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終わりから始まる恋物語  作者: 梅干 茶子
北の神殿
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憶測


 『やはり、な』


 報告を聞いて最初に声を出したのは、ジルージャだった。


 「やはり・・・?」

 『ああ』


 それは、例の予兆についての事なのだろう。

 察することは出来るが、それが何を意味するのか、サージャには今一ピンと来なかった。


 「予兆があったという事でいいのかしらね?それで、サーちゃんは何をすればいいの?」

 『うん。本来ならすぐにでも精霊樹に向かって欲しい所だが、国内がこの状況で、更にカーリアスの願いがある。今のサージャでは、ここを放置して向かうことは出来まい』

 「ああ。それは無理だ」


 だろうな、と囁いて、ジルージャは、ずずっと紅茶をすすった。


 「では、現状はこのまま事態に対応する方向でよろしいのですか?」

 『それしかないであろうな。他の事態には、我々精霊が当たる。人間は人間の問題を片付ければいい』


 そう結論付けるジルージャに、イージアが頷く。


 『そうだな。主殿、クロード。無理をさせるが、我らの守りも固めて欲しい。なに、ジルージャのような無理は言わん。我らのはもっと簡素で結構だ』

 「いえ、なるべくご希望には添えるよう、努力は致しますよ。私もギルスに負けてばかりはいられませんので」


 クロードがにやりと笑った。

 ふぅ、とフィージアが溜息を吐く。


 「・・・お籠りまで、あと五日か。余り時間はないわね。こちらも手早くやってしまいましょう」


 髪をかき上げて、フィージアが頷いた。


 「しかし、東のイルカーシュがそのような状態に陥っているとはな・・・精霊が騒ぎ立てなかったのは、やはり上位精霊が攫われているからか?」

 『それもある。真っ先に周囲に情報をもたらす事が、上位精霊の役目の一つだ。だが、かの地の精霊達の心情が一番だろう。あの精霊達が、情報を周囲に伝えることより、場を守ることを優先した結果、ここまで情報が広がら無かったのであろうよ』


 サージャの問いに、イージアが答える。


 「精霊達に愛されているのですね」

 『あの地だけではない。あそこに生きるイルカーシュの民も、精霊にとっては保護の対象だ。大切にしているのだろうよ』


 ギルスの言葉に、イージアは微笑んだ。

 あの地に残った中級、下級の精霊達。彼らは本当に、あの地とそこに住む人々を愛していたから。無言の情報交換の中で、彼らが伝えてきたのは逃げて行った住民の行方と、森の中の老人の安否だけだった。何があったのかと聞いたのに、返ってくる答えが『彼らを助けてくれ』だけでは、正直情報はろくに収集出来なかったのだ。

 だから森まで足を延ばす必要があったのだが、森の中に居た精霊達も同様に言っていたところを見ると、本当に、大切にしていたのだろう。


 「イージア、これだけは確認させて。神聖帝国軍に捕まった精霊の属性は?」

 『植物が二体と、水が一体だ。あの地の上位精霊はそれだけしか残っていない筈だ』


 三体の精霊は、精霊王があの日に生み出した命だった。

 この地を守る力として、通常の精霊より大きな力が与えられていたはずで、イージアはそれが若干不安だった。


 「・・・それに加えて、謎の火の精霊使い、か。こちらは、もしかしたらカーリアス兄上の子供の可能性があるな」

 「年齢的に見ても、双子のうちの一人、でしょうね」

 『その話は先程聞いたが、事実なのか?』

 『む。私の情報を疑うのか?』

 『そうではない。しかし、そのような血筋の御子が他国に流れて、火の精霊が騒がないのが、なんとも奇妙だと思っただけだ』


 イージアには不思議だった。

 南の神殿の火の上位精霊は全部で五体居る筈だ。

 うち三体は現在の巫女を主としているが、フリーの精霊が二体いる筈なのだ。

 なにかあったら、その精霊から情報がもたらされるはずなのに、その精霊達が沈黙している状況が奇妙でならなかった。


 「もしかして・・・当時から、南の神殿が神聖帝国軍の影響を何らかの形で受けていた可能性があるのかも・・・」


 顎に手を当てて考え込んでいたギルスが、ポツリと漏らす。


 「十八年前だぞ?戦役に出ていたのは、カーリアス殿下と、ガルドと、俺くらいだろう?」

 「そうですね・・・当時の状況は全然分かりません。俺だってまだ四歳ですよ。父も母も無事でしたから、平和な時でしたしね。何かあったかと言われれば、ものすごく平和だったと答えられます。ですが・・・そうでなければ、おかしいのでしょう?火の精霊が騒がなかった事が」

 『うむ、そうなのだがな・・・』


 『あ!』


 ジルージャが突然声を上げる。

 そして、サージャの元へ行った。


 『サージャ。主と契約したのは、正に十八年前だな?』

 「ああ。そうだ。神聖帝国軍との戦争の直前だ」

 「そうだわ。カーリアスが戦争直前にどうしても、って言っていたのよ。私も覚えてるわ」

 『それだ』


 ジルージャが頷いて、イージアを見る。

 イージアも同じく強く頷いた。


 『サージャに風の精霊が付いた。それを火の精霊が面白く思わなかった可能性か』

 『ああ』


 精霊達だけで納得してしまい、人間たちは置いてきぼりを食らった。


 「・・・すまんが、分かるように説明してくれるか?何故、火の精霊が面白く思わないのだ?」


 サージャが聞くと、答えるのは傍らにいるジルージャだ。


 『我ら、精霊樹を任された精霊達には、私のような『使命』を受けた者が必ず居る。サージャの加護に反応するように精霊王に指示を受け、存在する者達だ』

 『それが、東西南北の精霊樹にそれぞれ一体ずつ、存在するのだ。本来ならば『使命』を持つ精霊全てでサージャをサポートしなければならないのだがな、南の火の精霊は、ちょっと問題があってな』

 『奴は自分が主導権を握ることに強く固執していた。私が先んじてしまったので、サージャに関しては完全に私が主導権を持つ。他の精霊達は一歩引くような立場になってしまうのだ』

 『それを快く思っていないことは、我らも知っていたのだがな・・・』


 「ちょ、ちょっと待ってください。だとすると、火の精霊の目的は―――」


 察しのいいギルスが気づく。


 『ジルージャの消滅。それと、サージャの身柄・・・だろうな』


 イージアが答える。


 『私の消滅を企てたか。通りで、カーリアスが私の元に来た時に、出しゃばらないと思ったが・・・なるほど、そう言う事だったか』


 ジルージャがギリ、と爪を噛んだ。


 「・・・私、か?」

 『ああ。神聖帝国はどうか知らないがな。火の精霊からはお前が一番狙われるだろう』


 呆然とするサージャにジルージャは頷く。


 「これは、南の神殿は絶望的かもしれないわね。その精霊を何とかして、南の巫女を呪縛から解放しないと、南の地はどうにもならないと思うわ」


 額に手を当て、フィージアが呻く。

 同じ精霊を扱うものとして、同じ精霊樹の巫女として、契約者の居なかった『使命を持つ精霊』の扱いにくさはよく知っていた。

 おそらく、同じ立場の火の精霊とやらも、似たような性格をしているのかも、と思う。

 他の精霊に比べて刺々しく、人に決して心を許さず、尖っていたのだ、ジルは。

 己の持つ使命に、絶対の誇りを持っていたのだろう。今ではそう思えるのだが・・・

 ジルが逆の立場になってしまったら、一体どうなっていたのか。

 もしかしたら、この地が神聖帝国軍の温床になったかもしれない。

 それほどに、激しく、暗い心を持っていたのだ。


 そうならなくて良かったと思うべきなのか、南の巫女に同情するべきなのか。

 フィージアは判断に迷い、深い、深い溜息を洩らした。


 『―――とはいえ、これはすべて憶測だ。限りなく高い()()()の話だ。まだそうと決まったわけではない。そうだろう?ジルージャ』

 『む、そうだな。よし。私はやはり情報を集めに出よう』


 ジルージャはサージャの傍らに浮き上がって一回転する。


 「ジルージャ、お前は、大丈夫なのか?」

 『何を言う。その為にお前たちに無理をさせたのだ。相応の成果を待っているといい』

 「・・・分かった。無事、帰って来てくれよ?」

 『任せよ。―――ギルス!』

 「はい!」


 急に呼びかけられて、ギルスは座り直して姿勢を正す。

 ジルージャが、いつになく真剣な目でギルスを見ていた。


 『不在の間、頼むぞ』


 何を、とは言わない。


 「はい。命に代えましても」


 ギルスも言わない。

 そんな事、分かり切っているのだから。


 「ジルージャ、道すがら、アオ達や、こちらに向かっている筈の軍の状況がわかったら、それも頼む」

 『心得た。では行ってくる。クロード!茶、美味かった!帰ったらまた頼むぞ!』

 「かしこまりました。お気をつけて!」


 サージャは左の腕に、ジルの石の入った腕輪を付けた。

 それを見てジルージャはにやりと笑い、窓を開け放ち、空へと舞い上がっていった。


 『本当に、あいつは忙しないな』


 残ったイージアは、紅茶を啜った。


 「フィージア様。最初はイージア様の物を作りませんか?」

 「そうね。私もそう思ってた所なの」

 『うん?なんじゃ?別に、我のものからでは無くていいぞ?』

 「そうはいかないわよ。私の第一契約精霊は貴女なんだから」

 「そうですよ。イージア様の物は一番最初に作らなければ」


 そう言って、イージアの周りにフィージアとクロードが集まった。

 サージャの腕輪の出来を見て、ライバル心に火が付いていた。


 「ギルス、体力戻ってるなら、片付けだけ頼めるか?」

 「あ、はい。わかりました」


 クロードがギルスに頼むと、ギルスは快く了解した。


 「サーちゃんは・・・動けるようになったらお風呂行ってらっしゃいな。あそこは回復にはもってこいだし。あとは、休んでおきなさいね。明日からまた手伝ってもらうから」

 「・・・すみません、フィー姉様・・・」


 サージャはソファーにもたれかかったまま、フィージアに返事をする。

 フィージアはその辛そうな様子を見て、額に手を置き、ため息を吐いた。


 「はー・・・やっぱり、無理してたんじゃない。ギルちゃん!」

 「はい?」

 「片づけ終わったらサーちゃんお迎えに来て!一緒に休んでなさい!」

 「え?ご褒美?」

 「や・す・む・の!余計に疲れてどうするのよ!」

 「ははは。分かってますよ。冗談ですって」


 白々しく目をそらして、ギルスは食器を重ねてワゴンに乗せる。


 「動けるようになったら風呂よ?分かった?」

 「一緒にですか?」

 「み・は・り!分かってて言ってるでしょ!」

 「あははは」


 笑いながら、ギルスはワゴンを押して部屋を後にした。


 「・・・若いからな・・・」

 「やっぱり・・・無理かしら・・」


 クロードとフィージアが呟く。

 サージャはぐったりとして、もう目を閉じている。反応が無いと言う事は、恐らく眠ってしまっているのだろう。


 『なんじゃ?二人とも変な空気じゃな』


 イージアだけが、分からず首を傾げていた。


次回の展開は、すっ飛ばすか、刻むか。

ただでさえ長くなってしまった北の神殿編なので、すっ飛ばす方が有力ですが・・・


お読み下さり、ありがとうございます。


良ければ、評価、感想など、お待ちしております。

こちらの下から、評価は簡単にぽちっとして頂ければ大丈夫です。


短編投稿した「運命の人」に初感想が付きまして。

嬉しいですね。とても嬉しかったです。

作品を見直すきっかけにもなりますので、宜しくお願い致します。

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