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終わりから始まる恋物語  作者: 梅干 茶子
北の神殿
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最後の石

お待たせいたしました!


 「――――これで、終わりっ!」


 最後の一文字を彫り終えて、フィージアは大きく伸びをした。

 フィージアが纏っていた紫の燐光が消える。

 常に風の力を使い続け、それによって文字を少しずつ削る作業は、精神的にも肉体的にも多大な疲労を伴っていた。先程までイージアが手伝ってくれていたのだが、イージアの力の損耗が明らかに限界を超えているようだったので「後一文字だから」と言って無理に精霊樹へ帰した。

 だが、その後一文字が思いの外大変だった。精霊の力を借りないというのはこうまで損耗が激しいものかと、フィージアはくらくらする頭を抱え、そのまま、沢山置いたクッションの上に仰向けに倒れ込む。


 「あーーー!死ぬ!」

 「はい。お疲れ様でした」


 横で同じように倒れていたクロードが、優しくフィージアの頭を撫でた。

 その感覚が心地よくて、フィージアはされるがまま、にやにやと笑った。


 ここは転移の間。

 何もなかった部屋の中に、今は机と、大量のクッション、それと作業道具が持ち込まれて、ちょっとぐちゃぐちゃとしている。そこかしこに木の削りカスが散らかり、煩雑としていた。


 「お疲れ様でした。回復薬持ってきましたよ」


 入り口から遠慮なくギルスが顔を出す。

 足取りに迷いなく、机の上に二本の下級回復薬を置く。


 「あれ、ギルちゃん知ってるの?」


 クロードがフィージアを撫でるのを止めない所を見ると、どうやらギルスには二人の関係がバレているらしいことが分かった。


 「ええ。もうだいぶ前から知ってますよ」


 ギルスもしれっと答える。


 「でも、サージャ様は知らないので。クロード殿、その辺で」

 「あー。そうか。サージャ様は今どこに?」

 「隣の部屋です。さっきジルージャ様がお戻りになりましたので」

 「じゃあ、止めておこう」


 そう言って、クロードが手を引っ込めて起き上がる。

 フィージアも、よっこらしょっと声を出して起き上がった。

 クロードが回復薬の瓶を開けて、フィージアに渡す。

 フィージアは一気にそれを飲み干した。


 「――――っあー!きくっ!」

 「フィージア様、おっさんくさい」


 ギルスの突っ込みに、フィージアは軽く手を振った。


 「いいの。もうおばちゃんなの」

 「クロード殿の恋心が冷めますよ?」

 「ふっ。こんなもので冷めるほど、俺は冷たくないぞ?」


 クロードは何故か、ニヤニヤしている。

 ギルスは悟った。クロードはギャップ萌えだ。

 幼い見た目におっさんの行動。何故それにギャップ萌えするのかは分からないが。

 個人の好みだ。深く突っ込むまい。


 「あー。はいはい、分かりました。俺一旦隣に戻ってますから、早めに来てくださいね」


 クロードが回復薬を飲み干すのを確認し、ギルスは空いた瓶を回収した。


 触らぬ神に祟りなし。

 ギルスはさっさとその場を後にした。


 ギルスが居なくなるのを確認してから、フィージアはクロードに声を掛ける。


 「・・・何でニヤニヤしてるの?」

 「フィージア様は可愛いなと思いまして」

 「どこがよ」


 今の、何処に可愛いと思う要素があったのか、フィージアとしても疑問でならない。

 しかしクロードは微笑むのを止めず、フィージアの頬に手を添える。

 そのまま、ふにっと頬の肉をつまんだ。


 「おばさんだなんて、思って無いでしょうに。そうやって強がるところですよ」

 「・・・いひゃい(痛い)

 「失礼」


 ぱっと手を放して、そのまま顔を近づける。

 チュッと唇に柔らかい感覚が残る。


 「ご褒美です」

 「むぅ」


 頬をバラ色に染めるフィージアのふくれっ面は、むしろクロードのご褒美だ。

 このまま食べてしまいたくなるが、ここで押し倒すわけにはいかない。

 クロードはすくっと立ち上がった。


 「まだ、お体が辛いのでしょう?私はお茶の用意をしてから行きますので、もう暫くお休みになってから来てください」

 「・・・ばれてたか」

 「分からない筈ないでしょう?」


 そう微笑んで、クロードは部屋を後にする。


 残されたフィージアは、再びクッションに埋まった。

 ボスン、と音がしてクッションの一つが沈む。

 フィージアが殴ったのだ。

 そのままクッションを抱き締めて、ギューッと丸くなる。


 「クロードの馬鹿・・・」


 口に出す憎まれ口は、意味を成さない。なぜなら彼女は笑っているから。

 クッションで顔を隠して、フィージアはにやけるのが収まるまでそうしていた。




 ※ ※ ※




 『皆集まったな。では、報告をするぞ』

 『・・・私は回復していたのだがな・・・』


 執務室に揃ったメンバーは、フィージア、イージア、サージャ、クロード、ギルス。それと帰ってきたジルージャだ。イージアはフィージアの契約精霊達の代表としてここに来ている。帰ってきたジルージャが、早々に連れて来ていた。


 『東と西の転移用精霊樹は問題無かった。仕掛けも無しじゃ。多分奴らはその位置すら掴めていない様じゃった』

 「それは、ひとまず安心ね」


 返すのはフィージア。

 多少やつれてはいるが、受け答えの声に疲労は感じられないので、とりあえず大丈夫と見ていいだろう。と、思うのはクロードだ。


 『じゃが、南の転移用精霊樹は、切り倒されておった』

 『やはり、南のが裏切ったと見るべきか・・・』

 『うむ。そうやも知れん。精霊の気配も薄かった』


 サージャが息を呑む。


 「では、南部で精霊の乱獲があったと言う事か?」

 『まだ確認できてはおらんが、恐らくそうであろう』


 ジルージャは頷いた。


 「火の精霊を中心に、捕まえられているとなると・・・被害の拡大が問題かしら・・・」


 フィージアは口元を抑えて考え込んだ。


 『それなんだかな。神聖帝国の奴ら少しおかしな動きをしておる』

 「こちらに進軍しているんじゃないのか?」

 『いや、進軍はしているのだかな。半分ほどなのだ。もう半分も王都に入るでも無く野営を続けておってな』

 「何だと?」


 サージャが訝しげな表情をする傍らで、ギルスはクロードに話しかけた。


 「クロード殿、地図ありますか?」

 「ああ、待ってくれ」


 クロードは席を立って、本棚から地図を取り出した。


 「これでいいか?」

 「ありがとうございます」


 受け取ったギルスは、机の中央に地図を広げる。

 王都を中心とした、イルカーシュ女王国全体の地図だ。いつかのアオの持っていた簡易地図とは違い、精緻に描かれている。


 「―――ここに、神聖帝国は陣を貼ってましたか?」


 ギルスが指すのは、以前アオが報告に挙げた場所だ。

 南部からの街道が、東西の街道と交差する場所。その南側。


 『そうだ。そこに居た』


 ジルージャは頷く。


 「サージャ様。これはもしかして・・・」

 「ああ。多分、もう一部隊は東を狙っているな」

 「東?・・・あ!火の精霊で森を燃やす気?」

 「おそらくは。火の上位精霊の力を使う可能性が濃厚です」


 南を敵方が通過した時点で、考えるべきだったのかもしれない。

 サージャがここに逃げ込む前に、敵は移動に最適な場所に陣を張っていたのだ。最初に敵陣をアオが教えてくれたあの時、いくら本調子ではなかったとはいえ、これに気が付くべきだった。

 まして、今はカーリアスの情報がある。敵方に火の上位精霊の力があるのは確実だろう。


 サージャは奥歯をギリッと噛む。


 「東が、手薄です」


 絞り出すように声を出す。

 悔しい。きっとアオならこれに気が付いているに違いない。

 サージャはそう思って、ふっと視線をジルージャに向ける。


 「ジルージャ、アオ達はどうしてた?」

 『おう。アオ達はお前の言う事と同じことを言ってた。もしかしたら東が危ないかもしれないとな。それで撤退部隊を二つに分けて、帝国兵についていた三人を東にやる、と言っていたぞ』

 「やっぱり・・・アオは気が付いたか。流石だな」

 「それでも手が足りませんね・・・相手は火の精霊を使用して来るとなると、森の迷宮が何処まで通じるか・・・」


 ギルスが唸る。


 「フィー姉様。お疲れのところ申し訳ありませんが、精霊便を東と西の巫女にお出しいただけませんか?祈祷を少し伸ばしていただきたいのです」

 「・・・そうね。わかったわ。とりあえず誰も助けに向かえない間は巫女の力が必要でしょう。それで祈祷に入っていたら、一網打尽にされかねないわね」


 祈祷には最低でも上位精霊一体を伴う必要がある。その精霊の力は大地を保つために使われるので、祈祷に参加する精霊は他に一切のことが出来なくなる。

 フィージアの様に八体も居れば守護に回せる精霊の数も多くなるが、他の巫女は皆三体しか持たない。

 そうなると、とてもではないが東全域、西全域を各々がカバーするだけで手一杯となるだろう。

 そこに兵器の脅威と、精霊が捕らえられるかもしれない恐怖が伴えば、おそらく負ける。


 『ふ・・・ん。ジルージャよ』

 『なんじゃ?』


 今まで黙って聞いていたイージアが口を開いた。


 『お主、サージャと共に東へ行け。あそこの木にも、お前と同じ役目を持った精霊がいただろう?』

 『・・・ああ。東西南北の神殿にそれぞれ一体ずつ、居るな。確かにそやつらの回収も重要な役目だが・・・』

 「それは、イージア様。私が承服しかねます」


 ジルージャは渋り、サージャは異を唱える。

 これから進軍して来る神聖帝国軍はどうするのか。

 ここを放置していくなど、ありえない。

 それに、と思う。

 神聖帝国軍と一戦交えることで、その戦力のほどを知りたい。

 北の大地を灰にする気はない。どの程度、自分たちが通用するのか、それが知りたい。

 また、ジルージャの守りは?イージア達の守りはこれで大丈夫なのか?心配事は尽きない。

 フィージアの事も、クロードの事も心配だ。

 守りたい。全てを守れるなら守りたい。

 サージャがそう思っているのを見透かすように、イージアの目は鋭くサージャを睨む。


 『———奢るな、人間が。貴様の力がこの地を全て守れるなど、片腹痛い』

 「っ!」


 イージアの覇気に当てられて、サージャは一瞬居竦んだ。


 「ちょっとイージア!」


 イージアを止めようとするフィージアの動きを、サージャの手が止める。


 「いえ、その通りです・・・」


 図星だ。イージアの言うとおりだ。


 『主殿が祈祷に入らないのなら、クロードが巫女兵を率いれる。精霊達はジルージャ一体より、上位精霊八体の方が強い。我々の力を、侮るな』


 イージアの鋭い視線は、ジルージャにも向けられた。


 『確かに、言う通り、じゃな・・・』


 ジルージャは反論せず、頷く。

 サージャは拳を握り締めた。白くなるほどに、強く。


 「・・・あの。横から済みません」


 ギルスが緊張の面持ちのまま、手を上げた。


 「東に向かうとしても、一度アオ達と合流する必要があると思います。あいつらの事なので、おそらく兵器の数や規模が掴めているでしょう」

 「だが、帝国に付いてた者が東に向かったのなら、東の方が情報を持っているんじゃないのか?」

 「いいえ。東に向かった連中は通信する手段を持ってました。彼らの情報はアオに筒抜け。全情報を流してから動いている筈ですので、全てアオが把握しています。それに、その情報を持った者が東に向かったと言う事は、ひと先ず警告は出来る筈。ならば急ぐよりも情報のすり合わせが優先かと」

 「・・・それは、一理あるわね。どうする?サーちゃん」


 全員の視線がサージャに集まる。イージアの視線はもう鋭くない。

 イージアの言いたい事は十分に理解できた。そして、ギルスの意見も必要なことだとわかる。


 「うん。ギルスの案で行こうと思う。東の神殿には、ここから移動するとなるとどれくらいかかるだろか」


 サージャは地図をのぞき込み、今いる位置を確認する。


 「転移の木を使って北から抜ければ、この位置に戻れるから、ここから東の転移の木に向かうのが良いんじゃない?それなら三日で行けると思うわ」

 「それは普通の人の移動速度ですね。サージャ様と俺なら二日で行きます。大丈夫です。まだ帝国軍は移動していないんですから。あっちは東の森にたどり着くまで五日はかかります」

 「ジルージャ、アオの位置は?」

 『あと一日でここにたどり着く』

 「そうか。よし。それならいけるな」


 サージャは地図を見ながら何度も頷いた。

 それからフィージアとイージア、クロードに頭を下げた。


 「すみません、後数日、お世話になります。よろしく、お願いします」


 フィージアが慌てて、サージャの頭を上げさせた。

 実力行使で。両手でサージャの肩をつかんで、体を伸ばして。

 顔をあげさせられてその目を見たら、フィージアが泣きそうになっているのに気が付いた。

 サージャは、はっとする。

 フィージアが、寂しがっている気がしたから。


 「ちょっと!なによ改まって!当たり前でしょ!こんな時じゃなければ、何時まで居たっていいんだから!ここに住んでも良いんだからね!もう!イージアが苛めるからよ!?」

 『我は別に苛めておらんぞ?ただ、心配し過ぎるなと言っただけだ』

 「言い方!きついわよ!」

 『あれくらい言わんと、こいつらは東へ行かないからだ』

 「わかってるけど!もうちょっと柔らかく言えたでしょうに!」

 『柔らかく言って、聞く連中じゃなかろうに』

 「まぁまぁまぁまぁ!」


 フィージアとイージアが言い合いを始める。

 そこにクロードが割って入っった。


 「とりあえず、明日からの方針が決まったところで、フィージア様は最後の石を収めてください!イージア様はそれに付き添って!それが終わったらご飯にして、明日の朝、皆で表神殿に行きましょう!通達と、報告ですよ!それからアオを待てばいいでしょう!どうですか!?」


 勢いでまくし立てて、明日からの計画をゴリ押しする。


 「異論は!?」


 クロードの剣幕に、フィージアとイージアは、おずおずと頷く。


 「・・・よろしい」


 クロードはふーっと息を吐く。

 それからパン、と手を鳴らした。


 「では、各自行動開始!サージャ様とギルスは俺の手伝いをお願いします!フィージア様とイージア様は仲直りしてくださいよ!」


 そう言って、二人を残して全員部屋を出る。というか、クロードが背を押して追い出した。


 残された二人は、顔を見合わせた。


 「・・・ごめんなさい。言い過ぎたわ・・・」

 『いや、我も、言い過ぎた。良かれと思ってした行動なのだがな。サージャを追い出そうという気持ちではないからな?そこは誤解しないで欲しい』

 「わかってる。私、サーちゃん達が居なくなっちゃうの、寂しかったの。だって、この五日間楽しかったんですもの。・・・八つ当たりね、ごめん」

 『いや、主の気持ちはわかる。ことが終わったら、またゆっくり来て欲しいものだな』

 「ええ。本当ね」


 二人はしんみりしてしまった。

 そうなのだ。二人とも、彼らが居なくなってしまうのは、とても寂しかったのだ。

 許されるなら、いつまでもいて欲しかった。

 でも、時がそれを許さない。彼らには、まだやる事があるのだから。


 「今私たちに出来ることは、心配かけずに済むようにする事ね」

 『そうだな。精霊石を収めよう』

 「ええ」


 現在、精霊石は全てフィージアの執務机の上にあった。

 精霊石を台座に入れる際には、持ち主の精霊が宿っている必要がある。

 イージアは窓を開けた。


 「お待たせ!ハルジア!」


 最後の一つの持ち主を呼ぶ。


 『おお!主殿!かたじけない!』


 ハルジアは窓から入って、精霊石に宿る。


 フィージアは、最後の石を、台座に納めた。


思いついたシーンを書いたりすると、本編が進まない。

でも書き留めておかないと、今後のストーリー展開に恐怖が・・・

そんでもって童話に応募するか迷うとか。


いつもお読みいただき有難うございます。

感謝しております!

評価、感想、ブックマークなど頂けると嬉しいです。テンション上がります!

それから、誤字報告。もし良かったら下さい。

読み返して恐ろしい誤字をしている事が多々あります。

長くなってきてしまったので、最初の方から読み返すのは中々骨の折れる作業です。

報告いただきましたら直ちに直しますので、宜しくお願い致します。

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