カーリアスとサージャ3
分かっているとは思いますが、作者は戦闘シーンが苦手です。
間合いが詰まった状態で始まった戦いは、初っ端から剣戟戦になった。
最小限の動きで、カーリアスから突きが放たれる。
サージャは体をひねってそれを躱し、右から腕を狙って斬りつけようとするが、返す刀で振るわれたカーリアスの剣に阻まれる。
力技では勝てない。
鍔迫り合いにならない様に剣の腹で反らして躱し、カーリアスの腕下をくぐるように反対側へ抜け、置き土産の蹴りを放つ。
膝を狙ったそれは、背後に飛んで躱された。
出来た隙間に、腰に下げた袋から玉を取り出して投げる。
煙玉だ。だだし、逃げる為ではない。
視界を煙に覆われている内に、腕にあるポケットから左右それぞれ三つずつ、短刀を取り出して投げ込む。
体の自由を奪う毒が塗り込められた短刀だ。
金属が弾かれる音がして、無駄に終わったことを知る。
ふぉん、と音が鳴り、カーリアスが煙を切り裂く。
煙は晴れたが、そこにサージャは居ない。
サージャは頭上を飛んで、背後に回っていた。
後ろから、足の健を狙って斬りつける。前に飛んで躱される。
前転して、カーリアスが振り返る。
不愉快な顔をして。
「サージャ、お前、俺相手に手を抜いてるのか」
「・・・そんなことはありません」
「なら、殺しに来い。動けなくしよう等と考えるな。お前に抑えられるほど、俺は弱くないぞ」
「そんなこと、わからないじゃないですか」
もう何年も前から、カーリアスに直接教えて貰ってない。サージャはそれからも強くなる為に努力したのだ。実戦も経験して、他の人達にも教えて貰った。
何年も前と、同じに考えて欲しくなかった。
「ならば、教えてやろう」
先程よりも遥かに早く、カーリアスの突きが飛び込んで来た。
「くっ!」
咄嗟に身をひねって躱したが、頬の肉を少し持っていかれた。
捻った先を剣が追撃する。
これもしゃがんで紙一重で躱す。
髪の毛が数本持っていかれた。
そこへ、短剣が迫る。
サージャは焦って、大きく後ろに飛んだ。
追撃の気配がない。
呼吸を整えてカーリアスを見ると、彼はいつの間にか、左手に短剣を持っていた。
「誰が二刀流を教えたと思っている?」
カーリアスは最初、サージャに自分と同じ型の二刀流を教えた。しかし、サージャの体格的に剣が合わず、両手共短剣になり、今は円形の刀になった。円の一部が持ち手になっているそれは、左右で挟み込む事で、少ない力でも対象を切断する事ができる。
突きは出来ないが、体の柔軟性に優れ、力がどうしても成人男性より劣るサージャには、これが丁度良かった。
踊る様に戦い、如何なる隙にも斬りつけることが出来た。
無力化させるのは得意だと思っていたのだが。
この速さでは、無理だ。
頭を切り替えなければ。
「すみませんでした。殺す気で行きます」
「端からそうしろ」
二人は構え直した。
隙を伺い、お互い動かない。
隙が無いなら、作ればいい。
サージャは、つま先に当っていた石を蹴って飛ばした。
死角から飛んだそれを、カーリアスは短剣で弾く。
その一瞬で、サージャはカーリアスの視界から消えた。
彼女の技は暗殺に秀でている。
気配を断つのが、誰よりも上手かったからだ。
だか、その技を教えたのも、カーリアスだ。
「左後ろ!」
声と共に振り向きざまに短剣を付き出す。
ギィンと金属を弾く音がする。
「チッ!」
舌打ちは聞こえたが、そこには既にサージャは居ない。
「上!」
今度は剣を、頭上に付き出す。
カーリアスの頭上から迫っていたサージャは、目の前に突き出された剣を、両手の円剣で挟んで弾く。
弾いた下から短剣が突き出された。サージャはこれを手首ごと蹴り飛ばす。
短剣は弾かれ、炎の中に飛んで行った。
両手が弾かれ、前を大きく開いたカーリアスの眼前にサージャは着地。
直に首を狙って双剣を繰り出す。
「チィッ!」
カーリアスは大きく仰け反って回避。
顎先をサージャの双剣が掠った。血が少しだけ舞う。
サージャが双剣を戻すより早く、カーリアスが体制を崩したまま右手の剣を振った。
サージャは転がってそれを回避。
二人にまた距離が空いた。
「流石、兄上」
「お前も、な」
短く声を掛け合う二人の口は、笑っていた。
楽しいのだ。殺し合いだと言うのに。
そんな事は二人には関係なかった。
恨んだ、憎んだ、悲しんだ、絶望した。
それらが全て、彼方へ消えていく。
今は只、全力で。
戦いの中、研ぎ澄まされた感覚は、次の一手を探る。
カーリアスが、炎の蛇を繰り出した。
地面を舐める様に凄まじい速度でサージャに迫る。
サージャは全力で走って回避。
しかし、炎の蛇はサージャを追い駆ける。
サージャは無事な柱を走って登る。
天井すらも走り抜け、カーリアスの真上へ。
待っていたとばかりに、カーリアスから短剣が投げ込まれた。
触れる直前、円剣でカーリアスめがけて弾く。
カーリアスが回避のために剣を振るうその隙に、カーリアスの背後に着地。
追う先を見失った蛇は消失した。
サージャは着地体制のまま、カーリアスに蹴りを見舞う。
回避の剣を振るっていたカーリアスは右脇腹に深刻なダメージを食らって少し飛んだ。
脇腹が折れた音がした。
だが、カーリアスは転ばずに踏み留まる。
懐に隠していた短剣を左で投げつけ、己の体制を立て直す。
直後、口から血を吐いた。肺に刺さったらしい。
サージャは短剣の一撃を、左腕で食らう。
裂傷の走った左腕は、円剣こそ持てるものの、もうあまり使えなかった。痛みは興奮のためか消失して久しい。そこに、あえて食らう。他の箇所を庇う為に。
「ぐっ!」
うめき声を上げて、気が付いた。
血が失われ過ぎていることに。
このままのペースで戦えば、意思半ばで倒れてしまう。
危機感がサージャを襲った。
だが―――
「これが最後の戦い。そう思って良いですか」
「これが、最後だ」
お互いに、ニヤリと笑う。
遠慮はいらない。死んでも良い。
だらりと、左腕を垂らしたまま、サージャは構えた。
カーリアスも構える。
カーリアスの左手から炎の球が飛び出す。
サージャは半歩飛んで回避。続けて二発、三発と飛び出す。
サージャはカーリアスを中心に円を描くように走った。
一定距離を保ったまま、力切れを待つ。
十発目、僅かに色の違う球が飛んできた。
ここだ――
サージャは方向を転換してカーリアスに向かって走る。
十一発目はサージャに直撃するが、左手で払うようにして被弾。
左手はそのまま後方へ弾き飛ばされるが、体制を崩す程の衝撃は無かった。
肉の焦げる香りが、僅かに鼻先を掠める。
サージャは勢いを殺されること無く、そのまま突っ込む。
カーリアスの剣が振られ、左から刃が迫るが、体を回転させて遠心力を足した右の円剣をぶつけて弾く。
体を急停止させ、鋭く踏み込み、弾いた衝撃で反対に跳ねる円剣を、カーリアスの首に、体重を載せて叩き込む。
首半ばまで、円剣は食い込んだ。
そのまま、円剣を振り抜き、カーリアスの横を抜けて残心する。
「私の勝ちだ、兄上」
確信して振り向くと、カーリアスは左手で杖を抜いていた。
サージャに向けて。
ゴフッと、血を吐いて、前へ倒れ込む。
杖は、カーリアスの手を離れて、前へ飛ぶ。
その刹那、サージャは杖から放たれた力をまともに受け、吹っ飛ばされた。
でも、かっこよく書きたいので、頑張って練習します。脳内で再生してます。