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終わりから始まる恋物語  作者: 梅干 茶子
北の神殿
43/60

合流


 町の中央広場に入り口を開ける宿屋の中でも一等大きな三階建ての建物が、諜報部隊が宿を取る場所だ。

 建物に入り、一階は食堂兼酒場。リズの宿屋と大きく変わりは無いが、少し上等な調度品で揃えられている。

 床が絨毯張りなのも高級感が増すところか。


 あまり足音が立たないので、防犯面を気にしてしまうサージャだが、入り口には屈強な護衛が二人立っていたし、宿屋の従業員自体も仕草こそ洗練されているが、皆戦えることを感じさせた。


 「いいですね、ここ。守りも厳重そうだ」

 「ええ。この宿は値段もそれなりに致しますけれど、安全面と機密性が高くて優秀な宿ですわ」

 「そうか。金は大丈夫だったか?」


 自分がかなりの額を預けてきたことは覚えているが、その他にも出費は多々あっただろうし、残留組にもお金を残してきている筈なので、サージャはその辺が心配になった。

 サージャとギルスは無料宿泊だ。全然お金がかかっていない。部下だけにお金を使わせることに心が多少なりとも痛む。


 「ええ。問題ございません。サージャ様の宝飾品を崩した宝石をいくつか、前払いでお渡ししましたの。喜んで全員受け入れてくださいましたわ」


 換金する間も無かったのか、換金できなかったのかは分からないが、まあ、役に立ったのだから良しとしよう。

 入り口を通る際にも、オウカは護衛からも店員からも頭を下げられていた。上等な客として扱われているようだ。


 宿屋受付の裏側に回ると、階段がある。オウカはそのまま階段を上り、最上階の三階へ進んだ。

 階段を登り切ったすぐ横にある部屋の入り口をノックする。


 「はーい」


 中から少年の声がする。


 「アオ、サージャ様をお連れしたわよ」

 「ああ!」


 部屋の中からどたどたと足音がして、入り口が内側から開けられた。


 「サージャ様!良かった!どうぞお入りください!」


 にこやかに笑う少年は、アオ。

 そのアオの横をすり抜けて、オウカはさっさと部屋へ入る。


 「あ、オウカ有難う。連れて来てくれて」

 「どういたしまして。私はお茶の用意をしますから、アオ、後お願いしますわ」

 「わかった」


 サージャ達が挨拶する間もなく、アオとオウカのやり取りは素早く行われる。


 「すみません。さ、サージャ様もギルス様も中へ。ジルージャ様がお待ちですよ」

 「ああ。遅くなって済まない」

 「いえ、大して遅くないですよ。ジルージャ様がせっつくので、オウカが行っただけですから」


 軽く会話をしながら室内に入ると、大きなテーブルがあり、そこには見知った諜報部隊の面々が立って待っていた。

 まだ全員、幼さを残す顔立ち。十代半ばの先鋭達だ。

 そのテーブルの上に、ジルージャがちょこんと座っている。


 『遅かったではないか』

 「すまんな、ジルージャ。それに皆も。無事で何よりだ」


 サージャはジルージャに謝罪しつつ、皆に微笑みかける。


 「サージャ様も、元気になられたようでよかったです。重症だって聞いていたので・・・」


 そうにっこりと笑って返事をするのはリクだ。


 「ああ。もうすっかり大丈夫だ。心配をかけてしまったか。すまんな」


 サージャがそう返事をすれば、リクは首を左右に振る。柔らかい金の髪が、同時に揺れた。


 薄い茶の色の瞳をした最年少のリク。彼は大地の精霊の加護を持つ。彼の力は、大地の声と言われ、地に足をつけた人の会話を限定範囲で聞く事が出来る。ただ、その対象が誰であるのかという情報までは分からない。彼の記憶に紐づけられた声の主なら特定できるが。マルアの能力の劣化版といったところだ。

 彼は王都でサージャが拾った。リズの宿屋の前で、倒れていた。今年で確か十四になる。まだ、卒業試験を終えていない。


 横に並ぶ長身の水色頭はムクだ。リクの横で、黙って頷いている。


 水色の髪を少し長めに伸ばし、大きな黒い瞳の少年。十五歳。年齢の割に体が大きく、ギルスと並ぶほどの長身だ。

 彼は西の神殿からやってきた。西の巫女の保護下にあり、その下でもとても優秀だったのだとか。サージャの所に来た時には十三歳になっており、加入年齢は一番高い。既に体が鍛えられていたので、あっさりと修行についてきた。素早さ、身のこなしに申し分なかったが、彼はこの二年で急に身長が伸び、体格の変化に体の動きが慣れるまで苦労していた。

 彼は水の加護を持つのだが、それがなかなか凶悪な加護で、人体の血液の流れを操作出来る。血液の流れを加速することで動きを加速させることが出来るし、血液の流れを遅くすれば、水中に潜り続ける事も可能だ。もし他者にも有効な力なら、加護の発動で人が殺せる能力だ。だが、この力は本人専用で、他者には掛けた事が無いと言っていた。


 基本自分のことは話したがらない無口な性格だが、大きな目には表情がよく出る。今も嬉しそうに目を輝かせていた。

 リクには良く懐かれている。いや、リクに懐いているのかもしれない。


 その横に立っていたが、ギルスを見つけて走り寄ってきたのはレオ。

 燃えるような赤髪と薄い青目の少年で、見た目通りの熱血漢だ。

 彼も十五になるはずだ。来たばかりの頃はやんちゃで、昔のギルスを思い出した。そして、ギルスにこてんぱんに伸されて、以来ギルスに勝つことが目的だと言っている。

 彼は諜報部隊には珍しい長剣の使い手で、あまり諜報向きの人材ではない。だが、その攻撃力は諜報部隊随一といっていい。彼は本当に卒業試験直前で、現在に至っている。

 ギルスは、彼は戦場にぶち込んだ方が良いと言っていたので、奇しくも今回その形となったわけだ。


 「ギルス兄ちゃん!怪我してないか!?じゃ、勝負してくれ!」

 「おい、怪我してなかったら勝負っておかしいだろ。それに今から話し合いだろうが」


 絡んできたレオの頭を、ギルスが鷲掴みにした。


 「いててっ!いてーよ!兄ちゃん!」

 「おー。痛えか。これが自力で取れたら勝負してやる」


 ギルスは、意地の悪い笑みを浮かべて、手にさらに力を入れた。

 レオはもがきながら、ギルスの手を掴み外そうと試みるが、ギルスは笑っている。

 握力に歴然とした差があるのだろう。


 レオはギルスが大好きだ。ギルスとしても、弟分だと思っている。かつての自分を見ているようで、ちょっと扱いづらいが。


 「サージャ様だニャー!」


 ぴょんと飛びついてきたのは猫耳獣人のティナだ。


 「あれ?ティナはてっきり東へ行ったのかと思っていたのだが」

 「連絡係が居ないと不便ですので、ティナの代わりにベノムを行かせました」


 答えたのはアオだ。

 サージャは、ああ、と頷く。


 「ベノムか。東とは相性がいいだろうが、まだ卒業試験は終えていなかったな・・・」

 「ええ。ですが、東への連絡だけなら、直ぐに戦闘になるこちらよりも安全だと、当初判断してしまいまして・・・」

 「いや、そうだな。マルカとマルアが一緒なら、まずは大丈夫だろう。彼も独り立ちをするいい機会かもしれんし」


 ベノムは黒髪黒目の、東の神殿から来た植物の精霊の加護が厚い少年だった。

 契約精霊も持っている。ただ、力の操作が不安定で東の神殿内部で問題児として扱われていた。

 表情に乏しく、人見知りで、サージャが指導する上で最初に信頼関係の構築から入らなければならず、訓練までに大分時間を要した。諜報部隊を立ち上げて、早いうちに引き取った一人だが、その関係で彼はまだ卒業試験を受けていない。正直、受けさせるかどうかも迷っていた。

 彼はとても優しい性格の持ち主だったから。人殺しとは凡そ相いれない性質の人間だったのだ。


 考えに耽っていると、オウカが奥の部屋からワゴンを押して出てきた。ワゴンには先ほど買っていた焼き菓子と、ティーカップが人数分。


 「いつまで立ち話をしているつもりですの?アオ、お二人に席を勧めて頂戴」

 「ああ!すみません!サージャ様、ギルス様、こちらに。こら!ティナも離れて!席について!」

 「むーん。もっとサージャ様の匂いを嗅いでいたかったニャー・・・」

 「いいから!こっち!」


 ティナはアオに抱えられて椅子に乗せられた。ティナは小柄なのである。

 獣人の特徴である耳は頭部にあり、猫の物とよく似ているが、彼女曰く自分は虎の獣人であるとの事。確かに長い尻尾は縞模様だし、腕の肘から先に生える体毛も虎柄だ。髪はくすんだ金色で、眼も同じ色。ただ、瞳孔は黒で縦に長い。完全にネコ科の生物の目だ。

 だけど、小柄だ。身長はサージャの胸のあたり。サージャは女性としては長身な部類だが、それを差し引いてもティナを小さく感じる。


 そのティナが、アオに抱えられて席に着く様子を見て、微笑ましく感じ、サージャは笑いながら席に着く。

 サージャが席に座れば、皆が後に続いて席に着いた。

 サージャの横にはギルスが座る。

 サージャの向かいには、アオ。その横にティナ。

 ティナの横にリク、ムク。ギルスの側には、一席開けて、レオが座る。

 空いた席には、クッションが積んである。恐らくはジルージャの席なのだろう。本人は机の上から動かないが。


 全員に紅茶を行き渡らせ、テーブルに二か所に分けて焼き菓子を置いたオウカは、レオの隣に腰を下ろした。


 「オウカ、ありがとう。さて、では報告を聞かせてくれるか」


 サージャの声で、会議が始まる。




 ※ ※ ※




 最初はアオ達から、人員配置の報告を聞く。

 東に向かったのは、マルカ、マルア、ベノム。

 王都に残ったのは、キララ、ルーク、クィンシル。

 残りのメンバーは全員で北に来たとのことだった。


 次にサージャ達の情報をアオ達と共有する。

 サージャやギルス、ジルージャの話す内容に、アオ達は頷き、聞いていた。

 こちらの話が終れば、今度はアオ達の番だ。


 茶器を横に寄せ、ジルージャも席に座る。

 机の上には大きな地図が一枚広げられた。

 いつもの簡易的なものではない。作戦会議などで使われる精密なイルカーシュ女王国全体の地図だ。

 サージャの手元には、十枚以上の紙を束ねた報告書。これは事前にアオが準備をしていたものらしい。

 そのアオは、今地図の一か所を指差している。


 「この地点で二手に分かれた神聖帝国軍ですが、こちらに進行しているのがおよそ三百。東に向かうと思われる部隊が二百です。こちらの部隊の装備は平均的な者が多く、進軍速度を優先しているようでした。ですが、東に向かうと思われる部隊は、大型の兵器を二台持って行くようです。搭載されている馬車を発見しています。

 また、神聖帝国部隊の全体で、例の杖型兵器をニ十本ほど確認しました。同様に、下級や中級精霊が納められていると思われる精霊石を百、また大型の精霊石を4つ確認しています。

 どちらも特殊な箱に入っていて、宿る精霊の特定までは出来なかったようです。こちらについては、北に先行した部隊が杖型兵器と小さな精霊石の入った箱の半数ずつを持って行った、とマルカから報告がありました」

 「特殊な箱、ね。精霊樹の箱だろうな」

 『うむ。そうだろうな。私が転移用精霊樹で見つけたものの大型版だろう。あれは中に宿る精霊を外に出さないようにしてあったからの。大型ともなると、気配を遮断できるような文言が刻まれていてもおかしくは無い』


 アオの説明に、サージャとジルージャは頷く。

 次に、アオは懐から平たく長い、丁度ペンのようなサイズの何かを取り出した。


 「それと、敵部隊の野営地に、これが落ちていたそうです」


 手に持つ者をサージャに渡す。サージャはくるりと回したり、平たい面に刻まれた文字のようなものを手でなぞったり、平らな部分に付いた小さな石に触れてみたり、隅々まで隈なく観察した。


 「これは・・・」


 小さな石は、精霊石だ。ただ、色は白濁し、もう精霊の気配を感じることもできない。


 『精霊石が付いているか・・・これは、下級の・・・もう精霊は生きていないようじゃ』


 ジルージャが横から見て、石に手をかざした。数秒後、刻まれた文字に亀裂が走り、ポロリと石が落ちる。

 その石を、ジルージャは拾った。


 「先端は、刃が付いてる、か・・・ああ、俺分かりました。これは精霊樹を削る道具じゃないですか」


 横から観察していたギルスが言う。先端に付いた刃の形が彫刻で使われる短刀に似ていたからだ。ギルスが使った彫刻刀は、もっと種類も豊富だったが、簡単な細工であれば短刀一つで何とかなるものだ。


 『ほほう。成程・・・そうであろうな。随分あくどい事をするわ』

 「では、この板の部分に書いてあるのは・・・」

 『精霊王の御言葉、じゃ。『汝の力を纏わせよ』、そう書いてある。精霊樹を削る際に強制的に力を流させ、精霊の力のみで木を削り、御言葉を刻んだのじゃろう。そんなことをすれば、下級精霊などは数文字で消滅するぞ』

 「使い捨てにされたか・・・」


 ジルージャの持つ石を見て、サージャは痛ましげに目を伏せた。


 『だが、この方法であれば精霊使いでなくとも兵器を量産できる、と言う事だ』

 「修繕も、可能ですか」


 アオがジルージャに聞く。

 ジルージャは頷いた。


 『だろうな。南の転移用精霊樹が切られ、南部で精霊の乱獲が行われたとすると、奴ら王都近郊で野営しながらそれらを兵器にしていたのだろう』

 「東への進軍が遅れている理由は、それか」


 ジルージャが神聖帝国軍を確認したのは昨日。

 その段階で動いて居ないとすると、アオ達が出発した後から何か他にも準備をしている可能性もある。


 「やはり、東が危険だな」


 サージャはそう呟いた。


今回名前の出てない、キララ、ルーク、クィンシルは王都に残ってます。

それ入れるの忘れちゃった。


ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

ブックマークもありがとうございます。

ポイント評価、感想などもいただけますと大変嬉しく思いますので、是非よろしくお願い致します。

土下座。

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