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終わりから始まる恋物語  作者: 梅干 茶子
北の神殿
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真実・後編


 『・・・少しだけ、俺の子供の情報を言っておく。どこかで出会った時に、お前が混乱しないように。

 俺の子供達は、双子だ。メイディア姉上が女王になってから、最初の神聖帝国軍の進行があった時に、産まれている。一歳になる前だった。神聖帝国軍の侵攻が手ぬるかったのは、俺の子供達を連れて行ったからだ。彼らはそれで、一旦手を引いた。

 妻にその当時の記憶は無い。どういう方法か、あいつらは彼女の中の俺と関わった記憶を、全て消していった。子供を産んだ、という覚えも無い。

 俺はそれから一度も子供達に会えていない。だから、奴らが俺の子供達をどう使うのかも、正直分からん。

 正確な容姿も、残念ながらか分からない。ただ、生まれた当初は、息子は俺に似ていた。娘は巫女・・・ミルメスによく似ていた。どちらも赤銅色の髪をしている筈だ。瞳は、息子は赤、娘は銀だ。年齢は、今年で十七歳の筈だ。もしかしたら、今回の戦線に参加して居るかもしれないが、俺はまだ確認していない。

 全く知らない情報で、混乱しているか?しているだろうな。

 子供の事を知っていたのは、姉上とガルドだけだ。フィー姉はお前につきっきりだったから、知らないだろう。クロードも知らない筈だ』


 まるで、こちらにいる人間が見えているかのように、カーリアスは話す。


 『多分な、お前はきっと、これを北の神殿で見ている気がしてな。そこにフィー姉とクロードもいるんじゃないかと思うんだ。二人にも、迷惑をかけるな・・・済まない』


 カーリアスはまた、頭を下げた。

 この映像の彼は頭を下げてばっかりだ。

 見ている方は切なくてたまらない。


 『ギルス、お前は絶対そこにいるだろう?サージャがこれを一人で見れる筈が無いからな。

 お前はサージャの支えだ。ずっと、そばにいてやってくれ。ずっと、サージャを守ってくれ。

 お前には色々厳しいこともしたが、全部、サージャを守るために教えてきたつもりだ。

 俺がサージャを心底任せられるのは、お前しか居ないからな。ああ、これは王家の総意だ。身分とか、そんなことは気にするんじゃないぞ。

 俺たちはその為に、お前を鍛えたんだからな』


 「・・・カーリアス様っ!」


 ギルスの目に涙が浮かぶ。

 色々な思い出が、それに付随する感情が、脳裏に浮かんでは消える。

 気が付けば、サージャの手を握り締めていた。

 サージャが握り返してくる。

 ギルスは袖で、目の涙を拭った。


 『サージャ。お前には、為すべきことがある。お前はそれまで絶対に死んではいけない。いいか。お前の周りにはたくさんの人がいるんだぞ。

 見失うな。信じろ。頼れ。

 そして、全ての事が終わったら・・・必ず、幸せになれ』


 映像の中の目が、何故だか真っすぐにサージャを見ていた。

 サージャはその言葉に、頷く。それしか出来なかった。

 鼻の奥がツンとして、涙が溢れそうだった。

 唇を噛んでも、その衝動は止まりそうもない。


 『俺は、ここで退場する。あとは頼んだ。イルカーシュ女王国を、このマザーラ大陸を、救ってくれ』


 深く、深く頭を下げるカーリアスの姿を最後に、映像は途切れた。


 フィージアが、サージャが、ギルスが、クロードが、皆涙を流していた。


 「なんで・・・こんな・・・カーリアスは何も言わなかったのよっ!」


 フィージアの悲鳴がきっかけだった。


 「う、うわあああああ・・・!」


 フィージアが体を振るわせ、泣く。

 サージャが声を上げて、泣く。

 ギルスが、サージャを抱き締め、クロードがが、フィージアの肩を抱く。

 彼らは己の顔を手で隠して、泣く。


 その光景を、泣けないジルージャは見ているしかなかった。


 『カーリアスよ。お前は、愛されていたぞ』


 天井を見上げて、精霊はささやく。


 その声は、誰の耳にも届いてなかった。




 ※ ※ ※




 一同が、その涙から復活するのには、多少の時間が必要だった。

 だが、事態は待ってくれない。現在進行形で、どこかで何かが起こっている筈なのだ。


 「・・・フィージア様、ご説明、頂けますか」


 ギルスのその声には、怒りが籠っているように思えた。

 この期に及んで、秘密があるとは思わなかったからだろう。


 「秘密にしたつもりはないわ。本来なら、寿命までなんの問題もなかったのよ」


 鼻をすすって、フィージアが言う。


 ―――次代に残れない命、カーリアスはそう言った。


 「大地の大精霊の加護から放たれる時、その加護を受ける者は主と共に眠りにつく―――この伝承の事だったのですね」

 「そうよ」


 サージャは自分で答えにたどり着いていた。

 これは王家に残る契約の文言の一つだ。


 「大精霊様のお力が、メイディアの次の代まで持たない。ということは、どこかで直系の血族は死ぬことになる。カーリアスはそのことを言っていたのよ」

 「では、私も・・・」

 「サージャは別。貴女は大精霊の加護を持ってないわ。私も同じよ。それと、カイルとライラも同じ」

 「本来なら、ガルドも死ぬ必要はなかったのか・・・だが、あいつの事だ。きっと女王と命運を共にしただろうな」

 「だから共に、カーリアス殿下に殺された、という事ですか」

 「恐らく、そうだと思うわ」


 一同の間に、沈黙が下りた。


 『・・・カーリアスはな、ガルドもメイディアも、殺す気はなかったんだ』


 そこに、ポツリとジルージャの声が響く。


 『まだ、次代が大精霊を連れてきてないからな。それまでは時間があった』

 「じゃあ、何故・・・」


 聞き返すのは、サージャだ。

 その問いに、ジルージャは両手を見ながら答える。


 『暴走、してしまったんだ。私の力が。私の力をカーリアスが制御できるはずもなかった。あれは火の精霊に選ばれていたからな』


 ジルージャが遠い目をする。


 『暴走した力から、ガルドは女王を守った。だが、火の力と風の力は相性が良すぎる。増幅されて、彼らを穿ってしまった』


 後悔が、深くその瞳に刻まれていた。


 「・・・ジルージャ、なんで兄上は、あんな嘘ばっかりついたんだ?」


 サージャは一番聞きたかったことを、ジルージャに聞いた。

 ジルージャは目を伏せる。


 『カーリアスに宿る火の精霊が、南の巫女のものだった、と言ったら分かるか?』

 「まさか、見張られていた・・・?」

 『そうだ。そのまさかだ。カーリアスは、女王とガルドにも真実を話す事が出来なかった。彼らも裏切られたと思っているのかと思ったがな・・・ガルドも女王も、事情を察しているようだった。だから茶番のつもりだったんだろう。あの時カーリアスを拘束すれば、その茶番も終わりだと思っているようだった』

 「そんな・・・」

 『だが、私の力が強すぎた。カーリアスに傷を負わせ、女王とガルドを殺した。神聖帝国の思惑通りだ』


 ジルージャは鼻で笑った。

 奴らの思い通りに動いてしまった現実が、許せないかの様に。


 『サージャにあんな事を言ったのは、全ての情報を相手に掴ませない為だろう。特に加護の情報は、絶対に漏らせないとカーリアスは判断した』

 「だから、呪いなんて言ったのね」

 『もう一つは、カーリアスの願望だ。お前の成長を、見たかったのさ』

 「兄上・・・」


 サージャは唇を噛み締めた。


 『最後にカーリアスがサージャに杖を向けたのは、私を返す為だった。ところが、そこで私は力が発動してしまうことに気が付いた。それで必死に封印を解いた。結果は知っての通りだ』


 両手を開いて、己に呆れ返るジルージャ。

 フィージアは、その姿に疑問をぶつける。


 「ねえ、ジル。一つ質問してもいいかしら」

 『なんだ巫女』

 「力の発動って、連発は出来ないの?」

 『ああ、そうだ。一回使ったら、力の充填までにしばらくの時間を要する』


 ジルージャは、フィージアに頷いた。


 「それで、か・・・全力に近い一発目を打った直後だったから、私は左腕程度で済んだのか」

 『・・・あれは、不本意だった。今回私は、サージャに傷をつけてばかりだ。申し訳ない』

 「いや、ジルージャ。その後のお前は、消滅の危機があったのにも関わらず私を助けてくれたじゃないか。今だって、こうして話を聞かせてくれている。あれは仕方のないことだったとお前が言うなら、私はそれを全面的に信じるよ」

 『・・・ありがとう、感謝する』

 「これからも、よろしく頼む。出来れば、今回みたいなことがあった時は、事前に説明してから居なくなってくれよ?」


 サージャはジルージャに手を差し出した。

 ジルージャは、その小さな手で、サージャの指を握る。


 『ああ。こちらこそ、よろしく頼む』


 二人は笑った。


 「とりあえず、質問はここまでで大丈夫かしら?」


 フィージアが聞けば、皆が頷き返す。


 「じゃあ、今日の作業に移りましょう。精霊たちを守る道具を早急に作る必要があるわ。ジル、あなた精霊王の御言葉はわかる?私に教えてほしいんだけど」

 『他の精霊の仕事を取ることになりはしないか?』

 「私だけじゃなくて、出来れば同じ作業をサージャにもしてもらいたいの。貴女を守る道具も必要でしょう?」

 『分かった。サージャの指導は私が請け負う。それでいいか?』

 「そうだな。よろしく頼むよ、ジルージャ」


 そう言って女性二人の作業が決まった。


 「では、私たちは枝からの切り出し作業ですね」

 『デザインは各聖霊に聞いた方がいいだろう。あれであいつらは拘りが強いからな』

 「じゃあ、おれもそっちを手伝います」


 ギルスとクロードの作業も決定した。


 「じゃあ、場所を執務室に移しましょうか。私の精霊達は二人ずつ呼びましょう」

 「そうですね。その数なら部屋は荒れる心配は無いでしょうし、隣の転移部屋を使えば、木を彫っても問題ないでしょう」


 そうクロードが言った時だった。


 「あ!私としたことがっ・・・一つ報告を忘れていました!」


 サージャが突然慌てだした。


 「こちらに転移して来た時、扉になっている精霊樹の周囲が、侵入者対策で大きく変貌していたんです!」

 「あ!そうです!報告を忘れていました!」


 ギルスも続いて慌てだし、大まかにどう変化していたのかを説明する。


 「侵入者はこの国のものではないと言っていましたが、精霊達は異常に警戒していました・・・何故今まで忘れていたのだろう?」

 『何か、意図的なものを感じるな』

 「そう、じゃあ私の精霊を一体、その調査に向かわせましょうか」

 『いや、待て巫女。私が行こう』

 「でも、ジルージャは復活したばかりだ!」


 反対を言うのはサージャだ。


 『だがな、もし神聖帝国のものだった場合、たとえ上位精霊といえど捕まる可能性がある。私はそれが効かない』

 「効かないのか?」

 『私は、サージャの加護と繋がっている。サージャの持つ精霊石以外で私を捕らえることは出来ないんだよ』


 だから大丈夫だ、とジルージャが言う。


 「・・・わかった。信じる」

 『おう。安心して待ってるといい』

 「ジル、頼むわね」

 『お任せだ、巫女』


 そう言って、ジルージャは空いてる窓から飛び出した。

 姿は半透明になり、実体化は解除される。

 文字通り、風になってジルージャは消えた。


週末ここまで。

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