大切な事
本日二本目です。
こちらからお読みの方は、1つ前にお戻り下さい。
ギルスは結局、サージャに追いつくことなく、部屋の前まで来ていた。
ノックして、声を掛ける。
「サージャ様。開けてください、俺です」
「ちょっと待ってくれ!まだ、落ち着いてないんだ・・・」
「落ち着かなくていいですよ。その為に俺が来たんですから」
そう言うと、ドアがそっと開いた。
まだ涙目のサージャが顔を出した。
「ギルス・・・頭が、混乱してるんだ。私はどうしたらいいんだろう・・・」
「ちょっと失礼。入りますよ」
「わっ」
ギルスはドアの隙間を強引に開けて、中に入る。
ついでに入り口に居たサージャを腕で捕まえた。
そのまま抱き寄せて、キスを一つ落とす。
「・・・ギルス」
恨めしそうにサージャがギルスを見る。
「少し、落ち着きましたか?」
「・・・うん」
サージャは拗ねた子供のように頷いた。
ギルスはサージャを抱き上げて、ベッドへと移動する。
「わ!何するんだ!」
「ちょっと移動するだけですよ」
そう言って、ベットの縁に腰を下ろし、その上にサージャを乗せる。
後ろから抱きかかえるような形になった。
「さて、聞きましょうか」
「・・・ちょっと恥ずかしいな」
「でも、暖かいでしょう?」
「・・・うん」
「温もりは、人を落ち着かせる効果があります」
「・・・それも、習ったのか?」
「ええ。そうですね」
「そっか。私は何も、知らないな・・・」
「もしサージャ様が知っているなら、俺が知る必要は無かったのかもしれませんが・・・」
そこで少しだけ、ギルスは口を噤んだ。
サージャが不思議そうな顔で振り返る。
その顔を見て、ギルスは苦笑した。
「いえ、カーリアス様は、サージャ様を大切になさっていたんですよ。やっぱり」
「そうなのか?」
「こういう事を知らない、触れさせてない、と言う事は、そういう意味です。大切ではない相手ならば、諜報活動に必要だからと言って無理やりにでも教えていたでしょうから。それが出来る方でしたよ、俺の知ってるカーリアス様は」
「そうか・・・私は、部下達にそういう事は教えていないのだが・・・」
「それは問題ないでしょう。彼らはまだ若すぎます。俺だって、初めて連れて行かれたのは南部戦争が終った頃ですよ」
「十七、八の頃か」
「そうですね」
そこで今度は、サージャが口を噤んだ。
「どうしました?」
後ろから、優しく抱きしめる。
しかし、サージャは特にそれに反応しなかった。
と言う事は、考えていたのはこういった行為の事ではないのだろうと、ギルスは手を緩めた。
「いや、兄上の話は、どこまで本当だったんだろう・・・憎しみは、真実味を帯びていたんだ。アレが全部嘘だとは思えなくってな」
「・・・何か意図があってのことだとは思いますが、それはジルージャ様が復活してみない事には解けない謎ですね」
「そうなんだがな・・・もし、兄上の言葉が真実なら、南部戦争は兄上が引き起こしたんじゃないかと思ったんだ。あの頃から、何かおかしい気がしていたから」
「でも、あの戦争は獣王国滅亡の余波で、神聖帝国に南部が攻め込まれたのではなかったですか?」
「ああ、そうだ。神聖帝国軍も疲弊していたから、だからこちらに大した被害が出なかったのだと思っていたのだがな・・・」
「カーリアス様の手引きだったら、もしかしたらそう調整したのかもしれない、と?」
頷いて、サージャはギルスを振り返った。
「そうだ。だが、お前の話を聞くと、戦後にお前を鍛えていることになるだろう?」
「・・・鍛える、と言って良いか微妙ですが・・・経験は積ませて頂きましたね」
困ったようにギルスは答える。
サージャは気にせず、更に悩み続けた。
「それに、獣王国の難民の事もある」
「ああ確か、南部よりさらに南の砂漠地帯のオアシスで受け入れたんでしたっけ?」
「そうだ。最初こそ南部から色々手を貸していたのだがな。彼らは砂漠の商人として、現在は独立して動いている」
「そうですね。全国民を奴隷にしようとしていた神聖帝国が見逃すとは思えない、ですか」
「ああ。どうも、おかしいんだ。兄上が何を考えていたかが読めない」
顎に手を添え、首をひねって考える。
それを見て、ギルスはもう大丈夫かな、と思った。
「・・・落ち着かれましたか?」
「え?あ・・・うん。あれ、私はこの事で混乱していたのではない筈なのだが・・・」
「問題が多いと言う事ですよ」
「確かに、問題は多いな。悩んでいても答えの出ない事ばかりだ」
溜息を吐くサージャに、ギルスはクスリと笑う。
「・・・何だ?」
「いや。こう考えてはどうでしょうか。俺が仕込まれたのは、サージャ様への置き土産だった、と」
「置き土産?何故だ?」
「サージャ様が不幸にならないように、ですよ」
「・・・意味が解らんな。ギルスがそれを知っているのと知らないのとで、私の何が不幸になるんだ?」
「そうですね、艶事をサージャ様が担当しなくていいと言う事ですかね。サージャ様はそう言った事を大切に思われているでしょう?同じように、カーリアス殿も思っていたんだと思いますよ」
「でもそれでは、ギルスはどうなるんだ?大切ではないのか?」
「いえ、大切ですよ。特に大切な人とする行為は特別です。ですが、男と女は違います。男ははじめてではどうも、その色々困ったことになりますので」
「色々?」
「そうですね・・・まず、手順を知らないと女性をリードできません」
「ダンスの様なものか?」
「うーん。そう考えて頂いても良いかもしれませんね。今はまだ」
「まだ?」
「これからしたいですか?」
後ろからギュッと抱き締めると、サージャは硬直した。
「いや、こ、これからは・・・」
「じゃあ、まだです」
笑ってギルスは手を緩める。
「したくなったら何時でも言ってください。その時に分かりますから。あ、二人きりの時ですよ。あと、纏まった時間が空いている時に」
言っておかないと、また人前で口を滑らすかもしれない。そう思ってギルスは告げた。
「そ、そうか。もしかしてさっきのは人前で言ってはいけなかったのか?」
「そうですね。と言うか、艶事全般に渡って人前で言うべきではありませんね。フィージア様辺りは喜びそうですが、女性同士ならいざ知らず、男性が居る場所では駄目です」
「そうなのか・・・私は皆が話しているからてっきり大丈夫なのだと思っていた・・・」
サージャは顔を赤くして俯いた。
「知っているから、皆言葉を選んで話していたんですよ。言っていいラインみたいなものが感覚で分かっているんです」
「そうか。それはちょっと羨ましいな」
「サージャ様はまだお分かりにならないから、からかわれているのも分からないでしょう?」
「え?からかわれていたのか?」
「そうですよ。俺達二人共、です。フィージア様は大変楽しんでおられましたよ。クロード殿も反応こそしませんでしたが、内心は楽しんでおられたんじゃないですかね」
「うう、なんだか悔しいな」
「年長者ですからね。ある程度は仕方ありませんよ」
そう言ってギルスは苦笑した。
サージャはまだ納得していないようで、うんうん唸っている。
「さて。サージャ様、これからどうします?今日はこのままお開きで良いみたいですけど」
「そうなのか?一言文句を言いに戻ろうと思ったんだがな」
「もう、いらっしゃらないと思いますよ」
「・・・そうか。なら仕方がない。でも、何も思い付かないな」
サージャがコテンと首を傾げるので、ギルスは、その頭を撫でた。
「・・・酒でも貰ってきますか?寝酒で」
「ああ、良いかもしれんな。考えることが多くて、眠れる気がしないしな・・・行くか?」
「いえ、取ってきます。多分クロード殿はまだ居ると思いますので、ついでにツマミも貰ってきましょう」
「じゃあ、私は着替えておくかな」
サージャは立ち上がった。
ギルスは膝の上が寒くなって少しだけ寂しくなる。
「サージャ」
咄嗟に、立ち上がってサージャの手を握った。
「な、何だ?」
サージャは驚いて振り返る。
「俺以外の男に、絶対油断しないで下さい」
ギルスは真剣に言い募った。
「どういう、事だ?」
「男は獣だと、そう思って下さい」
「何故だ?」
「今は分からなくていいです。でも、いずれ分かります。俺だっていつ獣になるか分かりません」
「そんなことあるか。ギルスはギルスだ」
サージャは分かっていない。当然だ。ギルスはまだ、サージャの前で獣になったことは無いのだから。
「酒は、危険ですから。俺が居ない所で飲まない事。いいですか?」
「・・・よく分からんが、そんな機会も無いだろう。いいよ。分かった。そうする」
サージャの返事を聞いて、ギルスはニッコリ笑って頷いた。
「じゃ、取ってきます。待っててくださいね」
「ああ。クロード殿に済まなかったと伝えてくれ」
「はい。伝えます」
そう言ってギルスは部屋を出た。
ドアを締めて、溜息をつく。
「俺、いつまで保つかな・・・」
かなり深刻な、悩みだった。
これは恋愛物語だと言うことを思い出したので、入れました。
こういうの書いてる時が一番ムズムズする。
次話の投稿のお知らせは、活動報告にも書いております。たまに飛ばしますが。
くだらない事もついでに書いてますので、宜しかったらそちらもドウゾ。