第1話 異世界に来てしまいました。
ここから漸くまともに始まってくる感じとなります。
では第1話どうぞ。
あれから何時間か経つ。不良たちに痛めつけられた後だ。未だに痛みは残ったままだ。
「いたた…やっぱり、保健室に行った方がよかったかな?」
今になって少し後悔していた。何故、保健室に向かったり、教師に助けを求めたりしなかったのか。
そんな事をした後の不良たちの報復が恐かった訳じゃない。僕は……ただ、甘いだけなんだ。
「周りから良く思われてないから不良なのに……そんな奴らに気を使うなんて……僕、ただの馬鹿だよね……。」
下校中にこんなことを考える。
ファンタジーな世界だと、どうやって収拾をつけるのだろう?
激情に駆られて仕返し?
それともクールに受け流す?
広い心で笑い飛ばす?
…どれも僕には出来そうにない。やはり憧れは憧れなんだ。
……そんな事を考えていると、自分の家が目の前に近づいていた。
「とにかく、母さんたちには怪我のことは悟られないように……は無理か。まぁ、ちゃんと大丈夫だって伝えればいいか。」
そして、いつものように家の扉を開けたときだった。
「ただいまー。母さ………ん……?」
一瞬、自分の目がおかしくなったかと思った。もしくは、家を間違えてしまったかと。
だが、扉を開けるまでは間違いなく自分の家であったのに。
目の前に広がった景色は……知らない小屋の様だった。
「……え?」
唖然としていると、後ろで扉が閉まる音が聞こえた。
「い、家を間違えたかな……。すぐに出なきゃ……。」
そんな事はないとわかりきっていたのに、僕は信じたく無かったんだ。
僕は閉じた扉を勢い良く開けた……が、今度は外の景色さえも自分の家の周辺ではなくなっていた。
「こ、ここは…何処だ…?僕はただ、家の玄関を開けただけなのに…!」
状況が飲み込めない。だが、ファンタジー作品を好んで読んでいた僕の中には1つだけの可能性が考慮できた。
「まさか……別の世界………?」
自分が異世界に来てしまった可能性。そんなことが突飛に頭に浮かぶ僕も変だとは思うが、ここまで一瞬で景色が変わってしまうとそうとしか思えなかった。
それに、何故こんなことになったのかも気になる。どうにかして元の場所に戻らなくては…と行動しようとしたその時。
「誰かいるのかー?」
少年の声が聞こえた。咄嗟に僕は小屋の中へと戻った。お蔭でまだバレていないのか僕を探す声だけが聞こえる。
「子供……同い年くらいかな?」
呑気なことを考えながらも僕の鼓動は段々と速くなる。もし見つかったらどうなるかわからない。通報されるか、或いは……。そんなことにはなりたくない。
「うーん……?まさか……この中?」
その声と共に小屋の扉が開けられた。
少年は真紅の髪と触角の様に伸びている前髪を揺らしながら小屋へと入ってきた。
さっきは遠すぎてよく見えなかったが、暗がりで爛々と輝いている紅い目を見ていると、どうしても恐怖心が煽られてしまう。
声が出そうになる程の恐怖を抑え込んでじっと息を潜める。
「………あ~っれぇ~?おかしいな。見間違いなんてことはないと思うけど……もうここにはいないのかな?」
そう言って少年は小屋から出ていった。
僕は安堵し、呼吸を整えるために立ち上がって大きく息を吸おうとした……が、早計だった。
息を吸おうとした瞬間、窓の外から此方を見る紅い光と目が合ってしまった。
「あ………あ……………!」
僕は声が出なかった。
「みーっけた。」
その無邪気な言葉は僕の中で恐怖として刻まれた。
読んでいただきありがとうございます。
明確には前の第0.5話も1話の一部なので繋げて見て貰えたらいい感じになるかもしれません。