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終わりから始まる恋物語  作者: 梅干 茶子
北の神殿
21/60

北の神殿1



 カランカランカラン―――


 執務室に、乾いた木の音が響き渡る。


 「あら?誰か来たわね」


 丁度、その部屋で書類と向き合っていた女性は、ふんわりとした緩やかな巻き毛を背に流し、紫の輝きを宿すその銀の髪を、靡かせて立ち上がった。


 「転移門です。お二人、ですね。王族のどなたかでしょう」


 執務机の脇に控えていた、背の高い白髪の紳士が女性に声をかける。


 「そうねえ。昨日の件かしらね。サーちゃんかな?」


 のんびりと答えて、女性は本棚の中の置物をグルリと捻った。


 本棚の横の壁が上に上がり、その先に道が現れる。


 「とにかく、行ってきます。お迎えの準備をお願いね」


 「はい。行ってらっしゃいませ」


 紳士は腰を曲げ、女性に礼をする。

 それを見て頷いた女性は、現れた道に姿を消した。




 ※ ※ ※




 「やっぱり!サーちゃんじゃない!」

 「お久しぶりです。フィー姉様」


 走って飛びついてくる女性を、サージャは難なく受け止める。


 この落ち着きのない、見た目サージャより幼く見える女性が、フィージア・アルカード。

 今代の北の巫女である。

 サージャとは年齢が十三も離れていることもあり、姉の様な人である。

 ちなみにサージャは今年二十五になる。と言う事は、フィージアは三十八。

 この年だが未だに婚姻を結ばず、独り身で過ごしている。

 理由は色々とある。


 歴代随一と言われる風の精霊の加護を複数持ち、契約精霊も八体に及ぶ。

 その力を是非とも次世代に、と望まれていたが、彼女の精霊達の審美眼が相当に厳しく、並み居る婚約者どもを吹き飛ばしにかかってくれた。それを越えてくる猛者はついぞ現れなかった。

 更に、彼女の性格である。

 彼女は純愛を重んじた。

 王族に近しいものである。北の巫女である。政略結婚当たり前の世界で、彼女の求める純愛は、とうとう実る事が無かった。

 それでも家族は羨ましかったらしく、彼女は王宮に頻繁に出入りしていた。

 以前はサージャを娘のように可愛がり、装飾品やドレスを持ち込んでは着せ替え人形のようにして遊んでいた。

 カイルやライラが生まれてからは、その対象は年少組に移った。

 北の巫女に赴任が決まる直前まで、彼女は王宮に入り浸っていた。


 彼女の行動は王族に近すぎて、敬遠する者も多かった。

 そのうち縁談も無くなり、八年前、北の巫女に赴任してからは色々と遠ざかってしまっている。


 時々こうして訪れると、全力の歓待を受ける事になる。

 よくある事なので、サージャとしても嫌だということは無い。


 ただ、彼女はサージャから離れようとしない。

 全力でぎゅうぎゅうと首元にしがみついてた。


 「あの、フィー姉様。そろそろ離れて頂けませんか・・・」

 「いやーよう!何年ぶりだと思ってるのかしら!サーちゃん充電させて頂戴!」

 「いや、年始の際にこちらには詣でたはずですが・・・」

 「あの時は人目があり過ぎてぎゅーって出来なかったの!」

 「・・・」


 ぷーっと頬を膨らませ、幼さに磨きをかけるフィージア。

 サージャは仕方がないと、そのままにすることにした。


 「相変わらず、サージャ様がお好きですね」

 「あら?ギルちゃん居たの?」

 「眼中に無しですか・・・お久しぶりです、フィージア様」

 「お久しぶりねギルちゃん!相変わらずサーちゃん一筋?」

 「ええ。お陰様で」

 「やーん!焼ける!なんか進展あったかしら!?後でその話聞かせて頂戴ね!」


 フィージアは色恋沙汰の話が大好きだ。一度、フィージアにサージャの事を相談してしまってから、ギルスは犠牲者になっていた。いや、心強い味方と言ったほうが良いのだろうか。


 「あー。えー・・・はい。許可がいただけましたら・・・」


 ギロリとギルスを睨む目がある。サージャだ。

 その視線を受けて、ギルスは歯切れの悪い返事をした。


 「あら?あらら?」


 フィージアは何かを察したのだろう。サージャとギルスを交互に見て、にんまりと笑う。


 「後が楽しみだわぁ」

 「フィー姉様・・・」


 サージャは溜息を吐いた。


 そこに第四の気配が割り込む。


 「やはり、サージャ様とギルスでしたか。よくいらっしゃいました」

 「クロード殿」


 白髪の紳士が、軽く腰を折り、サージャに向かって礼をした。

 ギルスもクロードに礼を返す。

 サージャは体勢的に無理だったので、苦笑しながら言葉で返した。


 「クロード殿。騒がせてしまって済まない」

 「いえ、お変わりないようで何よりです。それに、騒いでいるのはうちのフィージア様ですから」

 「やだ、クロード。サーちゃんが来たんだから仕方ないじゃない」

 「心得ております。それより、お茶とお食事の用意が整っておりますよ。移動いたしませんか?」


 サージャはほっと息を吐いた。


 「それは有難い。ただ、山登りして来たので、このような格好で申し訳ないのだが・・・」

 「いいえ。本日は私共しかおりませんので、そのような気遣いは無用に願います。お疲れでしょうが、どうぞそのままお召し上がりください」

 「そうよぅ!サーちゃんはどんな格好してても一番可愛いんだから!」


 ニコニコ笑って、フィージアはやっとサージャの首から降りた。

 そのままするっと、サージャの右腕を取った。


 「さ、行きましょう!クロードの料理は美味しいのよ!」


 そのまま腕を引いて、フィージアは走り出す。


 「ふぃ、フィー姉様!?」


 引っ張られて、サージャも釣られて走り出した。


 後には残された男が二人。


 「ギルス。お前達が来たと言う事は・・・」

 「はい。昨晩、女王とガルド騎士団長が亡くなり、そして謀反人カーリアスをサージャ様が打ち取りました」


 ギルスの言葉を聞いて、クロードは顎に手を置き、考え込む。


 「反乱軍の制圧は?」

 「王宮に入ったものは制圧完了しております。ですが、王都周辺に残存兵多数。半日の位置に神聖帝国軍も確認されています」

 「そうか・・・詳しい話は御二方も交えて聞こう。あまり長く離れると、何をするか分からんお人だからな」

 「そちらもですか・・・」


 ギルスは妙な共通点に苦笑した。


 彼の名はクロード・モアレス。

 元、騎士団副長。フィージアが北の巫女に赴任する際に、護衛騎士として共にこちらに移動した。

 ガルド騎士団長と同郷で、ガルド騎士団長の片腕で、ギルスの大先輩。

 幼かったギルスを鍛え上げた二人の内の、一人。

 ギルスにとっては、頭の上がらない存在である。

 今でこそ執事服を着ているが、戦場では鬼のように強い人だった。

 初陣の際には、彼の部隊に所属した。彼の部隊だったからこそ、生き残れたとも言える。

 そんな彼にフィージアを託したのは、ガルド騎士団長というよりはメイディア女王たっての願いだったという話だ。


 ギルスは思った。

 もし、彼が王宮に居たら、メイディア女王とガルド騎士団長は死ななかったのではないかと。

 だがそれを一番理解し、悔いているのはクロードに他ならない。

 その証拠に、クロードの手は爪が食い込むほど強く握られている。


 ギルスは黙って、先行するクロードに続いた。

 その背中は、恐ろしく静かな、静かな怒りと悲しみを湛えていた。




 ※ ※ ※




 転移室を出て、執務室を通過すると、執務室と間続きになった応接室がある。

 そこを更に通過して、木造の廊下に出る。さらに進んで階を降りて十分な広さのある部屋へと移動した。

 その部屋は、小型のキッチンを併設した、食事処だった。


 「へえ、まるでリズの所の食堂みたいだな。あそこよりももっとこじんまりしているか」

 「そうですね。一般家庭ですと、調理場と食事をするところは別々ですから。これは便利でいいですね」


 サージャとギルスがそれぞれ感動していると、腰に手を当てたフィージアが胸を張った。


 「いいでしょ?私が考えたのよ!一人で食べるのが嫌だったから!」

 「食事を作っている間もそこに座ってるんですよ」


 そう言って、クロードが料理場と対面になっているカウンターを指差す。


 「目が離れなくて良いじゃない。いっつも文句言ってるんだから」

 「それは何かとやらかすからじゃないですか。先日だって、この台所を煤だらけになさったでしょう?」

 「それは!クロードの誕生日祝いをしたかったの!ケーキ作ろうと思ったら、スポンジ黒焦げになっちゃったんだもん!」


 フィージアは、壊滅的に家事が出来ない。

 裁縫をすれば服を破き、掃除をすれば家具を壊し、料理をすれば火事を起こす。

 精霊に愛されすぎていて、些細な力加減が難しいらしい、というのは小さい頃に聞いた話だ。この年になっても変わらない所を見ると、あまりそこら辺は鍛えていないのだろう。

 なので、この二人、家事は全てクロードが担当している。ガルドも同じ質だったらしく、クロードは昔から何でも出来る人だった。


 そういう所も含めて、クロードはフィージアに付けられたのかも知れないな、とサージャは思う。


 「さ、座って下さい。今お出ししますので。ギルス、手伝え」

 「はい!」

 「あの、私も何か手伝えることは無いか?」

 「サーちゃんは良いの!私と待ってるの!」


 ギルス達に任せて自分だけ何もしない事に罪悪感を感じたサージャは手伝いを申し出たが、その手をフィージアに握られ、食卓へ連れていかれた。

 

 「では、フィージア様のお相手をお願いします」


 その背に、微笑みながらクロードが声を掛けた。


 「いや、そういうのではなく・・・」

 「何?サーちゃん私の相手は嫌なの?」

 「そういう事ではなくてですね・・・」

 「じゃあ、あっちで待ちましょう!」

 「はい・・・」


 最終的に諦めて連行されるサージャを、ギルスは苦笑して見送るとクロードに続いて台所に入った。


 フィージアは強引に自分の向かいににサージャを座らせると、自分もテーブルに着いた。


 「それで?食事の前に話したい事はない?」


 机に両肘を付いて顎を乗せ、ニコニコとフィージアが聞いてくる。


 「いや、どれも長い話で・・・どこから話したら良いのやら・・・」


 サージャは困惑する。

 本題は後で、と思っていたのだ。でも切り取って話せるような事が何かあっただろうか・・・


 「じゃあ、とりあえずその服は?珍しいんじゃない?色付きのワンピースなんて」


 迷っていると、フィージアが聞いてくれた。


 「ああ、これはリズから貰いました。昨晩服を着られない程壊してしまったので、替えにとくれたんです。初めてお下がりを頂いたんですが、山道で裾をボロボロにしてしまって・・・」


 サージャは悄気る。


 「後で見せて頂けますか?直せるようなら私が」


 そう言って、クロードは食事を運んできた。

 右手と左手にプレートを一つずつ。それをサージャとフィージアの前に置く。

 ギルスもクロードと自分の分を運んできた。


 「市井に紛れる機会はこれからもおありでしょう。とてもよくお似合いですので、大切に着られると宜しいかと」

 「そう言って頂けると、助かります。正直自分では直せそうも無かったので」

 「かしこまりました」


 クロードはにっこりとほほ笑み、また台所に引き返していく。

 ギルスはその間に一往復して、シルバーの入った籠を持ってきていた。

 それぞれのプレートの前にシルバーを置いて行く。


 「良かったですね」


 サージャにそう言ってまた戻っていく。


 パンの入った籠が運ばれ、茶器にお茶が注がれて、あっという間に昼食の用意が整った。


 「じゃあ、自然の恵みに感謝して頂きましょう」


 そうフィージアがが声を掛けた。


 「クロード殿とギルスにも感謝を。頂きます」

 「あら、それも大切ね」


 そう言って笑い合って、にぎやかな昼食が始まった。

なんか、執筆速度が遅くなってます。

すみません。

昼のメニューはオムレツとサラダとフルーツのプレート。

それとパンとお茶(紅茶)。


詳しい描写は省きます。お料理小説も良いんですが、私の実力ではまだまだまだまだ・・・・



ここまでお読み下さってありがとうございます。

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