ゼムの葛藤
やっっっっっと形になりました。
お待たせしました!申し訳ございません!
サージャの姿を目視で確認してから、本人はものの数秒で到着した。
クロードを若干置き去りにして、ギルスから数歩離れた位置で止まる。
剣戟でも繰り広げられているかと思っていたのだが、既に事は収まり拘束は完了していた。
ギルスにさしたる傷も無く、チェジアは実体化して拘束対象の頭上に滞空している始末。
チェジアが危険があると言ったのではなかっただろうか・・・。
サージャは、その様子のおかしさに眉をひそめた。
「ギルス・・・これは、どういう事だ?」
「まあ、そう思われますよね」
ギルスはさて、どう説明したものかと悩んだ。
拘束が完了してからサージャ達の到着まで間が無く、思考をまとめている暇がなかったからだ。
ギルスが拘束した二人を見やれば、うち一人が射殺さんばかりの目でサージャを睨みつけている。
「・・・お姫様、か」
低い、呟き声だった。
拘束され、地べたに座った体制であっても、その殺気は鋭かった。サージャが肌に刺さるように感じる程度には。
殺気は自分に向けられたもの。そう理解して、サージャは対象の人物に体ごと向き直る。
お互いの視線が絡み合う中で、サージャはしっかりと相手を見据えた。
カーリアスと瓜二つ。
髪の色、瞳の色だけではない。むしろそれ以外の容姿が、カーリアスに似すぎている。その、睨みつける目も、その殺気も。些細な違いと、幼い容姿が無ければ間違えてしまう程に。
事前に報告を聞いていたとはいえ、実際に見るその姿は想像以上にかつてのカーリアスを彷彿とさせた。
「・・・ゼムか」
「情報が筒抜けだねぇ・・・初めまして。ゼム・アムズだよ、お姫様」
「ああ。サージャ・ノエ・イルカーシュだ。そちらも私の情報は把握していよう?名乗りだけで十分か」
睨みつけるゼムの視線を、サージャは無表情のまま受け止めた。
何故、睨まれているのか。その事自体には、心当たりが存在しない。
敵将として出会ったのだから睨まれるのは当然と考える部分と、出来る事ならもっと穏やかな出会いをしたかったと思う部分が、心にチクリと針を刺す。
「・・・初めて会ったのに間違いは無い筈なのだが、な。私は何かしたか?」
サージャは考えが億尾にも出ない無表情で、淡々と声をかける。
ゼムはそれには答えず、「はっ」と鼻で笑って、サージャからギルスに視線を動かした。
「ねえ、金髪のおにーさん」
「・・・ギルスだ」
サージャに掛けた声のトーンとは全く違う、明るい声。
ため息交じりに返答したギルスにも、ゼムの心情は読み解けない。
ただ複雑な思いがあるのだろう、という事だけを推測する。
---ゼムの知らないカーリアスを知っている---
それだけで、あの殺気をギルスに叩きつけてきたのだから。
「じゃあ、ギルスお兄さん。いっこ、ワガママ聞いてくれない?」
「何?」
ゼムはにこりと笑う。
「そこのお姫様と戦わせてよ」
「・・・は?」
それはあまりに予想外な申し出で、ギルスは驚きを隠せなかった。
「俺たちの命を左右するんだ。どっちにしろ死ぬんだから、最後にこれくらいの我儘聞いて欲しいんだけどな?」
ゼムは、笑顔のままだ。何も悪いことは言っていないような、無邪気ささえ感じさせる笑顔だ。
だが、提案はサージャを害するもので、本来なら受け入れられる筈など無い。
「何故・・・と聞いても?」
駄目だ、と言いかけたギルスを手で制して、サージャから声がかかる。
「俺が戦いたいのは、ごく個人的な・・・恨みだよ。逆恨みさ」
「馬鹿を言うな!そんな理由で了承出来るわけがないだろう!」
上から怒鳴りつけるのはクロードだ。今まで黙って聞いていたが、正直、これがカーリアスの息子かと思うと苛立ちが募る。
だが、そのクロードをサージャは片手を上げて制す。
「サージャ様・・・!」
「クロード殿、今は堪えてください」
「・・・はっ。出過ぎた真似を致しました」
「いいえ。ご心配、ありがとうございます」
クロードは目を伏せて、一歩下がった。
サージャは改めて、ゼムを見る。
「・・・事情を聞いても、いいだろうか」
「そうだね。事情も知らないで俺とサシで勝負なんか出来ないよね」
ゼムの顔から笑顔が消えた。
「・・・十八年前、何があったか知ってる?」
「・・・つい先日、十八年前にカーリアス兄上の二人の子供が、神聖帝国に奪われたと聞いた所だ」
「そう。奪われた、って言ったんだね。父上は」
ゼムは、フン、と鼻で笑った。
「・・・俺達はね、差し出されたんだ。アンタの代わりに。分かってるとは思うけど、差し出されたのは俺と双子の妹だよ」
では、本来の要求は、サージャの身柄だったと言う事だ。
十八年前、七歳の時。
神聖帝国からの進行は、新女王の力を試す為だと思われた。
ガルドがメイディア女王に出会う切っ掛けになった戦。
その時には、もう既に、南の巫女とカーリアス兄上の間に子が居た。
まだ婚姻前だ。世間には公表されなかった子供。
それが、この目の前のゼムと、その妹。
「緑の髪の王女って、あんたの事だろう?それが神聖帝国の停戦要求で、父さんは代わりに俺達を差し出した」
「・・・」
「神聖帝国では苦労したよ。ここまで来るのに十八年もかかったんだからね。あんたはぬくぬくと王宮で父さんに育てられたってのに、俺達は父も母も知らないで、苦労してここまで来んだ。・・・これを恨まないわけがないじゃないか」
「そう、だな・・・」
どんな苦労をしたのかは知らないが、神聖帝国で精霊を扱えるものが、辛い思いをしていないとは思わない。先日ギルスに言ったように、奴隷にされていてもおかしくは無いのだ。
サージャを恨む気持ちも、想像をすることは出来る。
「十八年前の引き渡しについては、王族の血筋だからって理由でお姫様が指名された訳じゃないよ?アンタの身に宿る『加護』とやらを、皇帝が欲しがったのさ」
少しだけ、目を伏せる。
予想していたとはいえ、自分が戦争の引き金なのではという考えが、真実であると敵将に聞かされた。
過去も、おそらくは今回も。
愕然とした思いは、表情には出ない。
表情の乏しさは、今でも変わらないのだ。今はそれがありがたい。
少し息を吸って、サージャは改めて問いかけた。
「・・・何故、加護を知った?」
「初代のお后様が残したい言い伝え。緑の髪の御子は世界を救うってさ」
「・・・なんだそれは」
そんなもの、知らない。
それは、サージャを含めて、この場にいる全員が知らないことだった。
チェジアですらも。
「今回の進行も、アンタを狙ったものなんだよ。イルカーシュを潰せなくてもアンタを手に入れる。上手くイルカーシュを潰せたら、豊かな土地と食料が手に入る。まあ、帝国全員分とは行かないだろうけどね。
最悪、アンタだけでも手に入れば、帝国は救われる――――皇帝は本気でそんな事を思ってるのさ」
馬鹿だろ、とゼムは呟いた。
馬鹿だと、サージャも思った。
「やはり、か。私にそんな力など無いんだがな」
「予想してたんだ?」
「まあな」
「緑の髪はそれだけ特別なんだよ。アンタの持つ加護が何なのか、誰も知らないのに・・・世界を救うなんて言われてる」
「・・・重いな」
「だろうね・・・だけど、アンタは四精霊を従える事が出来る。おかしいだろ?属性以外の精霊を従えるなんてさ」
「・・・わからん。私にはジルージャしか居ない」
「今はね。これから集めるんでしょ?それを精霊達も待ってる」
「・・・」
「そのキッカケがなんだか知ってる?」
「きっかけ?」
「今代女王の、死さ」
サージャの瞳に動揺と、剣呑な光が宿った。
「・・・何故、お前はそんなことを知っているんだ?」
「ウルザが教えてくれた」
「ウルザ?」
サージャはその名前を知らない。だから首を少し傾げるだけだ。
「ああ、知らなかったのか。ウルザは火の精霊。風のジルージャって子と同じ役目を持ってる」
あそこでやり合ってるでしょ?
そう言って、森を見やる。
ドーム状の結界の中では、まだ嵐が吹き荒れ、炎が踊っている。
今まで見たことの無い規模の精霊の暴走が起こっている。
あの力が解放されたら、この地域一帯を吹き飛ばすに違いない。
だが、まあ。ジルージャなら大丈夫だろう。
サージャは視線を戻した。
「成程な。役目を持つ精霊の言葉なら、真実だろう」
「そういうこと。ウルザが言うには、今代女王が死ぬまでは精霊が集う事は無い。加護は発動しないって事らしいよ」
「なに・・・」
「最初に女王を狙ったのは、加護を発動させるため、なんだよ」
震えた。
メイディアは、自分のために死んだのか?あの優しくて儚い姉は、あの力強い兄は、自分の為に・・・?
たかが、加護を発動させるために・・・?
思いを巡らせたら、サージャから殺気が漏れた。
「サージャ様」
「・・・あ」
そっと、ギルスがサージャの肩に触れる。
気づけばギルスは横にいた。
顔を向ければ、にっこりと微笑まれる。
大丈夫だと、言われたようだ。
殺気は消えた。サージャは深呼吸をひとつする。
「・・・その話は後で。皆様を交えてゆっくり聞きましょう」
「そう、だな・・・」
本音を言えば、すぐにでも根掘り葉掘り聞きだしてしまいたいところだが、これ以上は相手の思うつぼだと思う自分が居る。
恐らくゼムは、サージャをを挑発している。ギルスもそれに気が付いて、止めてくれた。
サージャは相手の挑発に乗って、冷静さを失うつもりはなかった。
ゼムと一騎打ちをしても良いと思っていたから、猶更。
「それで、私との決闘を望む理由は?代わりに差し出されたから、と言う事で良いのか?」
ギルスに大した傷を付けることが出来ない者が、自分に勝てる筈もない。
サージャは腰の円剣を外し、両手で確かめながらゼムに聞いた。
それを見て驚くのは、ゼムの方だ。
「・・・いいの?ホントに?」
サージャはコテンと首を傾げる。
「やりたいのだろう?ギルス、クロード殿、反対するか?」
サージャが目を向ければ、クロードもギルスも首を横に振る。
「・・・御身を危険にさらす事自体は反対ですが、実力がどの程度か見てみたくはあります」
「どうせなら、腹の中の物を全部吐き出させた方が良いかなと思ったので」
クロードはため息交じりに、ギルスは周囲を見回して「敵、他に残ってませんしね」と言う。
どうやら、前線の戦闘も終了したらしい。
「ならば、残るのはお前達だけだ。一騎打ちで良いなら、受けよう」
直後、黙って聞いていたチェジアが、ぱちんと指を鳴らしてゼムを拘束していた風の輪を消す。
『治療済みだ。動きに支障が無いか確かめるといい』
「・・・ほんとだ」
『飢えばかりはどうにもならんがな』
「・・・感謝はしないよ?」
『いらん』
腕を組んでふんぞり返ったチェジアは、クグロの頭上に浮いたまま。
ゼムは立ち上がり、体を軽く動かした。そして、己の剣をギルスから渡される。
「精霊は使用しない。存分に来い」
サージャはそんな様子のゼムに声を掛ける。
「ちっ。後悔させてやるよ」
ゼムは舌打ちしてサージャを睨みつけた。
ゆっくりと剣を構える。
「無理だな」
サージャも双剣を構えて、返事を返す。
互いに呼吸を挟んで、同時に飛び出した。
戦闘シーンの半分は書きあがっています。というか、今回入れようとして削除した部分です。長すぎた。
長く停止してしまったので、若干リハビリが必要です。
すみません、出来次第投稿致します。
コロナショックの渦の中、皆様の楽しみに少しでもなればと思います。
我が家も全員家に居て、まあまあ、戦場です。。。へへ。。。




