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終わりから始まる恋物語  作者: 梅干 茶子
北の神殿
55/60

大火災と暴風と


 熱風吹き荒れる結界の中。

 結界内は、既にどれがどちらの力かも分からない、力だけで暴走している状態。

 炎が風に舞い、更にその勢いを増せば、ウルガだろうがジルージャだろうが、どちらでもお構いなく襲い掛かってきた。

 樹木のすべては風に切り刻まれ、大地は炎熱で焼け焦げ溶けた。

 混ざりに混ざったお互いの力は分離することも出来ず、消滅するまで空間の中を荒らしまわる。


 黒い大地と炎と風が舞う空間。

 まさに、地獄だった。


 そんな中で、ウルガもジルージャも、まだ浮遊し、対峙していた。


 ただし、その姿は最初の時よりも、数段ボロボロになって居たが。


 『ちっ、まだやれるのか!くたばりぞこないがっ!』


 ふらふらと、炎の主が浮き上がれば。


 『ぬかせ!お主ほどにボロボロではないわっ!』


 ふわふわと、風の主が浮き上がる。


 精霊は、自然から力を得て、無尽蔵にも見える技を使うことが出来る。


 だが、この地は既に不毛の地。


 彼らが頼るべき自然は、消滅して久しかった。


 よってお互いに取り得る手段は、そこらに浮遊している己の技で出した力を、再度精錬して放つこと。

 だが、混ざり切ったそれを再度精錬するには、お互いの力が邪魔になる。


 『ええい!忌々しい炎よ!私の力を離さんか!』

 『こんの風めが!俺の炎を返せ!』


 精錬する段階で、お互いに傷付いていた。


 炎の嵐の中にウルガが腕を差し込めば、たちまち血風が舞い、その風が消滅した後には、血にまみれた手にかろうじて炎の力が残る。

 ジルージャもそれは同じ。やはりボロボロに焼け焦げた手に、風を掴む。


 最初の頃の勢いも既になく、もはや根競べの様相を呈していた。


 ただ、結界内には既に放たれた力が膨れ上がっており、結界が弾けるのももはや時間の問題だった。


 ウルガが炎を手にすれば、その炎はウルガ自身の力によって精錬され、色を赤から青へと変える。

 代わりにウルガの姿を一回り小さくさせた。


 ジルージャの掴んだ風も、錬成を経て真空の刃へ姿を変え、同じようにジルージャ自身の体が一回り小さくなる。


 既に己を削るしか、力を変換できない。


 限界はすぐにでも来るだろう。それが双方の認識だった。


 『これで・・・!』

 『くたばれっ!!』


 お互いの手を、力が離れた直後にそれは起こった。


 ―――――ビキッ―――――


 その音は、結界を破砕する、序章の響き。


 『な、んだと!?』

 『まずいっ!!』


 お互いの手を離れた力を引き戻そうと、双方共に手を伸ばす。

 その指が、力に触れる。








 直後、空間は破砕した。






 ※ ※ ※






 辺り一帯を吹き飛ばした爆風は、吹き抜けて尚、第二波を周囲に叩きつけた。


 戦場に多く出ていた風の精霊達の力で、第一波の風そのものの力はほぼ抑えられた。

 だが、第二派と共に訪れた炎の熱とそれを含む熱風は、精霊達でも即座に分離し、抑えられるものではなかった。



 『あやつらっ!随分でたらめな力を使いおってからに!!』

 『ぐっ!我らでは前線部隊を守るのがせいぜいじゃ!!』



 一番近くで結界の破裂を体験した前線部隊は、アルジアとスージアの二人の精霊によってかろうじて守られた。

 しかしその範囲は狭く、森までは手が回らない。

 人は守れども、周囲の森は木々を根こそぎ抜かれ、それが空を舞い戦場に降った。



 「うおっ!?全兵密集!精霊様の傍に避難し、上空からの落下物に注意しろ!!」



 前線を任されたアルヴが叫ぶ。

 広い範囲に居た兵士達が、あわてて二人の精霊の下に集まった。

 それを見届けて、結界はより小さく、強固に作り直される。


 巨大な木々が空から降ってくる。

 精霊の作り直した結界は、落下物をも防いでくれた。

 だが、頭上直ぐ上でガンガンと結界に弾かれる木々を見るのは、なかなかに恐怖だった。


 「・・・これ、生き埋めにはなりませんよね・・・?」


 呟かれたアルヴの一言に、一部の兵士は動揺して生唾を呑んだ。

 それに対して、鋭く返事が返る。


 『ならんだろうな!第二波来るぞ!』

 『加減というものを知らんのか!あいつらはっ!』


 焦りが含まれるその声に、一同は結界の外を見る。


 次々に周囲に降り積もっていた木々が、発火して今度は炎の海を産んでいた。


 「・・・あつい・・・?」

 「熱風だ!」

 「鎧を脱げ!蒸し焼きになるぞ!!」


 アルヴの怒声が響く。

 兵士たちは一斉に鎧を脱いだ。

 熱が伝わった鎧は、脱ぐ手を焼く勢いで発熱している。


 「金属は全部駄目だ!剣も外せ!」


 兵士たちは騎乗のために革の小手を嵌めていた。

 革の手袋越しに、金属製品を全て体から剥ぎ取る。

 あっという間にインナーだけの集団が出来上がった。


 そこに涼風が吹き込む。


 『服もお主たちも燃やさせはせぬ。この熱波が落ち着くまで休むがよい』

 『密集してくれて助かった。おかげで、この程度のゆとりはありそうだぞ』


 その声は、涼風に運ばれ全兵に届く。

 精霊達の気遣いに、アルヴは少し笑った。

 先程まで汗が噴き出すほどの熱気だったが、今は涼しい。


 「よし!精霊様方に感謝して、全兵!休め!」


 「「「「ありがとうございます!」」」」


 前線の兵士たちは、二人の精霊に守られて、地べたに座り込んだ。




 ※ ※ ※




 アオ達は作戦が成功し、森の中を帰還中だった。

 敵兵に見つからないよう、戦場からは十分距離を取って移動する様に言われていた。

 なので、幸か不幸か、戦場で起こった出来事を全く知らなかった。


 「ふぅ・・・あと一息ですわね。リンジア様のお陰で、追われる事無く撤退することが出来ましたわ」

 「うん、本当に助かりました。ティナが獣化してリクを引っ掴むものだから、周りの兵士にずいぶん気付かれていたからね」

 「そ、それは・・・僕がしくじったからで・・・」

 「むう、アオもオウカもしつこいニャ。いいじゃニャいか!最速でぶっ飛ばせてこれたでしょ!?」

 「むしろその速度についていく方がしんどいんだよ!?獣化したままの速さって反則だからね!?」


 和気藹々と休憩する子供達を見て、リンジアは笑う。

 もう野営地まであと少しの場所だ。ティナが獣化したまま他の兵士に姿を晒すわけにはいかないと、直前で休憩を取ることにした。

 戦場からは、それなりに離れた位置だ。だから、状況は何も分からない。


 リンジア以外は。


 リンジアはずっと、戦場を監視しながら移動していた。

 妙なことになっては居たが。

 とりあえず大事には至らないだろうと静観していた。


 だが―――――


 『主ら!伏せろ!!』


 その力の到達までには、大分時間が掛かった。

 リンジアは急いで結界を張り、周囲の森と子供達を守る。


 距離が離れていたせいか、力自体も前線部隊が食らったそれよりは弱い。

 だがそれでも、リンジア一人には荷が重かった。


 『くっ!!なんちゅうでたらめな!!』


 リンジアの三つ編みの髪が宙に舞う。

 強風を弱め、熱風は戦場に押し返す。

 空を舞う風に引き抜かれた巨木を、結界で跳ね返しどうにか防ぐ。


 それが行えたのは前方のみ。でたらめな力が吹き付ける一方方向のみ。


 しかし、風は渦巻いて、方々に竜巻を発生させていた。

 リンジアの周囲にも、複数の竜巻が迫っている。


 『ええい!』


 一本、二本、竜巻を消した。

 だがそこまでだった。

 気が付けば、アオ達の後方から、空に巻き上げられた巨木が吹き飛んでくる。


 『主ら!!!』


 今もまだ力に晒されている最中で、そちらに避ける余力はない。


 「大丈夫です!」


 返される声はアオのそれ。

 飛んできた巨木の前に、オウカが立つ。

 すらりと抜かれるは、少し湾曲した、刀と呼ばれる東の武器。

 それは滑らかに上段に構えられ―――――一瞬で振り下ろされた。


 「―――――シッ!!」


 振り下ろされた刀の先で、巨木は左右に割れ、飛ぶ。


 「おおおお!」

 「りゃああああ!」


 それを左右に控えていたアオとティナが蹴り飛ばす。

 巨木だったものは、左右に分かれて周囲の木々を巻き込みながら落ちた。


 アオとティナが振り返り、リンジアを見る。


 「こちらは大丈夫です!自分の身は守れます!」

 「リンジア様はそのまま!周囲をお守りくださいニャ!!」


 そう言いながら、先程よりも小さな木を蹴飛ばした。


 『あいわかった!』


 周囲に残る竜巻は、後三本。

 森が大部分吹き飛んだのを確認した。

 残った場所も、火の海だ。


 早々に消して、子供達を安全な場所へ避難させなければ。


 焦る思いとは別に、リンジアの口元は笑みを刻んだ。

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