表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わりから始まる恋物語  作者: 梅干 茶子
終わりと始まり
7/60

サージャとギルス3

ここまで戻ってきたぞ~

 キルギスが、大きく一歩踏み込み、頭上から戦斧を振り下ろした。

 何かが来る。

 直感に従ってギルスは後ろに飛んだ。

 キルギスの打ち下ろした戦斧が地面を砕き、石の床を複数の石の礫に変える。戦斧が抜かれると、それは指向性を持ってギルスに襲いかかった。


 大地の加護。


 精霊と契約関係に無くても、銀の髪で無くても、イルカーシュの民は精霊の力を借り受ける事が出来る。程度はそれぞれ違えど、大体皆持ち得る力だ。

 キルギスのそれは、小さな石を飛ばすくらいしか出来ない。しかし、それは戦闘において大変役に立った。


 「チィッ!」


 凄まじい速さで飛来した石。ギルスは空中で、咄嗟の回避行動が出来なかった。舌打ち一つで剣を振り、致命傷と思われる石だけを叩き落とす。残りの石が、腕や足を直撃し鈍い痛みが走る。しかしそれに構っている暇はない。

 石の襲撃が終われば、石の陰から距離を詰めたキルギスの戦斧が来る。


 「おーらよぉっ!」


 球でも打つかの様に、右から戦斧が迫る。

 ギルスは咄嗟に剣を盾にして受けたが、遠心力の乗った戦斧は、脇腹に食い込んだ。剣のおかげで内蔵までは達しなかったが、決して浅くない傷を負う。踏み止まることが出来ず、戦斧の勢いに合わせて左へ飛ぶ。そのままふっ飛ばされた。


 「ッ!!」


 転がって勢いを殺すとすぐに体制を立て直し、飛び出す。脇腹の痛みは構っていられない。キルギスはそこまで迫っていた。


 「まだクソ坊主のままかよ!坊っちゃんよぉ!また地べたに這いつくばるかぁ!?オラぁ!」


 ギルスは振り下ろされた戦斧を回避して、左へ回り込むと、剣を振り下ろす。


 狙うのは腕だ。両手で振り回す戦斧の力を削ぐ。


 「その減らず口、すぐ聞けなくしてやるよっ!」


 戦斧を引き戻すタイミングを狙って、その腕を斬りつけた。

 ―――浅い

 キルギスは、体を半回転させて回避すると戦斧を右から左へ持ち替えた。

 ギルスはさらに踏み込んで、続けざまに下から斬り上げる。

 キルギスの右腕が飛んだ。


 「がぁっ!」


 だが、直後に上から左手一本で戦斧が振り下ろされ、右肩に食い込む。


 「っ!」


 ギルスは飛び退って、戦斧が振り抜かれる前にその範囲を抜けた。

 左肩が浅く切り裂かれた。だが戦斧は骨に当たっていない。鎖骨は砕かれていない。まだ腕は動く。


 「くそっ!くそっ!俺の腕!持って行きやがったな!」


 血飛沫を撒き散らしながら、キルギスは滅茶苦茶に戦斧を振り回す。

 ギルスは冷静に、全て避けきった。

 一度距離を置き、構え直す。

 キルギスは追撃を仕掛けてきた。さっきまでの挑発する余裕は無いようだ。


 「お前、そんなんだからサージャ様に嫌われるんだよ」

 「そんなのってなんだ!すかした面しやがって!」


 ブゥンと左耳を戦斧が掠める。

 

 「すぐに余裕を失う所だ」


 大振りすぎて、がら空きだった。 

 首に剣が吸い込まれ、キルギスの胴体と切り離された。




 ※ ※ ※




 「ッはあっ、はぁ、はぁ」


 服の上から、布をきつく巻いて脇腹の傷を止血する。

 取り敢えず、深い傷はこれだけだ。後は放置する。


 「・・・なぁ〜にが坊っちゃんだよ。大したことねえじゃねえかクソ野郎」


 首のない胴体に悪態をつく。


 キルギスが、グラーニ海軍を乗っ取った理由―――それは、サージャに求婚する為だったと言う。


 そんなことの為に、父を殺し、母を死に至らしめたのか―――とは、思わないし思えない。

 サージャの魅力は一種の麻薬だ。惚れ抜いて十年の自分が言うのだから間違いない。


 ある夜会で、初めて見たサージャにキルギスは一目惚れした。

 まだ七歳位の幼女に、だ。

 奴は求婚出来る地盤を欲し、グラーニ海軍を乗っ取った。

 その後、再び再開した夜会で、サージャに求婚。五分で振られたという。

 十歳にもなってないサージャに求婚して、一体何がしたかったのか。

 そりゃあ、五分で振られるってものだ。


 だが、キルギスはしつこかった。

 その後も折につけては求婚を繰り返し、振られ続ける。

 ギルスが護衛に収まった後も、キルギスの求婚は続いた。

 そこに付け込んだのが、カーリアスだ。

 キルギスはカーリアスの右腕になることで、その地位を確たるものにした。

 それでも、サージャは手に入らなかった。

 業を煮やしたキルギスは、今回の反乱に乗った。乗って、サージャを手に入れると言った。


 今回の計画が成功したら、サージャに薬を嗅がせてでも俺のものにするとほざきやがった。


 その発言だけでも万死に値する。


 ギルスより長い間、たった一人、サージャだけを思い続けていたなら純愛だと言いたいところだが、生憎とキルギスは所帯持ちだ。

 サージャを愛人に、と欲していたわけだ。


 「サージャ様に近づくクソ野郎を、俺が見逃すわけねぇだろ」


 立ち上がり、踵を返す。

 腹の痛みはまああるが、内臓は損傷してる様子はない。戦えたんだ。動けない事はないだろう。手足の動きも同時に確かめる。

 ―――問題ない。


 「行きますか。お姫様を迎えに」


 先程から焦げた匂いがする。

 そう簡単にやられる人では無いと分かってはいるが、不安で心臓が煩いくらい脈打っている。

 サージャが心配だ。


 遺体を放置して、ギルスは走り出した。




 ※ ※ ※




 「何だこりゃ!サージャ様!?」


 王の間に到着すると、そこは既に一面炎の壁だった。

 そのまま突破出来るか。否。炎の壁は先が見通せない程厚い。


 「ックショウ!次の手、次の手・・・!」


 壁はどこも登れそうも無い。

 王の間は、王宮から渡り廊下で続く離れの建物だ。玉座こそあるが、そもそもそこは、この国の基盤となる、大精霊石を安置する場所である。箱型の、簡素な建物だった。

 ぐるりと一周して、ギルスは再び入り口に戻った。裏口も駄目だった。

 気配は建物の中にある。サージャが中に居るのは間違い無い。

 炎からは、時折赤い精霊がチラリと姿を見せている。ならばこれは、カーリアスの力だ。簡単に突破出来ない。


 「何か、何かないか!?」


 焦って焦って、はたとその動きを止めると、急に踵を返して元の部屋に引き返した。


 首の無い遺体が二つ、出迎える。


 「悪いな、ちょっと漁るぞ」


 軽く手をあわせて、血に汚れるのも構わず、遺体の荷物を漁り始めた。


 「頼む、あってくれよ・・・!」


 漁っているのは女の死体。サージャが斃した方だ。

 この女、名をクリオラと言う。カーリアスに鍛えられた暗殺者だ。元は南の神殿騎士で、巫女の護衛を務めていた。何度か顔を合わせたことがあり、ギルスも覚えている。

 だか、今重要なのはその事ではない。荷物だ。


 腰に付いている袋を片っ端から引っくり返す。目的の物は見つからない。


 「いいや、ある!あるはずだ!」


 クリオラの懐に手を入れ、中を漁る。

 冷たい感触の乳の間から、それは出てきた。


 「よし!」


 合計五本―――緑色の液体の入った透明で小さな管だった。

 これは物を溶かす液体だ。

 対象に投げて目くらましとして使ったり、住居侵入の際に壁や屋根、窓の鍵などを壊す際に使うものだと、サージャに聞いた。暗殺を生業としている人間が必ず持っている装備品の一つとして、教えてもらったことがある。


 ギルスはそれを懐に入れ、クリオラの遺体の胸元を丁寧に元に戻してから離れる。

 次にギルスが向かったのはキルギスの遺体だ。ただ、こちらは遺体に触れない。


 「ちょっと借りるぞ」


 戦斧を肩に担いだ。

 そして、炎に包まれた王の間へ駆け戻った。




 ※ ※ ※




 ギルスの唯一付けている指輪には、小さな風の精霊が住んでいる。

 契約関係にある訳ではない。風の加護でもない。

 この精霊は、サージャと契約を結びたがった数ある精霊のうちの一匹である。

 サージャのそばに常にいるギルスの指輪に、なぜか宿った。少しでもサージャの近くに居たかったのだろう。その気持ちは分かる。分かるので、ギルスとは協力関係にある。


 「悪い、少し力、貸してくれ」


 指輪に軽く口づける。

 紫の風が指輪から飛び出し、ギルスにまとわりついた。

 こうすると、跳躍力が僅かに上がる。


 あとは助走をつけて、勢いよく跳躍。

 狙い違わず、ギルスはまだ炎の手が伸びていない屋根に飛び乗った。

 箱型の建物の屋根部分は平だ。


 「あっちだな」


 さっきから、サージャの気配が動かない。

 動けないのか、他に理由があるのかは分からない。

 重傷を負っている可能性がある。

 

 ぶるりと身を震わせて、ギルスは首を振った。


 「大丈夫、大丈夫だ。まだ生きてる。気配はある」


 目的地にたどり着いて、早速懐に入れた管を取り出し、慎重に自分の周りに円を描くように撒く。

 シュウシュウと音を立てて、石が少し削れる。

 更にその上を持ってきた戦斧で叩く。叩く。叩く。

 叩いた周囲に大量のひび割れが起こり、どんどんボロボロになっていく。


 「こんなもんか」


 戦斧を放り投げて、ギルスはひび割れだらけの円の中心に立つ。

 剣を抜いて、床に向ける。


 「せぇの!」


 剣を突き刺し、全体重で、思いっきり床をぶち抜いた。

ギルス、死体でも女の子には優しい。そこに手を入れるのはどうかと思うが。

試験管五本挟める胸ってどんなのかな。。。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ