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終わりから始まる恋物語  作者: 梅干 茶子
北の神殿
47/60

夜陰


 「オウカ、そっちは大丈夫か」

 「ええ、大丈夫よ。精霊様のおかげで見つかる様子も無いわ」


 今、夜陰に乗じて森の中を走り抜けているのは、武器破壊作戦の為だ。

 服装は全員黒。頭には黒いフードをかぶり、口元も黒い布で覆っている。出ているのは目だけだ。

 先頭をティナ、中衛にアオとリク、後衛がオウカで移動している。

 

 夕方のうちにティナが見つけた神聖帝国軍の野営地は、距離にして歩兵で半日の位置だった。

 北の神殿からはまだその姿が見えない。

 というのも、北の神殿は麓に農耕地が広がる先は、森だ。道はその森を迂回するように大きく湾曲している。下から見れば、森、草原地帯、農耕地帯、町、山の中腹に神殿、木、背後に山、と言った感じか。


 数にして三百の兵士。それほど多くは無い。こちらもほぼ同じ数だ。戦闘自体は手前の草原で大丈夫だとしても、神聖帝国軍からすれば見えない位置から突撃するか、森の中に潜んで進軍して来るかしかない。

 ただ、今の懸念はもう一つある。


 『やはり、か。火の精霊の気配が多いな』


 付いて来てくれたリンジアが、上空からアオとオウカに言う。

 声を届けているのだ。肉眼では姿の確認できない上空から。

 理由は、見つかるとまずいかもしれないから、と言う事らしい。


 「森を燃やす気だニャ」


 野営地を肉眼で確認できる位置に全員で潜んで止まると、早速ティナが話しかけてきた。

 ティナの指差す先には、焚火とそれに集う兵士達。

 腰には赤い石を先端に付けた杖がある。

 その数は五人。


 「森を燃やして直線を確保、視界が開けたら一斉攻撃、か。サージャ様の見立ては正解だったようだね」

 「ただ、それをやると森の精霊が怒りますわ。その怒りがどちらの軍に向くか、が問題では無くて?」

 『そこはこちらで森に棲む精霊達と話をしておこう。戦があるから移動した方が良いと事前に通告すれば、怒る精霊も少なかろう』

 「精霊の怖さを知らないというのは、恐ろしいものですね・・・」


 リクはぶるりと身を震わせる。その頭にぽんとアオが手を乗せた。安心させるように何度か軽く叩く。


 「五本は破壊出来ないと見た方が良いか」

 「手放すタイミングがあればいいけれど・・・難しいでしょうね」


 ――――森は、燃やさせよう。


 と、サージャは言った。向こうが燃やしてくれるなら、こちらも視界が確保できるし、精霊の恨みを買う事も無い。それにいくらか精霊石を消耗させることも出来る。風の精霊で煙の向く先を敵の野営地にしてしまえば、こちらからすれば得しかない。


 作戦時間はごく短時間だ。

 じっくり待っている時間は無い。


 「行きますか、アオ」

 「ああ。ティナ、武器のあるテントは?」

 「お任せニャ。先導するからついてくるニャ」

 「リクはアオの後ろから離れないで下さいましね」

 「了解しました」


 彼らは行動を開始した。




 ※ ※ ※




 見張りは二人。周囲には五人程が見回りをしている。

 だがなんてことはない。一応警戒して近づいてみたもののリンジアの隠蔽は素晴らしく優秀で、全く気が付かれずにテントの裏面に来た。

 リクの力でテント内に人が居ないことを確認する。無言で頷き合い、今度はオウカとアオが見張りに眠り薬を嗅がせ、強制的に居眠りさせる。

 後に残らない、効果時間の短い薬だ。

 ここからは時間との戦いになる。


 素早くテント内に侵入し目当てのものを見つけると、アオ、オウカ、リクの三人がかりで針を刺していく。普通の針ではない。この為に先端を点ではなく、刀型に加工したものだ。物凄く小さな刀になっている。それで文字の一部を完全に割る。この刃物の加工は本日魔法兵団が合流する前に行われた。

 見張りはティナ一人だ。だが、獣人の警戒心は人間のそれをはるかに上回る。それに上空にはリンジアも居る。


 武器は全部で十五本あった。

 持ち出されたのは先ほど確認した五本だけで間違いないらしい。

 一人担当は五本だ。目に付く端から針を刺していく。


 「誰か来たニャ!」


 小声でティナから警告が飛ぶ。

 アオが手を振り、撤収の合図を出す。全員がテント裏口から抜け出したタイミングで、表のテント入り口が揺れた。


 「あれぇ。風の精霊の気配がしたと思ったんだけどな」


 裏口から覗き込むように中を確認していたアオの動きが止まる。

 反対側から来た、男を目にした瞬間に。


 「・・・気の所為かな」


 男は顎に手をやって、テント内を一瞥した。

 細工を施した杖を手に取り、確認しているようだ。


 「うん、異常ないな」


 男はアオ達の細工を見抜けなかった。経験が浅いからだろうか。


 「ま、なんかあっても俺が一人でやるだけだけどな」

 『ゼム、お前ではない。儂がやるんだ』


 男の肩に、赤黒い精霊が居る。火の精霊だ。男の姿をしている。


 「はいはい。頼むよ?ホント期待してるからね」

 『無論。森ぐらい一瞬で燃やしてやるわ』


 テントから二人の姿が消えた。

 背後からオウカに肩を叩かれて、アオははっとした。

 急いで撤収の合図を送ると、森の中へ逃げ込んだ。




 ※ ※ ※




 森の中の木々の上を飛んで移動しながら、北の神殿への帰路を急ぐ。

 普段なら後ろを気にするアオが、リクを置き去りにする勢いで先行していた。


 「ちょっとアオ!後ろをごらんなさいな!」

 「・・・すまない」


 最後尾のオウカの声で、アオは速度を落とす。

 森の中のポカリと空いた空間に出た所で止まり、後続を待った。


 「どうしたニャ?アオさっきっからおかしいニャよ?」


 すぐ後ろを付いて来ていたティナが言う。


 「・・・見つけたよ」


 リク、オウカが着地した時、アオはポツンと言った。


 「何を見つけたんですの?」


 オウカの言葉に、アオが俯いた。


 「どうしたんですか?アオさん、大丈夫ですか?」


 リクが心配しておろおろし出した。

 ティナがその横で、「落ち着くニャ」と声を掛けている。


 「赤銅色の髪、赤目・・・それから、火の上位精霊・・・」

 「では、例のゼム・アムズ?」

 「ああ。間違いない。ゼムと呼ばれてた。・・・カーリアス様に、瓜二つだった」


 リクは青い顔をしていた。それは動揺の証。


 「そんなに似ていたんですの?」

 「ああ」


 そのアオの様子を見て、オウカは大きく息を吐いた。


 「・・・わかりました。とりあえず、水をお飲みなさいな。一息入れたら出発しましょう。あの様子では明日にも戦闘は始まりますわ」


 懐から水筒を取り出し、アオに押し付ける。

 アオは戸惑いながらそれを受け取った。


 「大丈夫。急ぎましょう。早くサージャ様とギルス様に報告しなくては、でしょ?でも、今の顔は駄目よ。心配させてしまうわ」

 「・・・うん」


 アオは苦笑して弱く頷いた。


 「そうだニャ!気分を変えるニャ!おやつあるニャよ?」


 ティナが懐から、小さな包みを出す。そこには人数分の焼き菓子が包まれていた。


 「これ、こないだオウカさんが買ってた・・・」

 「そ、そんなのどうでも良いニャよ!ほらほら食べる!」

 「むぐっ!」


 都合が悪いことだったらしいリクの言葉を、無理矢理菓子を突っ込んで黙らせ、オウカを見れば、彼女はジト目でこっちを見ていた。が、やがて溜息をついた。


 「そうでしたの。最後のクッキーが無いなと思ってたんですのよ。まあ、いいでしょう」


 そう言って、自分も一つ口に含む。ついでにアオの口にも入れてやる。


 「じ、自分で取れるよ・・・」


 アオの頬が羞恥で赤くなったが、オウカはあえて気にしない。


 「あら。その顔じゃ取り落としますわよ?勿体ないじゃないですの」

 「・・・わかったよ。ありがとう」

 「素直で宜しい、ですわ」


 アオは苦笑しつつも、口の中のクッキーをゆっくり咀嚼した。

 きっかり二十回。その後に水で口の中の残ったクッキーを流す。


 「ティナも、ありがとう」

 「良いニャよ!顔色、少しマシになったニャ!良かったニャ!」


 腰に手を当てて、胸を張るティナに笑いかけ、アオはもう一度水を飲み、口元を袖で拭った。


 「さあ、帰ろう」


 全員が水筒を戻し、準備を整えるのを確認してから、アオは再び木の上に飛び上がった。

 木々の間を飛んで移動し、時折後ろを確認すれば、皆が近い距離で続いているのがわかる。

 最後尾のオウカの口は、笑った形をしている。


 どうやらいつもの自分に戻れたらしい。


 アオの口元にも笑みが浮かぶ。

 再び前を向いて、木々の間を飛ぶ。飛びながら次の枝を探す。そして、また飛ぶ。


 夜陰に乗じた作戦は成功。

 そうして彼らは無事に北の神殿に帰り着いた。明け方の事だった。




 ※ ※ ※




 「そうか。居たか」


 早朝、風の精霊によってアオ達の帰還を知らされたサージャは、朝食も取らずに急ぎ足で、ギルスを伴って宿に訪れていた。


 宿の最上階、偵察部隊の本拠地に食事は運び込まれ、そこで朝食を取る。

 戦闘が開始するというのに、この宿の従業員はここに残り、偵察部隊の宿泊も許可するという異例の対応をしていた。もちろんそれには理由がある。


 「そもそもこの宿は、巫女兵達が運用しているんですよ。今回も戦場の野営地とは別にこの宿の一、二階は戦時病院として機能しますので、偵察部隊の方々が居て下さった方が助かるんです。いざというときに助けて下さるなら、という条件が付きますが」


 そう言っていたずらっぽく微笑んだのは、ホールディの下で副官を務めるマリーだ。

 彼女は神官長の次女で、弓の名手である。元々巫女見習いとして修業をしていたのだが、ホールディがその実力を見込んで、巫女兵へ引き抜いた。

 今では北の神殿一の弓の名手として有名である。


 そういう事情があって、偵察部隊の本拠地は動かなかった。

 おかげでこうして朝食は落ち着いた場所で取れ、報告も聞けるのだから言う事はない。


 「はい。背丈は確かに、俺と同等です。赤銅色の髪、赤目、カーリアス様に瓜二つの容姿。間違いありません」


 アオの返事にサージャの心はずきんと痛んだ。

 また再び、カーリアスに剣を向けるのかと。

 いや、今度は救って見せる。

 そんな決意も心を覗かせていた。


 『火の、上位精霊が居ったと言ったな?男か?女か?』

 「姿、声、共に男性の様でした。ゼム・アムズの肩に乗っていました」

 『そうか・・・これは困ったの』


 ジルージャが浮かない顔で顎に手を当てる。


 『サージャ、私はそいつを抑える。放置すればおそらく、この神殿が消し飛ぶ』

 「・・・そんな相手なのか?」

 『同じ役目を持った、奴だ。私しか抑えられまい。ギルス』

 「ええ。サージャ様は俺が」

 『頼むぞ。あと隠れているイージア』

 『なんじゃ。バレておったのか』

 『私から隠れるなど、いくらお前でも無理だ。フィージア殿のついでで構わぬ。サージャとギルスを頼む』

 『・・・よかろう。八精霊で見守るとしよう』


 カーテンが揺らめいて、一瞬の後。そのカーテンの前に宙に浮いたイージアが姿を現していた。

 目を閉じて、腕を組み、宙に浮いている。


 『しかし、ジルージャでも気が付かぬとはな』


 それは、火の上位精霊の存在だ。

 居る事がわかった今この時でさえ気配が希薄で、下位の精霊達のそれに紛れてしまう。


 『おそらく、私と同じことをしているのだろうよ。精霊樹に文字を刻んでな』


 ジルージャは、フンっと鼻を鳴らした。


 「では、誰かの契約精霊になって居るのか?」

 『いいや』


 サージャの問いに、ジルージャは首を振る。

 その次を引き取ったのは、イージアだった。


 『通常、主の持つ精霊石に宿って契約が完了するのだが、こいつらは特殊でな』

 『元々、自分で精霊石を持っているんだ。私も、奴も。他の同じ立場の精霊達も、な』

 『それは精霊王に授けられた石だ。言わば精霊王と契約を結んでいると言ってもいい』


 そう言われて、サージャは自分の腕に嵌まる腕輪を見る。

 確かに、他の精霊石とは違う。上位精霊なのに小さい石だ。中級精霊のそれと同じ程度の大きさしかない。他の上位精霊の石は拳ほどの大きさがあるというのに。だが、純度というか、透明度というか、その石が持つ力は他のどの精霊石より輝いて見える。

 確かに、ジルージャの石は不思議な石なのだ。


 「なぜ、そんな大いなる精霊が私と契約を結んだのだ?」

 『それは古から決められた事だ。役目を持つ者を守り導く。それが私たち太古の精霊の役目だからだ』

 『そして、同じ役目を持ったにも関わらず、一番でないと気が済まない野郎が居る』

 『・・・迷惑な事だ』


 イージアの言葉に、ジルージャは吐き捨てるように返した。

 そしてサージャを真っすぐに見た。


 『とにかく、奴の目的は私の消滅だ。そしてゼムとやらの目的はサージャ、お前の身柄の確保だ。だがな、私は既にお前と契約し力を増している。あやつにやられることは無い。よって、一番厄介なあやつは私に任せろ。必ず抑える』

 「・・・分かった。任せる」

 『一面火の海にしては叶わんからな、少し離れたところで戦闘することになるだろう。ギルス、頼むぞ』

 「はい。お任せを」


 ギルスは右手を胸に当てて、ジルージャに礼を取る。

 ジルージャはそれを見て鷹揚に頷いた。


 『・・・ふう。周囲の精霊に戦闘が始まるまでには避難するように言っておかねばな』


 イージアは溜息と共に動き出す。少しだけ開いた窓に近づいて行く。


 『すまんな、イージア。頼む』

 『なあに、周囲の精霊達に気を配る事こそ北の精霊の仕事よ』


 そう言い置いて、窓から出て行った。


 「すまんな、中断させたか」


 サージャは、諜報部隊の面々に向き直る。


 「では、本日の作戦の説明に移る。ギルス」

 「はっ。本日は戦闘開始が予想されている。よって、諜報部隊の面々には・・・」


 ギルスから作戦の詳細が説明された。

 昨日のうちに、上層部で可決された作戦案だ。


 それを聞きながら、サージャはそっと腕輪に手を伸ばした。


 大丈夫、だよな。と。


 今回の戦闘は、最後までいられない可能性が高い。

 なので、初期の段階で強者を潰しておかないと、安心して東に旅立つことは出来ない。


 不安だらけだ。

 ジルージャに匹敵する強い精霊に、七親将が二人。うち一人は身内ときた。


 狙いは、ジルージャとサージャと、北の巫女。そして精霊達。


 イージアは奢るな、と言ったが、今ジルージャとサージャとギルスが抜ければ、ここは火の上位精霊によって蹂躙されるだろう。

 いくら狙われているのが自分達だとしても、相手はあの神聖帝国だ。身を隠したとしても、周りを全て滅ぼしてからしらみつぶしに探されるか、囮を立てて釣り出される。

 まして自分が対象ならば、イルカーシュ女王の国民、全て囮になりうる。


 サージャ達は、今回名乗りを上げたうえで、分かりやすく姿を消す。

 自分たちが何処にいるのか、相手に伝えるために。

 そして、その戦場を狭めるために。

 国民を守るために、自分を囮に使う。

 そこに不安は無い。自分が囮になるなら、何の問題も無い。


 だが。


 ―――ジルージャ、ギルス。頼む、生き残ってくれ。


 サージャは固く目を瞑った。


 ―――カーリアス兄様、どうかご加護を。


 そう祈らずにはいられぬ程に、心は不安に支配されていた。


ここまでたどり着けました。次回からは戦場になります。

とても苦手です。良いものが出来るように、努力します。


北の神殿編も戦闘が終れば終了です。もうすぐの筈。


ここまでお読みいただき有難うございました。

ブックマーク、ポイント評価、感想お待ちしています。

広告欄の下部にあります。

是非よろしくお願いします。


次回は年をまたいでしまうことになりそうです。

お待たせしてすみません。

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