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終わりから始まる恋物語  作者: 梅干 茶子
終わりと始まり
13/60

閑話 リズとサージャ

すみません、逃亡3、間に合いませんでした。

なので、ちょっと骨休めを・・・


 部屋に戻ると、サージャの目がぱっちり開いていた。


 「サージャ様!目が覚めましたか!」


 ギルスはドアを開けてすぐに気が付き、急いで駆け寄った。


 「ああ、良かった。ギルス、リズ。済まない。体が動かなくて・・・」


 困った顔で、サージャはこちらを見る。

 リズがギルスを押し退けて、サージャの横へ行くと、その額にある布を退け手を当てる。それから優しく声を掛けた。


 「どうしたんだい?どこかおかしな所があるのかい?」

 「いや、そうじゃなくて・・・その、添え木が邪魔で、動けない・・・」


 そう言って、左手を動かして見せる。

 その様子を見て、リズはホッと息をついた。


 「ああ、良かった。それじゃ、足の感覚は戻ってるのかい?右腕は?」

 「うん・・・足も動く。腕も大丈夫だ」

 「そうかい。じゃあちょっと見ようか。ギルス!隣の部屋に行っておいで!」

 「あ、はい!」


 布団の下のサージャの服装は、薄衣一枚だ。

 サージャの様子を一緒に見ていたギルスも、ハッとして、わたわたと隣室に向かう。

 その背にサージャは声をかけた。


 「あ、ギルス・・・」

 「はい?」


 ギルスが振り返ると、サージャは言いにくそうにしていた。


 「どうしました?」


 もう一度、近づくとサージャに顔をじっと見られた。


 「・・・大丈夫か?」

 「?」


 サージャの意図が分からず首を傾げる。

 サージャはためらう様子を見せながら、控えめに言った。


 「鼻が、その、赤いぞ?」

 「あ」


 ギルスの頬が羞恥でサッと赤くなる。

 その様子を見て、プッと、リズが噴き出した。


 「あははっホントだ。アンタ、眼も鼻も真っ赤だよ」

 「か、か、顔洗って来ます!」


 困惑するサージャと、笑うリズを残して、真っ赤になったギルスは、慌ただしく部屋を出て行った。




 ※ ※ ※




 「さて、今のうちに見せておくれ」


 笑いを収めたリズが、サージャの布団をめくり、右足、左足、腰、腹部、胸、右腕、左腕と各所を確認していく。


 「痛む所はもう無いんだね?感覚が無いところもないかい?」

 「ああ、大丈夫だ。だが、まだ体が重たい気がする」

 「そりゃ熱のせいだよ。本調子になるには暫くかかるさ」


 そう言って、腰の添え木を外して行く。

 その横顔を見つめ、サージャは声をかけた。


 「何があったんだ?」

 「ああ、ギルスかい?」


 添え木を取り終え、今度は右手の添え木を取り外しにかかる。

 サージャは無言で頷いた。


 「あんなに目を赤くしているギルスは、久しぶりに見た」


 右腕の添え木を外されながら、サージャは呟いた。

 出会ったばかりの頃のギルスは、負けん気ばっかり強い子供だった。

 その頃は隠れて泣いていたのか、よく目を真っ赤にしたギルスを見たものだが・・・


 「ここ数年、見てないと思う」

 「年単位かい」


 言ってリズはまた少し笑う。


 「あいつも少しは大人になってたんだ」

 「?」


 サージャは、どういう意味か分からなくて、首を傾げた。


 「いや、旦那がね。ギルスだけじゃないんだけどさ、チビ達に『大人の男は涙を見せないものだ!』って教えてたんだよ」


 「ああ」


 言われて納得した。

 そういえば、ギルスがやたらと格好付けるようになってから、見ていないかもしれない。

 そんな背景があったとは、サージャは知らなかった。


 リズは外した添え木を机に置く。

 その横顔は、少し寂しそうだった。


 「リズ、本当に何があったんだ?」

 「うん?」


 心配になって、サージャが聞く。

 リズは困ったように首を傾げた。


 「そうさねぇ・・・後でギルスから聞くと思うけど、先に私から聞くかい?」


 言われてサージャは即座に頷いた。


 「あいつは都合の悪いところは絶対に隠す」

 「確かに」


 ふふっ、とリズは笑って、サージャの布団を掛け直す。

 それから椅子に腰かけて、サージャに向き直った。


 「さて、じゃあアオが来たのは気が付いたかい?」


 それにも頷きで返す。


 「走って出ていく気配がした。あれがアオだろう?」

 「そうだね。アオが緊急の報告を持ってきたのさ―――」


 リズは先程あった事を、簡単にサージャに語った。


 「―――それでギルスが泣いてね」


 半眼で、思い出すように語っていたリズは、ギルスが泣いた下りを面白く話そうとして、サージャに顔を向け、失敗した事に、気が付いた。


 サージャはポロポロと泣いていた。


 「ありゃりゃ。サージャ様まで泣かなくていいんだよ」


 慌てて手ぬぐいを手に、サージャに近づくと、手を掴まれた。


 「リズ、それはダメだ。だって、ギルスにとってリズはお母さんじゃないか」


 サージャは母を知らない。

 姉だと思っていた人が、先ほど母だと分かったが、やっぱりあの人を母とは思えない。

 そして、サージャは父も知らない。


 サージャにとって、父と母、その存在は憧れと同時にかけがえのない存在だった。

 離れてはいけない。そう思ってしまう。


 「ギルスを置いて行く」

 「サージャ様、それが一番駄目だ」

 「だって!」


 サージャは泣きながらリズに訴える。離れては駄目だと訴える。

 しかし、リズは頑なに首を振った。


 「サージャ様。親はね、超えていくもんさ。そこに囚われちゃいけないんだよ」


 寂しそうに、リズは笑った。


 「置いて行って良いんだよ。それでまたひょっこり帰ってくる。元気な顔を見せてくれる。それが理想さ」


 寂し気に、でも誇らしげにリズは笑う。

 笑ってサージャの涙を拭った。


 「親を置いて行けるようになるなんて、それこそ、嬉しいことさ。アタシ等はギルスに、自分で生きる方法を教えられた、ってことなんだからさ」


 言って、リズは本当に誇らしげに笑った。


 「大体、もうあいつは当の昔に成人してるんだよ?子供も何も、立派な大人じゃないか。そこまできたら、親のできる事なんて限られてる。今回はたまたま、アタシ達に出来る事があっただけ。出来る事があるなんて、嬉しいじゃないか」


 本当に嬉しそうに、リズが笑う。

 サージャは思わず、その手を取った。


 「リズ。約束する」


 ぎゅっと、その手を握る。


 「ギルスは必ず、私が連れて帰ってくる。だから―――」


 リズの目を、真っすぐに見る。


 「死なないで」


 リズはキョトンとして、それから破顔した。


 「ああ。約束だ」


 ギュッと手を握り返す。そして、いたずらを思いついた顔をした。


 「ついでに孫も連れて来てくれていいよ」


 ニヤリと笑うと、サージャは真っ赤になった。


 「そ、それは!今は無理だろう!」

 「ほほう。今じゃなければ良いのかい」


 やっぱり、脈ありだね。

 密かに思って、リズは意地悪く笑った。


 「リズ!」


 顔を真っ赤にして、サージャが怒る。

 リズは声をあげて笑った。


 そこにギルスが帰ってきた。


 「・・・何してるんですか?」


 ギルスの顔を見て、サージャは更に赤くなった。

 バッ、とリズの手を離すと、布団を頭まで被ってしまう。


 「・・・少しだけ、寝る!」

 「・・・はあ」


 リズはまだ笑っている。


 ギルスだけが、状況を飲み込めずに立ち尽くしてしまった。

そうして話はまた元に戻ります。

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