかな。一回の探索で『奴』の(もと)まで辿り着けるとは思っていないから、無理のない範囲で徐々に奥へと進んでくれて構わない。その間に(わたし)も準備をする。フリヒト、それにルカは(わたし)を手伝って欲しい。フリヒトは(わたし)の後継者として知識を受け継ぐ必要があるし、ルカは頭脳面で期待できそうだ。」


 一先(ひとま)ず、リヒトから旧文明滅亡の原因と断定できる存在と、彼の目的について話を聞くことが出来た。

 それ以上の事は行く行く話すとして、この日は解散となった。

 ミーナは明日、シャチと共に地下へと向かう。


 シャチとルカはそれぞれリヒトが用意した自分達の個室へと戻って行った。

 ミーナもまた、自らの部屋で明日に備える。




***




 翌日、ミーナは朝早く起きて身支度し、食事を採るとまず道場へ向かった。

 地下の探索は一日で済みそうにないとの話なので、そこへ向かう前に一度この場所で心に気合を入れておきたかった。


 一通りの剣の所作を確認していると、シャチが道場に訪れる。


「おはよう、シャチ。」

「おう。昨日はよく眠れたか?」

「まあまあかな。今日の冒険が楽しみで、ちょっと寝付くのに時間が掛かっちゃったし。」

「だと思ったよ。お前はそういう奴だ。そして、実は(おれ)も同じでな。」


 シャチはそう言うと自分もまた己の身体の調子、戦斧(ハルバード)の感触を確かめるように素振りをした。


「ふむ、悪くはない。」

「じゃあ、早速行く?」

「ああ、アリスとかいう女に声を掛けよう。」


 彼らが今暮らしている『古の都』は元々一つの街ほども大規模な遺跡である。

 その入口である門の内側すぐの表層面や、すぐ外側に少しだけ拡大した圏内にて普段人々は生活を営んでいる。

 人々には生活を維持する為の仕事がそれぞれ割り振られており、リヒト達にその成果を納めて報酬を得ている。

 また、報酬はリヒトたちが管理する貨幣によって支払われ、それらによって取引や流通も小規模ながら民衆たちの間には芽生えているらしい。


 リヒトは、将来的には自分が管理するのではなくもっと人々の自由に任せた生活経済を確立させたいと言っていた。


 人々が遺跡の外側に生活圏を拡大する分には、リヒトたちはある程度管理して行っているが、これも良く行くは人々の手に任せる様である。

 彼は文明の再興には人々の自主的な意志による発展が必要不可欠だと考えているらしい。


 しかし、そんな彼も遺跡の内側、奥へ向かう方向性への拡大は固く禁じ徹底管理している。

 門や外壁と同じように、警邏(けいら)隊が厳しく見張り、断りなく侵入しようとする者を取り締まっているのだ。

 よって、普段はミーナとシャチがこれから向かう場所が開放されることは無い。

 地下への入口にはリヒトの側近であるアリスの同伴が不可欠とされていた。


 アリスは年齢不詳の美女である。

 まるで意思の無い人形の様に、リヒトから与えられた指示を忠実に実行する。

 しかし戦闘能力は無いらしく、ダーク・リッチ襲撃の際も防衛には参加しないし、今回の探索も入口までの案内に留まっている。


『この女、本当に人間か?』


 警邏(けいら)隊に路を開けられ入口へと向かう中で、妖刀はアリスの余りに冷たい印象を疑問視しているらしかった。


「妖刀さん、失礼だよ。」

「うむ、人間には夫々(それぞれ)の個性があるからな。」


 傲岸不遜、無礼千万が服を着て歩いているようなシャチがミーナの言葉に同意したことは、彼女にとって少し意外だった。

 だが、考えてみれば(そもそ)もシャチは良くも悪くも個性の塊のような人間である。

 それに、ミーナも大概個性的であり、そんな彼女を受け容れるだけの度量が元々彼にはあるのだろう。


「到着しました。此処(ここ)より先はシャチ様がこれまで探索なさった遺跡同様、未解明の仕掛けや防衛が多数()かれていると考えられます。くれぐれも、身の安全にはご注意なさってください。」


 そう言うと、彼女は扉の前で立ち止まった。

 どうやらここからが、ミーナとシャチが新たに冒険すべき未知の領域らしい。

 ミーナは久々の冒険に胸を高鳴らせる。


「シャチ、早く行こう!」

「ふむ、()ずは扉を開けねばならんな……。」


 シャチはそう言うと、(しばら)く扉を押したり引いたり悪戦苦闘したが、面倒になったのか強引に蹴破ってしまった。


『相変わらずの力技じゃ。知恵の輪も無理矢理外すタイプじゃな。』

(じじい)、そういう貴様(きさま)の事も無理矢理()し折ってやろうか?」


 ともあれ、新たな冒険の扉は開かれた。

 ミーナとシャチはそこから、リヒトの言う『奴』が眠る場所を目指して突き進む事となる。

 二人は未踏の危険領域へと足を踏み入れた。

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