第7話 占い師は狐でした。
第7話です。
真司のこれからを示す為の回です。
なんというか長くなってばかりな気がします。
僕は四月一日真司。
異世界に飛ばされて、終野家に居候することになった僕は、少し前からこっちでも学校に通うことになった。
今日もその学校に行って帰って来たんだけど、そういえば、学校に登校する前、僕は王牙と〔ある予定〕を立ててたんだ。
「じゃあ王牙、僕は先に学校に向かってるね。」
王牙が作ってくれたお弁当を鞄に入れながら、そう伝えると、王牙は僕を呼び止めた。
「おう!………あっ、待った!今日オレは予定考えてんだけどさ、真司…ちょっと付き合ってくんねぇかな?」
「予定?」
王牙の予定?なんだろう?
「あ、勿論、真司に別の予定があるんならそっち優先で構わないけどさ!」
「ううん。予定も特に無いし…付き合うよ!…だけど、王牙…演劇部はどうするの?」
そう聞くと、王牙はまるで考えていなかったと言わんばかりの面白い顔をした。
「あ~……ま、大丈夫だろ!なんとかなるなる!」
え。大丈夫なの……!?なんとかなるの………!?少し心配だよ。
こんなやり取りをした後、僕は学校に向かい、今僕は学校から帰って来て、その約束を果たそうとしているんだ。
「うっし。真司、準備出来たか?」
「うん。大丈夫!僕は準備出来てるよ!」
王牙に言われるがまま、僕はしっかりと準備をした。結構な量の荷物だけど、一体、どこに行くんだろう?
「えっと…王牙、先に聞いておくけど、どこに行くの?」
一応、聞いてみると、王牙は遠くに見える山を指差した。
「山だ!山に登る!んで、寺に行って人に会う!」
かなりアバウトだけど、おおまかな目的はわかる。でも、僕に付いてきて欲しいって事は、その人に会わせたいってことなのかな?
「さあ行くぞ!足痛めないように気を付けろよ~?」
「わかったよ。気を付けていくね。」
なんだか王牙、凄く楽しそうだな。かく言う僕もちょっと楽しみだ。山に登るなんてしたこと無いし、何より、会う人がどんな人なのかなって。
だけど、その気分は山を登っている内に無惨に打ち崩された。
ある時は、
「気を付けろ!蜂の巣だ!」
「うわあっ!?」
ある時は、
「グオオオオオッ!!」
「やっべぇ!熊だ!逃げるぞ真司っ!!」
「うわああああああっ!!?」
また、ある時は、
「これ、毒茸だから、食っちゃダメたぞ。」
「いやいやいや!毒茸なんだよね!?普通に食べようとしちゃダメでしょ!?」
「オレは竜人だから、大丈夫なんだよ。はぐっ…むぐむぐ……。」
「えぇ……?大丈夫…なの?……本当に?」
「うん!美味い!」
「良い子は絶対に真似しちゃいけないやつだ……。」
色々とありつつも、僕と王牙は山を登っていく。そしてやっとたどり着いたんだ、例のお寺に。
「さぁ!着いたーっ!」
「や、やっと着いたんだ……はぁ…しんどい……っ。」
正直、僕は色々ありすぎたせいで体力の限界だ。ただ登るだけならこんなことはなかったと思いたいけど。
「大丈夫か?真司。」
「な、なんとか………。」
「ごめんな?オレ昔っから運悪ぃんだよな。」
毒茸の件は運とかの問題じゃない気がする。結局、何事も無かったのは凄いと思うけども。
「ここはさ、天明寺って言って…今回はここにいる占い師に会いに来たんだ。」
「占い師?」
「そ、占い師。そいつにお前の事を占ってもらおうって思ってな。」
僕の事を占う……もしかしたら元の世界に戻る方法が分かるかもしれないってことなのかな……?
考えていると、王牙が先に進んでいくのが見えた。置いていかれまいとしっかりと付いていく。
王牙はどんどん歩いていき、お寺の本堂と思われる建物へと進んでいく。そして、本堂の少々重々しい扉に手をかけた。
開いた扉の先で真っ先に僕の目に入ったのは、黄金色の髪と4本の尻尾を携えた、着物の男性だった。
「やあ。ようこそ天明寺へ。」
「うっす。久し振りだな、陽!」
「陽?」
久し振りと言うからにはそれなりに面識はあるんだろう。陽と呼ばれた人は「本当にね。」と親しそうに笑っている。
「あ、ごめんごめん!紹介しなきゃだったな!コイツはこの天明寺の住職で占い師の……」
「錦明寺陽です。以後、お見知りおき下さい。」
そう言って、とても綺麗な形の座礼で自己紹介をされる。改まって挨拶されたため、異様に緊張してしまう。
「こ、こちらこそ。ぼ、僕の名前は……」
僕が名乗ろうとした時だった。
「四月一日真司……だよね。知ってるよ。」
「え………?」
どうして初めて会ったのに、僕の名前を知ってるんだ?驚愕のあまり、冷や汗が出る。
「夢で見たんだ。今日、客人が訪ねてくるって。終野王牙とその連れ……四月一日真司、その二人がやってくるってね?」
「……あ、予知夢ってやつですか?」
「そうなるね。」
凄い……!流石は占い師……!
「陽はな、〔百発百中の占い師〕って呼ばれる位、当たるって評判なんだぜ?」
「百発百中……!?」
「だけど、滅多に人は来ないよ?なんせこんな山奥だからね。だから大抵は暇なんだ。」
確かに、ここまで来るのに時間もかかったし、精神力もすり減ったし……余程時間に余裕がある人じゃなきゃ、簡単には来れないか。
「さて、二人とも、そろそろ本題に入るけど…今回は何を占いに来たの?」
そうだ。それが目的でここまで来たんだ!ただ楽しく過ごしに来た訳じゃなくて……!でも、どう切り出せば……!
「今回はさ、真司の事、占ってもらおうと思ってな。」
「彼のことを?」
「ああ、実はさ、真司は異世界から迷い混んだ奴なんだ。」
「い、異世界…?」
あ、あれ?言っちゃって大丈夫なの?信じてもらえるとは思えな…
「成る程、異世界人なんだ。道理で僕を見る目がちょっと変だと思ったよ。」
し、信じてくれた!?……というかそんなに見てたかな…?なんか申し訳ない。
「つまり、四月一日君が元の世界に戻れるかどうか……それが知りたいってことだね?」
「そういうこと!今すぐ出来そうか?」
「勿論さ。さあ、占術堂へ行こう。」
占術堂と呼ばれる建物へと案内される僕と王牙。段々と神秘的なオーラが増してきた……気がする。
ふと、陽さんの足が止まり、僕たちに伝える。
「二人はここで待っていて?占いの準備をしてくる。準備が出来たら声をかけるから…四月一日君、君だけで入ってくるように。」
「は、はい!わかりました。」
僕がそう答えると、陽さんは部屋へと入っていった。
「一人で…か。ちょっと不安だな……。」
「大丈夫だって!陽は別に悪い奴じゃないしさ。」
「それはわかるけど……いざとなると緊張するよ……。」
「まあ、わからなくは無いけどさ、でも、きっとこれで色んな事がわかってくるはずなんだ!頑張ろうぜ?真司!」
そうだ、元の世界に戻る方法が分かるかもしれないんだ…!それさえわかれば、僕はこの世界を…………出ていったら…もう…。
「さあ、準備が出来たよ。入っておいで。」
部屋の中から、陽さんの声が聞こえる。
「行ってこい、真司!」
王牙が僕の背中を押してくる。僕は戸を開けると部屋へと入った。
「ようこそ、天狐占術の法陣へ。四月一日君。」
入った部屋は、和室だった。けど、御札とか、黒・灰・白の三色の球体や赤い布に……稲荷?オカルトめいた物や変な物があるせいで、神聖な感じよりも、禍々しさの方が強い。
僕はやはり、緊張しながら座布団に座る。
「ここで…占うんですか?」
「そう。ここでね?僕は錦明寺陽……ではなく、〔4代目天狐〕として、君の望むモノを見よう。」
「4代目…天狐?」
「気になる?占い師としての僕の真名…ってやつかな?因みに、3代目は僕を養子として育ててくれた、僕のお父さんさ。」
「そうなんですか…。」
4代目に3代目……ということは、2代目と初代もいたんだよね?どんな人だったんだろう?
「さて、説明をさせて貰おうかな。君の手元にある三色の宝玉……それは君が求める運命の形。」
静かな語り口で説明を始める4代目。
「黒は人。つまり、第三者の事が知りたい場合なんかはこの宝玉に触れて。」
「白は未来。これから先に起こることが知りたければこの宝玉に。」
「灰は物。探し物なんかはこれだね。」
「僕が占術を始めたときに君が望む運命に触れてくれれば、それでいいよ。」
ということは、僕が求めるモノはどうやったら帰れるか。未来で僕は帰れているのか。だから、白だ。
「理解は出来たかな?」
「はい!なんとか。」
「なら大丈夫だ。では、四月一日君、何か君の存在を証明できる形はあるかな?」
僕を証明できる形………?一体なんのこと?
「あ、解りづらいかな?要するに、君の持っている所有物。君の存在を示す形。」
「ご、ごめんなさい。荷物はさっき本堂に置いてきたままで……。」
「あらら、じゃあ最悪、髪の毛とかでも大丈夫だよ。1本だけね?それを、この赤い布の上に置いてくれるかな?」
僕は自分の髪を1本抜いて赤い布に置いた。
「じゃ……始めようか。」
陽さんはそう言って静かに目を閉じた。先程までと違い、張り詰めた空気が部屋に充満する。
「……………。」
…思ったより長い。
「では……汝が求める運命をその手に…。」
僕は白い宝玉を手に取る。すると、陽さんは御札を手に取って呟き始めた。
「天狐の力よ…数多の運命を見透し、四月一日真司が求める未来を私に………!」
その瞬間、陽さんの身体が青白い光を帯び始め、また、同時に陽さんが持っていた御札も青白い炎が着き、徐々に燃えていく。
その間、陽さんは静かに目を閉じたまま火の着いた御札が燃え尽きるのを待っている。僕もじっと待つ。そして、御札が完全に燃え尽きた時、陽さんを覆っていた青白い光がスゥーッと消えていき、陽さんが目を開いた。
「……………見えた。けど……?あれは一体……?」
「何が見えたんですか!?」
結果が待ちきれない。僕は急かす様に問う。でも帰って来た答えは信じられない物だった。
「ごめん……見えたには見えたんだけどね、ぼやけてて全然わからなかったんだ…。」
「こんなことは初めてだよ。」と溢す陽さん。百発百中の占い師って言われている位だからよっぽどなんだろう。でも、ぼやけた理由って……僕が別の世界の人間だから?
「とにかく、一旦、王牙君と合流しようか。色々と気になるしね。」
そう言われて僕と陽さんは部屋をでる。出るとすぐに王牙が駆け寄って来た。
「あ!どうだった?何かわかったか!?」
「それがね……。」
陽さんは僕に話した時と同じことを王牙にも話す。
「んな事って……陽でも無理ってことか………?」
「もしかして帰る手段が端から無いから……なんて事は無い…よね?」
百発百中の占い師でも無理となるといよいよ万事休すとさえ思えた。けれど、百発百中の占い師はただでは転んではいなかったんだ。
「……いや、はっきりと見えた物が無いわけではないんだ。ただ、少々話しづらくてね。」
「本当ですか!?どんな事だっていいんです!教えて下さい!」
「う~ん………わかった、そこまで言うなら伝えようか。」
少しでも可能性があるなら、その未来が知りたい。でも伝えづらいことっていったいどんな………。
「見えたのは、君が死んでいる未来だよ。神様に殺される未来。」
「え………?」
「神様……だと?」
神様……?そんなものがいるのか?……いや、野暮な質問は止めておこう。こっちでなら実在する可能性だってある。でも、何で僕が神様に殺されなきゃいけないんだ…?
「わけも分からないまま、神様に殺されて、君は死んだことにさえ気付いていない……そんな状況。残酷な未来。」
「神様…か。なあ、陽…その神様って、〔マジの神様〕か、それとも〔神様もどき〕か……どっちかわかるか?」
マジの神様……?神様もどき………?王牙は心当たりがあるのかな?
「僕にはどうとも言えないけど、多分、〔マジの神様〕って方じゃないかな?普通の死に方には見えなかったし。」
「そっか、じゃあ今度その神様に会ってくるよ。真司とさ。」
…………………え?
「えええええええ!?」
無理だ。とてもじゃないが僕にはそんなことできない。
「大丈夫だって!オレが付いてる!それに、最悪の未来を知ったんだ。最良の未来だってあるはずだろ?だったら、運命を変えてやろうぜ!」
「そんなこと言われても………。」
「心配ないよ。僕が保証する。」
陽さんが、僕の心境を感じ取ったのか、優しげな声で伝えてくる。
「僕が見た未来はね、このまま、何もしなかった場合の未来さ。変えようと努力すれば、運命は変えられる。」
「陽さん……。」
「僕は見たものを伝える事しか出来ないけど、それで誰かを救えたこともあるしね。君の未来は、君次第だよ。」
陽さんに背中を押され、僕たちは今日ここに来た目的を果たしたんだ。そして、陽さんに感謝と別れを告げた僕らは山を降りていく。
「あれ、王牙……行きに背負ってた鞄はどうしたの?」
「あぁ、あれ?あん中には、最初から陽に渡す謝礼品しか入ってなかったからな。置いてきた。」
「お、置いてきたんだ……。謝礼品って、何渡したの?」
「稲荷だよ。稲荷寿司。アイツの好物でさ。」
稲荷寿司……そういえば、占いの部屋にも、稲荷があったような………。
「さーて、占術を実行した後ってお腹空くんだよねー。もぐもぐ………。」
「アンタねぇ………いくら謝礼品だからってすぐに手をつけるなんて……せめて夕飯時まで待とうとか思わないわけ?」
「あ、ゴンも一緒に食べる?王牙はいつも美味しい所の買ってきてくれるんだよ~♪」
「ア、アタシはいいわよ……油揚げの方が好きだし……。」
「まーまー、遠慮しなくて良いから。一緒に食べよう!」
「結構!……あ、でもアタシの分は残しときなさいね!夕飯に食べるんだから。」
僕はまた、神様に会いに行く。殺される未来なんて変えてやる!その志のまま、僕と王牙は山を降り、家に帰るんだ。
閲覧、ありがとうございました。
神様に関しては少なくとも次回で出てくる事はありません。
第8話はほのぼの系になるかと思います。