表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わりから始まる恋物語  作者: 梅干 茶子
北の神殿
54/60

リア(独白)


 「リア。君はこれからリアって呼ぶよ」


 可愛い私の王子様は、そう言って手のひらに私を乗せてくれた。

 赤ちゃんの頃から見てきたから、大きくなってくれて嬉しい。

 もう言葉もしゃべれるようになった。

 立って歩いたのが、ついこの間だったのに。


 今日、ゼムは五歳になった。




 ※※※







 血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血

 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死

 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌








 「痛っ!」

 「ほう、お前精霊を隠してたのか」


 天気のいい日だった。

 外で遊んでいたら、怖いおじさんが近づいてきて、ゼムの髪の毛をつかんで持ち上げた。

 私は咄嗟に、そのおじさんの袖を燃やした。


 「あっつ!」


 おじさんが手を離して、ゼムが地面に落ちた。

 おじさんとゼムの間に、私は浮いた。


 袖の火は、ゼムから手を離した時点で消してある。

 ほんのちょっとやけどした位だろうから、大丈夫。


 両手を延ばして通せんぼする。

 ゼムを守るんだから。


 「・・・しつけがなってないな。妹がどうなってもいいのか?」


 ビクッとゼムの肩が震えた。

 怯えた目が、おじさんを見てる。


 私はおじさんをにらんだ。ゼムをいじめるな!


 「リア・・・駄目・・・」


 そっとゼムの手が私を包む。

 そのままぎゅっと握られる。

 実体のない私を包み込むように、両手でぎゅっと。

 私はその心地よい手のひらにすり寄った。ちょっと冷たくなってる。


 「・・・ふん。まあいい。私が精霊を見られなければ気が付かなかったな。お前がここに預けられるわけだ」


 ゼムは小さく縮こまっている。

 少し、震えてる?手のひらからそれが伝わってきた。


 「さて、私は報告に行く。お前は・・・逃げるなよ?」


 あざ笑う声が遠のいて、足音も遠くなる。


 足音がしなくなっても、ゼムは震えて私を握ったままだった。

 私は手のひらをすり抜けて、ゼムの額にキスをする。

 そこから、私の熱が伝わるはずだから。


 案の定、ゼムは顔を上げた。


 「リア・・・ごめんね」


 私は慌てて顔を振った。

 それからゼムの手に全身で抱き着く。

 手を温めてあげたかった。


 そんな私を見て、ゼムが少し笑った。

 私も笑った。




 ※※※






 血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血

 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死

 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌









 「・・・知ってるか?お前の妹も、精霊が付いていたらしいな」


 声が近づいた。

 場所はゼムの部屋。

 今までは五人くらいで雑魚寝するだけの、小間使いに与えられた部屋だった。


 私が見つかってからゼムは部屋を与えられ、粗末な食事から普通の食事に、着る物も小間使いのそれから貴族のそれに、教師が付けられ、読み書きから剣術まで学ばされるようになった。

 メイドも付いた。でもそれは、メイドという名の監視役だった。


 ゼムは全てを監視される生活を強いられた。


 一緒に居た妹と離されて、一人でいるゼムは、いつも寂しそうだった。


 そして、一日に一度は顔を出すこのおじさんを、ひどく怖がっていた。

 おじさんは近づき、目線を合わせないゼムの髪を、引っ張る。


 「っつ・・・」

 「お前が協力しなければ、次は妹の番だ」


 ゼムの耳元で、おじさんはささやく。

 イラっとした私はまた袖を燃やしてやろうとした。

 途端に、ゼムが私を握る手を強くする。


 そうだった。約束したんだ。このおじさんが何をしても、手を出しちゃいけないって。

 私は歯ぎしりした。音は出ないけど。

 私の周りを包む炎が少し大きくなった。


 「・・・ふん。相変わらず生意気な精霊だ」


 おじさんは私を上から睨んで、にやりと笑った。


 「まあ、この姿を見られるのもあと少しだろうがな」


 そう言って、ゼムの髪をつかむ手を離した。


 「明日まで待ってやる。よく考えろ」


 ゼムに紙を放り投げて、おじさんは出ていく。


 私は人間の字は読めないから、何が書いてあるのか分からなかったけど・・・


 その紙を見たゼムの顔は、ひどく青ざめていた。




 ※※※






 血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血

 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死

 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌








 ----最初は、鳥を殺した。


 ----次は、犬を殺した。


 ----それから、熊を殺した。



 私の意識は朦朧として

 でも

 ゼムだけを守ろうと

 それだけは



 忘れなかった。



 ----最後に、人を殺した。



 私の意識はそこで途切れた。




 ※※※






 血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血

 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死

 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌







 ※※※※




 『ヒイィィィィアアアアァァァァァ!!!』


 血が血が血が血が ゼムの血が 血が血が血が血が

 死んじゃう死んじゃう死んじゃう死んじゃう死んじゃう死んじゃう死んじゃう死んじゃう

 嫌嫌嫌 ゼムが死んじゃう 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!!!!!!!!!!!!!!!!


 助けて助けて助けて助けて助けて助けて!!!!!!!!


 ゼムを!!!!!

 助けて!!!!!


 大きな火の力!!!!


 あれなら!!!!!


 ゼムを!!!!!




 助けてくれる!!!!!!




 ※※※



 薄い膜。とても固い膜。

 ぶつかれば砕けて消えてしまう。

 でも、これでいい。

 ゼムを助けて。



 ※※※




 結界にひびが入るのと同時に。

 ゼムが懐から取り出した真っ黒な精霊石が、砕け散った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ