第5話 学校に通う事になりました。
第5話です。
かなり長くなってしまいましたが、そこそこ詰め込んだと思います。
学校初登校前編。
僕は四月一日真司。
一瞬の出来事で異世界へと飛ばされてしまったけど、今は終野家に居候としてお世話になっている。
今日は月曜日だ。…………月曜日といえば学校のある日だけど、僕……学校とかどうすればいいんだろう。中学生だし、行かなきゃならないんだろうか?でも、どうやって………?
「じゃ、行ってくるよ。父さん、母さん。」
「行ってきます、父さん、母さん!真司さんも。」
「ほな、行ってくるな~!」
輝希、幸、姫華さんの挨拶が聞こえてくる。みんな学校へ行ったのだ。
輝希は中学2年。幸は1年。姫華さんは高校2年だと聞いている。
因みに、碧泉ちゃんは小学3年で、3人よりも先に集団登校で出てしまったらしい。
「………そっか、みんな学生なんだな……。月曜日になれば学校かぁ……。」
そんなことをしみじみと考える。
「あれ?そういえば、真司はむこうじゃ学生じゃないのか?」
王牙にそう問われる。
「うん、そうだよ。元の世界じゃ普通の中学生だった。」
「やっぱり、学校とか通いたいって思うか?」
学校に通いたいかと聞かれれば、特別行きたい理由はない。だけど、学生であった以上、こっちの世界でも学校に行く必要はあるのだろうか?
「まぁ、いつまでこっちに居れるかわかんないし、無理に行こうとはしなくてもいいんだけど……どうだ?」
異世界の学校も気にはなる。……行ってみたい。
「うん。学校……行ってみたいかな!けど、急に行きたいって言っても行けるものじゃ……。」
中学生とは言っても元の世界での話で、こっちじゃ小学校すら通っていなかった事になる。それを抜きにどうやるにも、手続きは結構な物になるはず。
「大丈夫!行けるぞ!今から!」
王牙から衝撃の返答をされる。
「…………………え?」
「えええええええっ!?」
僕が向かうのはこの、椿丘市でも数少ないマンモス校、〔椿丘第一中学校〕。つまり、輝希や幸と同じ学校に通うことになった。姫華さんもこの中学の出らしい。
「初登校、楽しみか?」
学校へ向かう道で、王牙に訪ねられる。
………って、
「なんで王牙まで制服を来て一緒に登校してるの!?」
堪えきれずにツッコんでしまった。
「ん?ああ、似合うだろ?」
「そうじゃなくて!」
王牙は一応大人のはず。その王牙がなぜ中学に登校しようとしているのか、反応せずにはいられなかった。
「いやぁ…!折角こんな見た目なんだしって思って、2年位前に中学に通うようになってさ。案外、大丈夫なもんだぜ?」
なんて気楽な考え………。
「それに、大人になって忘れてたことを思い出せたり、新しいことを学べたり……結構メリットあるんだぜ?」
そのあと、「ま、今は子供だけどな」と自虐めいたことを言って笑わせてくる。
「じゃあ王牙は何年生なの?」
「お前と同じ、3年扱いだ。」
確かに、同い年くらいの外見だとは思うけど……。
でも、外見が中学生の王牙でも編入出来るなら、本当に中学生である僕が編入出来ない訳がない…………のかな?
その後も話をしながら道を歩く。気がつけば学校の正門前へと着いていた。
「さて、ここから先は暫くはオレは別行動だ。」
何故かと問うと、
「学校側に真司の情報資料、届けないと。登校することを優先して、色々と後回しにしたことがあんだよね。それを済ませるまでは、頑張ってくれ!」
僕に紙を渡して「じゃ!」とこちらに手を振って走っていく王牙。色々と大丈夫なのだろうか………?本当に…心配だ。
「えっと……、僕は3年…でいいんだよね?」
渡された紙に目を通す。[3-C]と書いてある。僕は3年C組、ということか。
学校の案内板を見てから、3年C組のある階層へと駆け上がる。
「おい、君。」
後ろから声を掛けられた。声の低さから、おそらくは教師だった。
「いくら、遅刻だからといって校舎内は走るな。」
案の定だった。振り返って謝罪する。
「す、すいません!」
「……君、例の編入生か?名前は……四月一日…と言ったか。」
僕は「はい」と答える。
「なら来い。3年C組の担任は私だ。四条七月。それが私の名だ、覚えておけ。」
四条と名乗った男性教師……彼が僕の担任ということで教室へと連れられる。教室からはまだ賑やかな声が聞こえる。僕の話もしてたりするのかな?
そうこうしていると、四条先生が教室のドアを開ける。
「さあ、皆静かにしろ!席に着け!」
先生の低い声が教室に響く。同時に僕に目が向けられる。
「ごほん……。昨日、皆の親御さん方に連絡をした。故に知っている者もいるかもしれん。今日からこのクラスの仲間になる四月一日真司だ。皆、仲良くな。」
「四月一日真司です。皆さんよろしくお願いします!」
と深めに一礼すると、一部から拍手が聞こえた気がした。
「四月一日、お前の席は糸巻の隣だ。」
と空いている席を指差される。僕は席に着き、隣の糸巻と呼ばれた女の子に声を掛けてみた。
「糸巻さん……って言うんだよね?今日からよろしく。」
「ハイ!姓は糸巻、名はマンティエル!コチラこそ、今後ともよろしくデスネ!」
少々、外国訛りの彼女は糸巻マンティエルというそうだ。気さくでいい子そう。仲良くなれるといいな。
「気安く、マントちゃんっテ、読んでクダサイ♪」
……気さく過ぎる気もする。
「………………………。」
談笑していると、何か突き刺さるような気配を感じた。なんだろう?と思い、ふと気配を感じた方を見てみると、目つきの鋭い女の子に睨まれていた。
黒い髪に生気の無い肌。睨み付けている瞳は赤く、白目が黒い…所謂、黒白目と呼ばれる物で、おおよそ人間とは思えないまるで死人のような外見だった。
「…………はん。」
暫く目を合わせていると、向こう側から目を反らしてきた。そこから、僕の初めての異世界の授業が始まったんだ。
「ああ……わかんない。」
そう言って僕は頭を机に叩き付ける。授業は1時限目と2時限目が終わり、10分ほどの業間休みに入っていた。
正直、異世界というだけで授業はあまり変わらないだろうと思っていたが、思った以上に聞いたことも無いような言葉が出てきた。それの意味を考えている内に時間はだんだんと進んでいったのだ。
「大丈夫デスカ四月一日クン?頭がパンパン……デスカ?」
糸巻………いや、マントちゃんが僕を心配して声を掛けてくる。
「あ、うん……大丈夫。ちょっと授業に付いていけなかっただけだから…。」
「ンー……そうデスカ…。隣の席なんですカラ、解らないことがあったら、遠慮ナク頼ってくださいネ!」
うん、いい子だ。こんな子と知り合えたことは、この世界で過ごすのにかなり重要な事になるだろう。元の世界でもこんな友達がいたら……。
「うん。言葉に甘えさせて貰うよ。ありがとう、マントちゃん。」
「ハイ!どういたしましテ!」
マントちゃんと話していると二人の男子に声を掛けられた。
「よっ!転校生。えーと…四月一日、だよな?」
「うん。そうだけど……なにか用?」
「いえ、転校生なんて久し振りだから、親交を深めようかと。折角、同じクラスになりましたしね。」
なんだかワイルドな見た目の男子と、知的で大人しそうな男子だ。すると、マントちゃんが口を開けた。
「四月一日クン、紹介シマス♪コッチのガサツそうな人は…」
「月村翔琉、獣人だ!種族は狼………って、今がさつって言ったか?」
そう言って翔琉はマントちゃんに噛みついている。ああ、狼だから少しワイルドな………って獣人?
「…で、コッチの頭が良さそうデ、少し抜けてる人は…」
「グリム・R・ベルクです。人種は魔人、種族はゴーレム。……紹介については…否定はしないでおきます。」
否定しないんだ……。そう思いつつ僕は、やはり魔人という言葉に疑問符が浮かぶ。
「因みニ、ワタシは海人で鱏デスヨ!」
海人………今は突っ込まないでおこう。僕も改めて自己紹介しておこうか。
「改めて、僕は四月一日真司。よろしくね、翔琉、グリム、マントちゃん!」
人種とか種族とか、そういった物も言った方がよかったのかも知れないが……王牙がはぐらかしていた〔旧人類〕という言葉が引っ掛かってしまった。
だが、3人もそれらを聞いては来ず、そのまま談笑する流れになった。聞きたいことはあるけれど、それは今度王牙に聞いてみよう。
「…………ハハハハッ!」
談笑していると、後ろの席から笑い声が聞こえる。先程の人外染みた外見の女の子だった。
「お前、転校生のくせして、初登校から仲良しごっこか?笑えるねぇ!」
ハハハ!と笑い声を上げて僕を指差してくる。
「なんなんですか!四月一日くんがどうしようと貴女に笑われる理由は無いでしょう?」
「それに、声掛けたのは俺たちだしな。」
目つきの鋭い女の子を相手に、グリムと翔琉が僕の肩を持って弁明してくれている。
「そうだったな。転校生なんて物と馴れ合ってる訳わかんねぇ奴ら。虫酸が走るんだよ…お前らを見てるとさ。」
今の言葉を聞いて僕もムッとする。気付けば僕も言葉を放っていた。
「そんな事言わないで欲しいな。」
「あぁ?」
「転校生でも何でも、仲良くなれるのは良いことじゃないか?僕は、喧嘩するよりもそっちの方が良いと思うけどな。」
僕がそう言い放つと、目に見えて彼女の機嫌が悪くなったのが分かるほど彼女の眉間にシワがよった。
「お前、いい度胸じゃねぇか……。オレの目を見てビビらなかった奴はお前で二人目だ……………気に入らねぇ……!!」
そう言いながら僕の胸ぐらを掴んでくる。確かに、人外染みた瞳は恐怖を煽られる。
でも正直、暗がりの王牙の瞳の方が恐い。
「四月一日真司……覚えとくぜ…。」
そう捨て台詞を言い放つと、彼女は掴んでいた手を放し、教室を出ていった。
「四月一日、すげえな……。あいつに強気に出れるなんてよ。」
「ぼくら、あぁは言いましたけど、あれが限界ですよ?」
翔琉とグリムに肩を叩かれる。確かに恐かった。正直、いつ殴られてもおかしくないと思っていたし……。
「彼女は一体、なんなの?」
さっきの女の子について3人に問いを投げ掛けると、グリムが答えてくれた。
「彼女は海原小波。まぁ、所謂…不良ってやつなんですけど……。」
そこまででグリムが口ごもる。何か言いづらいことでもあるんだろうか?
「小波チャン……父親が海賊なんデス。」
え……?か、海賊!?
「で、あいつ自身も海賊に憧れてるみたいでよ、不良グループ作って〔小波海賊団〕なんて名乗ってんだ。」
翔琉が「陸なのにな」と付け加える。
「彼女に関して、誰も何も言わないの?」
僕がそう問いかけると、
「なんせ、父親が海賊ですからね…。何をされるか分からず、大人たちも、手を出しあぐねているんです。」
そうか……。親が海賊…なんて言われて簡単に注意したら、確かに、そのあとの報復は考えちゃうな。
そんな話をしている内に3時限目の時間が来たらしい。四条先生がやって来た。
「3時限目は科学だ。皆、教科書は出しているか?忘れたなら、隣の者に見せてもらえ。………海原は、また脱走か。」
四条先生はため息をついている。無理もない。
翔琉とグリムに「また後で」と解散し席に着く。
初日から不良に目を付けられたけれど、異世界での学校生活…大丈夫だろうか?不安を抱きつつも、僕は授業を受けるのだ。
閲覧ありがとうございました。
6話は学校初登校後編になります。