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第2話 俺の日常がまさかのSFアクション映画だった件について (1)

「お前、一体、何したんだよ……?」



 そんな言葉を絞り出すのが、俺の精一杯だった。

 あまりの展開に腰を抜かして、俺は壁に背中をズルズルと擦りながら座り込んでいた。そんな俺のことなど気にも留めず、舞菜はスカートのポケットから取り出したビニール袋に拾った金属の破片のようなものを入れていた。



「ああ、あのおばさんの腕時計を壊したの」



 金属破片はどうやら腕時計の残骸らしい。――いやいや、そういうことじゃなくて!

 舞菜はキョロキョロと辺りを見回すと盛大に顔をしかめた。彼女の視線の先には黒のハイヒールが片方だけ落ちていた。舞菜に足をすくわれて尻もちをついた際に、藤村の足から脱げ落ちていたものだ。舞菜はそれを拾い上げると、何か違和感でも感じたのか、不機嫌そうに目を細めた。そしてヒール部分に手をかけると、力いっぱいにへし折った。

 ヒールの中から、小さな小瓶が出てきた。舞菜はそれを苦虫を噛み潰したかのような顔で見つめながら言った。



「うわっ、えげつな! 良かったわね、あんた。これ、使われなくて」


「何なんだよ、それ」


「女性ホルモンの濃縮液。使われてたら、良くて〈男性としての機能が死ぬ〉、悪くて〈脳梗塞などで死ぬ〉ってところかな」


「ちょっと待て! どちらにしても〈死ぬ〉って単語が入ってるんですけど!?」



 俺は思わず叫んだ。舞菜はそれに答えることも気にすることもなく、ハイヒールと小瓶も袋の中にぞんざいに投げ入れた。そして俺の目の前にやってくると、俺と視線を合わせるかのようにしゃがみ込んだ。



「――で? あんたこそ、何があったの。バカブラ、今度は何をしたのよ?」



 舞菜は俺に執拗なまでに絡んでくる藤村をおかしいと思い、テスト後なんていう強制連行するのに適したシチュエーションで何か仕掛けてくるのではと気にかけてくれていたらしい。クラスのヤツらのように真っ先に俺の不正を疑うのではなく、心配してくれたことに俺は胸の底がジンと熱くなるのを感じた。

 思わず目の端に涙を浮かべながら、俺はたどたどしく彼女の問いに答えた。



「紐パン能力が強化されたとか何とかで、それを使って藤村の紐パンの紐を片側だけ解いた。テストの最中に。そしたら、何故か呼び出し食らった」


「バカブラ、本ッッッ当に馬鹿……!」



 舞菜はそう言うと、がっくりと首を垂れて盛大にため息をついた。



「いやでも、紐が解けるなんて自然にあることだろうし。ていうか、だから、何でそこで藤村が俺を睨んできたのかも意味不明だし」



 俺はオロオロとしながら捲し立てた。すると、舞菜は唸り声を上げながら乱暴にショートヘアの頭を両手でかきむしった。そして俯かせていた顔を勢い良く上げると、スカートのポケットをまさぐり、苦渋に満ちた表情で何やら差し出してきた。――舞菜が紺色ハイソの下にこっそりと忍ばせ付けているのと同じ、ラバーバンドのようなものだった。



「これ、付けといて。そしたら〈今日のこと〉も忘れないから」


「は? どういうことだよ?」


「藤村は未来からあんたの貞操もしくは命を狙ってやって来た刺客で、私はそういうヤツらからあんたを守ってる精神サイコ系超能力持ちのエージェントなの。さっき私が藤村にしたのは、私からしたら過去である〈今、ここ〉であいつが経験したことの記憶を改ざんして、そして〈今、ここ〉に存在するために必要な機械を破壊して未来に帰したの」


「は!?」



 俺はラバーバンドを受け取ることもせず、ただただ目を白黒とさせていた。いきなりの告白と突拍子もない説明に、理解が追いつかなかったのだ。

 舞菜は苦々しげな表情で煩わしいとでも言いたげに唸った。そして再度ズイと押し付けるようにラバーバンドを差し出してきた。



「帰ったら説明するから。だから、早くこれを付けて。とりあえず教室に戻って。――あーもう、これは最終手段にしようと思ってたのに!」



 俺は頷くこともせず、とにかく舞菜と視線を合わせたままゆっくりとバンドを受け取った。スリッパを脱いでもぞもぞと靴下を脱ぐと、必死にバンドを身につけた。――舞菜に倣って足につけたのは、風紀委員に見つかって取り上げられないためだ。

 俺が身につけたのを見届けると、舞菜は俺に教室に戻るよう催促した。追い立てられるようにその場から少し離れたあとで振り返ってみると、舞菜がどこかしらに電話をしていた。――一体全体、何がどうなっているのやら。

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